怪獣バスターズ 星征大乱   作:雪晒

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前回のあらすじ
 
 S4が主導する「ダークバルタン殲滅作戦」。それを遅延させるためには、作戦の妨害・あるいは情報共有が必要になる。
 より効果的なのは、作戦の要となる精鋭「特錬隊員」のトップ層に、作戦に対する疑義を申し出ることだった。浦菱と佐納が狙うのは、全体で2位の実力を誇る暮時就一。暮時の下で実戦教育を受ける集中教練制度(通称シュウキョウ)に参加し、彼を利用する計画を立てた。
 一方、暮時は異なる惑星で巨大怪獣と対峙しており――。


第89話 始まりを待て

 直径だけで横幅15メートルはあろうかという巨大な目を日本の足で支える巨体。

 その奇獣ガンQは、通常の個体とは異なる澄んだ水色の体をしていた。

 奇獣ガンQ(水)。惑星ワッカのみに現れる、ガンQの特殊変異個体だ。

 

 対峙するは、暮時就一(クレトキシュウイチ)。このガンQを討伐するために、惑星ワッカの調査地に駆り出されていた。

 

〈ミギュイッ!〉

 

 ガンQが半身をよじると同時に右の触手を振りかぶった。先ほどまで垂れ下がっていた場所に残像が残る。

 

――速い。 

 

 暮時は再度地面を踏みしめた。後方に跳んで、鞭のように地面を打った触手を回避する。目で追うのがやっとの速さの一撃は、地面を深いところまで裂いた。

 攻撃が外れたことに怒ったのか、ガンQは腰を反らせて、頭を勢いよく振るった。巨大な目玉からは、体色と同じ水色の球が発射される。速度もさることながら、大きさもガンQの瞳と同じ巨大なサイズだ。

 

 暮時は再び回避。地面に着弾すると、ボール状になっていた水分が破裂してあたりに飛び散った。

 

 通常のガンQであれば、この行動では爆発する怪光弾を発射してくる。今対峙しているガンQ(水)が放つのは水の球だ。ガンQ(水)の方が攻撃の影響は軽微であり、ワッカに赴任される隊員の何人かはこの惑星のガンQを見くびることが多い。

 そういう人間から痛い目を見る。巨大な玉に圧縮された水分が弾丸のように飛んでくるのだ。被弾すれば、いかにS4の防具を装着していても深手を負う。

 

 暮時は水の球が落ちた場所を見る。爆発が起きたかのように、土がクレーター状に抉れていた。

 

 ガンQの相手は苦手だ。行動パターンが読みづらく、事前に対策を頭に叩き込んでも参考にならないことがままある。

 

 出し抜けに、ガンQが消えた。空高く跳んだのだ。直後、楕円の影が暮時の立ち位置を中心に広がる。

 

――ここに降ってくる。

 

 前転で大きく移動し回避。すぐに衝撃が地面を走った。先ほどから響くずしんずしんという音はこれだ。振り向きざまにバズーカを放つ。飛び出した光球は遅いが、標的を追尾する性能があった。避けようとするガンQにつきまとい、その足下で爆ぜる。

 

〈ギュギ!!?〉

 

 ガンQが片膝を突く。今ならやれそうだ。

 

MA(メテオールアーツ)リンクは、使わなくてもよさそうだな」

 

 傲りではない。戦法の追究のためだ。怪獣災害などの非常時は、長時間の作戦を強いられる場合がある。最初からMAを使用してしまうと、もうその後は使えない。疲労も溜まる。そういった状況を想定しての今日の戦い方だ。

 反面、人命救助の必要性や環境汚染を引き起こす怪獣がいる場合は速やかな討伐が求められる。この場合は即今MAを使うべきだ。切り札に頼りすぎない戦術と、頼るタイミングを見極める判断力は、日頃の任務で積み重ねていくものだと暮時は考えている。常に非常時を念頭に置いて、戦い方を弾き出していた。

 

 立ち上がろうとするガンQの目の前で跳び上がり、揺れる頭部にバズーカを叩きつける。

 

〈ギュゴッッ!?〉

 

 ガンQは足にバズーカを受けた時よりも痛そうな声を上げ、地面に倒れ込んだ。

 

 無論本来の用途ではないが、暮時のバズーカは怪獣の素材を用いて製造された特注品だ。砲身を近接武器として利用しても傷一つつかない。

 何よりこの戦いからならエネルギーを節約できる。使うべき時に全てのエネルギーを発射できるのだ。

 

 地面に伏せ、隙を晒すガンQにバズーカを構える。トリガーと一緒に、砲身側面のグリップも引き込んだ。球は発射されず、代わりに砲口に眩い光が集約されていく。大きく膨れ上がった光は、光弾ではなく光線としてガンQに遅いかかった。

 

〈ミッミイイイイイイイイイイイ!!!〉

 

 分厚い光の奔流に焼かれる目玉の怪獣は悲鳴を上げる。余すことなく光線を浴びたガンQは痙攣したかと思うと、遂に爆発。ワッカの夜闇が、一瞬だけ昼間の明かりを取り戻した。

 

 バズーカやライフルを用いた討伐は、やりようによって爆破処理が可能だ。今回は研究部から素材の供与要請も来ていないので問題ない。

 

『周囲に他の巨大怪獣は?』

 

 オペレータに尋ねる。ありませんという反応を受け取ると、暮時は転送可能地点を目指して歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 オペレーターとのブリーフィングを終え、暮時は作戦室を出た。すでに退勤時刻を過ぎている。

 

 ワッカの空彩(ソライロ)市における空彩基地は、海岸線を東に見る海食崖の上に設営されたS4基地だった。ワッカでは多様な水生怪獣が生息し、海からの脅威に備える必要があるため、こうした海沿いに基地が設けられている場合が多い。空彩基地の場合は、東西に延びる海岸線の広い範囲に転移可能エリアを構築すると同時に、海中に探査機と機雷を配置し、万が一の怪獣災害に備えている。

 

 浜から内陸へ抜けると、そこは既に人間の居住区域だ。海沿いを走る道路沿いには民家が軒を連ねている。道路脇には地球のヤシの木に似た樹木が並び小規模な森を形作るが、その隙間からは街並みが見えた。内陸のは駅を中心に栄え、海浜周辺よりも高い建造物が背を比べていた。

 

 暮時が向かうのは基地を出ればすぐに見える建物だ。海沿いを歩いて5分とかからない、S4所有の隊員寮である。

 ここが暮時の仮の住まいだった。ワッカにおいて、暮時は家を持っていない。

 

 特錬隊員には惑星間の移動が多い。細かな援護要請や高難易度ミッションの依頼が入るからだ。無論、隊員にも生活があるため、ほとんどは本配属地から動かない。要請があった場合も短期で引き上げるのだが、暮時は居場所を点々としている。

 緊急の怪獣災害などを除き、要請の諾否もある程度融通が利くのだが、暮時は進んで受ける方だ。ワッカも本配属地ではなく、依頼を済ませた後で事後的に割り当てられたのが隊員寮の個室だった。

 

「相部屋でも構わないんですが」

 

 暮時がそう伝えると、担当の職員は「とんでもない!」と手を振った。

 

「特錬の方ですから。せめて個人部屋を使ってください」

 

 隊員寮の個人部屋は限られている。

 S4隊員は皆、訓練期においては漏れず相部屋での生活だ。正規隊員に上がった後も、個人の部屋が割り当てられるかどうかは階級と家庭状況、そして運次第である。若手は2名から4名の相部屋に入る可能性が高いが、配属地によっては個室の場合もある。

 ワッカにおいては、居住人口が多い分S4隊員の数も多いため相部屋の可能性は高いと思っていたが。

 

「むしろ普通の隊員と同じ扱いしかできなくて申し訳ないくらいです」

 

 職員におべっかを言っている様子はなかったが、裏で「暮時さんと相部屋なんて同じ部屋の隊員が萎縮しちまうだろ」というぼやきも聞こえてしまっていた。

 

(俺は、そんなに威圧感があるだろうか)

 

 寮内の廊下ですれ違う何人かにも会釈をされた。まだ27だ。年齢も階級も上の隊員だって全然いるというのに。

 

 部屋に戻って荷物を置き、スポーツウェアのTシャツに着替えた。15キロほどランニングを行う予定だ。本当は基地内のトレーニングルームを利用したかったが、少し人が多かったので道を走ることにする。

 

 出かけようとしたところでケータイが震えた。

 

『やっほ!暮時お久~』

 

 新しいメッセージが届いている。

 

大古(オオフル)さん」

 

 特錬3位、暮時より1順位下の大古円香(マドカ)からだった。

 

『今月の特錬会議、現地で参加予定だったよね?』

 

 特錬のトップ10、集中教練制度で指導側に回る10名の隊員は、不定期で会議に招集されることがある。今年最後の会議は2週間後、外惑星への渡船場である巨大人工衛星「あさひ95」にて行われることとなっていた。

 惑星間の移動が多い特錬トップの会合では全員が一堂に会することはほとんどなく、大抵はリモートでの参加が許されている。暮時はなるべく現地参加する主義だったが、今回も半数近くは現地に来ないだろう。

 

「ええ、現地参加ですよ」

 

 すぐに返信した。向こうも連絡を寝かせる癖はないようですぐに返事が来る。

 

『お、夜暇?』

 

「はい。空いてます」

 

『じゃ、行っちゃいますか。進堂(シンドウ)も来るって行ってたよ♪』

 

 行っちゃいますか、の後にビールジョッキで乾杯する絵文字がついていた。進堂とは、特錬の順位が1位の男性隊員だ。トップ3はよく集まるというほどでもないが、顔を合わせれば食事に行くくらいには仲がよかった。

 

「ご一緒させていただきます」

 

 そう返信してケータイをポケットに入れた。円香と進堂。やはり会うのは久々だ。

 S4特錬隊員の1位から3位。日本における対怪獣最強戦力が年の瀬、どこかの店で卓を囲む。 

 

 

 

 

――――――――――

――――――――

――――――

――――

――

 

 

 

 

 

 鹿津宮(カツミヤ)とクイロが帰宅した。浦菱(ウラビシ)は空いた紅茶のカップを台所に置く。そういえば、佐納(サノウ)以外の人間を部屋に上げたのは久しぶりだった。新鮮といえば新鮮な経験だったが、来客があることよりも話の内容の方にずっと気を張っていた。

 

 佐納に視線をやる。ちゃぶ台の前に座ってくつろいでいたが、どこか放心したような面持ちだ。これから自分たちがやらねばならないことを考えたら無理もないだろう。

 

「奏、大丈夫?」

 

「へっ?あ、うん!大丈夫……多分」

 

「正直、私も色々不安なことはあるよ。どうする?どこかごはん食べに行く?」

 

「いや、今日はいいかな」

 

 さしもの彼女もそういう気分にはなれないか。

 

「じゃあ、もう一杯お茶飲んでいかない?」

 

「いいの?じゃあ、お言葉に甘えて」

 

「はーい。あ、コーヒーもあるけど」

 

「じゃあ今度はコーヒーもらおうかな」

 

 浦菱は手早く2人分を淹れ、卓へ持っていった。

 

「お疲れ」

 

「お疲れ様、っていっても、話を聞いてただけだけど」

 

「なんか病室の時といい、あいつらドキドキする話ばっかするからねぇ」

 

 言ってコーヒーをすする。今はモシリスの陽が落ちているため、温かい飲み物が美味い。

 

「あ、全然関係ない……わけでもないんだけどさ。奏、ちょっとスマホのメッセージ見せてくれないかな」

 

「え、ええっ?」

 

 急な申し出に、佐納は困惑と恥ずかしさが同居した笑みを向けた。

 

「ど、どうして?」

 

「ゴメン、ちょっと気になることがあってさ。だめかな」

 

「そ、そう、でもいいよ。はい」

 

 交際相手の浮気を疑う女のような行動だが、佐納は許可してくれた。メッセージアプリを開き、並んで画面に目を落とす。

 

「あんがと、……ふ~ん、変な男は付いてないみたいで安心した」

 

「えっ、そのため!?」

 

「冗談」

 

 浦菱は画面をスクロールし、目当ての名前を探す。

 

「あ、いた。この人との会話だけ見させてもらいたいの」

 

「……前原(マエハラ)さんの?」

 

 佐納は訝しげに目を細めた。

 前原要平(ヨウヘイ)。かつて佐納・殻島穰(カラシマミノル)と部隊を組み、アペヌイ大怪災の対応にあたったS4隊員だ。殻島部隊が解散した後は、唐突な配置転換と任務の変更に見舞われ、心身をすり減らしていたと聞いている。

 

 浦菱は、鹿津宮の言葉が引っかかっていたのだ。

 

――前原要平なら、今のところ安全は確保されてる。そいつから佐納の情報を聞き出したからな。

 

 鹿津宮が自身の境遇を語る前のことだ。すなわち、「佐納がアペヌイ大怪災にて出撃した隊員だ」という情報は前原から聞いたはずだ。

 

 であれば、鹿津宮はどうやって前原まで辿り着いたのか。これはおそらく八十川(ヤソガワ)安生(アンジョウ)が発端だ。墜落事故に巻き込まれた彼らは、その後の病院でアペヌイに出撃した隊員と出会った。そこで隊員達の寛解しない病状に疑問を抱く。その違和感を鹿津宮に伝える。鹿津宮は八十川達が出会った隊員の伝手を探り、接触を試みた。

 数人に会うことができれば、同じ部隊や隊員同士のコミュニティを聞き出すことができる。だから前原にも辿り着いた。

 情報のルートとしては八十川・安生→前原→佐納という順序になる。

 

「……もうちょっとだけ見させてね」

 

 佐納と前原のメッセージのやりとりを遡る。頻繁ではないものの、もともと親密だった部隊の仲間ということもあり、定期的に会話が交わされている。

 

 会話は、特錬試験を受ける前の時点まで戻った。

 

「来週の火曜日から1ヶ月間、特錬試験に行ってきます!」と佐納が送っている。

 

『すげ~。あっという間に成長してくなぁ』

 

「殻島さんと前原さんの部隊にいたおかげですm(_ _)m」

 

『いい返事を期待してるよ。前言ってたバディの女の子も一緒?』

 

「はい!頼もしいです!」

 

 会話を見ながら、傍らで佐納が「こういうの見られると恥ずかしいな」と頬を掻く。

 

 この「バディの女の子」というのは、浦菱のことだろう。おそらく前原に浦菱のことを話したのだ。だが、会話を遡っても「新しい部隊でバディを組んだ」という話はしていても、その相手が浦菱という名前であることを伝えていない。

 

「奏さ……前原さんとか殻島さんとの電話で、私の名前を出したりした?」

 

「え?う~ん、殻島さんは隊長が優れなくてほとんど電話できてないんだよね。前原さんとはたまーに話すし、唯ちゃんのことは話題に上がったけど」

 

 佐納はしばし思案して「名前は言ってない気がする」と浦菱に直った。

 

 すなわち、前原は「浦菱唯」のことを知らない。だがそれはおかしいのだ。鹿津宮が佐納に辿り着いたのは前原が発端。しかし前原は浦菱を認識していない。

 

 ならば。

 

 浦菱は思い出す。鹿津宮と初めて会った日の発言。

 

――佐納奏ってのは、どっちだ?

 

 その問いに佐納は手を上げて答えた。そして、2度目に鹿津宮が現れた日。

 

――佐納じゃないほうの人、あんたは……浦菱唯であってるか。

 

 あの時点では「片方が佐納である」ということしか知らなかったはずなのに。

 鹿津宮はどうして、私の名前を知っていた。

 

(……前原さんとはまったく別の隊員から私の名前を聞いた?クイロ達ペガッサ星人を使えば別の隊員コミュニティに聞き込みもできるし)

 

 前髪を毟るようにして握った。「唯ちゃん?」と佐納が心配そうに聞く。

 

(あ、ナースコールの音声が私の名字を呼んでいたか。奏も私を名前で呼んでたし。なら鹿津宮も私個人を特定できる……。でもあの時、たった一度、たった一瞬で?)

 

 鹿津宮もクイロは信頼できる。クイロの適確な指示の下にペガッサ星人が動いてくれなければ、アペヌイ大怪災に出撃した隊員達を保護できない。鹿津宮の穿った視点は、現状を冷静に見極め、冷徹に打破する。

 何より、ふたりには他者に対する興味と慈しみがあった。姉に、甥に、友人に対する強い感情が、彼らを動かす原動力になっている。

 

 鹿津宮とクイロは信頼できる。それは間違いない。

 けれど。

 

 

 

 何かを隠している、ような気がする。




更新遅くなっております。申し訳ありません。

ただあと2話ほどでで3章完結となって予定です。よければお付き合いお願いします。
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