怪獣バスターズ 星征大乱   作:雪晒

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すいません、長いです。
あと最後にまとめみたいなのがのってます。
あと絵も描きました。


第75話 君だから

「犯人、特定ッ!」

 

 読みが当たった。自分たちの情報を漏らしていたのは、湖田の友人である安生(アンジョウ)だった。

 グッと親指を立てる鹿津宮に、クイロは呆れたような視線を向ける。

 

「君は本当、頭と口が良く回るというか」

 

「小賢しいって素直に言え。まあしかし、最後の方で安生が自白してくれてよかったよ。諦めが早い性格で助かった――」

 

 言っている途中でケータイを取り落とした。右手の平は汗でぐっしょりと濡れ、震えている。

 

「大丈夫か。体にガスの毒が残って――」

 

「ちげえ」

 

 ケータイを拾い上げる。

 

 この震えは症状ではない。単に、自分が死にかけたという事実が恐ろしいのだ。

 間違いなく、人生で一番生命の危機に直面した瞬間といえる。クイロが駆けつけてくれなければ確実に死んでいた。権謀術数にまんまとはまり、死人に口なしのまま姉殺害の濡れ衣を着せられていただろう。

 

(でも……同時に得たものもある)

 

 鹿津宮が殺されそうになったという事実。その原因は、姉の調査を引き継いだため。「事故を調査している」という情報を安生によって流されたことで、殺意が鹿津宮にも向いたのだ。これはすなわち、姉の示した根拠と結論が、X――花梨や鹿津宮を殺そうとした組織――にとって都合が悪いことを示している。

 

 姉が示した結論とは、「ダークバルタンは航行機墜落事故の原因に関わっていない」というもの。これは現状通説となっている「ダークバルタンが事故原因である」という説に真っ向から反する内容になる。姉の主張が的外れの意見ならば、わざわざ封殺するような真似はしない。つまり、ダークバルタンは本当に墜落させた犯人ではないのだ。Xはおそらく、今の主流説をそのまま押し通したい勢力なのだと推察できる。

 

 物的証拠はいまだ揃っていない。しかし、花梨が死亡し、それと同じ死因になる方法で鹿津宮も命を狙われたという事実は、Xの意思を証明する。同時に、花梨の説の正しさも保証してしまったのだ。

 

(しかし、いくらなんでも)

 

 一方で、鹿津宮はある違和感も感じていた。今生じた違和感というよりも、花梨の調査を引き継いでから頭の片隅にあった状況のおかしさ。

 

()()()()()。これじゃまるで――)

 

 はっと息を飲み、目を剥く。

 繋がった。感じていた違和感と、姉の正しさ。

 

「クイロ、もしかしたら、もしかしたらだが……」

 

 クイロの方に顔を向けた。

 

「わかったかもしれねえ。姉貴が殺されそうになった理由」

 

 クイロは少しおののいたが、すぐに目を瞬かせた。

 

「理由って……花梨は墜落事故の真相を探ろうとしていたからだろう」

 

「なんで真相探ると殺されるんだ?そりゃ情報漏洩して秘密裏に調べてたのは問題だろうが、ガス撒くか普通」

 

 そう聞き返すと、クイロは黙する。

 

「まず、俺が殺されかけたこと、姉貴が殺されかけたこと、そして俺達が同じ死因になることから、組織連中は徹底的に俺達を排除したいとわかる。それが逆に、姉貴の説の正しさを裏打ちした」

 

 鹿津宮は先ほど考えた「花梨の説の正当性」が証明されたことを語る。

 

「俺達の思想は不都合なんだ。だから殺さなきゃいけない。ただ俺は思ったんだよ。流石に回りくどすぎるってな」

 

「回りくどい?何がだ?」

 

「殺し方、それから安生のアプローチの仕方、もろもろだ。もともとこの墜落事故は、ついふた月くらい前にシルバーバルタンによって言及されただろ」

 

「ああ。事故の原因は同胞のダークバルタンが握っていると」

 

「ならシルバーバルタンは、この発表で地球人の『ダークに対する敵対心』を焚きつけて、S4にダークを殲滅してほしい。これも間違いねえな」

 

「そうだな。現に向こうから協力を呼びかけてきたし、地球人にダーク族を倒させたいのだと見当がつく」

 

「なら、この『墜落の犯人は誰だ論争』にはシルバーバルタンが大きく関わってるはず。そして姉貴が唱えたのは『ダークバルタンは無実』という説。これはシルバーバルタンにとって不利益な考えだから、シルバーが姉貴を殺したいんだと思ってた。だがそれにしちゃあ面倒な手ばっかり使ってる」

 

 つい先ほどの嫌な記憶を思い返す。部屋にガスが満ち、不快感と共に体の自由が利かなくなる。二度と味わいたくない感覚だが、冷静に考えれば()()()()でよかった。

 

「バルタン星人が俺達を殺すなら、ガスなんかに頼らなくても光線で一撃だ。むりやりドアこじ開けてビームで殺して、死体は宇宙に捨てりゃいい。安生を金で釣って俺の情報を聞き出すのも無駄だな。同化能力か変身能力で安生になりすませば、俺を殺す機会はいくらでもあった」

 

 鹿津宮は事故を調べる傍らで、バルタン星人についても情報を集めていた。過去に地球に襲来した個体のデータ等、一般人が触れられる範囲での情報収集だったが、数々の恐ろしい能力を持っていることは把握している。

 鹿津宮が感じた違和感とは、「回りくどさ」。言い換えれば、全ての手段が、あまりに人間らしかったことだ。

 

「俺や姉貴を殺そうとしてるのは確実に地球人だ。一から十まで全部な」

 

「それは……あくまで私たちの調査がシルバーバルタンとは相容れないという事実とは別に、実際に君たちに手を下しているのは地球人だと」

 

「これまでの手段から察するとな。地球人の組織が俺たちを狙うのは、俺たちを消すことで得られるメリットが大きいからだ」

 

 鹿津宮は、姉が唱えた説の正当性と、自分たちに殺意を向ける組織が取った手段からこの結論を導き出した。

 

 クイロも頷いたが、思案顔は崩さない。

 

「では、その地球人で構成された組織にとっての、花梨や君を殺すメリット……殺害目的とは一体何なんだ」

 

「ずばり、シルバーが発表した『ダークバルタンが黒幕』という説を貫き通すこと。言い換えれば、『ダークバルタンは無実』という発言や思想を根絶することだ」

 

 開いた手の平を、くしゃっと握ってみせる。

 クイロは「なぜそんな真似を」と言いかけてはっとした。

 

「シルバーバルタンとの友好関係を構築するため……?」

 

「だろうな。そもそもシルバーは日本に協力を打診して、日本もすんなりこれを受け入れた。随分ペースの速い交渉だとは思ったが、なんてことはねえ。日本は……地球はただ、共同作戦を進めて、バルタン星人っていう強力な友好惑星を手に入れたいんだろう」

 

 バルタン星人は強力な種族だ。宇宙忍者の異名に違わない数々の能力に加え、遙か昔、初代ウルトラマンがいた時代には既に地球へ渡航できるほどの技術力を持っている。そんな星の、一大勢力であるシルバーバルタンから協力要請が来たのだ。受けない手はない。

 逆に、要請元が敵視する異端種族「ダークバルタン」は殲滅対象だ。間違っても、その殲滅対象を擁護するような主張などあってはならない。例え、真実とは異なっていたとしても。

 

 花梨の主張は、まさしく擁護するような主張。おまけに真実味を帯びていた。察知されれば、存在を消すために動く組織があってもおかしくはない。

 

「シルバーバルタンという強い味方を手に入れたい。故に、障害となる花梨は殺された、か……」

 

「長いものに巻かれていたい。これは地球人の、()()()の正直な気持ちだ。その考えの下、俺や姉貴の殺害計画が進められるから、手段も遠回りになる」

 

 じわじわと、敵の組織も絞り込めてきている。外惑星との関係調整を担う部署と考えると、やはり外惑星開発戦略本部が近いか。だが、S4の上層部も絡んでいそうな気配がある。

 

「……ん?ちょっと待て、ちょっと待ってくれ杏次!」

 

 クイロが騒ぎ立てるので「何だようるせえな」と雑に尋ねてやった。

 

「さらっと流したが……さっき君は、花梨の主張は正しいと」

 

「そりゃこんだけ強行的な手段取られてたらな」

 

 それを聞いたクイロは、手で顔を覆った。「ああ……そうか……」と静かに繰り返している。純粋に、嬉しいのだろう。信じた友が、命を投げ打って守った考えが、正しいという結論に帰着した。今、彼の瞼の裏には、花梨がいるのだろうか。

 

「やっとここまで辿り着いた……!今すぐこれまでの情報を公開しよう。こう言う場合、どういう手段が一番早いんだ?マスコミ?SNS?一刻も早く花梨の主張を世間に――」

 

「何言ってんだおめえ」

 

 鹿津宮が遮った。このペガッサ星人は、気が逸って周りが見えなくなることがままある。

 

「これまでの情報ってお前な、前にバーで話したのはあくまで俺の考えだろ。お前も『妄想の域に』っつってたじゃねえか」

 

「う……」

 

「姉貴の説が正しいってのはあくまで状況証拠だ。そして、これを確固たるものにするには、俺が語った推論に一つ一つ裏付けを取らなきゃいけねえ。具体的に言うと、まず一つ目、墜落した航行機の損傷が外部からのビーム攻撃によるものだってことの裏付け。二つ目にバルタン星人におけるダークとシルバーの力関係が事実かどうか確認」

 

 鹿津宮は指を2本立てる。

 

「まあ『ダークが犯人説』が主流になった今じゃ、一つ目は俺達がやんなくてもじき出てくるだろ。でっちあげかもしんねえけど。二つ目も、S4との共同作戦が進めばじきに説明されるはず。問題は次からだ」

 

 さらに指を増やした。

 

「三つ目に湖田がダークバルタンに連れ去られたこと、四つ目に連れ去られた目的が発電技術の獲得であること、これらをきちっと証明しなきゃいけない。証明のためにはダークバルタンに接触して裏付けてもらう必要がある。ここまでやってようやく平行線の主張だ」

 

 鹿津宮は親指以外を立てて言い放つと、腰を下ろしているベッドに背中から倒れ込む。

 

「気ィ遠くなるわアホか!!」

 

 天井にぶつけるつもりで大声を放った。

 

 話を聞いてクイロも平常を取り戻したのか額を指で小突き考え込む。

 

「……逆になぜ、ダークバルタンは自分たちの無実を表明しない。シルバーがやったように彼らも主張すれば」

 

「シルバーに先越された時点で地球は頼れねえよ。表明って事は、なるべく多くの地球人に訴えかけるんだろ。SNSか、演説か。でも目立つ真似したら白銀――俺の部屋にガス仕掛けた輩がすっ飛んできて確保されて終わりだ」

 

「戦闘力が高い種族だがら簡単に返り討ちにできるのでは……いや、その場合は動きをシルバー側に報告されてやはり終わりか」

 

「そういうこと。シルバーに企みがバレるってのは、イコール数で潰されるってことになる」

 

 ダークバルタンも航行機事故の時点で地球に助けを求めれば良かったのに。そう思ったが、弱小種族であるダークに地球が手を差し伸べたかは甚だ疑問だ。仮に差し伸べたとしても、その後シルバーバルタンから協力の要請があれば、ダークを売っていたに違いない。

 鹿津宮は寝転がったまま、手の甲で視界を覆った。

 

(他にあるとすれば、逆に白銀がいる組織から証拠を奪うか)

 

 組織Xとシルバーバルタンにおける共謀の内容を奪って世間に晒す作戦。これは「本当はシルバーが航行機を襲いました」、「ダーク無実説が真実だが、都合が悪いためシルバーの主張を通します」といった内容の文書かデータを獲得する必要がある。あるいは白銀のように襲撃してきた人物を逆に捕らえ、拷問にでもかけて口を割らせるか。

 

(却下却下。命がいくつあっても足りねえ。クイロたちペガッサ星人の力を借りればワンチャン……いや、ジュランの花粉なんて外惑星の品を用意できる連中なら、手練れの宇宙人を雇っててもおかしくねえよな)

 

 現に、花梨のボディーガードについていたゴドラ星人は死んだのだ。ペガッサ星人では太刀打ちできない可能性を視野に入れるべきである。

 現状は手詰まりという他ないだろう。いままで推論で進めてきた調査が無駄だとは思わないが、推論にとどめたツケを強く実感した。もっとも、それ以外のやりようはなかったが。

 

 鹿津宮は身を起こし、クイロから見えぬように深く俯いた。

 ケータイを両手で包み、握りしめる。深く息を吐いた。

 

 真実がわかった、と言っていいだろう。ダークバルタンは、白だ。

 

(潮時だな)

 

 これ以上積極的に情報を集めることもない。より確実な証拠や、湖田永晴の正体の手がかりを掴めるかも知れないが、火の中に飛び込むようなものだ。

 もう終わりでいいだろう。花梨のメッセージにも「あんたが危険な目に遭うのは嫌だから」とあった。ここで幕を引いても恨むまい。

 

 だが、問題は。

 

「しかし、安生さんが裏切ったとは……少なくとも、これ以上彼女からの情報は期待できないな」

 

 傍らのクイロが、ぶつぶつと唱えている。

 

 問題は、途中離脱することをクイロが許すかどうかだ。

 

 いや、普通に考えれば許さないだろう。クイロは花梨と親交が深く、志半ばで果てた彼女の遺志を継ぐことに心血を注いでいる。情報収集にアシルのペガッサ星人まで動員してしまっているから、クイロ本人と言うよりもペガッサ星人全体が鼻息を荒くしているのだ。なんとか情報が集まり、花梨の命を狙った存在についても姿を掴めてきた。ここまで来て、「俺は降りる」など、鹿津宮は恐ろしくて口にできなかった。

 

(できることなら、もし白銀みたいな連中が接触してきた場合、俺と姉貴で集めた情報を差し出そうと思っていたんだがな)

 

 鹿津宮は既に、投降するつもりになっていた。無論、否応なく武力行使してきた場合は一巻の終わりだが、もしチャンスが与えられれば向こう側に降りたい。

 

 姉とクイロに対する明確な裏切りだ。

 しかし、そもそも鹿津宮は事故の真相などどうでもいい。ただ、真相を追うことで姉に対する勝利を実感できればよかった。

 そして、命を張ったことで、おぼろげだった花梨の主張は真実味を帯びた。姉の陰謀論を、弟の自分が事実に近いところまで昇華させたのだ。勝利といっていいだろう。審判などいない戦いだ。誰にことわらなくとも、鹿津宮自身が勝利だと思えればそれでいい。

 

「そうだ……俺は…………勝った」

 

「ん?どうかしたか?」

 

 クイロの問いに、「なんでもねえよ」と立ち上がる。

 

「とりあえず家に帰るのは怖えから、今日はネカフェかビジホにでも泊まるわ」

 

「明日は、花梨の弔いの日だと聞いているが」

 

通夜(つや)な。だから実家に帰るよ。わざわざ俺の自宅で殺すことに拘った連中だ。身内まとめて殺そうとはしないはずだから、他人と一緒にいれば安全だろ」

 

 自然な会話を継続する。事故の調査を継続する意思がないと、クイロに悟られてはいけない。自然に別れ、徐々に連絡の頻度を減らし、縁を切る。クイロのケータイはトバシだから、自由に使用できる期限は限られる。放置しておけば連絡手段は消えるだろう。住所が割れてしまっているが、これは外泊をしながら上手く躱すしかない。

 

「あー、でも喪服家に置きっぱなしだな。買うしかねえか。あ、靴も」

 

 鹿津宮は困った風を装って笑い、部屋を出ようとする。

 

「杏次」

 

 呼び止められ、どきりとした。

 

「……何だ?」

 

「これは単なる私からの願いで、決めるのは君自身なんだが」

 

 かしこまった様子で、クイロは言葉を紡いだ。

 

「君は、この戦いから降りてくれ」

 

「…………は?」

 

 幻聴かと思った。己のひた隠していた思考が、そのままクイロの口から発せられたからだ。

 

「今、なんて」

 

「私から君に、これ以上事故や湖田について調べることに協力を仰がない、ということだ。あ、別に用済みだと言いたいわけじゃないぞ」

 

「んなこと気にしてねえよ。ただ」

 

 驚きだった。願ってもない申し出だろう。ああそうするよ、と言ってしまえばいいのに。

 

「いいのかよ、もう」

 

 なぜこちら側が食い下がっているのだろう。

 

「いい悪い以前に、恐ろしくなってしまった。君は既に、命を狙われてしまったからな」

 

「そんなのは、初めて会ったときにバーで話したろ。命の危険が伴うって」

 

「想定するのと実際に経験した後では感じ方が違う。私は今、とても怖いよ。君が敵組織の思惑にはまり、命を落とすことが」

 

「……俺?俺が死ぬのが怖いって?」

 

「その通りだ。手前勝手ながら、君のことはもう友だと思っている。だから、いなくなるのが怖い」

 

 どうして。自分とクイロに対する何度目かの「どうして」が溢れる。

 

「友って……お前は姉貴と友達だったんだろ。見てみろよ俺を、姉貴と似ても似つかねえだろ。どこにシンパシー感じて親近感覚えてんだよ」

 

「君は以前、姉と比較されることを嫌がっていなかったか?どうしたんだ、自分の中で比べてしまってるぞ」

 

「……お前俺と話すようになってから、揚げ足取るの上手くなったんじゃねえか」

 

「そ、そんなつもりは……だがきっと、私もどこかで君と花梨を比べていたんだろう」

 

 クイロは申し訳なさそうに目を逸らした。おもむろに腕時計に触れると、彼の姿は人間からペガッサ星人へと転変する。突き出た目と、膨らんだ首。ごつごつとした体躯。異形ではあるが、見慣れたものだ。

 

「君が初めて私の店に来た時のこと、覚えてるか。私がカクテルの感想を聞いただろ」

 

「つい1週間前じゃねえか。覚えてるよ、店出る直前だろ」

 

「君の評価は、まあまあ、だった」

 

「不服か?もっと自信あったのかよ」

 

 違うさ、とクイロは肩を揺らす。

 

「異星宥和政策の規則では、基本的に正体を明かせない。ペガッサ星人本来の姿で酒を提供したのは、君が初めてだったからね。その状態でどんな評価をしてくれるか、気になったんだ。そして君は、本当に率直な意見を言ってくれた気がしたんだよ。そういえば君は、私が出した酒にも一切の躊躇なく口をつけたな」

 

「普通のことだろ」

 

「そうかな?変な先入観を抱かれているのではと、内心ヒヤヒヤしていたんだが。それに君は、私の表情が読めると言った。ペガッサ星人の時だって、地球人と変わらぬコミュニケーションが取れていただろう。あれには結構驚かされた。花梨と、同じなんだ」

 

 姉の名前が出て、思わず眉が持ち上がった。

 

「異星宥和政策の審査はね、厳しいんだ。加えて、審査段階では異星人の安全性が保証されないから、周囲にS4さながらの武装をした職員がいる中で問答をする。でも、その中で担当だった花梨は……すごく自然な会話をしてくれたんだ。好きなものは何か、地球で何をしたいか、地球人でも異星人でも共通するような話が、私はとても楽しかったよ」

 

 得心がいく。姉はそういう人間だ。他人の触れやすい話題から話を掘り下げ、関係性を構築していく。超能力でもあるのかと思うほど、話し上手だし聞き上手だ。

 

「君も花梨も、種族の垣根を感じさせないんだ。ただ出会えて、一緒に話ができてよかったと思える。君たち姉弟はたしかに似ていないかもしれない。でも、たしかに姉弟なんだと実感した」

 

 クイロの言葉に、じっと耳を傾けていた。このペガッサ星人は、態度が素直なら言葉までも素直だ。

 

「勘違いして欲しくないのは、君を大切に思う理由が『花梨と同じだから』ではないことだ。君は君だから、君の価値観で私と話をしてくれるから気に入ったんだよ。だからこそ、これ以上傷ついてほしくない」

 

「事故の調査はどうすんだ」

 

「ペガッサ星人全体で引き継ぐさ。私以外にも、異星宥和政策の許可を得ている同胞はいるからね。もし組織が君に接触してきた場合は、一切の情報を吐いてしまって構わない。こちらも自衛は怠らないからね」

 

 情報を吐くということは、明確な背信だというのに。それすらも許すのか。

 

 胸を反らすクイロがおかしかった。

 初めて会ったときは協力しろとしつこく食い下がったくせに、今は逆のことをのたまう。だがその変わり身は、調査を通して鹿津宮という人間を深く知り、親交を深めたことの証だった。『鹿津宮杏次』を見ていた、何よりの証だった。

 

「…………はは、お前がそこまで言うんならしょうがねえ。俺はここで退かせてもらおうかな」

 

「なんだか、少し寂しそうじゃないか?」

 

「馬鹿言え。まあでも、楽しかったよ、刺激的で」

 

 その言葉に、クイロもくっくと笑った。皮肉が伝わっているだろうか。

 

 伝わっていなくても、別にいい。

 

「たしかに、君の考察はなかなか面白かった」

 

「苦労したんだぜ。その間お前は待ってただけだろ」

 

「心外だな。きちんと営業をしていたぞ」

 

「ほんとかよ」

 

「だが、私たちペガッサ星人が集めた情報が君の考察に寄与したのは喜ばしいな。……花梨のことは守れなかった分、今日は君のことを助けられた」

 

 クイロは顔にある白いラインを掻くような仕草をした。

 

「こうして振り返ると、どこか花梨と君とは違う関係性な気がするな。互いに補い、助け合うことができた」

 

「別に名前に拘る必要もねえと思うけど」

 

 一つ、鹿津宮の頭に単語が浮かんだ。これを口にするのは恥ずかしいが、言っておいた方がいい気がした。そしてどうせ言うのなら、目を逸らさずに言うべきだとも。

 

「相棒」

 

 クイロにまっすぐ視線を注いだ。

 

「で、いいんじゃねえか」

 

「悪くないな」

 

 クイロはその響きを噛み締めるように目を閉じた。やがて再び人間態に戻り、備え付けのスリッパから靴に履き替える。

 

「今日は君がこの部屋に泊まれ。フロントには私から話しておく」

 

「いいのか」

 

「ああ。それと、明日帰省するのならなるべく公共交通機関を使うんだ。組織は大人数を巻き込もうとはしないだろう」

 

 至れり尽くせりだ。部屋を出たクイロに一言、「ありがとな」と礼を言う。彼はこちらを振り向いた。

 

「私は、君を見守っているよ」

 

 クイロの二枚目な笑顔を、閉まるドアが隔てた。

 

 鹿津宮はベッドの前まで戻り、腰を下ろす。静かな、ただ一人の空間。手の平を見つめ、震えがなくなっていることに気づいた。

 

――君は君だから、君の価値観で私と話をしてくれるから、気に入ったんだよ。

 

 クイロの声が、まだ耳の奥でこだまする。自分が鹿津宮杏次であることを根拠にしたその発言は、自分がかねてから欲し続けていたものだ。

 

――お姉ちゃんを見習いなさい。

 

――鹿津宮さんとこの下の子、なんかちょっと、ねえ。

 

――花梨さんの弟って感じしないよな。

 

 花梨というフィルターを通して下される評価に鬱屈としていた。それを仕方ないとも思った。作り笑顔で生きてきた今までの自分が、今は少し報われている気がする。

 

「二人目、だな」

 

 鹿津宮は手の平を握った。妙な事件で関係性が生まれた異星人。そして。

 そのきっかけを作った花梨。

 姉のことは苦手だ。好きではない。それでも、心から「杏次」と名を呼んでくれるのは、姉とクイロだ。

 

 二人。たった二人。

 少ないとは、思わなかった。




話がややこしくてすいません。補足説明的なあれです。よろしくお願いします。

まず、鹿津宮編に入ってからの調査と襲撃には、三つの陣営が絡んでいます。

1.鹿津宮花梨とクイロをはじめとしたペガッサ星人。及び花梨の後を継いだ杏次。
2.杏次を殺害しようとした勢力。おそらく花梨を殺害しようとした勢力と同じ
  おそらくは組織。特定できているのは白銀のみ。
3.シルバーバルタン。
 「モシリスの襲撃・航行機事故にダークバルタンが関わっている」と主張し、S4に対し
 て協力を希望する。

 この内、1だけが「ダークバルタンは無実」という考え、2と3が「ダークバルタンが墜落を引き起こした犯人」という考えです。(3は主張の内容なので言わずもがな、2の組織は真逆の考えである鹿津宮姉弟に攻撃を仕掛けているので)

 したがって、冷静に考えれば花梨を手にかけたのはシルバーバルタンである可能性もあるわけです。しかし杏次は、殺すプロセスの中で手順の無駄が多いことに気づきました。そもそもバルタン星人なら、秘密裏に鹿津宮達を殺すことなんて造作もないです。でも、安生を金で釣って情報を持ってきてもらったり、死因が同じようになる工作があったりと、「人間が人間を殺す」ような動きしかありませんでした。

 まず、杏次は「花梨の説が正しい」という予測に帰着します。1の「無実説」が間違いであったのなら、陰謀論にも満たない発言です。正しいからこそ殺されかけた、という発想。

「殺されかけたってことは俺達の説は正しい!」なんてのは結構短絡的な思考ですが、「ガス撒くか普通」と話の中で言った通り極端すぎて怪しいですよね。
また、「優秀な姉が信じた理論」という前提や、自身とペガッサ星人で集めた情報である程度の筋が通ったというもの無実説の補強になっています。

 もう一つ。自分たちを殺そうとしているのは2だけだ、との考えにも杏次は至ります。
 これは前述のとおり、手段の人間くささ、回りくどさが理由です。

 しかし、3(ダークバルタン)もまた、2と同じ考え、「ダーク犯人説」を唱えます。
 にもかかわらず、2だけが殺害に動いている理由は何か。
 それは、「鹿津宮姉弟を殺すこと」が、2=地球人の勢力にとってのみメリットがあるからです。(と、杏次は結論づけました)

作中の鹿津宮の考えに沿って、2(地球人暗殺組織)と3(ダークバルタン)の比較をします。

2はシルバーという強力な後ろ盾を逃すまいと、S4によるダーク殲滅を期待しています。ですが、仮に花梨のダーク無実説が市民権を得た場合、一度決まったダーク殲滅作戦の方向性が切り替わるおそれがあります。
「ダークを滅ぼすこと」はあくまで手段であり、目的は「シルバーと仲良くなること」です。

3は、シンプルにダークをブチ殺したい勢力です。わざわざ地球を頼った理由について、杏次は「(戦闘力に特化したダークと)戦っても、シルバー側に損害が出る。ならば別の宇宙人をダークバルタン討伐にけしかければいい。白羽の矢が立ったのが地球だ」(67話)と推測しています。可能性を考えれば、別に地球じゃなくてもよさそうですよね。あるいは「拒否されたら脅迫して従わせる」というスタンスかもしれません。どっちみち、地球側に断ると言う選択肢はとれないので。
「地球と仲良くなること」は手段で、目的が「ダークを滅ぼすこと」になります。

 2にとって、「シルバーバルタン様が地球に協力を打診してくださった!」という棚ぼた的なチャンスは絶対に逃せません。ダーク無実説を唱える異端分子をいち早く見つけ、その芽を摘むことに躍起になります。
 だからこその回りくどい手段となってしまいました。


 うまく説明できてるかわかりませんが、こんな感じです。

 「殺されかけた」という状況から生還し、2の出方もわかった鹿津宮達は一見有利に思えます。
 しかし、明確な根拠には欠けており、杏次が言ったように今までの予測に全て正確な根拠を用意する必要があります。無理だろ。
 ただこれはあくまで「ダーク犯人説を花梨の主張によって覆す」ことをゴールにした場合の必要性です。「姉に勝つ」という漠然とした目標であれば不要なプロセスなので、杏次は若干冷めていたんですね。
 また、「殺されかけた」ことを司法に訴えかけたても、動向や居場所がバレたら多分殺されてしまいます。

 クイロから「降りてもいい」との許可を得た鹿津宮。選択は委ねられていますね。

 破滅と解放の岐路に立つ彼が、踏み出した先は。

 鹿津宮編、残り3~4話で完結です。そして3章全体の完結も近いです。
 差し支えなければ、よろしくお願いします。


浦菱先生がわかりやすく解説してくれたらな、的な


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