怪獣バスターズ 星征大乱   作:雪晒

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前回のあらすじ

鹿津宮とクイロが、昨年のアペヌイ大火災で出撃していたS4隊員にコンタクトを取っている理由が判明した。それは、危機的状況から救い出す、あるいは忠告する見返りにダークバルタン無実説を主張してもらうためである。
しかし、そのためにはアペヌイ出撃隊員を守っていく必要があった。その必要性を含め、佐納は「協力してもらうことが本当に可能なのか」と訝る。そんな佐納に対し、クイロはさらに詳細な計画の内容を告げる。
それは、アペヌイ出撃隊員を「惑星アシル」に匿うことであった。


第85話 無茶振り

「アシル!?」

 

 裏返った佐納(サノウ)の声は、驚嘆を示す。

 

「一体、アシルのどこに。地球人でアシルに行けるのは惑星自治業務*1を委託された人だけで、あとは通信アンテナが置かれているだけのはずです。一般人では入れない」

 

「我々、ペガッサ星人に割り当てられた区画に来ていただいてます。そもそも地球にいないのですから、杏次(キョウジ)花梨(カリン)の命を狙った組織も八方塞がりです。アシルには外星人が主管する統括本部があり、地球の捜査権を及ぼすことは難しいですしね」

 

 手が届かない場所で保護する。単純な話だが、なるほど安全だ。

 

「アシルに行くのは、主に病状が悪化していた方が多いですね。事情をお話して、このままでは命が危ないということで、一度アシルに移住していただくようにしているんです。もちろん、移動はペガッサ星人の円盤を使って秘密裏にね。ペガッサ星人に充当されたのは、運良く広い区画でして、部屋とスペースは余っていますので」

 

「いやでも、そんなすんなり『アシルに来て』って要求を飲んでくれますか?失礼ですがお二人とも……」

 

「怪しいってのはわかってるっつの」

 

 鹿津宮(カツミヤ)がうんざりした様子で言葉をかぶせる。

 

「そこで使えるのが、姉貴の名刺データ」

 

「花梨さんの?」

 

「クイロが姉貴からもらった分を使い回して見せつけたんだ。つまり、前職の名刺だな」

 

 花梨の前職とはつまり、外星人運営のアシル統括部から委託される事務を処理する仕事だ。

 

「姉貴がいたのは内閣府に籍を置く組織で、おまけにアシル関連だからな。これで信用してもらえたよ」

 

「それに、お会いした皆さんもかなり不安に駆られていたご様子でしたので、我々の話を聞いてくれるんです。去年の大怪災から危ない目に遭ってばかりいる、という認識の方がほとんどだったそうですから」

 

 にわかには信じがたかった。しかし、体調や配属等で危機を感じているところに、その状況から逃れる術を提示してくれた人物がいたのとすれば、たしかに縋ってしまうかもしれない。

 

「プラス、アシルに滞在する異星人の伝手を頼って、可能ならS4隊員の治療もしてもらってるんだ。売った恩としては、これがデカい」

 

 へえ、と浦菱(ウラビシ)は感嘆する。

 

 アペヌイ大怪災では、毒ガス怪獣が多く確認された。必然的に、毒ガスが散布された作戦区域では心肺機能にダメージを負った隊員が少なくないという。そこに、薬を騙ったアレルゲンの吸入装置の追い打ちだ。アペヌイ大怪災から継続して入院していた隊員達の健康状況は悪かったに違いない。

 それを治療するというのは、外星人の技術・能力からすればたやすいのかもしれないが、地球人にとっては地獄に仏だろう。

 

 「それなら」と佐納が反応した。

 

殻島(カラシマ)隊長……以前もお話した、私と同じ部隊だった隊長さんは」

 

「ああ、殻島(ミノル)さんですね。大丈夫です。彼は既に回復していますよ。」

 

「本当ですか」

 

「少々病状が進行していましたので、弟さん夫婦と共に、早めにアシルへ来ていただきました。ですが、もうお体に支障はありません。現在はアシルで療養中です」

 

 ほっ、と本当に口にしてしまうほど、佐納は胸を撫で下ろしている。浦菱も、ほとんど彼女と同じ思いだった。この場に息子が、殻島勇玖(イサク)がいたら、どれだけ安心するだろう。

 

 安堵した後で、ふと気づいた。

 

「でも、アペヌイに出撃した隊員は、全員が毒殺まがいのことされそうになってるわけじゃないでしょ?現に(カナデ)や、奏と部隊を組んでた前原(マエハラ)さんは、普段よりも危険な指令を言い渡されて、遠回りに命の危機に晒されてた。彼らにはどうやって対処したの?」

 

「身の回りの状況が変わった連中には、正直手立てがなかった。しかたなく、外惑星活動における労働災害の防止・減少に取り組む団体を騙って接触した」

 

「胡散くさっ」

 

「ああ胡散くせえよ。でも効果はある。隊員たちは、現に任務や配属の変化でくたびれてる。どんぴしゃなタイミングで声を掛けたのが俺達だ。向こうにとっちゃ、労働災害一歩手前な自分たちの状況を察知されたと思い込む。ビビっただろうがそれ以上に――」

 

「耳を傾けてくれたんです」

 

 クイロはこの場にいない隊員に感謝を告げるような、しみじみとした口調だ。

 

「信頼を積み重ねる中で、こちらから情報を開示。他の隊員がアレルギー症状を引き起こされそうになっていること、アシルに一時匿っていること。そして、同様にアシルに来ていただけないか、あるいは手伝いをしてほしいということ」

 

 ようやく鹿津宮の目的と繋がった。初めてあった日、佐納に対し「あんたを連れて逃げる」と言っていたが、このことか。

 

「あんたらのことを通報されたらどうするんの」

 

「俺はもう追われてる身だから痛くもかゆくもねえ。基本ペガッサ星人を同行させてるが、通報したとしても『どの』ペガッサ星人かまでは判別できない。クイロみたいに地球にいる奴か、ラブカみたいに地球を離れた奴なのか、わかりっこねえよ」

 

 浦菱は胡座をかいた足の上に肘を置く。頬杖を突いて考えた。

 

 鹿津宮とクイロは人を集めている。窮地から救う、アシルに招く、病気を治すという明確な恩を売る。

 そして。

 

「あんたが集めた人には、売った恩の見返りとして『ダークバルタン無実説』を主張してもらうって寸法。合ってるよね」

 

「その通りだ。アシルに匿うことで、殺されるかもしれないっつー最大の懸念を回避しつつ症状も治してやれる。ペガッサ星人の伝手があって助かったぜ」

 

「ですが一つ、気がかりな点があるんです」

 

 クイロの目線が、佐納に移った。

 

「八十川さんと安生さんの話から判明した、『偽の薬剤』、あるいは『任務』によって危険に見舞われている隊員の方ですが、昨年のアペヌイ大怪災で出撃した全ての隊員、というわけではありませんでした」

 

「えっ」

 

 浦菱は頬杖を解いた。が、冷静に考えればもっともだと思った。

 

「やっぱりそうですよね」

 

 クイロの視線を受け止め、佐納も同意する。

 

「アペヌイ大怪災は近年まれに見る大規模な怪獣の被害でした。ですので、アペヌイにいた全ての調査隊員はもちろん、外惑星からも応援が駆けつけていたはずなんです。それだけ少なく見積もっても、4000人はいたかと」

 

「ですが、4000人もの人数を排除させられるわけがありません」

 

 その通りだ。偽の薬剤や任務の変動の影響を受けた隊員は危機に見舞われた。つまり殺されそうになった、あるいはS4の第一線から排除されそうになったのだ。だが4000人もの大人数に作用させるのは不可能だ。

 

 「かなりざっくりした数になるが」と鹿津宮が指を折る。

 

「危機に見舞われた隊員は、100人程度っぽいぜ。もちろんまだ全員には接触できていないが、隊員のコミュニティから聞いた話だとそんくらいの試算だ」

 

「佐納さん、この100人にあなたも入っています。あなたは、あのアペヌイ大怪災の日に何を見たんですか?あるいは、100人に共通する心当たりがなにかおありですか?」

 

 クイロは身をかがめ、佐納と目を合わせた。

 佐納は口元に手をやる。

 

「何を見たのか、と言う質問には、期待するようなお答えはできません。あの日、たしかに怪獣の姿は見ましたし、異常な事態ではありましたが……ひどく目を引くものは見ていません」

 

「では、共通事項については」

 

「……その100人の内、私のように任務の変更を受けていた隊員は少なかったのではありませんか?逆に、殻島隊長のように偽の薬を処方された人がほとんどのはず」

 

 クイロが目をしばたたかせた。

 

「おっしゃる通りです」

 

「であればその100人はおそらく、怪獣による被害がもっとも酷かった地域に出撃していた隊員、あるいはそういった地域に出撃していないけれど、出撃した隊員と部隊を同じくしていた者だと思います」

 

 佐納の表情に、苦々しい色がじわりと滲んだ。

 

「殻島隊長は直々に命を下されてはいませんでしたが、より多くの人を助けようと被害の大きい地域に向かっていきました。私は……体がすくんでついて行くことができなかった。前原さんも私と同様です。おそらく、隊員に危険を及ぼしている何者かは、『重大被害地域に出撃した隊員』及び『それらと部隊を同じくする隊員』です」

 

「であれば、何かを見たのは、実際に重大被害地域に出撃した隊員……?」

 

 佐納はおそるおそる頷いた。

 

「実際に殻島隊長とは会っているんですよね?鹿津宮さん、隊長から何か聞き出せませんでしたか?」

 

「あのおっさんは『必死でほとんど覚えてねえ』って答えてた。だが正直、何かを隠しているようにも見える」 

 

 鹿津宮の見解は邪推だろうが、彼の人を見る目は信用できる。

 

「今まで接触したアペヌイ大怪災の出撃隊員も似たようなもんだな。誰も彼も『心当たりはない』って答えやがる。本当に何も知らなそうな奴もいれば、意図的に隠してそうな奴もいる」

 

 浦菱は喉が詰まるような閉塞感を覚えた。

 あの日、アペヌイで何があったというのだ。仮に何かを目撃した者がいるとして、その目撃者を排除するだけの重大な理由があるというのか。

 

 部屋に満ちる気味の悪い重苦しさを、鹿津宮の声が切った。

 

「とりあえず、この『何を見たか』については追々聞き出していきたい。十分に信用してもらった段階で、改めて聞き出す」

 

「現時点では、アペヌイの大怪災と墜落事故に関するバルタンの主張、このふたつに直接の関連はないって認識で間違いないわね?」

 

「だな。大怪災関連でひどい目に遭った連中を、俺達がたまたまダーク無実説拡大の駒に使うってだけだ」

 

「最後に、ダーク無実説拡大の細かな作戦についてお伝えします」

 

 クイロがこちら側の顔を交互に見渡す。

 

「まず、私たちは継続してアペヌイ大怪災の出撃隊員の内、作為的に危険な状況に見舞われる方と接触し協力を仰ぎます」

 

「動くのは俺やペガッサ星人、八十川や安生、前原も乗り気だった。全部で100人だから……そうだな。最低50人はアシルに匿いたい」

 

「その50人って数字にはどんな意味が?」

 

「俺と姉貴、2人でダークバルタン無実説を調べてた時は、組織に殺されそうになってた。偽の薬剤や配置転換じゃなく、毒ガスやらツルク星人やらを使った強行的な方法でな。だがこれが、50人もいればどうなる」

 

「どうなるか……少なくとも、殺害しにくくはなりますよね」

 

「それが狙いだ」

 

 鹿津宮が人差し指を向ける。

 

「ダークバルタン無実説が国にとって都合の悪い主張でも、数十人規模になれば力づくで殺害するハードルが上がる。同時に、そんだけの人間が同じ主張をすればある程度の力は持てるし注目も集められる。このラインまで協力者を増やすことが目的だ」

 

「一理あるけど……それにしたって50人は少ないんじゃないの?」

 

「何もこいつらで世論を覆そうって訳じゃねえよ。現状のダーク犯人説に疑問を投げかけて、シルバーに対する不信感の芽を少しずつ出していければいい」

 

「同時に、湖田さんの存在も重要になります。先ほど言った通り、彼に主張してもらえば、ダークバルタンの信頼アップに貢献しますから」

 

「たしかに……!」

 

 湖田がこの作戦において大きな価値をもっている。

 彼が活躍する。そう思うと少し浮き足立つ自分がいた。

 

「それに、長い間行方不明だった人の生存が確認されるなら、世間の耳目も引ける」

 

「が、同時に注意が必要だ。白銀がいたような、ダーク犯人説を押し通したい勢力にとって、湖田は最大の懸念材料だ。わかるよな」

 

「懸念って……そっか!」

 

 浦菱ははたと気づいた。昂ぶった熱が、水を浴びせられたように冷めていく。

 

「湖田先輩はダークバルタンに助けられたって状況を、身をもって証明できてしまう立場なんだ」

 

「ってことは、湖田は確実に、組織が作った殺害リストの一番上に乗ることになる」

 

「そんな!」

 

 予想されるあまりに恐ろしい事態に身を乗り出す。しかし、すぐに引っ込めた。

 湖田の死亡。それを絶対に避けねばならないことは、この場の誰もが承知している。

 

「そんなわけで、湖田っていうカードを切るタイミングは慎重になる必要がある。湖田を表舞台に出すなら、ある程度ダーク無罪説の土台を固めてから、あるいはこちらも強力な護衛を確保してからの方がいい」

 

「合わせて、『ダークバルタンは航行機を墜としていない』という他の証拠も探りましょう。正直先行きは見えませんが、アペヌイ大怪災に出撃した隊員たちと何かしらの関係があるかもしれませんし、ダークバルタンの方にも依頼すれば、潔白を示す材料が見つかるかもしれません」

 

 他の証拠。クイロの言った通り望み薄ではあるかもしれないが、探る価値はあるだろう。

 

「すなわち、俺達がやるべきことは3つだ。一つ目。アペヌイ大怪災に出撃した隊員にコンタクトを取って協力を呼びかける。二つ目。湖田をダークバルタンのもとからこちら側に呼び寄せ、証言の準備を整える。三つ目。ダーク族無罪の更なる証拠を集める」

 

 一つ一つ指を立てながら鹿津宮は説明した。以上、と締めくくった後で、どこかから寒々しい風が吹いた気がした。

 

「……自分で言ってて泣けてくるよ。結局気が遠くなるような計画しか組めてねえ」

 

 困っているのか、おかしいのか、鹿津宮は曖昧な表情のまま目線を泳がせる。だが、仕方ないと浦菱は思った。

 

「でもあんたたち二人とか、アペヌイの隊員のことを考えたら、できるだけ安全に進めた方がいい。花梨さんは実際に亡くなってるわけだし」

 

「私も唯ちゃんに同意です。これが現状、最善のルートだと思いますよ。それで、私たちが協力する内容というのは、おふたりのようにアペヌイの隊員に会って説得を試みることですか」

 

「いや、違う」

 

 鹿津宮ははっきりと否定した。

 

「今言った作戦には一つ、回りくどさとは別に、より致命的な欠点がある。何かわかるか」

 

 浦菱は僅かに顔を傾け、佐納と目線を交わした。自分も彼女も、その欠点に気づいている。

 

()()()()、でしょ」

 

「そうだ。時間切れ、すなわち、こちらが主義主張を整えるより前に、S4のダークバルタン殲滅作戦が始まってしまう場合」

 

 そうなったら最悪だ。一度動き出してしまった組織は、なかなか止められないだろう。S4によるダーク殲滅作戦は未然に防ぎたいところだ。それができなければ、ダークは非常に大きな被害を受けることになる。

 

 クイロも険しい表情で顔の白いラインをなでた。

 

「これを防ぐためには、実際に作戦が動き出す前、あるいは動き出した後にでも、進行に歯止めをかけるしかありません」

 

「歯止めをかけられるのは、作戦に従事できる人間しかいない。すなわち特錬隊員だ。こいつらが実際に戦いに出向くわけだし、作戦の時期や内容についても真っ先に共有される。特錬が作戦をぶっ壊す工作をすれば、S4の指針は揺らぐ。破壊工作ができなくても、情報を共有してくれるだけでかなり助かるんだが」

 

 まさか、と浦菱は唾を飲んだ。クイロの深い色をした瞳は、瞼によって押し下げられ鋭くなっている。浦菱と佐納を、見据えていた。

 

「お前ら、それやれ」

*1
地球と外惑星の通信を確保するために、アシルには協力な通信アンテナが置かれている。地球はその土地を借りるために外惑星の土地を一部を割譲し、さらにアシルにおける自治業務を継続的に委託されている




85話まとめ

・アペヌイ大怪災に出撃した隊員は、惑星アシルに匿われている。
 →白銀のいた組織から身を守ることができる。
 →アシルに住む異星人の協力により、病状を訴えた隊員を治療できる。(ダーク無実説を主張してもらうための交換条件になりうる)

・アペヌイの大怪災で、徳に被害の大きかった地域に出撃した隊員は何かしらの秘密を握っている?
 →それが偽の薬剤や配置転換で命を脅かされる理由になっていると推測できる。

・鹿津宮とクイロは①アペヌイ大怪災の出撃隊員を中心に協力者を増やす、②湖田を引き込み、主張と周囲の護衛を固める、③湖田以外に「ダークバルタンは航行機を墜としていない」という証拠を集める
 という作戦を進める。

・特錬隊員になれる可能性がある浦菱と佐納は、「ダークバルタン殲滅作戦」妨害・情報共有を要求された
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