怪獣バスターズ 星征大乱   作:雪晒

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第77話 沁み

 ぼうっと、斎場内のソファに腰掛けていた。係員が用意してくれた氷の袋を両手で弄ぶ。手の平は少し火傷をしていたが、大事なかった。火傷と引き換えに得た例の金属ケースは懐のポケットの中だ。

 

 姉の遺灰から顔を覗かせた、錠剤ほどの小さな金属ケース。それを鹿津宮(カツミヤ)は、気が動転したフリでその手に収めたのだった。親族一同には、それまで気丈に振る舞っていた遺族が、遺骨を前にし思わず我を失ったという絵面に見えていることを願う。

 

 一度トイレに入った時、ケースを開き中を見た。入っていたのは、小さく折りたたまれたくしゃくしゃの紙。そこには、ある内容が書かれていた。

 花梨が信じた『勝算』こそ、書かれていた内容。つまり勝算とは、情報だった。

 

 白銀は攻めてくるだろうか。一般参列者は既に解散しており、周囲に彼の姿はない。

 

 だが――。

 

 鹿津宮は目を細めた。今座っている場所から、斎場入り口のガラス張りを通して駐車場が見える。辛うじて視界に入る黒いワゴンは、両親や親戚のものではない。まだ帰っていないということは、あの車が、もしかすると。

 

「きょーじ」

 

 控えめな声が鹿津宮の意識を引き戻した。向きを変えると、柑太(カンタ)が立っている。

 

「きょーじ、大丈夫?」

 

 大丈夫、とは、先ほど泣いて突っ伏したことに対して尋ねているのだろう。収骨には柑太も同席した。4歳の子にとって、大の大人が泣く様は正直引いただろうな、と内心恥じ入る。

 

「大丈夫。びっくりしたろ、ごめんな」

 

 鹿津宮が柑太に笑いかけたとき、挨拶回りに区切りが付いた柑太の父、(ケイ)が歩み寄った。

 

杏次(キョウジ)さん。その、大丈夫ですか」

 

「ええ。すみません。お恥ずかしいところをお見せしてしまいました」

 

「とんでもないです」

 

 気持ちはわかる、と言いたげな表情で渓は首を振った。

 ふと、鹿津宮は思った。姉という、鹿津宮家と実川(サネカワ)家――渓たちの家系――を繋ぐ存在がこの世から消えた。今後渓と会う機会はあるのだろうか。それに、柑太とも。

 

「きょーじ、どうしてさっきは泣いてたの?」

 

 やにわに柑太が、鋭い問いを差し込む。渓が「柑太」とたしなめたが、鹿津宮は手を翳して制した。

 

「おれが泣いたのは……姉貴に、柑太のお母さんにしばらく会えなくなるのが寂しかったからなんだ」

 

「おかーさん?」

 

 柑太が首を傾ける。

 鹿津宮は、ちらりと渓を見た。渓にはわずかの逡巡が窺えたが、やがて口を引き結び、小さく頷いた。

 鹿津宮は向き直る。

 

「柑太のお母さん、さっき、小さな扉から顔見ただろ」

 

「うん」

 

「どうなってた?」

 

「ん……眠ってた」

 

「そうだったな。お母さん、この前まで、とても大変なお仕事してて、それでとてもとても疲れちゃって、だから今眠ってるんだ」

 

 柑太は黙ってしまったが、目は鹿津宮から逸らさない。

 

「それで、疲れが取れるまでぐっすり眠っているから、いつ起きるかわからないんだよ」

 

「わからないの」

 

「うん」

 

 柑太は後ろの渓を見上げて、「おとーさんは、わかる?」と尋ねる。

 

「お父さんも、ちょっとわからないかな」

 

「そっか」

 

 柑太は再び鹿津宮の方を向いた。視線は少し下げられている。

 

 全てを知る必要はない。むしろ、歳を考えれば知らない方がいい気がした。ただ、なるべく衝撃が少ない伝え方で、断絶をわかってもらう必要はあるとも思っていた。部分的でいい。少しでも、今日のことを理解してくれれば。

 

 柑太は、視線を上げていた。鹿津宮と目が合っている。その目が、顔が、近づいた。

 

「柑太?」

 

 気づくと、温かいものが鹿津宮の胸に接していた。柑太の顔が、鹿津宮の喪服の左胸あたりに埋まっている。柑太が、抱きついてきたのだとわかった。

 

「きょーじは」

 

 声がすぐそこでした。

 

「いなくならないでね」

 

 柑太が喋ると、声が胸のあたりでくぐもって響く。心臓の鼓動のようだった。

 

――ああ、この子は。

 

 鹿津宮は思った。

 

――全部、わかってるじゃないか。

 

 母親がこの世を去ったこと。焼かれて骨になったこと。もう会えないこと。もう抱きしめてくれないこと。全部。

 全部わかっていて、悲しくて苦しくて、怖くて不安で、今も声が震えていて、それでもなお。

 

 いなくならないでと。他者を(おもんぱか)る言葉を投げかけられるのか。

 

 こんな子どもが、たった4歳の子どもが。

 

 なんて健気は声だろう。なんてひたむきな願いだろう。鹿津宮は、ただ打ちひしがれた。

 言葉が出てこない。代わりに、柑太の体を抱きしめた。小さな体を覆うように、守るように。もう震えなくて済むように。

 

 ただ、抱きしめた。

 

 

 

 

 

 渓に手を引かれる柑太を見送った。親族も徐々に帰り支度を始めている。葬式は終わりだ。

 

「鹿津宮杏次さん」

 

 背後から名を呼ばれて振り返る。そこには立っているのは、白銀だった。

 

 やはり、まだいたか。

 

 今日は一人ではなかった。白銀を中心に、右手には背の低い坊主頭の男。左手には重量級の格闘家と言われても納得するほどの巨漢がそれぞれ控えていた。全員が喪服を着ていることから、3人で参列したのだろうか。

 

「本日はお悔やみ申しあげます。二日前にご自宅を訪問致しました、白銀と申します」

 

「ええ、覚えていますよ」

 

「一つ、お話がございまして。今、少しお時間よろしいでしょうか」

 

 鹿津宮は頷く。断れない。白銀の横には喪服がはち切れそうな大男がいる。首を横に振っても無駄だ。

 

 

 

 

 

 (くら)い場所だった。斎場の、奥まった通路の果て。非常出口を示す頼りない緑の光マークすら、光源としての役割を果たしているようなところだ。人通りなどない。

 

「鹿津宮さん」

 

 白銀の声が明瞭に響いた。

 

「以前訪問しました件で、お姉様からお渡ししたいというモノなんですが」

 

「あの日はすみません。応対ができなくて」

 

「いえいえ。それで、その件なのですが」

 

 白銀は恐縮そうに方をすぼめた。

 

「大変申し訳ございません。そのお渡ししたいモノとは、一つのデータファイルだったのですが、私どもが、中身を閲覧してしまいました」

 

「データファイル?」

 

「はい、そしてその内容とは、生前花梨さんが調査していた航行機事故の内容を含むものなのです。私どものみに閲覧可能なフォルダに入っており、開いたところ、情報と共に鹿津宮さんにお渡しするようにとの文言がありまして」

 

 つまり、職務上のデータ保管ストレージに花梨が残したデータが入っており、「弟に渡したい」という内容を閲覧したと同時に中身も見てしまった。

 

 という風に作った筋書きを、白銀は今語っている。

 

「当初は、花梨さんが残された大切なものですので、メモリに転送し直接お渡し差し上げようと思っていたのですが……。再度検討した上で、職務における重大な内容を含むと判断いたしましたので、鹿津宮さんにお渡しするといったデータを、こちらで保管させていただくことに決まりました」

 

「つまり、私には渡さないと」

 

「はい。申し訳ありません」

 

 白銀は深く頭を下げる。

 

――この男は、何を言っているんだ?そんなことを言うために俺を呼んだのか?

 

 鹿津宮は困惑を表情に出さないので精一杯だった。まず大前提として、この男は自分を殺そうとした。それは間違いない。先日家を訪ねたのは鹿津宮の在宅を確認する以外の目的はなく、「花梨が渡したいというデータ」も嘘八百であるのは確実だろう。「渡したいものがある」と言って家を訪ねた手前、そのシナリオを完成させる必要があるのだろうか。

 

 ならばこの男たちは、鹿津宮の無知を信じているのか。鹿津宮が、「白銀は自分を殺そうとした人間ではない」とまだ思っている想定で動いている。それならば、なめられたものだ。

 

「そして」

 

 白銀が長い礼から姿勢を戻した。

 

「もう一つ、お願いしたいことがこざいます」

 

 白銀は、強い目力を注いでいる。

 

「花梨さんが弟であるあなたに航行機事故の情報を渡したいと願ったということは、あなたも事前に何か、花梨さんから情報を受け取っているのではないかと私たちは考えました」

 

「俺が、ですか」

 

「彼女が残した情報は断片的で、なにか元の情報と組み合わせて意味が生まれるように思えたのです。ですが、私たちは運輸安全委員会。全ての情報を精査し、事故の原因究明と対策に繋げる義務があります。どんなことでも構いません、もし花梨さんから聞いたお話があれば、是非お聞かせ願いたいのです」

 

 これが本題か。やはり目的は鹿津宮が持っている情報。花梨が示した、ダークバルタンは墜落事故の実行犯ではないという証拠が欲しいらしい。

 

 だが、それを獲得して何になるのだろう。「ダークバルタンは原因ではない」という情報そのものは白銀らにとって価値がない。ただ、その情報を持っている人物が厄介というだけだろう。

 

 彼らはダークバルタン潔白説を公表されたくない。だから花梨を殺し、鹿津宮の自宅にもガスを仕掛けたのだ。今更どうして、情報が欲しいなどと言う。それも、一度始末しようとした男に面と向かって。

 

(……いや違う。奴らの目的は)

 

 おそらく、花梨と杏次を繋いだパイプ役、つまりクイロらペガッサ星人ではないか。おそらく白銀らはペガッサ星人に辿り着いていない。だが花梨が集めた情報にはペガッサの知識やアシルで聞いた内容が含まれる。それを辿れば、ペガッサ星人に行き着くだろう。不穏分子だとバレたペガッサ星人はその後、異星宥和政策から除外されて地球追放か、あるいは抹殺されるかだ。

 

(白銀達の組織はペガッサの存在を察知していない……ってよりも、多分まだ存在を察知できてないってだけだろうな。こいつらは、姉貴の身辺を今後も徹底的に洗うつもりだろう)

 

 ならばなぜガスを使った。最初から自分との会話にこぎつければよかったのに。

 そう思ったが、よくよく思い返せば白銀は実際に自宅を訪ねている。あの日は玄関口で会話に持ち込み、話の流れでメッセンジャーの情報を聞き出すつもりだったのでは。しかし鹿津宮が追い返したため、メッセンジャーを探るのは諦め殺害に踏み切った。

 

 そしておそらく、彼らは「勝算」に興味がない。勝算とはもとより、花梨が自分の身を守るために開示するものだったはずだ。だが結果的に死んでいるのだから、価値はなかったということになる。

 

 あるいは、花梨は開示できぬまま死亡した可能性もあるが、その場合白銀らは勝算の存在を知らないだろう。

 ならば、今ここで開示すれば、もしかしたら。

 

「鹿津宮さん、どうかお願い致します。代弁するようで少々気が引けますが……きっと、お姉様も事故の早急な解決をお望みかと思います。であれば、私たちに一任していただけるのがベストです」

 

 白銀が訴えかける。

 

 どうすべきか、鹿津宮は迷った。クイロは墜落事故の追及から降りろと言ってくれた。ならばもう白旗を揚げてしまおうか。白銀達に情報を全て提供したとして、自分の身の安全は保障されるのだろうか。

 

 無理だろう。一度殺そうとした人間だ。殺害の必要性があると決まった人間を、のうのうと生かしてはおくまい。だがここで提供を拒めばどうなる。向こうは鹿津宮が情報を有していることは承知済み。拷問にでもかけられるだろうか。

 嫌だ。せめて楽に逝きたい。

 

「鹿津宮さん」

 

 白銀が力強い発音で名前を呼んだ。

 

「どうか、ご協力いただけませんか。お姉様の無念を、私たちと共に果たしましょう」

 

 語気と目力で訴えかける。

 

 鹿津宮は努めて冷静を保った。静かに素早く頭を回す。

 わざわざ強硬手段を取らず、鹿津宮に面と向かって願い出ているのは、花梨との繋がりを見つけるため。そして、白銀はある効果を期待している。

 

 鹿津宮が「情報を差し出せば命だけは助けてくれるかも」という一縷の希望を抱き、すんなり協力すること。

 殺人未遂を経てからの、今の申し出だ。この二度手間により、白銀に協力するかわりに身の安全を確保してもらおうという鹿津宮の心象を利用できる。

 

 が、既にそれを察した鹿津宮には効果がない。

 

 かといって――。

 

(どっちみち、同じじゃねえか?)

 

 情報を差し出せば鹿津宮は用済みになる。つまり用を済ませたその時点で鹿津宮は殺されるだろう。花梨の主張を公表する可能性を、奴らは許さない。

 だが拒めば、即座に殺される。もともとその方向性だったのだから躊躇はない。拷問を省いた場合はパイプ役の情報は手に入らないが、殺害の優先度が高いのは身をもって理解している。

 白銀らにとって、鹿津宮の選択はどっちでもいいのだ。

 

(俺終わりじゃん)

 

 鹿津宮は悟り、思考をやめた。

 

 協力しても死ぬ。拒否しても死ぬ。結末は決まった。

 

「ふー……」 

 

 息を吐いた。白銀らには決定を迷う男の深呼吸に見えただろうか。実際には、ただの嘆息だ。29年、長いとも短いともいえない人生だった。

 

――姉貴に勝ったってことになんのかな。一応、説に明確に筋道は立った。けどウラ取りはできなかったし、結局長生きもできねえし。

 

 もう終わりなら、難しいことを考える必要もない。体が軽くなる感覚すらあった。

 

「……鹿津宮さん?」

 

「ああ、すみません」

 

 どちらでもいいのなら、とりあえず賛同してわずかな延命を期待するか。そう考え、右手を動かす。

 しかし、ふと思い立った。白銀との握手には向かわず、自分のスーツ左腕付け根のあたりに触れる。

 

 強く、握った。微かに湿っていた。

 

 ここはさっき、柑太が顔を埋めていた場所だ。ならばこの染みは涙か、鼻水か。

 すぐに乾いてしまいそうなほど微かな湿り。

 

 こんなもんじゃない。

 

 鹿津宮は思った。こんなもんじゃないだろう。

 

 母親を失ったのだ。4歳の子どもなら、もっと泣きわめく。泣いて叫んで、へたり込んで、大人がなだめても決して収まらない。それが普通だ。そうあるべきだ。

 

 柑太は違った。堪えて、鹿津宮を抱きしめた。自分の中にある寂しさを強引に抑え込んで、「いなくならないで」と言ってくれた。

 このわずかな染みは、柑太の勇気の証だ。そして、その勇気の裏にある膨大な悲しみの証でもある。

 

――どこにも、いなくならないでね。

 

――きょーじは、いなくならないでね。

 

 花梨のメッセージと柑太の言葉が重なる。

 

「……そんなところ、似るなよ」

 

「鹿津宮さん?」

 

 右手を出したままの白銀が問いかけた。

 

「ああ、失礼」

 

 鹿津宮は喪服から手を離し、白銀と握手を交わした。

 

「姉から聞いた情報は、たしかにあります。この後すぐにでも、見ていただければ」

 

「おお……ありがとうございます!」

 

 白銀は腕を上下に振った。手は握られている。強い力だ。ここから逃がすまいという意思をじわりと感じる。

 

 でも。そんなものより強いものを鹿津宮は知っている。幼い命が秘めた、眩い光のような力に触れたから。

 

 いなくならないで。鹿津宮を大切に思うその気持ちは、他でもない鹿津宮が、幼い頃からずっと欲していたものだ。他の誰かを基準とせず、ただありのままの自分に触れて欲しいという悲願だった。

 

「あ、れ。鹿津宮さ」

 

 右手を握り込む。強く、力任せに。

 

「あの、力が。ちょっと、痛いです」

 

 だから、その悲願を叶えてくれた者には、ほんの少しだけ報いたいと思った。

 叶えてくれた者が押し殺した痛みの、ほんの一欠片だけでも。痛みの原因となった者達は、感じるべきだと思った。

 

 ぐい、と握った右手を引く。左右の男が動いたが遅い。白銀がよろけると同時に、左拳を思い切り振るった。拳が白銀の頬に打ち付け、ぐわりと状態が反れる。握ったままの右手を再度引き込み、さらにもう一撃ぶち込んだ。

 

「ぐぅあ……!」

 

 三発でも四発でも食らわせてやりたかったが、手が離れてしまった。白銀は尻餅をつき、右の頬を抑えている。左にいた小柄な男が駆け寄った。

 

「大丈夫ですか」

 

「うん大丈夫。……あぁそうか。そうですか鹿津宮さん」

 

 白銀は落ち着いた様子だった。大して痛くもなかったか。鹿津宮は片目を細めた。

 

「まあ、いずれにせよ同じことですかねぇ」

 

「あんたに一つ聞いておきたいんだけどさ」

 

 立ち上がった白銀に、鹿津宮は問う。

 

 

 

「『サバイバーズリスト』って、知ってるか」

 

 

 

 じとりとこちらを睨む目が、瞬かれた。直後、白銀が喪服の懐から何かを取り出す。

 

「どこでその言葉を」

 

 取り出したのは、拳銃だ。まさしく、映画やドラマで見るような本物の凶器が、鹿津宮に向けられている。

 

「あ~……」

 

 だめか。鹿津宮は胸中で肩を落とす。

 『サバイバーズリスト』。この単語こそ、遺灰から取り出したケースの中身の内容だ。つまり花梨が飲み込んだ『勝算』の情報だ。

 内容は端的で、サバイバーズリストという単語と、それについて話していた()()()()()の名前しか記されていない。これが現状打破の鍵になるかもしれない。一縷の望みをかけて、オープンしたが。

 

 白銀は明らかに余裕を失っている。銃口が頭を狙っているのだとわかった。

 サバイバーズリストとは、たしかに重要な情報なのかもしれない。だがそれは、こちらに優位を引き込むためのワードではないらしい。むしろ逆、この単語を知った人間から順番に地獄に送られるような、重大な機密を孕んだ情報だ。ならば、花梨もこの勝算を開示し、逆上されて殺されたのだろうか。

 

 こうなってはもう手立てはない。

 殺れ。鹿津宮は思った。今ここで殺されたとしても、不都合は少ない。

 

(情報は絶対に奴らに知られない……とは言わないが、把握を遅らせられるはずだ)

 

 鹿津宮は事故に関する情報を自分のケータイ情報端末にまとめていた。そして、先日のガスによる襲撃を受けたことにより、一度それらを全て削除している。端末はもちろん、クラウド上のデータまで全て削除したため、一般人ではもはや閲覧ができない。また、消す直前に事実とは異なる情報を何点か書き込んでおいた。削除後も復元ソフトから内容を見られる可能性はあるが、多少の妨害はできる。クイロ達に辿り着くまでには、時間がかかるはずだ。

 

 部屋にガスを撒かれた日、鹿津宮はパソコンを置きざりにしてしまったが、そちらは論文やニュースなどの情報収集にしか使っていないため問題はない。

 

(仮にこの銃が麻酔弾で、後々拷問にかけられる可能性もあるが……どっちみち拷問の準備が整うまでは時間がかかる)

 

 もはやクイロ達には、時間の猶予を残してやることしかできない。だが、十分だろう。非力ながら足掻いた方だ。

 

 奈落のような拳銃の砲口が、真っ直ぐこちらを向いている。火を噴くまでもう数秒もない。と、思っていたとき。

 

「しかと」

 

 誰かに、肩を叩かれる。

 

「見させてもらったよ、相棒」

 

 声の方を向く。そこにはクイロが、擬態装置を切ったペガッサ星人の姿で立っていた。

 

 

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