怪獣バスターズ 星征大乱   作:雪晒

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一度投稿方法をミスしてしまったため、30分ずらして再度投稿しました。
見てしまった方いたら申し訳ありませんでした。

〜〜〜
いくつか新規キャラクターの名前が登場しますが、全然覚えなくて大丈夫です。でも覚えてくれたらそれはそれで嬉しいやつです!

前回のあらすじ
 S4によりダークバルタンが攻撃される事態を防ぐため、浦菱と佐納は特錬隊員の地位を利用しその情報を共有、ならびに他の隊員に働きかけ、ダークバルタン殲滅作戦への疑惑を訴える計画を考えた。
 そのための人脈が難点かと思われたが、浦菱は「シュウキョウ」という制度があったことを思い出す。


第88話 シュウキョウ

「シュウキョウだ……」

 

「え?」

 

(カナデ)!シュウキョウ!シュウキョウ入ればいけるかも!」

 

 浦菱(ウラビシ)佐納(サノウ)の肩を掴んで揺さぶった。思い出したのだ。S4のダークバルタン殲滅計画に干渉するきっかけになるかもしれない制度。それが『シュウキョウ』だ。

 うまく飲み込めていない佐納は、揺られるままに瞼を上下させる。

 

「え、ええっと(ユイ)ちゃん。その、別に理解がないわけじゃないんだけど、私はそんな敬虔じゃないっていうか……実家でも、クリスマスツリー飾ったまま鏡餅置いちゃうような緩さだったし」

 

「ちゃんと説明してやれ浦菱」

 

 鹿津宮(カツミヤ)があきれ顔で佐納を指した。

 

「俺もよくわかってねえが、佐納が盛大に勘違いしてるってのはわかる」

 

「違うよ奏!シュウキョウって信仰するほうじゃない。特錬隊員の集中教練制度(しゅうちゅうきょうれんせいど)!」

 

 その正式名称に、佐納は遅れて「あ~!」と反応した。

 

「一体何です?その集中教練制度というのは」

 

 クイロが尋ねる。鹿津宮も頭の上に疑問符が浮いている表情だ。

 

「ざっくり言うと、特錬隊員限定の特別訓練的なやつね。希望者は、特錬の中でも特に優秀な人の下について戦いのことを教わったり、稽古をつけてもらえたりする。先生と生徒みたいな感じになるね」

 

「『先生』は特錬のトップ10……すなわち、私たちは10位から1位の人うち誰かひとりを選んで、その人から学ぶことが出来るんです。受講は必須ではないんですけどね」

 

「特錬は階級と関連しないってさっき言ったけど、トップ10の隊員なんてどう考えてもダーク殲滅作戦の主力でしょ。その人たちとお近づきになれる、ほぼ唯一のチャンスよ」

 

「おいおい――」

 

 鹿津宮の顔に薄い喜色が乗った。

 

「忘れんなよんな大事なこと。使わない選択肢はねえだろ」

 

「ですが問題は、誰を師事するかということですよね」

 

 クイロは努めて冷静だったが、集強に入るという路線には賛成のようだ。

 

「10人、と言っていましたが、伝手のある方などは」

 

「正直、ないです。特錬トップ層なんて雲の上の存在ですから」

 

 佐納は首を横に振った。

 伝手。浦菱の頭には、ある一人の人物が浮かんでいた。だが、彼は。

 

「……10人全員が集強を許可しているわけでもなかったよね」

 

「あ、そうだった。ええっとたしか……」

 

 佐納は眉間を指でぐりぐりと押す。

 

「1位の進堂(シンドウ)さん、4位の日狩(ヒカリ)さんはこの制度に参加していなかったような」

 

「早速1位脱落かよ」

 

「あんま後進に興味ないんでしょ。日狩さんなんて、集強はおろか一切の情報を聞かないのよね。写真すら見たことない。ただずっと4位に君臨してて、強いって噂だけが流れてる。それから、10位の五穀長官も登録してない。唯一長官と特錬を兼任してる人だけど、集強までは手が回らなかったかな」

 

「あとは6位の(ヒガシ)さんも除外した方がよさそうですね。制度に登録はしてるみたいなんですが、真面目にやる気がないと噂で聞きます。密接にはなれないかも」

 

 残りは6人。ここから1人を選ぶ。

 

「特錬隊員なんて俺も詳しく知らねえな。女優まがいのことやってる奴と、有名な配信者がいただろ。どっちも女で」

 

「女優を兼任してるのは3位の大古(オオフル)さん。ネットに動画をアップしてるのは7位の阿須(アス)さんですね」

 

「そもそもなんでこいつらバリバリ別分野で活躍してるんだよ、公務員だろ」

 

「あくまでS4の業務を損なわない範囲に限られるわよ。報酬だって防衛省が認可した分だけだから雀の涙だろうし」

 

 よくやるわ、と鹿津宮は興味がなさそうにいう。

 

 ふたりのように芸能活動する者も、通常の芸能事務所には入れない。本籍がS4――防衛省に置かれているためだ。こうした兼業を希望する特錬隊員の活躍の場を確保するのは防衛省管轄の独立行政法人だ。特錬隊員の効率的な運用により怪獣討伐業務の理解促進・啓発を図るという目的に立つ。

 

 大古が出演するCMの影響でウルトラサイダーが公的機関であるS4に多く入荷するが、この購入取引にも割引は何ら適用されない。贈収賄や談合であると糾弾されるような要素は廃した関係性だ。

 ただ、隊員がCMに出演中ということ、S4がウルトラマンと同様の『怪獣を討伐し人々を守る』という職務を担っている都合上、ウルトラサイダーの割合を増やさざるをえないのだ。最近は麦茶とスポーツドリンクの枠まで脅かし始めた。勘弁してほしい。

 

「正直、この2人も除外かな。知名度が高い分、特錬隊員の中でもこの2人の集強を希望する人は多い。確実にこのふたりの下に付けるかわからないし、付けたとしても多忙だからいまいちお近づきになれない」

 

 クイロは集宮のスマホを借りて操作し「本当ですね」と呟く。

 

「阿須さんのチャンネルを覗いたら、集強は動画を配信する形式でやっているみたいです。この分だと大古さんも似たような方法かもしれません」

 

「やる気あんのかこいつら」

 

「集強は希望者のみが参加する訓練で、義務じゃないからね。特錬全体の水準アップとか、特錬内部でのつながりを強固に、みたいな名目で進められてるけど、真面目に捉えてる人はそんな多くない。トップ10の人たちは特にね。やりたい人がやりたいようにやってる」

 

「だとすると5位の寺塩(テラシオ)さんもアウトですね。外部で活動してる方じゃないですが、S4隊員の中では優秀な指導者として名前が知れてるので、数年前から動画形式に切り替わったらしいです」

 

 ダーク殲滅作戦を踏みとどまらせるには、柱となる隊員に直接作戦の是非を問うのが有効だろう。しかしそのためには、浦菱・佐納を信用させる必要がある。配信形式だと関係深化は期待できない。

 

 決め方はほぼ消去法となった。

 

「8位武蔵川(ムサシガワ)さん!この人はどうかな。縁がなくもないっていうか」

 

「私たちがモシリスで殺処分したネロンガは、元々この人の研究で管理されていたんだっけ。あまり人気のある人ではないと思うから、倍率は低いはずだけど」

 

「……いえ、武蔵川さんは避けましょう」

 

 慎重な意見を述べたのはクイロだ。

 

「この方は巨大怪獣の生体利用について研究されてるみたいですが、彼女関連のニュースを調べると『アシル統括長官の藤ケ崎(フジガサキ)氏と新たに共同研究を始めた』というものがあります」

 

「なるほど、S4上層部と繋がりがあるってわけか。たしかに怖いな」

 

「え、なんで?」

 

 浦菱は首を傾げた。上層部はダークバルタン殲滅作戦に口を挟む権限がある。そこと繋がりがあるのなら、疑義を申し立てるのに都合がよさそうだが。

 

「むしろ好都合じゃないの?ダーク殲滅を止められるかも」

 

「さっきS4と白銀のいた組織の繋がりがどっかにあるって話をしたろ。MAの技術を流用出来るとすれば技術関連の上層部だ。この藤ケ崎って長官がもし『ダーク犯人説』を押し通すつもりなら、お前ら目付けられるぞ」

 

「ああなるほど。……納得はしたけど、わっがままねあんた」

 

「お前らの安全も考えてんだ。理想は集強の人気がなくて、上層部との強い繋がりがない奴。ほら探せ」

 

 簡単に言ってくれる。残りはもう2人しかいない。

 

「9位の高宮(タカミヤ)さん。この人もモシリスが怪獣に包囲されたとき援護してくれたみたいね。人気はまずまずだし対面制だけど……最近お子さん生まれて、任務の方もなかなか顔出せてないみたい。集強は厳しそう」

 

「もう一人しかいないですね」

 

 クイロが肩を落として呟く。

 

「残っているのは2位の方だけですが、順位が高ければ制度の人気も高いでしょう。そう簡単には入門できませんよね?」

 

「……いや、そんなこともない、と思う」

 

「そうなんですか?」

 

「ていうかむしろ、人気ゼロかも」

 

 困惑ゆえか、クイロの目は上を向く。「そもそも、どうして最後まで2位の隊員を挙げなかったんだ」と鹿津宮も尋ねた。

 

「特錬2位の隊員、暮時就一(クレトキシュウイチ)さんにはある噂がある。曰く、『集強の訓練内容が地獄』」

 

「地獄……?」

 

「とんでもないスパルタって噂が広まってるんです」

 

 S4における訓練というのは、単なる業務の一環である。正隊員となった者は、基礎体力訓練・武器を使用した戦技訓練・対巨大怪獣シミュレート訓練などが、個々の階級や配属に割り振られる。その内容は一般人からすれば過酷と感じる内容であるものの、日頃怪獣と戦い成果を上げるS4隊員にとっては別段苦痛を伴うものではない。

 

 例外的に、正隊員になる前の教育期間においては重厚な訓練内容を耐え抜くことが求められる。武器と防具の扱い・外惑星とそこに生息する生物の知識・対怪獣戦闘における精神強化などが上記に加わり、内容は正隊員よりも濃密になる。

 だが逆に言ってしまえば、訓練時代を過ぎれば「山を越えた」も同然ということだ。そもそも教育期間の趣旨としては、新人をふるいにかけ、S4隊員として職務に従事するための最低限の能力を培うことにある。正隊員に昇格後は、各々の配属や職務において必要となる技能を効率よく身につける段階に入り、世間一般で言う「しごき」のような目には遭わない。

 

 が、暮時就一は違う。

 

「暮時さんの下についた場合、怪獣討伐に関するあらゆる戦闘技能を叩き込まれるみたい……」

 

「その教えの中で、不足している身体能力も底上げを試みるらしく、それが非常に……」

 

 二人揃って声が尻すぼみになる。鹿津宮は他人事だと思ってけらけらと笑った。

 

「口コミがあったら星1評価が大量につきそうな奴だな」

 

「いえ、必ずしも教育の仕方が悪いわけじゃないと思うんです。むしろ真面目で、隊員として活躍したいと心から願う人にとってはうってつけの方じゃないでしょうか」

 

「残念なのは、集強にそこまで成長を見込んでる人がいない点かしらね。さっきも言ったように、集強は希望者のみの制度だし、やり方もトップ10の隊員に一任されてる。能力の成長促進に関しては特錬全体の研修や合同訓練がたまに行われてるし、それで十分っちゃ十分」

 

「そもそもなんでこんな制度があんだよ」

 

「トップ10のノウハウ継承、みたいな側面はあるかもね。10位から上の人はここ3年くらいほとんど面子が変わってないの」

 

 特錬隊員内においても隊員ランクの変動は激しいのだが、トップ10はほぼ不動と言ってよかった。

 

「全体の訓練では指示できない細かな技術や研究成果を、『生徒』の隊員が自分で選んだ精鋭から教わることができる。逆に言えばその自由さと気軽さが集強の売りだから、わざわざスパルタの門を叩く人は多くないのよね、多分」

 

「大古さんや阿須さんの熱烈なファンは、『彼女たちの集強を受けるために特錬目指す!』って人もいると思うし、自由さが売りってのはたしかに唯ちゃんの言う通りかも」

 

 特錬はいわば特権階級。注目を浴び、部隊の編成も融通がきく。隊員業務以外の活動も申請が通れば可能になるし、憧れの人物に教えを請うこともできる。

 

 暮時の集強は、そうした自由とは遠く離れた位置にあるイメージだった。

 しかし、消去法ならば暮時以上に適した人物がいない。

 

「ちょうど好都合な人だとは思う。不人気な隊員であれば、少なくとも同輩の特錬隊員にはダーク殲滅の妨害を察知されない。暮時さんは上層部と強い繋がりがあるようにも思えないし、キツいって噂が立つからには親身になって教えてくれるんじゃないかな。距離が近ければ私たちのことを信用して貰えて、ダーク殲滅作戦を止めるよう説得がしやすくなる。それに……唯一私にとって縁がある人なの」

 

「ええっ」

 

「マジかい」

 

 クイロと鹿津宮が頓狂な声を上げた。

 

「さっき話した、モシリスで起きたバルタンの襲撃……そこで私だけ助かった理由は、暮時さんに救われたから」

 

 野笠と篠山が倒れ、殻島とバルタン星人も消えた後、浦菱は気を失い、巨大怪獣が迫る砂漠に取り残された。その窮地から救い出したのが、他でもない暮時だった。文字通りの意味で命の恩人だ。

 

「もっとも、向こうが覚えてるかわからないから、縁なんていうのもおこがましいけど。でも、暮時さんの集強を選ぶ価値はあると思う。何より……私たちが求めてるものも手に入る」

 

 浦菱は手の平に目線を落とした。強く握る。拳は小刻みに震えた。

 

「暮時さんの下につけば、きっと強くなれる」

 

 作戦に介入する腹づもりとはいえ、当然S4の立場は継続する。職務もいつも通りだ。その中で、特錬2位の男に教えを乞うことができるのだ。他の誰より成長が期待できる。

 

「ねえ、どうかな奏――」

 

 顔を上げ、はっとした。佐納もまた握り拳を作り、浦菱の方へ向けている。

 

「キツいから嫌だ、なんて言わないよ。どこまでだって一緒に行く」

 

 この力強い返答も、ある程度予測できていた。その上で、どこまでだって一緒に、という響きが胸を満たす。

 浦菱は握った拳を、佐納の拳に打ち当てた。

 

「決まり、でしょうか」

 

「ええ」

 

 クイロの問いに頷く。

 

「私たちのターゲットは、暮時就一」

 

 

 

 

 

 

 

 

芳治21年 12月某日 水の惑星『ワッカ』第4調査地

 

 

 踏みしめた土には豊かな柔らかさがあった。星空の下で、夜露が背の低い草を濡らしている。すぐそばに清流が流れているためか、空気の中にも豊かな湿気を感じた。潮の香りも混じっている。この星特有の大気だ。

 岩に遮られて見えないが、すぐそばには海が広がっているためその匂いだろう。

 深い紺の夜空と、散らばる満天の星を、清流の水面が歪めて映す。からからと流れの音が立つ川沿いは平坦だった。上流へと遡る小さな滝に合わせて段丘が形成されているが、それもまた一段ごとに広くなだらかだ。

 

 からから、に混じって異質な音が響いた。ずしん、という重低音。何か大きく重いものを地面に打ち付ける音。

 暮時就一(クレトキシュウイチ)はそれを聞いた。

 

 ずしん。さらに大きい音がすぐ背後で。振り返り、見上げる。

 

〈ミギィイイイイイイイイイイイ!!〉

 

 今度はさらに異様な音。何かの咆吼だった。正体は、今暮時が見上げる奇怪な巨体。地上40メートルにもなるだろうか。頭部というよりも『目』そのものというべきだ。その巨大な目を支える胴、底から伸びる太い2本足と側根を思わせる細い腕。手や足、胴と『目』から生える角にもそれぞれ目がついている。一つ一つに個別の意思があるかのように、せわしなく瞳が動く。

 

 肉体の形質はまさしく奇獣ガンQだったが、従来の個体とは大きく異なる点がある。

 

 色だ。この個体は、通常の赤紫の体色ではない。清流を掬い上げたような淡い青。それでいて、滴る水滴は粘性を帯びる。

 

 奇獣ガンQ(水)。惑星ワッカのみに現れる、ガンQの特殊変異個体。ずしんという音は、こいつが地面を踏みしめる音だ。

 

〈ミギュイッ!〉

 

 血走った巨大な目はこちらを捉える。

 

 短く息を吸う。湿った、しかし清らかな空気が流れ込んできた。

 暮時は、背負っていたバズーカを肩に担いだ。

 

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