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前回のあらすじ
浦菱達が取る作戦の概要が伝えられた。それは「昨年のアペヌイ大怪災で出撃したS4隊員に協力を仰ぐ・湖田永晴の主張を通すための準備を進める・ダークバルタン無実説の証拠を集める」というものだった。
しかし作戦の懸念点となるのは、鹿津宮達が準備を整えるより前にS4がダーク殲滅作戦に取りかかってしまうことである。開始を少しでも遅らせるために、作戦の妨害・あるいは情報共有が必要になる。
鹿津宮はその役割を、浦菱と佐納が担うよう伝えた。
「お前ら、それやれ」
S4のダークバルタン殲滅計画を進めるわけにはいかない。歯止めをかける必要がある。そのための妨害・情報収集を、あろうことか浦菱と
ダーク殲滅計画に従事するのは特錬隊員だ。S4隊員で、かつ特錬になれる可能性がある浦菱と佐納が適任。というよりも、ふたりしかいない。
予想はできていた要求だが、動揺を隠せない。
「あんた、何、言って」
「お前らならいけるだろ、試験に受かってればだが。というかお前らしかできる奴がいねえ」
「だからって」
先ほど鹿津宮とクイロは言った。作戦の進行に歯止めをかける。破壊工作をする。S4が策定した方針に、真っ向から反対する姿勢だ。いや、反対よりもひどい。やろうとしているのは特錬の地位を利用し、内側から情報漏洩に加担するスパイ行為だ。
「私たちに、S4を裏切れって言ってんの?」
「厳しい要求だってことはわかってるよ。だがそもそも今のお前らにとって、S4は信頼のおける組織なのか?」
「どういうことよ」
「特錬隊員選抜試験を受ける対象の順位は、恣意的に変動させられていた。佐納、お前は結果的に繰り上がった方だが、それを望んでたか?」
佐納が凍えるように肩幅を狭くした。
「それは……」
「望んでなかったんだろ。見方によっちゃ一番の被害者だ。そんなことをした目的はいまだ定かじゃないが、S4は順位の変動を平気でやってのけた。お前だけじゃねえ、
「
クイロは、斎場で交戦した二名の人間の名前を挙げた。
「あの二人は、円盤生物シルバーブルーメの能力を応用した装備を用いていました。怪獣能力の応用……S4が用いている、
「ミクソメいわく『付け焼き刃』の能力、つまりはMAの劣化版にみえたらしい。だが劣化版とはいえ、S4と白銀たちの組織に何らかの繋がりがあったことは想像できる」
首を絞められているような圧迫感に、冷や汗が出た。隣の佐納も、色を失っている。
「何も、S4全部が真っ黒だとはいわねえ。だがその全てが信用に足る集団だとも思えねえんだ」
「おふたりとも、誇りを持って職務に当たっていたんだと思います。だからこそ今は、己の信じる正しさを貫いてはくれませんか」
目の前にいるふたりの言葉は、正しいと思う。
だからこそ、目を閉じてしまった。耳も塞ぎたかった。
佐納の隊員順位の変動を知ったとき、激しく怒り狂った。病院でなければ近くのものを蹴飛ばし、やり場のない怒りを叫んでいたかもしれない。あの一見を考えれば不信感は拭えない。鹿津宮とクイロが明確な言葉にしたからこそ、その不信感と向き合わなくてはいけない。
だが、怖い。S4という大組織に背くことが。背いた結果、自分たちの行いが正しくても間違っていても、後悔をしてしまう気がした。どうしてこちらを選んだのだろう、と。
浦菱の迷いを汲んでか、しばしの沈黙を挟んだ後、鹿津宮が口を開いた。
「俺達は協力を打診する立場だから、お前らが首を縦に振るような話をさせてもらう。仮にシルバーバルタンの目論見通りS4が動いて、ダークを殲滅した場合の想定についてだ」
「おそらく、以前佐納さんがおっしゃったことと同様のケースが予想されます」
クイロが続ける。
「すなわち、侵略の選択肢に地球が加わる、という事態です。シルバーバルタンの動きを考えれば、彼らの
「それに、例の墜落した航行機には、メトロン星人との渉外を担当した政府の役員も乗ってた。シルバーバルタンが航行機を墜とした目的は、地球とメトロン星の癒着を妨害することにあったって線もある」
この話は以前病室で聞いていた。
「そもそも日本政府はどうしてシルバーと協力する方針を固めたのか。最初に考えられるのはバルタン星人と協力関係になるため、バルタン星という強い後ろ盾を確保するっていう目的だ。けど、バルタンっつーのはウルトラマンがいた時代、何度も地球侵略を試みてる」
「……たしかに。識別名『初代』から『
ウルトラマンの情報に詳しい佐納が、鹿津宮の論を補強した。
「向こうからの協力要請を政府がすんなり受け入れたのは不自然だ。これは地球側にメリットがある、という理由だけじゃない。受け入れざるを得ない状況だろうな」
「断ったら後が怖い、ってこと?」
クイロが首肯する。
力関係が優位な者が、劣位な者に対して協力を提案する。だが劣位な者にとって、それは本当に提案だろうか。仮に断れば、ダークに向ける敵意がそのまま地球に向きかねない。
地球に突きつけられたのは、提案というよりも命令に近かった。
「地球はシルバーバルタンに逆らえるほどの力はない。今回の件がきっかけて友好な関係を結べるか、奴らの要求がエスカレートして地球の形見が狭くなるか。今のところ予想もつかねえが、少なくとも地球はイニシアチブを握ってる側じゃない」
地球という星の脆弱さを思い知らされる。
ウルトラマンがいた大昔の時代、その時から、外星人はすでに宇宙航行技術を有しており、地球の土地や人間を奪うために侵略を行ってきたのだ。地球と外惑星の技術格差は、赤ん坊と大人よりも開いていただろう。
そこから長いと時を経た現代、地球人も宇宙の星々まで足を伸ばせるようになったものの、同じ時間が経過していることを忘れてはならない。相対的な強さが、がらりと変動するものか。
胃に鉛が沈んだ気がした。立ち上がろうとする気力すら奪われていく。
「異星人の侵略。ここから想定できる最悪のシナリオは……さしずめピリカ大撤退の再現ってとこか」
その単語で、脳が揺さぶられた。
ピリカ大撤退。今から120年以上前に起きた怪獣災害だ。浦菱はもちろん、当時をリアルタイムで経験した人間は他界しているだろう。それでも、浦菱の脳裏に強烈な響きをもたらしたのは、ピリカ大撤退が『人類の外惑星進出後で最悪の怪獣災害』と言われているためだった。
123年前、新しく進出する外惑星として、熱帯雨林のような環境が多く広がる『惑星ピリカ』の開発が進められていた。開発はほぼ最終段階に至っており、居住区と環境維持装置《リカバーネット》の設置も完了。当時は今後の永続的な滞在を見据えた、長期の「試験滞在期間」であった。複数の国家から、ピリカに試験的に居住したい者を募り、2~3年の期間で実際に生活してもらうというプログラムの最中であった。
これはレラトーニやモシリスなど、これまで進出してきた惑星でも行われてきた事業であり、本格的な居住の前にした最終プロセスである。ピリカには国家を隔てず、様々な人種が入り乱れる居住区域が形成され、人間の生活における支障はないかの確認と同時に、開発事業に従事してもらうことで更なる生活の基盤を固めていた。その1万4056人の中には、日本人も多く含まれている。
ピリカ大撤退は、その最中に起こった。大量かつ多種多様な怪獣が突如として居住区を包囲。人々の住む街へと侵攻し、芽吹き始めていた人類の希望を、そこで息づいていた命ごと踏み荒らした。
死者・行方不明者の数は、合わせて1万4056人。当時ピリカにいた全ての地球人が帰らぬ人となった、最悪以外の評価を許さぬ大災害である。文字通り人類はこの星から撤退し、壊滅的な状況ゆえに再度進出する計画も生まれなかった。
この大怪災で特筆すべき点は2つ。一つは、怪獣の出現・及び侵攻の足並みが揃っていたため、外星人による意図的な侵略である可能性が高いということ。もっとも、何星人かまでは現代に至るまで特定できていない。
二つ目は、この戦いにおいて、『ウルトラマン』の存在が確認されていること。人類が公式に観測した最後のウルトラマンであり、彼は侵攻した巨大怪獣の群れを相手に立ち向かった。凄絶な戦闘の後、全ての怪獣を葬り去ったという記録が残っている。だが、ウルトラマンの力をもってしても、地球人を救うことは叶わなかった事例でもある。
進歩を続けてきた地球人の外惑星開発に、大きな染みを作った災害。浦菱は、100年経った現在も組まれるメモリアル特番の内容を思い出した。腕と背中に鳥肌が浮く。
「また……ピリカ大撤退みたいなことが起きる……?」
佐納のほとんど吐息のような問いに対し、「そうだ」と答えた鹿津宮の声は揺るぎない。
外星人に地球が狙われる。それは絶望のシナリオだ。星人は発達した知能と明確な意思をもって侵略を行う。それがどれほどの被害になるか。どんな手段を用いて行われ、どうすれば防ぐことができるか。各国の防衛機構は決して対策を怠っていない。けれども、人類が絞り出す知恵が常に通用するとは限らないだろう。無数の人間が研鑽を繰り返し、無数に積み重ねた成果を、まるで小石を除けるように蹴飛ばされたとしたら。
振り返れば、シルバーバルタンだけではない。
怪獣墓場で佐納と共に戦った2体目のドラコ。体色が赤く変化し、刃を飛ばすようになっていた。あの個体には、1体目の通常ドラコと同じ右足付け根の部分に傷があった。あのドラコは同一個体。ならばドラコはどうして進化した?EX進化のように、外部の環境の変化で変態を遂げたのか。
いや、あれが外星人による意図的な改造だったとしたら。
佐納や殻島の父が出撃したアペヌイの大怪災。毒ガスを攻撃手段として有する怪獣が多く確認された。あれはまだ、自然発生によるものだと確定していない。もしも、何者かの星人が統率していたとしたら。
怪獣の群れが引き起こした災害ではなく、『侵攻』だったとしたら。
浦菱は両の手の平に目線を落とした。手汗が滲んだ手の平が弱々しく見えた。幼い子どもの手のようだった。
「星征予想は……外れたはずだったのに……」
人類同士が外惑星の資源を巡って争い、自ら破滅へと進んでいくという予想のことだ。だがその道は回避したはずだった。そしてその道を回避したのは、まぎれもなく人類の功績だった。
平和だと思っていた。平和そのものではなくとも、近い位置に根を張っていると思っていた。
けれど、平和はもう地球人の箱庭で済む問題ではないらしい。
地球の外からの敵意が、それによって地球の中で生まれる悪意が、この世界を脅かしている。
鹿津宮は一瞬、こちらに寄り添うような表情を見せたが、すぐに引き締めた。
「外星人に狙われるってのは、そういうことなんだろうな」
「あくまで予測です。しかし、予測がある以上それを避けるために私たちは動かなくてはならない」
クイロは言い切ったが、やがて迷い事があるかのように頭を抱えた。
「……何が正解なのかわかりません。もしかしたら、シルバーバルタンの要求を飲んだ方が、地球の平和は保証されるのかもしれません。ダーク討伐の嚆矢として使われてしまいますが……強力な星人の庇護下に置いてもらえる。けれど」
「それは正しくない」
浦菱は、ほとんど反射で答えていた。
たとえ正解の可能性があっても、選ぶことが正しさに反する選択肢というものは存在する。
「そうだよね、クイロ」
「……ええ」
「そして、正しくないってことを知ってるのは」
佐納の方に顔を傾けた。彼女もまた、こちらを見ている。縮こまった肩に、恐れと不安が乗っていた。けれども、浦菱を見つめる目はいつもの彼女の眼だ。光に憧れ、力強さに思いを馳せる、佐納奏の眼。
「私たちだけ、なんだよね」
「……うん」
「お前らもう腹決まったのか」
鹿津宮が対面で意外そうに口を開けた。
「こんな話しといてなんだけどよ、特錬隊員になって作戦を止めるって計画、お前らが特錬隊員になれなきゃ進まねえだろ。合格発表日まで待てよ」
「いや、正しくないとか偉そうなこと言ったけど、まだ超迷ってるよ。でも、できれば今日決めたい」
「だから発表まで」
「クイロ」
ペガッサ星人の突き出した目と視線が交わる。
「会う日を今日に指定したのは私だった。どうしてかわかる?」
「いえ……」
「今年の特錬試験、今日が合格発表日なの」
鹿津宮とクイロの瞳が、面白いほどにきゅっと縮んだ。
「な……」
「特錬隊員に受かってるかどうかが、計画に関わってるってなんとなく予想できた。なら、合否が判明する日に会って話を聞いた方がスムーズでしょ」
「じゃあもう、結果は知ってるのかよ」
「まだね。発表は今日の19時半に通知が来ることになってる」
部屋の時計に、全員の視線が注がれた。
「あと、3分だと」
86話と同時に番外編を投稿しています。
本編の内容とは絡まないため、読んでも読まなくてもいいやつですが、読んだり感想いただけたりすると非常に嬉しいです。
よければご一読を。