怪獣バスターズ 星征大乱   作:雪晒

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ここから何話か作戦会議、あるいは違和感解消の話が続くかもしれません。
各話の後書きにざっくりですがまとめを記載する予定ですので、内容ちょっと気になるけど本文読むのは億劫……という方がもしいましたら、まとめをご覧いただければと思います。


第83話 生きている

 鹿津宮(カツミヤ)・クイロと病室で話をした日から、8日が経過していた。11月の下旬まで特錬隊員の試験を受けていたため、暦は12月に入っている。気候の変わらないモシリスは相変わらず暑く、季節の移り変わりを肌で感じる機会は少ない。しかし、事務仕事は来年を見越したものを受け取るようになってきた。

 例えば、年内に期限が迫った装備品の点検データ管理。武器や防具によっては特殊な点検や修理が必要になるものもあり、対応した修理を行うために別の惑星まで移送しなければならない場合がある。非常事態を覗いて年末年始は長期休暇になるため、月末より少し早く入庫する必要がある。しかしまた、休暇の直前では各惑星で移動依頼が殺到して身動きが取れなくなるため、日を逆算して段取りを考えなくてはならない。

 他にも、休暇期間の監視ドローン管理や複数の提出書類など、年の瀬の慌ただしい空気を感じる場面が少しずつ増えている。

 

 仕事を終えた浦菱(ウラビシ)は、佐納(サノウ)を連れて自宅へと向かう。今日、再び鹿津宮・クイロと会う予定となっていた。期日を指定したのは浦菱だった。

 

 退院したのは、病室での会話から2日後。荷物を手に病院を出ると、エントランスの脇にクイロが待っていた。無論、擬態装置をオンにした、壮年の男の姿だ。

 

「ご退院おめでとうございます」

 

「どうも。奏は足を怪我してるから、あと3日入院期間がある」

 

「……意思は、固まりましたか?」

 

「うん。とりあえず、もう一度ちゃんと話を聞きたい」

 

 クイロはその返答を予想していたのか、驚く様子はない。

 

「では、3日後でも」

 

「いや、それはだめ。日は……」

 

 浦菱は指を折って日数を数えた。

 

「……6日後がいい」

 

「それは、どうして」

 

「こっちにも事情があんの。安心して、通報はしない。不安ならダークゾーンで監視してもいい」

 

「そんなことはいたしません」

 

「ははっ、鹿津宮がひねくれてる分あんたは素直で救いだわ。場所は私の家にしよう。住所は――」

 

 そうして、退院後の業務をこなすうち、約束の期日になった。佐納と二人、自宅であるS4隊員用官舎の一室で待っているとインターホンが鳴る。

 

「来た」

 

 ドアを開ける。そこにはクイロと鹿津宮が立っていた。クイロはスーツを着ていない、白いワイシャツの姿。鹿津宮は黒のブルゾンを羽織り袖をまくっていた。

 

「どうぞ」

 

「お邪魔ぁ」

 

「お邪魔します」

 

 鹿津宮は客人らしい礼節を一切見せず、居間に上がるとちゃぶ台の一角に腰を下ろした。一方クイロは一礼をして座布団に正座をする。どっちが地球人かわからない。

 

「よう佐納」

 

「どうも……。あの、鹿津宮さんはどうやって生活してるんですか?今はこの星にいるんですよね」

 

 調べたところ、鹿津宮杏次は指名手配などはされていない。斎場から立ち去る際、鹿津宮は自身=ペガッサ星人という可能性を示した。外星人の能力を備えていると考えた場合、容姿を変えたり、瞬間移動をしたり、逃走手段のバリエーションは膨大になる。もはや一般人に注意を呼びかけるような手配はほとんど意味をなさない。だが、S4や警察などには情報が共有されている可能性がある。自由に行動はできるとは思えない。

 

 佐納の問いに答えたのは、クイロだった。

 

「私の名義で宿を取り、そこに寝泊まりしています」

 

「お金はどうやって?警察に銀行口座とか決済サービスのアカウントを張られたら、何もできないですよね」

 

「そこはまあ、私とか、他のペガッサ星人の懐から」

 

「超ヒモじゃん」

 

 浦菱が鹿津宮の対面、クイロの右隣に腰を下ろす。

 

「外星人のヒモになって生活してる人初めて見た。クイロも大変じゃない?こんなの抱えさせられて」

 

「全くです」

 

 迎合したクイロに「黙ってろ」と鹿津宮が忌々しげに言い放つ。けれども、痛いところを突かれたという表情だった。

 

「なあ、客人に飲み物くらい出してくれてもいいんじゃねえのか」

 

「今日の目的はお茶会じゃないし。一応あんたを信用してるとはいえ、喜んでもてなすほど警戒解いてないんだからね」

 

安生(アンジョウ)はコーヒー出してくれたんだがなぁ。あれ、お前のもてなし、裏切り者以下?」

 

「あ~出すわよすぐ出す」

 

 浦菱はキッチンの戸棚を開け、常備してある紅茶を人数分淹れた。

 

「クイロは砂糖とミルクいる?」

 

「いえ、おかまいなく」

 

「奏は」

 

「あ、じゃあ両方」

 

「りょーかい」

 

 各々の前に前にカップを置く。「俺にも聞けよ」と不満げな鹿津宮の前には雑に置いてやったため、滴が跳ねた。

 

「さて、今日は洗いざらい話してもらうわよ……と、言いたいところだけど」

 

 浦菱も腰を下ろす。

 

「その前に一つ、私たちから報告がある。ね、奏」

 

 佐納に目配せすると、彼女は小さく頷いた。

 

「鹿津宮さんが、一番最初に私たちの病室に現れた時、『マスク型の薬は絶対服用するな』って忠告をしてくれましたよね」

 

「ああ。外惑星アレルギー症状を引き起こす物質が含まれてる可能性があるからな」

 

「私……退院の直前に、その薬を騙ったマスク型の医療器具を処方されました」

 

 鹿津宮とクイロが、同時に目を見開いた。

 

「……飲んでは、おられませんよね」

 

「もちろん」

 

 おそるおそる問うたクイロに、浦菱が返す。

 

「マスクの中身は、病室の自動掃除機に吸わせて、服用したって体で返してきた」

 

「これはいわば……鹿津宮さんの予想通りの事態です。予想が当たったことで、私の身が狙われているという状況の信憑性が高まりました。同時に、このことを以前同じ部隊だった前原(マエハラ)さんに共有したところ、前原さんもまた急な配属の変更により、危険度の高い任務にあたっていることがわかりました」

 

「前原さんに関する立場の変わりようも、鹿津宮の言っていた内容と一致する。あんたがでたらめを言ってる奴じゃないって事は、さらにはっきりした。報告ってのは、その情報の共有。あとまあ、感謝。……ありがとね」

 

「ありがとう、ございました」

 

 佐納が深く頭を下げた。

 

「ま、危険を回避できたんなら何より。頭上げろよ」

 

 と、鹿津宮は浮薄な様子でひらりと手を振るう。

 佐納はゆっくりと顔を上げる。その表情は、礼の前よりより険しいものになっていた。

 

「ですが、もう一人部隊を同じくしていた方……殻島(カラシマ)隊長にも連絡を取ろうとしたんですが、電話、メッセージ、一切が繋がりませんでした」

 

 不安さを隠しきれない唇が、細かく震えていた。

 

「もしかして、殻島隊長はもう――」

 

「殻島(ミノル)さんは無事です」

 

 優しい声をかぶせたのは、クイロだった。佐納はクイロの方を向き、腰を浮かせた。

 

「本当ですか!?」

 

「今のところは、安全です。それも含めてお話しようとしたのですが……さあ杏次、何から話したものか」

 

「ん~。いくつかあるが、とりあえずダークバルタンの現状から話しとくか」

 

「私は願わくば、どうして鹿津宮さんが私たちに接触しているのかを聞いておきたいんですが」

 

「いいのか?ダークバルタンの現状は、湖田永晴(コダナガハル)の情報を含むぞ」

 

 佐納と浦菱は固まった。互いに迷う顔を見合わせる。

 

「唯ちゃん、気になるよね。ダークバルタンのこと、湖田さんのこと」

 

「……うん」

 

「先にそっち聞こうか」

 

「……ありがとう」

 

 自覚しているよりも、鬼気迫る顔になっていたかもしれない。佐納は話の順序を譲ってくれた。

 

「じゃあ、ミクソメから聞いた情報をもとにダークバルタンについて教える」

 

 鹿津宮は胡座の足を組み替えた。

 

「まず、ミクソメが言ったようにダークバルタンはとっくに母星を離れてる。母星ってのはシルバーバルタンが大多数を占める、主要な居住惑星のことだな。こいつらのうち、俺らを助けてくれたミクソメ達は一時的に地球に来ていた」

 

「ですが彼らは既に地球を発っています。これも理由は主にふたつ。まず一つ目、地球における生活は、そう長く続けられない」

 

 この点は、浦菱も予想できていた。

 

 冷静に考えれば、変身能力や憑依能力を有するバルタン星人が地球に溶け込むのはたやすいように思える。地球への定着を困難にするのは、各国で行われている潜伏外星人対策が理由だ。

 

 地球が星人や宇宙怪獣から襲撃を受けて以来、人々は当然地球に侵入する異星人に対して警戒するようになり、国ごとに対策に乗り出した。日本で行われているのは、13歳以上に交付される個人情報カードに、生体情報を元にしたコードを付与すること。これは個人の証明であると同時に「地球人であることの証明」としても機能する。このカードは進学・就労・居住などはもちろん、公共交通機関の定期利用やクレジット支払いの申請にも用いられ、使用する際は実際の生体情報と暗号化されたコードの照合がなされる。カードを持たない者の生活は非常に困難と言わざるをえない。実質指名手配犯と同義だ。

 無論、裏ルートで他人名義のカードを取得することも可能かもしれないが、そこまで踏み込むには当然人間社会への馴致が求められるため、外星人には難しい。国民を殺害し成り代わろうとしても、その人間が有する対人関係や業務の内容、細かな癖まで真似なければならないのは星人にとって大きな負担だ。

 

 また、国内に設置されている監視カメラは、数十台に一台の割合で『星人発見機能』を搭載されている。機能名の通り、移る人々を自動で認識し、擬態しているかどうかフィルターにかけるのだ。万が一、地球人に擬態している星人が見つかった場合、やはり自動でS4へ情報が回る。異星宥和政策の許可を得た種族は事前の登録によりこのカメラに捉えられることはない。

 

 これら、星人から地球を守るための仕組みが、例に漏れずダークバルタンにも牙を剥く。シルバーバルタンの主張が通説となっている今、国が自治体にカードの更新業務を指示し、ダークをあぶり出す政策に乗り出す可能性すらあった。日本以外でも同様の思索は展開されているため、ミクソメらが地球を出たのは正しい判断だと言える。

 

「んでふたつめだが、同胞が結構やべえらしい」

 

「やべえ、ってのは」

 

「ダーク族はほとんどが飛行円盤で宇宙を放浪中らしいが、常にシルバーバルタンに追われてる上、度重なる攻撃を受けている」

 

 肩に力が入る。シルバーのやり方は、苛烈だ。

 

「ミクソメはそんな目に遭ってる仲間を援護するために、地球を出る必要があった。この関係でゴタゴタしてて、今もすぐに連絡を取れる状況じゃない。そもそも宇宙じゃ通信に限界があるから、すぐに連絡を取れる状況なんてのはないんだがな」

 

「私たちも宇宙の彷徨っていた身だが……」

 

 クイロは扇型の目を細めた。

 

「明日の安全が保障されていない状況で、さらに襲撃を受けるというのは、かなり過酷な状況だと思う」

 

「一つ、気になったんですが」

 

 佐納が小さく挙手した。

 

「シルバーバルタンが既にダークを攻撃してるって事は、もうダークの居場所、あるいは移動している宇宙の領域が判明してるってことになります。でも現時点で、S4に協力要請が来ないのはどうしてなんだろう、って」

 

「ダークはまとまって行動してるわけではないんです」

 

 クイロが首を横に振る。

 

「ばらばらの船団に別れて方々に逃げています。そのうちいくつかが襲撃を受けてるということですね。それでもS4に協力要請はいきそうなものですが……ミクソメいわく、潰してるらしいです」

 

「潰してる?」

 

「きっちり返り討ちしてるんだよ。襲ってきたシルバーバルタンの部隊をな」

 

 今度は鹿津宮が手の平に拳を打ち付けた。

 

「攻撃食らっても必死にやり返して、居場所の情報を持ち帰られないようにしてる。逃げの一手だが、完全に主導権は握らせてない。話に聞いた『ダークバルタンは戦闘に特化してる』って話は間違いじゃなさそうだ。それだけに、シルバーが自分の種族の被害を気にして地球に目を付けたのも納得できる」

 

 なるほど、と浦菱は思った。クイロに目をやると、なぜだか少し胸を張っている。おそらく、自分の仲間がアシルで集めた「ダーク族は戦闘に長ける」という情報に間違いがなかったことを誇りたいのだろう。が、鹿津宮はクイロを見た上であえてノータッチを貫いた。

 

「つっても余裕はない状況、シルバーバルタンの手勢を捌くので精一杯だ。S4みたいな少数の勢力でも、追加されれば致命的なんだと。前話したとおり、地球人の反ダークバルタン感情をなくしたいってことだ。で、ここからが俺達にとって重要」

 

 鹿津宮は声のトーンを落とした。

 

「湖田永晴の安否についてだ」

 

 浦菱の鼓動は痛いほど早くなっていた。喉が渇いていたが、紅茶のカップに手を伸ばす気にもなれない。ただ祈るように、鹿津宮の顔を見た。

 

「あの後、ミクソメに聞いたんだ。宇宙に分散したお前の仲間のうち、地球人を匿ってる奴はいないかって」

 

「……それで」

 

「ミクソメの返答は、『わからない』だった。やっぱ、全部の仲間の動向がわかっていなかったからな。それで、他の船団にコンタクトをとって、地球人と関わりを持った奴がいないか聞いてもらったんだ。返答は、ついこの前来た」

 

「どうだったの」

 

「いた」

 

 浦菱は耳を疑った。聞き間違いかと思った。鹿津宮がぼそっと、あまりに短く発したものだから。

 

「ダークバルタンのある円盤の一つに、地球の航行機事故から一人だけ助け出した若い男がいる。そいつを現在に至るまでずっと保護してるらしい。名前は、湖田永晴」

 

 喉が詰まった。息を吐くのも吸うのも、肺のとても浅い場所でしかできない。

 動けない浦菱の前に、鹿津宮が何かを置いた。ポケットに楽々収まる大きさのカードだ。少し黒ずんだ汚れがあり、端が若干欠けている。

 

「これ」

 

 手に取って、穴が空くほど見つめる。目を疑った。

 湖田永晴、との名前がある。

 

「伝聞だけじゃ信用に値しないと思ってな。ミクソメに送ってもらった。正真正銘、湖田の個人情報カードだよ」

 

 これが件のカードだ。名前と生年月日、そして生体情報のコードと顔写真がある。映っているのは、湖田だった。個人証明のカードなので当然真顔だ。それでも、微笑んだ顔を想像できる。

 無邪気で、しかしどこかに大人びた雰囲気も漂う、私に向けてくれたあの笑顔。カードには定期的な更新が義務づけられているが、目の前の彼は高校の頃の記憶とそんなに変わらない。

 

「よかったな」と、鹿津宮が素っ気なく言った。

 

「湖田永晴は、生きている」

 

 鼓動が早い。でも、先ほどとは異なる律動だった。血が巡っていく。体を揺さぶるほどに。

 

 生きてる。生きている。頭の中で反芻した。

 

 好きだった。尊敬していた。世間一般で言う密接な関係性に踏み込む勇気はなかったけれど、忘れることができないでいた。考えを変えてくれた人物だった。生き方を示してくれた人だった。

 行方不明になった。死んでる確率の方が高い事故だった。それでも生きているという可能性に縋って、しがみついて、その居場所を追い求めた。

 

「う、あ」

 

 視界に移る全てが輪郭をなくす。嗚咽する口元を抑えたが、こらえることができない。今までの記憶が、一つの雫となってこぼれ落ちた。

 

「うう……!」

 

 ああ、生きていた。死んでいなかった。

 よかった。きっと人生でこれ以上にほっとすることはない。これ以上嬉しいことも、ないのかもしれない。そう思ってしまうほどの、膨大な感情が浦菱の中で揺れた。

 

 生きていて良かった。生きていると信じ続けてよかった。

 そう自分に言い聞かせる。奇妙なことに、同時に誰かと話しているような感覚が浦菱の中にあった。

 

 ようやく、明確な手がかりを見つけた。私たちが選んだ道は、間違っていなかった。報われた。

 

――報われたんだよ。なあ、殻島。

 

 




83話まとめ

・鹿津宮が忠告した「マスク型の医療器具」が佐納にも処方された。
 →かつて佐納と同じ部隊だった前原も配属の変更により心身への影響が大きい
  体調だった殻島穰には連絡が付かなかったが、クイロは無事だと説明

・ダークバルタンは既に母星を出て、UFOや滞在可能な惑星で一時的に生活中
 →理由は迫害を受けているため・スペシウムの耐性を解明する目的で人体実験を受けさせられるため
 →いくつかの分団で逃亡中。シルバーバルタンの追跡になんとか対応・迎撃中

・ミクソメに聞いたところ、湖田を匿っていることが判明
 →湖田の存在を証明する個人情報カードを浦菱に見せた。


前話82話をもって、殻島勇玖が姿を消した回が折り返し地点となりました。また、殻島失踪よりほぼ1年となります。懐かしいっすね。
彼の生死はいまだ不明ですが、この話における重要な立ち位置であることに変わりはないので、頭の片隅の片隅あたりには覚えていただけると大変ありがたいです。

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