怪獣バスターズ 星征大乱   作:雪晒

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第69話 生存者たち

「すみません、急に家に招いてしまって。びっくりしたでしょう」

 

「いえ……」

 

 鹿津宮はそう言いつつ、じろじろと室内を見渡してしまった。ここは、八十川映斗(ヤソガワエイト)のアパートだ。

 

 姉がまとめた資料には、2名の男女の連絡先が記されていた。彼女が聴取を担当し、墜落事故の謎を追うきっかけとなった人物、八十川と安生(アンジョウ)の電話番号。鹿津宮はそこに連絡し事情を話したところ、「会って話がしたい」とすんなり話が通った。喫茶店か飲み屋で話をしようと思っていたのだが、なんと向こうが提示してきた場所は自宅。八十川が借りるアパートの一室に招かれたというわけだ。

 

(結構いい部屋住んでやがんな……学生のくせに)

 

 きょろきょろとする鹿津宮の前にコーヒーカップが置かれた。

 

「どうぞ」

 

 カップは対面にも2つ。運んできたのは、同席した安生百合(ユリ)だ。

 

「百合、なんで集まるのが俺の部屋なんだよ」

 

 客人がいる手前、八十川は小声でぼやく。どうやら場所を提案したのは安生らしい。

 

「え?だめかしら。この部屋駅チカだし、広いし」

 

「どっかの店に呼ぶもんだろ、普通」

 

「あんま他の人がいるとこでしたい話でもないじゃない」

 

「じゃあせめて、言い出しっぺのお前の部屋でも」

 

「私の部屋狭いよ。それに今散らかってる」

 

「いつもだろ。掃除しろこういう時くらい」

 

「何をぉ」

 

 まあまあ、と鹿津宮が諫めると、二人は気まずそうに会釈をした。言い争いをしていたが、剣呑な空気になっていたわけではない。むしろずけずけと言い合える分、仲はよいのだろう。

 

 鹿津宮はコーヒーを一口すすり、二人を見る。八十川はややがっしりとした体躯の眼鏡をかけた男。安生はロングヘアで色白の女だ。

 

「それで、なにかわかったんですか、墜落事故のこと」

 

 八十川は身を乗り出した。ひどく気がかりだったと見える。

 

「実は、そういうわけではないんです。すみません」

 

 鹿津宮は一度頭を下げる。

 

「ですが新たな調査のために再度お話を伺いたいと思いまして」

 

「でも、どうして私たちを担当してくださった花梨さんではないのでしょうか」

 

 尋ねたのは安生だった。口調は柔らかいが、若干警戒の匂いがする。

 

「私たちの取り調べを担当していただいた花梨さんの弟さんだと聞きました。一体どういう経緯で調査をされているのか少し気になって」

 

「姉に頼まれたんですよ。事故の真相が気がかりなお二人には申し訳のないことですが、今姉は別の仕事に尽力していて」

 

「正式な業務委託と捉えても大丈夫そうですか」

 

「もちろん」

 

 嘘をついた。こうでもしないと聞き出せるものも聞き出せない。鹿津宮は仕事モードの笑みを徹底して続ける。

 

「より詳細な報告書作成のため、航行機で移動していた際の状況をもう一度くわしくご説明いただけませんか。聴取で既に姉に話したことも含めて、お願い致します」

 

 再度真摯に頭を下げると、安生も納得したのかぽつぽつと話し出す。

 

 正直なところ、二人の話は聞きづらかった。自室という、彼らにとってプライベートな場所で話しているからかもしれないが、説明というよりも思い出話に花を咲かせているような感じだ。要領を得ないわけではないのだが、当時の旅程や計画、会話の内容など、こちらが特段気にしていなかったことまで話し出す。半分エピソードトークのような会話に、鹿津宮は懸命に相槌を打った。

 しかし、ここまで楽しそうに話す理由は、それだけ当時の楽しい気持ちを思い出したからだろう。二人にとって、湖田永晴という人物の存在が重要であったことはたしかだ。

 

 鹿津宮にとっては、どうでもよかったが。

 

「でも、コロニー衛星の『あさひ』からワッカに向かう航行機内で異変が起きたんです。急に、ガクンと揺れて……」

 

 八十川の口調は、事故に関する部分になると暗く沈んだ。

 

「後はもう、めちゃくちゃです。機内は大混乱で、泣き声と叫び声がしていて」

 

「とにかく私たちは、緊急時の音声指示に従って動きましたが……ああ墜落してるんだなって、直感でわかるくらい」

 

 やっと本題に入ってくれた。鹿津宮は胸を撫で下ろす。

 

「姉から聞いた話ですが、湖田さんは録音で『UFOを見た』と発言していたそうですね」

 

「あ、そうです、そうなんです!会話内容の件ってどうなりましたか!」

 

 八十川が過剰なほど大きく頷く。この様子だと、姉は()()()らしい。湖田の発言が、運輸委員会の報告書では消されていたことを。

 

「すみません、その点についてはまだ確認中なんです。ですが……お二人は湖田さんの発言についてどう思われますか?」

 

「どうって」

 

「事実だと思われますか?」

 

 おそるおそる聞いた。友人の発言の信憑性を疑うような聞き方だ。怒りを買うかと思ったが、対面の二人は静かに顔を見合わせた。

 

「どう……でしょう。私も、本当かどうかは」

 

「UFOは、俺も百合も見てません。見えた人は、誰もいないって花梨さんはおっしゃってましたけど」

 

「でも、湖田は墜落後のあの状況で冗談を言う人物には思えないです。見たとしたら、いつなんだろう……」

 

 クイロが言っていた、「UFOを見たと発言したのは湖田だけ」という情報にも相違はなさそうだ。

 

「八十川さん、機体が大きく揺れたと言っていましたね」

 

「ええ」

 

「仮に、その揺れが外星人のUFOによる攻撃だったとして……つまり湖田さんの発言が正しいと仮定した上で、揺れたときの湖田さんはどんな反応でしたか。何かを察知していたような気配とかは」

 

「ありませんでした。というよりも……()()()()()()()

 

「え?」

 

「揺れた時、湖田は席を外してたんです。トイレに行くって言って」

 

「そう、ですか」

 

 空気が抜けたような返事になる。

 その後は、機がバランスを崩す最中に慌てて合流したという。動揺ゆえか、息を切らしていたと安生が話す。

 湖田永晴の発言の意図を行動から辿ろうと思っていたのだが、事故の瞬間に関してはほぼ不明か。難しい。

 

「実は今回、お二人に湖田さんのことを詳しくお聞かせ願えればと思って……他に何か、彼の発言や行動で気になった点はございますか?」

 

「特に変わった点はなかったと思います。ええっと……墜落した後、メッセージを録音しようっていって提案したのはあいつで」

 

「私その時パニックで、取り乱しちゃったんですけど、湖田が場を収めてくれた感じで」

 

「冷静だなとは思いましたが、元々湖田はそういう奴でしたし」

 

 歯切れ悪く言った後、二人して険しい表情になった。

 

「…………少し、聞いてくれますか」

 

 安生の声は、心なしかボリュームが低い。

 

「私たち、事故の後にSNSで事故の原因究明を呼びかける活動をしていたんです。原因は電磁ホールの破損とされていますが、明確な理由はまだ定まっていませんし、当時はもっとあやふやでした。あんな怖い目に遭った理由を知りたかったし、世間の耳目を引いておきたかったんです。世間に、墜落事故を忘れさせない活動をしたかった。仮に世間で事故への興味関心が冷めなければ」

 

「S4や運輸安全委員会も黙ってはいられない。湖田さんの捜索継続が見込める。ですか」

 

 安生と八十川はまたも揃って頷いた。

 

「でも、そのSNSでの活動も辞めざるをえなくなったんです。ある日急に、アカウントが削除されて」

 

「削除?急にですか」

 

「はい。運営側の操作によるものだと思います」

 

「失礼ですが、SNSで何か不用意な発言をしたとか」

 

「心当たりはありません。ただ、事故の被害と操作の呼びかけをしていたくらいで。フォロワーもあまりいなかったですし」

 

 思いがけぬ異常事態を彼女らの口から聞かされた。鹿津宮はメモ代わりに自身の情報端末に打ち込む。

 

「でも、そのまま何も行動を起こさずにはいられなかったんで、俺らは湖田について調べることにしたんです」

 

「事故原因ではなく、湖田さん自身についてですか」

 

「ええ。短いSNS活動の中で集められたのは、湖田の級友を名乗る人たちからの情報です。あいつはあんまり自分のことを話す奴じゃなかったし、初めて知ったこともたくさんありました」

 

「自己満って言われたらそれまでなんですけど……いなくなった湖田のことを、せめて多く理解しておきたかったんです」

 

 安生の口調からは、強い意志を感じる。そんな様子の彼女を、八十川ははにかんで眺めた。彼女の言葉を強く信頼している、優しい笑みだ。

 

「俺、最初はちょっと抵抗あったんです。湖田のプライバシーに関わるかも、みたいな。でも、やっぱり色々知りたくて。やろうって言い出した百合に乗っかる形で」

 

「そうだったんですね」

 

 安生に視線を向けると、彼女は少し恥ずかしそうに髪をかき上げた。

 

 鹿津宮ははクイロと会ってから墜落事故に関するニュースを漁っていたが、湖田永晴に関しては、ほとんど報じられていない。彼自身の情報はたしかに聞いておきたいところだった。

 

「私たちは、湖田が通っていた小学校を尋ねて、担任の先生に話を聞いてみました。何か……ドキュメンタリー番組みたいですよね」

 

 安生は自嘲的な笑みを作る。

 

「でも事実、そんな気分でした。友人である湖田の足跡を辿る。半分そんな思いで行ってみて、でも……」

 

 そこから先は言いにくいのか、安生は唇を引っ込める。その様子を見た八十川が、代わりを担った。

 

「その先生は、『湖田に親も家族もいない、児童養護施設で暮らしていた』って言ったんです」

 

「つまり、湖田さんは孤児だと」

 

「はい。一緒に録音したメッセージには、あいつ、『親と兄弟に色々』って……何か家族に言っておきたいことがある感じだったのに」

 

「何だと……!」

 

 ガタンとちゃぶ台に膝をぶつける。コーヒーの水面がカップからこぼれる寸前まで揺れた。

 

「……何ですって」

 

 思わず素が出そうになった。

 

 親と兄弟に色々。残したいメッセージがあるということか。だが真実は、そんなものは存在していない。

 湖田はあえて、自分の出自を偽った。親しい友人二人に向けて?何のために?

 

――あるいは、イカれちまったか。

 

 命の危機に瀕した状況で錯乱し、存在しない家族を夢想した。それをぽろっと八十川と安生に溢してしまったという可能性もある。

 だが先ほど、二人は「冷静な湖田がパニックになった自分たちを落ち着かせた」と発言していた。ならば、湖田の心身は正常であったとみるのが正しい。

 

「奇妙な話ですね」

 

「はい……」

 

 八十川は重々しく呟いた。悄然として、肩をすっかり落としている。

 その後は、墜落から救助まで、それから聴取についてなどを振り返りつつ話したが、ほとんどは花梨の資料に記載されていたことだった。発見と呼べるものはない。それでも八十川と安生は、一つ一つ情報を振り返っては、重大事項のように開陳する。なんだか、とても必死に見えた。

 

「すみません、今日はそろそろ」

 

 切り出したのは鹿津宮の方だった。仕事終わりで招かれたためもう夜が遅い。腹が減っていた。

 

「あ……ごめんなさい。長々と話してしまって」

 

「こちらこそ、居座ってしまって申し訳ありません。貴重なお話ありがとうございました。必ず姉に伝えますので」

 

 そう言うと、二人の表情にわずかな希望が浮かんだ。が、すぐにまた曇る。

 

「……湖田って、何者だったんですかね」

 

 八十川が小さく笑いながら言った。

 

 知らねえよ。俺もそれが知りたくて尋ねたんだから。

 心中ではそんな愚痴をこぼしたが、言うはずもない。八十川も、口調からして単に呟いただけだろう。

 

「事故に遭ってから、あいつの親がいないってわかって……それ以外も趣味とか、昔の話とか、知ってること少なくて。ははっ、よく考えたらあんまり自分のこと話さねえなって思ってたけど……結構ショックデカかったんすよね、俺達」

 

 笑い混じりの口調が、かえって痛々しい。

 

「やっぱ、あんま深掘りするべきじゃなかったのかなぁ」

 

「過去って、知られたくないこともあるもんね。私も、あんまり湖田に信頼されてなかったってことなのかなって思っちゃったり。少し、残念で」

 

 同調した安生を、鹿津宮は見つめる。

 

「…………安生さん、先ほど」

 

「え?何か?」

 

 鹿津宮は少し考え込み、かぶりを振る。

 

「……いや、何でもありません」

 

「ちょっと、気になりますよ」

 

 八十川が突っかかる口調になった。

 

(まずい、やっと話が終わると思って気が抜けた)

 

 変な間を作ったために、「なんでもない」が通じない。

 鹿津宮は瞬時に思慮を巡らせ、なんとか言葉を作る。

 

「その、お二人とも、そんなにショックを受ける必要はないんじゃないですか」

 

 意外だ、と言わんばかりの視線が注がれる。

 

「その……私の意見ですけど、湖田さんは別に、お二人に対して信用していない態度を取ってたわけじゃないでしょう。友人として接していたはずです」

 

「まあ、はい」

 

「だったら本当に、大切なご友人だと思われてるんじゃないですか」

 

「そう……ですかね?」

 

「ご家族のことですので、事実言いたくないこともあったと思いますよ。お二人に隠していたことに目を向けるよりも、お二人に話してくれたことを信じればいいと思います。私は結構、人のコミュニケーションというものは単純だと思っていますので」

 

 仮に、湖田が自分のことを秘匿していた意図があったとしても、それが直接八十川たちへの背信にはならないだろう。二人に対し温かく接していたのであれば、その態度こそが湖田の真意だ。態度を度外視し、知り得ない部分を邪推したところで意味はない。

 その邪推に近いことを八十川と安生がしてしまっているのは、「湖田に家族はいない」という思いもがけぬ情報に急に出会ったためだろう。混乱が、当初感じていなかった湖田からの拒絶感を育てているにすぎない。

 

「別にいいんじゃないですかね。シンプルに受け止めておけば。……すみません、姉だったらもっと上等なことが言えたんでしょうけど」

 

「いえ、ありがとうございます」

 

 二人は小さく頭を下げた。再び彼らの表情に浮かんだ喜びはほんの小さいものだが、鹿津宮が家のドアを閉めるまでは消えなかった。

 




4話の会話記録部分を見返していただくと、よりわかりやすいかもしれません。

次回から更新やや遅れます。すみません!
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