怪獣バスターズ 星征大乱   作:雪晒

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鹿津宮編終了です。長い間ありがとうございました。
あと数話書いて3章が完結します!よければお付き合いください


第81話 圧勝

杏次(キョウジ)さん」

 

 警察とS4の到着を待つ親族の中で、一人駆け寄ってくる者がいる。(ケイ)だ。

 

「大丈夫、なんですか」

 

「ええ、なんとか」

 

「すみません!僕だけ逃げてしまって、その……本当にすみませんでした!」

 

「いいんですよ。無事で何より」

 

「あ、あと、助けてくれてありが」

 

「それもいいですよ。たまたまです。それより、柑太(カンタ)は」

 

 今いる親族の面々に、渓の息子柑太の姿はない。

 

「柑太は、お義母(かあ)さまにお願いしました」

 

「ああ、おふくろですか。柑太、今日のこと怖がってなかったですか」

 

「怖がってました。けど……今日の疲れもあったのか、安全になって少ししたら眠ってしまいました」

 

 それはよかった、と言えるだろうか。強いトラウマになっていなければいいのだが。

 

「杏次さん」

 

 渓はこちらを見つめている。下まぶたに濃いくまが乗る。この人も、本当に大変だ。

 

「あの……あなたは」 

 

「少し」

 

 鹿津宮(カツミヤ)は出口を指さす。

 

「外に出ませんか」

 

 答えを聞かずに斎場から出る。渓は少し困惑した様子で、後から付いてきた。

 

「あの、杏次さん」

 

「何です?何か聞きたいことでも」

 

「あなたは……知っていたんですか。今日、あんなことがあるって」

 

 え、と間の抜けた声を出してみせる。

 

「なんでそう思ったんですか?」

 

「疑っているわけじゃないんです。ただ、あのよくわからない、異星人?が現れるときに、皆さんに何か呼びかけていたじゃないですか」

 

 たしかに、鹿津宮が「逃げろ」と言いかけた時にツルク星人が自販機を投げてきたのだった。

 

「それに、あいつが攻撃を仕掛けてきたときも冷静に対処していた。もしかしたら、何か知ってたんじゃないかって」

 

「…………いや~」

 

 鹿津宮は頭を掻いた。

 

「知らなかったですよ、何も」

 

「そうなんですか」

 

「知ってたらわざわざ葬式に顔出さないですよ」

 

 笑い混じりに返す。「そうですよね」と渓も引きつった笑みで合わせた。

 

「では、これも知らないとは思うんですけど……妻が亡くなった原因について何か知っていたり」

 

「それも知らないっすよ」

 

 変なことを聞く。葬式の最後に突如異星人が攻撃を仕掛けてきたからか。たしかに、外惑星からの襲撃がなくなった現代において今日のことは大事件だが、何も知らない渓が花梨(カリン)の死を疑うのは飛躍しすぎだ。

 

「ですよね。ごめんなさい。どうしても納得できなかったんです。妻が死んだことが」

 

 うなじを撫でながら、少し恥ずかしそうに言った。

 

「元気な人だったんです。病気もしないし、明るいし、惑星イメルに出張になってからもちょくちょく、家族三人でリモート通話したりして。その時も元気だったのに」

 

「余命宣告されてたら、納得できるんすか?」

 

 え?と渓は怯んだ顔を向ける。

 

「納得は無理なんじゃないですかね、どんな形でも。大切な人が……いなくなってほしくなかった人が急にいなくなるんです。それに納得するのは難しいでしょ。無理にする必要もないと思いますし」

 

 タバコを吸おうと懐から取り出したが、すぐにしまった。

 

「俺は、結構できちゃったんですよね。納得」

 

「花梨の、お姉さんの死にですか」

 

「ええ。いや、納得ってのは違うのかな。俺も姉貴は元気だったと思うし、だから死んだって聞いたときは驚いて、実感も湧かなくて。でもなんか、受け止められたんです」

 

 一拍おいて、再度口を開いた。

 

「姉貴のこと、嫌いだったんで」

 

「えっ……え?」

 

「言ってなかったですよね。普通言わねーかこんなこと」

 

 言葉を失う渓を見て、意地の悪い笑いがこみ上げてくる。花梨が他人から嫌われるなんて、これっぽっちも思っていなかった人間の表情だ。鹿津宮は「他人から嫌われることがない」という点が嫌いだったのだから、渓が抱いた印象に間違いはないのだが。

 

「勝てなかったんですよ、ちっちゃい頃から何しても。姉貴は全然鼻にかけるタイプじゃなかったけど、俺は一方的に嫉妬してて。だからまあ、死んだことに納得できないのは、あなたの愛情が深かったからじゃないですか。そんな思い詰めなくても」

 

 微弱ながら慰めになるかと思ったが、渓は暗い表情のままだった。

 

「…………辛いですね、すごく」

 

「それはどっちですか?姉貴が死んだことか、納得できないことか」

 

「どっちもです。でも後者の方が強いのかな。よく考えてしまうんです。ここに彼女がいてくれないかな、戻ってきてくれないかなって。きっと僕は一生そんな風に思い続けます。もしかしたら、柑太も」

 

 涙声になるのを必死にこらえる話し方だった。

 

「あの子の人生に花梨は欠けてはならない存在でした。だからこそ、今も納得ができていない。今日、異星人に皆が襲われて、もしかしたら花梨の死と何か関わりがあるんじゃないかって……愚にもつかないことを思うんです」

 

「色々考えてしまうのも仕方ないですが、人の死ってのは、必ずしも理由があるもんじゃなくないですか。ある日偶然死ぬ人だっているわけで」

 

「おっしゃるとおりです。でも、なんで彼女が死んだのかわからないなら、せめて僕は、彼女が望んだもののために生きていきたい。花梨のために、戦いたいんです」

 

 声に覇気が戻る。「戦う」という言葉を、意図的に選んでいる気がした。やはり渓は、花梨の死を疑っている。

 

「杏次さん、こんなことを聞くのは変ですが、花梨は何を望んでいると思いますか」

 

「俺に聞きますか」

 

「あなたです。あなたが、一番答えに近い気がするんです」

 

 渓が誰よりも花梨を想っていることは伝わってきた。そんな彼が、自分で答えを出すのではなく、鹿津宮に尋ねることの重みも理解した。

 妻のために。愛した人のために。花梨のために。何をするか。何を望んでいるか。

 

「柑太を」

 

 答えは決まっていた。

 

「どうか、守ってあげてください」

 

「息子を?」

 

「伸びやかに、健やかに育ててあげてください。この先、何一つ不安なことはないんだと思えるように、守ってやって欲しいです」

 

 渓は目を見開いた。しかしすぐに、朗らかに笑う。

 

「やっぱり、そうですよね」

 

 鹿津宮はほっとした。欠けてはならない存在なのは、花梨だけではなく渓もだ。彼もまた、それを理解している反応だった。

 

 爽やかな笑顔を見て、若々しいなと思う。鹿津宮の方が年下なのだが、自分にはないまばゆさを感じていた。

 このまばゆさは、彼に生来備わっている素質なのだろう。彼が生きている限り損なわれない強みだ。

 どんなことがあっても。どんなことを知っても。

 

「姉貴はツイてますね。あなたみたいないい人を見つけられて」

 

「それは……こちらこそです。花梨は、素敵な女性でした」

 

「身内のそういう話は背中がかゆくなるな。まあ残念ながら、俺が弟だったのはツイてないかも」

 

「そんなことはないです」

 

「いや、そうですよ。現に今も、俺は姉貴のために戦おうとは思えない」

 

 渓が「え?」と疑問を露わにした。

 

「俺は、俺のためにしか戦えないですから」

 

「杏次さんにとっての、戦いって……」

 

「姉貴に勝ちたいんです」

 

「でも花梨は、もう」

 

「死にましたよ。でも」

 

 不敵な笑みを作ったつもりだった。それでも、少しだけ穏やかな表情になっている気がする。

 

「勝負はまだ、終わってないんです」

 

 渓が意表を突かれたように口を開ける。そして、目を見開いた。

 口元は何かを言おうとせわしなく動き、しかしいずれも言葉にならない。

 

 鹿津宮は祈った。どうか何も言わないでくれ。

 

 「終わっていない」。この言葉が最大限の譲歩だ。渓に対して通せる義理だ。これ以上踏み込ませてはならない。

 やにわに、渓が大股で歩み寄ってきた。怖いほどの気迫におののいてる間に、もう目の前まで来ている。身を強張らせたが、渓は黙って鹿津宮に右手を取った。祈るように両の手で包み、見つめている。

 

「……杏次さん、さっき花梨には何をしても勝てなかったっておっしゃいましたね」

 

「え、ええ」

 

「勝ちたいと思うのも、それが理由ですか?」

 

「まあ、はい」

 

「だったら」

 

 渓は震えるほど手に力を込める。

 痛い。痛くて、熱かった。

 

「妻は、31歳でした。勝ちたいとおっしゃるなら、せめて、花梨の歳は越してください」

 

 渓の肩も、顔も震え出す。俯いた拍子に、滴がアスファルトに落ちた。

 

「花梨に、圧勝してください」

 

 嗚咽混じりだった。

 鹿津宮は、どこか現実感のない気持ちで立ち尽くした。渓もまた、自身を想ってくれている。他でもない自分に、生きてくれと願っている。

 

 本当に、増えた。この数日で、自分の名をきちんと呼んでくれる人物が。

 

「ええ。勝ちますよ、きっと」

 

 少しだけ、握り返す。

 サイレンの音が聞こえてきた。パトカーが到着したようだ。

 

「……最後に少しだけ、芝居に付き合っていただけますか?」

 

 「え?」と渓が顔を上げた時、パトカーと、S4の紋章が刻まれた車両が駐車場に止まる。

 

 車を降りたS4隊員は斎場の中に、警官は近場の鹿津宮と渓に歩み寄ってきた。大まかな役割分担としては警察が事情聴取、S4は現場の鑑定と調査なのだろう。

 

 警官は身分証を提示し、いくつか聞きたいことがあると申し出た。

 

「ええ、構いませんよ」

 

 渓が答え、問答が行われる。答えるのは基本渓で、鹿津宮は名前を言っただけだ。その後は適度に相打ちを打つだけにとどめる。

 

「……はい、それで、黒くて細長い頭の異星人と、両手に剣を付けた異星人を見ました。黒い頭の方は、何故かわからないけど味方をしてくれたように見えて、はい」

 

 警官は2、3質問をした後、メモ用の端末をしまった。

 

「申し訳ございませんが、詳しいお話を聞きたいのでこの後署までご同行願えますか」

 

「わかりました」

 

 渓が承諾したのを見て、警官は踵を返す。他の親族にも話を聞くのだろう。

 

「あの、すいません」

 

 その背に声を投げた。

 

「今日のことって、今後S4とかとすりあわせて色々解明される感じですか?」

 

 振り向いた警官は、不思議そうな顔をした。

 

「はい。もちろんです」

 

「じゃあさっき話した、黒い宇宙人がどうとか、なんで助けたのかみたいな話も出ますかね?」

 

「ええ」

 

「そうなんすね」

 

 鹿津宮は指先で顎を弄る。微妙な反応に、警官は疑問を露わにしていた。

 

「…………それはまずい」

 

 鹿津宮は、渓の首に腕をかけた。

 

「な!?」

 

 ぐいと腕を巻き付けて動きを抑え込む。片手のためきつく締め上げてはいないが、チョークスリーパーに近い形をとった。

 「動くな」と警官に言い放ち、隠していた武器を渓のこめかみに突きつける。

 

「こいつがどうなってもいいのか」

 

 隠していた武器とは、拳銃だ。白銀が持っていたものをちゃっかり拾っておいたのだ。

 

「杏次さん!?」

 

 渓が困惑の声を上げる。鹿津宮は意に介さない。

 

「貴様、一体」

 

「動くなっつってんだろ!銃も出すなよ」

 

 警官が腰に手をやったのを見て機先を制する。

 

白銀(シロガネ)がいる組織ってのはどこまで権限が及ぶんだ?」

 

「一体何を――」

 

「あんたら警察もグルだったりすんのかねぇ!」

 

 興奮を装い、警官の警戒を引きつける。左手で押さえ込んでいる渓は大人しくしていたが、意図を説明する時間がなかったため、非常に混乱していた。

 あと少し付き合ってくれ。この一手間は、きっと必要になる。

 

 すると、異常を察知したS4隊員が、斎場から飛んできた。

 

「ああ、S4隊員もいるんだったな。ちょっと面倒くせえか」

 

 緊張で震える口元を無理に引き上げる。渓を手で押し飛ばし、解放した。

 

「一つ覚えておくんだな」

 

 鹿津宮は右手の銃も捨てる。確保のために警官とS4が動き出すが、もう遅い。

 

「外星人も一枚岩じゃねえってこと」

 

 頼んだぞ、ラブカ。心の中で念じる。

 

 ほぼ同時に、足下にダークゾーンが開いた。鹿津宮はその闇にゆるりと滑り込む。消える刹那、別のダークゾーンが大きく展開しているのを視認した。それはちょうど、鹿津宮がいた位置とほぼ同じ、()()()()()()()()開いていた。

 

 視界が黒で覆われる。完全にダークゾーンに入り込んだ。もはや地球人にはとらえられない場所まで来ている。退散成功だ。

 

「よかったのか?」

 

 暗闇の中、背後にはクイロがいた。「ああ」と鹿津宮は頷く。

 

「それより、お前らこそよかったのか」

 

「もとより私たちが始めたことだよ」

 

 その時、「よっ、と」という声と共に、クイロとは別のペガッサ星人が現れた。暗闇に紛れて見えにくいが、肩の白い装飾が目印になる。

 

「お待たせしました」

 

 彼は、先ほど出会ったばかりのラブカだ。先ほどは、鹿津宮とほぼ同時に入れ替わるように、一瞬だけラブカが姿を表す手はずになっていたのだ。警官達にペガッサ星人の姿を見せつけた後、彼もすぐにここに潜ったという手順になっている。

 

「助かった、ラブカ」

 

「いや、全然。大したことじゃ」

 

「そうじゃない。これでお前はもう、地球にいられなくなった」

 

 鹿津宮の言葉に、ラブカは肩を落とした。が、すぐに「仕方ないっすね」と持ち直し、クイロの方を見た。

 クイロもまた、静かに頷く。

 

「異星宥和政策で日本に来ているペガッサ星人の約半数を、地球から離脱させよう」

 

 クイロとラブカの3人で話し合った作戦。それは、ペガッサ星人の分断を偽装するというものだった。厳密には、鹿津宮が提案した策といった方が正しい。

 

 

 

 

 

 白銀らの大元、『組織X』の刺客を全て始末し、こちら側の死者は出なかった。この状況は完璧に思えたが、一つ問題が残っている。それは、親族がペガッサ星人の姿を見てしまったということだ。

 

 ペガッサ星人は親族の前で、ツルク星人に立ち向かう姿勢を見せた。先ほど渓が言った通り、それはまるで地球人を守るような行動に見える。今後事情聴取を受ける親族は、警察やS4にそれを伝えるだろう。組織Xがその情報を吸い上げた場合、ペガッサ星人は敵対の意思ありと判断される。

 結果的に、ペガッサ星人は『ダークバルタン無実説』のために動いていると悟られてしまい、異星宥和政策で地球に住んでいるペガッサは排除か追放される。

 

――ダークバルタンは無実という気運を生じさせたい

 

 ミクソメはこう語った。すなわち今後、地球人の誤解を解き、親シルバーから親ダークに傾ける必要がある。その作戦について考えた時、ペガッサ星人が地球から追放されてしまう事態は避けたいと鹿津宮は思った。

 

 親ダーク派を増やす計画において、バーなどの拠点を有しているペガッサ星人は特に貴重になる可能性がある。ならば、ここでペガッサ星人全体が怪しまれるのは避けたい。

 

 咄嗟に考えたのは、ペガッサ星人内の分断を装うこと。今後、クイロが各地のペガッサ星人に働きかけ、一部は地球を脱してもらう。異星宥和政策の契約を切るのではなく、夜逃げのように姿をくらますのだ。そうすれば、組織Xは逃げた一部のペガッサ星人のみがダークバルタン無実説だと認識するだろう。この際、離脱するペガッサは、ラブカたちのように単なる居住を目的とした『第一許可証』を有する者が主体となる。クイロのような拠点を有するペガッサを残し、今後の行動を取りやすくするためだ。

 

 もちろん、組織Xは黙っていない。地球に残るクイロたちにも追及の手が回り、情報提供を求められるだろう。しかし、そこは知らぬ存ぜぬで通してもらう。すなわち、ペガッサ星人の中で『花梨に協力したダークバルタン無実派の勢力』と『花梨のことなどつゆ知らず、異星宥和政策で地球に訪れただけの勢力』がいるように見せかける。地球に残るクイロ達が、後者だ。

 

「すまない。私たちが人間に擬態したまま戦っていれば、今の芝居も必要なかった」

 

「いや、姉貴の素性を洗っていくうちに、遅かれ早かれペガッサ星人には辿り着かれる。どっちみち必要な演出だった」

 

「しかし、わざわざ花梨の夫に銃を突きつけてくる必要はなかったんじゃないか?」

 

「まあ、おまけっていうか、お守りだな」

 

 先ほど、鹿津宮と入れ替わるようにしてラブカが現れた。そうして一度警官達の前に姿を現した後、ラブカもダークゾーンへと潜っている。

 この一手間が、『鹿津宮杏次の正体はペガッサ星人ラブカである』という認識を植え付けるのだ。ラブカが一瞬姿を現したことで、鹿津宮が変身したように見える。

 

「たしか昔、ウルトラマンってのは自分以外の地球人と同化して、戦うときに本来の姿に戻ってたんだよな」

 

「そうらしい。まさか、ウルトラマンから着想を得たのか?」

 

「ふと思いついてな。これで俺は、ペガッサ星人と体を同化させた存在になった。ペガッサとの協力関係が、より明確になったな」

 

 仮に組織Xが警官からの情報を吸い上げた際、「鹿津宮杏次はダークバルタン無実派のペガッサと共謀していた」という結論に辿り着くだろう。そして同時に、目の前にいた渓を連れ去らなかったという状況に注目する。

 

「もし仮に、渓さんが姉貴みたいに事故の謎を追っていたら、ペガッサ星人は状況的に渓さん連れ去らなきゃ駄目だろ。でもあえてそれをしなかった。この事実は、渓さんが事故の件とは全く無関係だと証明する」

 

 鹿津宮とペガッサ星人の繋がりを強調し、同時にそれ以外の参列者や親族にはノータッチで斎場を去った。つまり、鹿津宮以外の親族はペガッサ星人にとって連れて行く価値がなかったということになる。無論、警察等から斎場での出来事について問いただされることはあるかもしれないが少なくとも、Xが警戒する無実説には一切関わっていないと判断される。その効果を生むためのダメ押しを鹿津宮とラブカで仕組んだのだった。

 

「あのまま黙って去ってもよかったんじゃないすか?」

 

「一理ある。だからおまけってことだよ。渓さんに銃突きつけてきたのは、仲間じゃないって事をより強く認識させたかったからだ。俺は既に命を狙われてる。俺との断絶が深くなるほど、渓さんと柑太は安全になるよ。多分だけどな」

 

「あんたは、そこまでして」

 

 地球にいられなくなるのはラブカ達だけではない。鹿津宮もまた、簡単に戻れなくなった。

 同情を寄せるラブカに背を向ける。

 

「まあ、いいんだよこれで」

 

 この漆黒の景色をしばらく眺めていたい気分だった。今自分がどんな顔をしているかわからない。わからないが、誰にも見られたくなかった。

 

――あんたならできると思ったから頼んだんだよ。

 

 花梨からのメッセージにはそうあった。結局その言葉に乗せられ、こんな暗闇まで来てしまった。

 自分と姉は、一体なんなのだろう。何が同じで、何が違っていただろう。

 

 花梨の方が優れている。杏次の方が劣っている。そういった姉との比較を倦んでいた。しかし結局、自分にも比較を課しながら、気づけばここまで歩いている。

 

――花梨に、圧勝してください。

 

 それでも、自分の名前を呼ぶ者がそれを願っているのであれば。目指す先も、少しは明確になったか。

 

――きょーじは、いなくならないでね。

 

「……あ、約束破っちまったな」

 

「約束?」

 

「そう。姉貴の子どもとの約束」

 

 聞き返したクイロに、鹿津宮は背を向けたまま答えた。

 

「いなくならないでって言われたんだよ。でも結局、その子の前から姿を消しちまった」

 

「いい子なんだな」

 

「いい子なんだよ」

 

 少し俯く。上も下も真っ黒のはずなのに、視界が暗くなった気がした。

 

「花梨はたしかに死んでしまって、もうどこにもいないけれど」

 

 間を置いて、クイロが言葉を投げかけた。

 

「君の世界から、花梨はいなくなっているかい?」

 

 優しい問いかけだった。

 

 鹿津宮は顔を上げ、振り向き、ふっと笑ってみせた。





絵を描きました。薄いです。
(左から渓、柑太、花梨)

【挿絵表示】


(左からクイロ、杏次)

【挿絵表示】
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