怪獣バスターズ 星征大乱   作:雪晒

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長かった3章ですがようやく完結です!
いつもよりだいぶ文字数多くなってしまいました。ゆっくり楽しんでください。


第91話 何者であっても

 あさひ95内部の廊下は、白地の壁に等間隔で部屋が並んでいた。各惑星に置かれている基地の内部と同様の造りではあるが、部屋と反対方向に目を向けると強化ガラスの窓が並び、その先は闇だ。簡単に覗くことができる宇宙空間の色は、今いる場所が宇宙船の中だと知らしめる。

 並んで歩く浦菱(ウラビシ)佐納(サノウ)を横切る人々は皆、ふたりと同様にS4のスーツを纏っている者が多かった。あさひは外惑星防衛の重要拠点である。全ての惑星の情報をつぶさに収集・集約しており、緊急時にはここから援護部隊が出動する。そういった機能ゆえ、一般人が生活するフロアとは別に、S4をはじめ防衛省関係者が常駐する区画が設けられている。今浦菱が歩いているのもそこだ。

 

 隣を歩く佐納は並んだ部屋に掲げられている番号を不安げに見上げる。

 

「会議室Bー4だったよね、暮時さんとの待ち合わせ」

 

「うん。遅れられないけど、いかんせんここの区画はほとんど入ったことないからなぁ」

 

 先ほど特錬隊員の任命式が終わったため、これから暮時(クレトキ)と会って顔合わせを行う。初めて立ち入るフロアといえど、初日から遅刻するわけにはいかない。部屋番号を指さしながら確認しつつ、目的の小会議室を目指した。

 

「そういえば、髪の毛新鮮だね」

 

 ある程度部屋の配置を理解してきて余裕が出てきたのか、佐納が水を向けた。

 

「仕事中に髪結ってるの見たことないなぁと思って。初めてじゃない?」

 

「ああ、これはね……」

 

 浦菱は襟足の少し上のあたりでまとめた自分の髪に触れた。伸びたとはいっても、もとより結ぶ必要はない程度の長さだったので、短い尻尾のようにちょろっと飛び出ただけだ。

 

 あたりに人通りがないことを確認してから、浦菱は佐納に向く。

 

「私たちはさ、これから特錬になるけど……特錬の役割とは正反対のことを考えるじゃん。ダーク殲滅の妨害と情報漏洩だから……まあスパイっていうか、反逆だよね」

 

「そう、だね」

 

「だからまあ……心機一転てわけじゃないけど、タイプチェンジ?フォームチェンジ的な?」

 

 上手いこと納得を得られる自信がなく、浦菱は肩をすくめて笑って見せた。

 

「単なる思いつきで、深い意味はないんだけどさ。(しか)る時がきたら、このヘアゴムは取るよ」

 

「決意の証みたいな感じなんだ。でもいいと思う。かわいいし、カッコいいよ」

 

「ほんと?ありがとね」

 

 談笑を交わしながら廊下を進み、やがて目的の部屋の前までたどり着いた。直前の会話で緩んだふたりの頬も引き締まる。これから暮時就一に会うのだ。特練の集中教練制度で最も過酷な内容を課す男。そして、浦菱たちの標的。

 暮時がダークバルタンに疑念を抱き、それを上層部に進言してくれるのが理想だ。浦菱たちはそのために暮時の下につく。彼を説得するため。いや、懐柔するためともいえるか。

 

(もし例えば、この世界がゲームだったなら……敵役は私たちなんだろうな)

 

 無意識に扉を睨んでいたが、はっとして表情を戻す。こんな険しい表情では、第一印象最悪だ。

 

「暮時さんまだ来てないと思うけど、中入って待ってようか」

 

「だね。失礼しま――」

 

 扉が自動で横に滑り、並んだ長机と椅子が見える。しかし、てっきり無人だと思っていた室内には男が一人、腰を下ろしてタブレットを操作していた。

 

「く、れ時さ……?」

 

 なんとか余裕をもって辿り着いたと思ったのに。

 

「す、すみません遅れました!」

 

「申し訳ありま」

 

「いや、いい」

 

 慌てて頭を下げる二人だが、暮時は気にしていない様子だった。

 

「時間には間に合ってる。俺が早く来すぎた。掛けてくれ」

 

 机は向かい合うなるように並べられていたため、そこにおずおずと腰掛ける。

 

「改めて、集中教練を担当する暮時だ。今回は二人で全員だが一応点呼する。浦菱(ユイ)

 

「はい」

 

「佐納(カナデ)

 

「は、はい」

 

 浦菱の名前を呼んだとき、一瞬暮時の目に動揺がよぎった気がした。彼は浦菱のことを覚えているのだろうか。モシリスで自ら助け出した女性隊員のことを。

 

「制度の概要はさっきの任命式でも触れられたから繰り返さない。実際に行う訓練の内容とスケジュールだが、俺がどの惑星にいるかにもよる。二人は今モシリスの配属だな」

 

「はい」

 

「わかった。俺の方は明後日にモシリスに入る予定ができたから、その日から始めよう。それと、連絡事項を共有できるようにしてほしいんだが……ふたりのMITTドライバーを登録させてもらっても……いいか?」

 

「それは、もちろん」

 

 淡々と話が進んだ。暮時の口調はアナウンスのように機械的だが、連絡先の登録は少しだけ尻込みをしているようにも見えた。

 

「ありがとう。今後はこちらから連絡する。それで、後は……」

 

 暮時はタブレットを睨んだまま、額に手をやった。

 

「……すまないな。せっかく来てくれた以上何かを話したいと思って数日前から色々考えていたんだが、あまり浮かんでこない上に、言おうと思っていた内容も飛んでしまった。緊張してるのかもしれないな」

 

「はあ」

 

 全部言ったこの人。寡黙な印象を抱いていたが単なる先入観だろうか。

 

「そうだ。受け売りにはなってしまうが、先日俺の先輩が言ってくれたことを伝えておきたい。特錬隊員という立場の特異性とそれがまかり通る理由についてだ。君たちも知っているように、特別錬成隊員というのはS4の組織においても、公に奉仕する職という観点においても非常に特別な立場になっている」

 

 暮時の話を簡単にまとめると、その特殊な立場である理由は「人々の憧れを背負っているから」というものだ。

 

「そして『憧れ』を具体的に指すならば、それはウルトラマンだと先輩は語っていた」

 

「ウルトラマン……」

 

 隣で佐納が背筋を伸ばした。

 

「歴史に刻まれたウルトラマンの活躍を人々は思い起こし、特錬隊員に重ねる。俺達はその期待に応えなくてはならない」

 

 平板だった暮時の言葉は、力強さを含み始めている。

 

「ならば特錬隊員の定義とは、強い隊員ではなく『強くなければいけない隊員』ではないかと俺は考えた」

 

「……たしかに、そうかもしれません」

 

「君たちは厳しい試験を勝ち抜いて特錬隊員と呼ばれるに至った。でもそれは賞賛ではなく……いや賞賛もあるに違いないが、かならず義務と同じだということを覚えておいてほしい。これは何もS4に限ったことではないが」

 

 暮時の言わんとすることはわかった。人の成長には、常に責任が伴う。昨日までの自分を越えた瞬間から、昨日までの自分を下回ることは許されない。登山のように登りと下りがあるわけではなく、ひたすらに斜面を上がり続けるようなものだ。

 わかっている。何だってそうだ。だが特錬という立場になると重圧がのしかかる。

 

――優劣じゃなくて事実を見ろよ。

 

 特錬試験で同じ部隊だったゴウの言葉を思い出した。憧憬に届かない悔いや挫折を任務に反映させてはならない。できることに目を向けろ。そう言われた。だが特錬では、「できること」だけでは足りないのだろう。精鋭と呼ばれるだけの働きを自分に課し、果たさなくてはならない。

 

 目の前の暮時はそういう世界で2位を維持してきたのだ。強い。戦闘力だけでなく、意思も信条も覚悟も。全てを包括する強さが彼を形成する。

 こんな男を説得できるのか?自分たちの言葉に耳を傾けるのか?胸の内で不安が肥えていく。

 

――でも。

 

 特錬は人々の期待に応えなくてはならない。さしあたって、地球の未来のためにダークバルタンを滅するという義務を今は負っている。それを果たすことが強さそのもの。

 ならば、それを止めようとする浦菱は、佐納は弱いのか。真実を追い求めた花梨は、その後に続く鹿津宮とクイロは弱いのか。

 

 違う。絶対に違う。

 

「説教くさくなってしまった。でも言いたいことは言えた気がする」

 

 暮時の刺すような視線がふたりに注がれた。

 

「俺は君たちに強くなってほしい……強くなってもらうぞ」

 

「もちろんです」

 

 浦菱は間髪入れず答える。

 

「私たちはそのために来ました」

 

 

 

 

 

 

 

 

「き、緊張したね」

 

「うん」

 

 暮時との話を終えたふたりは、会議室の扉が閉じた瞬間に深く息をついた。暮時の言葉や態度に厳しさはなく、むしろ物腰は柔らかかった。が、鋭利な目線と特錬2位という肩書きは少なからず圧のようなものを感じてしまう。本人にその気がなかったら申し訳ないが。

 

 ただ、付け入る隙が微塵もないようには見えなかった。

 

「意外と話が面白いっていうか、思ったよりもお喋りな人だったよね」

 

「あ、わかるかも」

 

 歩きながら暮時の印象を深掘りした。

 

「まあ普通の人に比べれば物静かな感じはするけど、結構話しやすくて驚いたな。私なんかアンドロイドみたいなイメージ持ってたから」

 

 浦菱の下した評価に、佐納は吹き出した。

 

「ちょっとわかるかも、雲の上の人だもんね。私たちのこと、信頼してくれるといいんだけど」

 

「ね」

 

 今日の会話だけでは、暮時のひととなりを把握するに至らない。もし鹿津宮(カツミヤ)のような洞察力があれば、短いやりとりでも感触を掴めたのだろうか。

 

(鹿津宮といえば……)

 

 浦菱はふと思い出した。鹿津宮・クイロと話した夜、漠然と感じた違和感。

 

 彼らはまだ何かを隠しているのではないか?

 

 初対面の時点で自分の名前を知っていたことから発露した疑惑だ。しかし、今振り返るとこの疑惑自体が考えすぎだったようにも思う。所属する組織や体制への疑念が、身の回りの人にも飛び火してしまっただけだ。仮に何か隠していたとして、鹿津宮もクイロも意味なく隠すような人物ではない。彼らとは目的を共有しているし、何よりふたりの働きには信頼を置いている。

 だからこそ、疑惑を直接ぶつけるようなことはしていない。そもそも、自室で話した日以来二人とは会っていなかった。やりとりは基本的に個人用のケータイ。鹿津宮はS4に身柄が割れており、追われている状態なので、対面でのやりとりを極力避けている。政府からクイロに対する疑惑は薄れているだろうが、彼もまた異星宥和政策で地球を訪れている珍しい立場だ。頻繁に会えばマークされかねない。

 

「奏さ、この前あいつらから来たメッセージ見た?」

 

「……うん、見たよ」

 

 間を置いて佐納が返答する。

 

「花梨さんが残した『勝算』の内容が、あれなんだよね」

 

 鹿津宮から送られてきた一枚の写真データ。それは細かな折り目だらけの用紙だった。用紙には直筆でこう書かれている。

 

 

 墜落事故のこと本庁に直談判に行った時

 その時に廊下で『サバイバーズリスト』って聞こえた

 話してたのは多分早田(ハヤタ)さんと青船(アオフネ)さん

 重要そうな単語 なんだろう

 

 

 鹿津宮から、この紙は実際に姉の遺灰から取り出したものだと補足があった。

 花梨の遺灰の中にあった。すなわち、花梨は自分の身に迫る危機を感じたため、この紙を耐熱性の容器に入れて飲み込み、火葬の時点で鹿津宮の手に渡るように仕組んだということだ。

 

 おそらく、と浦菱は想像した。花梨は墜落事故調査の過程で直面した異様な状況――八十川たちの証言と乖離する調査報告、死者の中に見るかつての職場の人間、ペガッサ星人からの情報――からダークバルタンの無実を察し、自らの所属元である内閣官房に異議を唱えに行ったのではないか。その後花梨が死亡していることから、異議ははぐらかされてしまったのだろうが、その際偶然「サバイバーズリスト」という単語を耳にした。

 

 何か意味が隠されていると踏んだ花梨はその単語を書き留め、『勝算』になる情報として持っていた。しかし実際には勝算とはなり得ず花梨は殺されている。鹿津宮を追ってきた刺客白銀も、鹿津宮がその単語を知っているとわかった瞬間銃を向けた。やはりこのサバイバーズリストという言葉は重要な、それも政府あるいは内閣官房にとって知られたくない意味を含んでいると考えられる。

 

(早田と青船、それにサバイバーズリスト……一体どんな意味なんだ?生存者のリスト、ってことは墜落事故の生存者って意味かな。いや、奏みたいにアペヌイ大怪災で出撃したS4隊員の生存者って意味も考えられるし)

 

 思考に耽る手前で、ふと足を止めた。足音が付いてきていない。

 振り返ると、やや後ろで奏が俯いていた。

 

「……奏?」

 

「あっ、ごめん。ぼーっとしてた」

 

「大丈夫?」

 

「……私たち、わかんないことだらけだなって思って」

 

 佐納は笑うが、不安が拭い切れているようには見えない。

 

「色んな謎が潜んでて、重大な何かを隠されてる気がして……もちろん途中で降りたりしないよ。怖くても不安でも、そういった気持ちを抱えたまま前に進む覚悟はできてる。今はまだ、って感じだけど」

 

「そう、だよね。たしかに私も、『今はまだ』だ。これから先、想像を絶する困難に直面するかもしれない。そんなサイアクの時も絶対に前に進んでやるって……断言はできないかな。私は、私の願いに奏を無理矢理乗せてる。本当に、ごめん」

 

「やめてよ。私が望んだんだから。でも……私たちはこれから何と出会うんだろうね」

 

 何と、とは。浦菱が首を傾げると、佐納は周囲に人がいないことを確認して向き直った。

 

「唯ちゃんが探してる湖田永晴(コダナガハル)さんは、多分何かを隠してる。出生のことを秘密にしてたし、どうして乗客の中から湖田さんだけがいなくなったのかもわかってない」

 

 佐納の目が下を向いた。

 

「それに、殻島(カラシマ)さんだって」

 

「奏の部隊にいた人?」

 

「ううん。お父さんじゃなくて、殻島勇玖(イサク)さん。唯ちゃんの話によると、殻島さんはEXゴモラと戦っていたんだよね。でも、S4隊員のキャリアがあったわけじゃない普通の職員さんだったんだよね。どうして、そこまで戦えたんだろうって」

 

 佐納の言うとおりだった。殻島は明らかに戦闘能力が逸脱している。いや、戦闘ならまだ運動神経や身体能力で説明がつく。それよりも異質なのは、戦いに向かう心理だ。いくら部隊の人間が危険な目に遭ったからといって、すぐに剣を取って怪獣に突き立てることができるだろうか。

 違和感の正体はそれだ。殻島は戦闘のハードルが低い。彼から「レラトーニでゲスラやレッドキングと戦った」という前例があったとしても、現代日本人として異質だ。

 

 殻島は何を背負っている?何を背負わされている?

 

「もちろん、お世話になった人の隊長さんだから疑ってないよ。でも……ずっと考えるの。湖田さんも殻島さんも、何者なんだろうって」

 

 佐納が顔を上げた。入れ替わるように、今度は浦菱の視線が下がる。

 

「……たしかにね。自分でもがっかりするくらい、二人が何者なのかはわからない。でもね」

 

 意を決して佐納を見る。

 

「私はそれでも会いたいよ。湖田先輩と、殻島にはさ」

 

 笑顔を作ったつもりなのに、なぜか泣きそうになった。

 

「何者であっても、私は会いに行く。もしふたりが私の望むような人物じゃなくても、会うために戦える。会ったら話したいことが山ほどあるから」

 

 佐納が息を飲む。直後に呆れたように微笑んだ。

 

「本当に好きなんだねぇ。でもそうだった。決めたんだったね。やらなきゃ、って思ったことのために進む。世界を救うって」

 

「そーゆーこと」

 

「じゃあさ、もし会えたら一番最初に何を話したいの?」

 

「そりゃもちろん、報告するよ。素敵な友達ができました、って」

 

 ウィンクをしてみせる。ぽかんと口を開けた佐納は、数秒おいて「え、え~」と前髪を流した。

 

「なんか恥ずかしいなぁ。一番は私のことなんて」

 

「あれ、まだ奏のこととは言ってないんだけどな」

 

「今の流れで違うのぉ!?」

 

 あはは、と踵を返すとすぐに佐納が付いてくる。きっと、先ほどはごめんではなくありがとうを言うべきだった。一緒に来てくれて、ありがとうと。

 

 緩んだ頬を引き戻した。これから新しい戦いが始まる。何が待っているかも、どんな結末かも不明だ。それでも進む。ふたりに会うために。

 

 湖田永晴。

 殻島勇玖。

 彼らがいないと、私の世界は救われないから。

 

 

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 鹿津宮杏次(キョウジ)は窓の外を眺めていた。背を競うように並んだ建築物は、おおよそ個性というものが薄い。どれもいわゆるオフィスビルのような造形で、高さがまばらに違うのみ。外壁もほとんどが灰色だ。稀に円柱形のものやレンガ色の外壁をした建造物も見て取れるが、景色に精彩をもたらすには至らない。

 

(惑星アシルって、東京の景色と大して変わんねえんだな)

 

 鹿津宮はペガッサ星人のUFOに同乗し、惑星アシルを訪れていた。無数の異星人が集う宇宙の詰め所のような場所と聞いて色々想像を膨らませていたが、何のことはない。多くのビルと少ない住居が建ち並ぶ、地球の都市そのものだった。むしろ今窓から見えているエリアで言えば、東京の建物よりも統一的だった。外に出れば一瞬で迷子になってしまうだろう。

 

 今いるのは、アシル在住のペガッサ星人に与えられた生活スペースだ。地上14階になる高層ビルの13階。このビルは一棟ごとペガッサ星人の居住場所として割り当てられている。当初は難民のような扱いだったペガッサ星人も、地球への異星宥和政策に参加する、アシル内における業務を受け持るなどの活動から自立性が認められ、正式にアシル内の居住権を得た。下の階ではペガッサ星人と、信頼を得ることができたS4隊員が生活を営んでいる。アペヌイ大怪災で出撃し、その後鹿津宮らを信用してくれた地球人たちだ。数は現時点で20名弱ほど。佐納と面識がある殻島(ミノル)も暮らしている。

 

 鹿津宮は振り返り、室内に目を向ける。数十人のデスクが並べられ、オフィスフロアを形成していても不思議ではないほどの広さだが、あるのは隅に置かれたカウンターテーブルと椅子が2つだけ。椅子の1つには、ペガッサ星人の姿のクイロが腰を下ろしていた。

 

『……本当に、この作戦でいくのか』

 

 若い男の声が響いた。クイロではない。声はカウンターテーブルに置かれた機器から発せられていた。

 その機器は一見すると地球勢のケータイ情報端末のようだが、出回っている物より画面の面積が大きく、厚みもある。ペガッサ星人が主に使用しているものだ。彼らの大きな手ならばちょうど収まるサイズのそれは、誰かと通話を繋いでいた。

 

「もう一回説明した方がいいか?ミクソメさんよ」

 

 ポケットに手を突っ込んで歩み寄る。電話の相手はミクソメだった。ミクソメは、鹿津宮の姉・花梨の葬儀で接触した人物。地球人の姿をしていたが、正体はダークバルタンだと本人は語る。実際に、鹿津宮を狙っていた刺客を仲間のバルタンと共に撃退し、その後「ダークバルタン無実説を普及させる」という作戦に鹿津宮・クイロを引き入れた人物だ。

 彼は現在、同胞のUFOで仲間の救援に向かっている。宇宙を放浪している状況だが、アシル内で広く使われているアンテナの通信範囲にはいるらしい。

 

 クイロを見る。腕を組んで通信端末を睨んでいたが、やがて鹿津宮に「私が説明する」と目で示した。

 

「まず私たちは、芳治20年8月のアペヌイ大怪災で現場に出向いたS4隊員、その中で作戦後に何かしら異変が起きた人物に接触。彼・彼女らを異変から遠ざけ、アシルで保護することと引き換えに、『ダーク無実説』の主張を要求していこうと思う。けど、この計画には時間がかかる。その間、S4によるダークバルタン殲滅が始まってしまっては、あなたたちの身がより危険になる」

 

「そこで、だ」

 

 鹿津宮が説明を次いだ。

 

「佐納奏と浦菱唯。この新人特錬隊員のふたりに働いてもらうことにした。S4の集教っつう制度を使って、精鋭の隊員に弟子入り。関係を築いて、ダークバルタン殲滅作戦に対する疑惑をぶつける。この精鋭の隊員が作戦に体する抵抗を抱くよう働きかけるんだ。これがざっくりとした作戦だ、ミクソメ」

 

『そのふたりには、できれば動いてほしくなかった』

 

 不服さを隠さない声音だった。

 

「悪いがミクソメ、使える人材を放っておくほど俺達に余裕はないんだよ。わかるだろ、ミクソメ」

 

『君はなかなか……性格が悪いよな』

 

 く、と笑いがこみ上げてきた。

 

「悪い悪い、ちゃんと名前で呼んでやるべきだよな」

 

 くっく、と小さく噛み殺し、鹿津宮は通信端末の画面を見下ろす。

 

 

 

 

「なァ、湖田永晴」

 

 

 

 

 

 声は返ってこない。その沈黙が、何よりの返答だった。

 ミクソメの正体は、湖田永晴だ。鹿津宮がこれを察知したのは病院で浦菱達に会った後、しかし浦菱の部屋で作戦会議をした時よりも前だ。

 

 

 

 

 

 彼と出会った当初。ちょうどツルク星人の攻撃から救われた時は、その外見から湖田永晴本人ではないかと疑った。しかし本人は『ミクソメ』を名乗り、鹿津宮もそれを飲み込んでいる。

 

 再び(いぶか)るようになったのは少し後だ。斎場での騒動があった後、鹿津宮は再度八十川(ヤソガワ)安生(アンジョウ)から情報を聞き出している。裏切った安生に対しては腹に据えかねるものがあったが、その場は平静を保った。安生の方は逆に、殺そうとした相手が再び尋ねてきたことに怯えた様子で、従順な対応だった。

 そこからアペヌイ大怪災におけるS4隊員の生存者を辿り、前原要平(マエハラヨウヘイ)・殻島穰へと至る。そして次に辿り着いたのが、佐納奏だった。ちょうど特錬試験に参加していたため、元同じ部隊の2名よりも遅れたのだ。

 

 協力を願い出るS4隊員の名前は、ミクソメに伝えるようにしていた。彼がダークバルタンの中で最も積極的にやり取りしており、実質計画の主導役だったからだ。

 

「次に取り入るのは佐納奏っていう女の隊員だ。ついこの前まで特錬試験に出向いてた」

 

 そう伝えると、ミクソメは「カナデ?」と名前に強く反応した。そして、驚くべきことを口にする。

 

「その佐納さんと行動を共にしている女性隊員がいると思う。その人も保護してほしい」

 

 急にどうした、と思った。なぜ佐納の交友関係を知っているのかわからないし、なぜ保護しようとするのかも謎だ。「そいつの名前は」と一応聞くと、ミクソメははっきり答えた。

 

「浦菱唯」

 

 この一件で、鹿津宮は病院を訪れるより前に浦菱の名前も知っていたのだ。

 気がかりなのはミクソメの思惑。だがそれもまた別の話を聞いたことで予想が立てられたのだ。

 

 その話とは、ダークバルタンの動きについて。宇宙を彷徨うダークバルタンの一個体が、地球に対する救援行動を行ったという内容だ。

 ミクソメ曰く、「普段は地球人が寄りつかない場所で、怪獣の死体が流れ着く不気味な磁場が存在する小惑星群だったが、その時はたまたま地球人を見つけた。今にも殺されそうになっている隊員がいたので、駆けつけて怪獣の討伐を補助した」と。ミクソメはあたかも伝聞した内容のように話したが、鹿津宮もクイロもミクソメ本人の活躍だと見抜くことができた。

 

 第一段階の気づき。ミクソメ(イコール)怪獣墓場で佐納と浦菱を助けたダークバルタン、ということ。

 

 だが、それではまだ「浦菱唯」に辿り着けるはずがない。怪獣墓場で顔を見ていても名前までは把握できないだろう。

 

(おそらく、浦菱はダークバルタンと一緒に戦っている最中、佐納の名前をでけえ声で呼んだ)

 

 カナデという名前に反応したのはそれが理由だ。鹿津宮が「佐納に接触する」という報告をした時点で、怪獣墓場にいた女性隊員の片方だと特定できる。

 

 だがやはり、「浦菱唯」には辿り着くはずがないのだ。佐納は「唯ちゃん」と呼ぶ。

 ミクソメにとって、怪獣墓場で出会った地球人のもう片方を判別する術はないはずだった。なのにどうして知っていた。知ることができたとして、保護してほしいと言う意味がわからない。

 

 決定的だったのはミクソメではなく浦菱の反応だ。鹿津宮が深夜の病院で述懐した時、湖田に関する内容を浦菱は食い入るように訊いていた。浦菱にとって湖田は大切な人であり、今も探しているのだろう。

 

 逆もまた然りなのではないか?

 

 毎度お得意の推測かと自分で自分が嫌になったが、想像は止まない。湖田もまた浦菱のことを大切に思っていたのなら。

 

 ミクソメは浦菱を特定できない。だが、()()()()()()()()()のなら話は別だ。

 ミクソメに浦菱唯と面識があったのなら辻褄が合う。降り立った怪獣墓場で二人の女性隊員に出会う。うち一人は既に浦菱と知っていた。後日鹿津宮が佐納の方に接触すると報告した。ミクソメは怪獣墓場で出会ったもう片方が佐納だと気づき、浦菱も隣にいたことを思い出す。

 

 だからセットで保護を願い出た。なぜなら浦菱のことを守りたかったから。大切な後輩だから。

 

 自分が湖田永晴として生きていたから。

 

 ミクソメ=湖田、ということになる。

 

 1本の線が通ったからこそ、()()()()()ことができた。

 ミクソメに、湖田の身分証と写真を要求する。この2つがあることで、浦菱と佐納からダークバルタンに対する信用を得られるが、それは表向きの理由。本当の目的は、ミクソメの正体を暴くことにあった。

 

 当然彼は渋った。鹿津宮はすでに顔を見ている。身分証を出して、そこに斎場であった男の顔写真が載っていれば全ての証明になるのだから。「擬態していた」という嘘は通用しない。マークされている湖田の顔を真似ることにメリットは何一つないからだ。

 最終的にミクソメは折れた。鹿津宮が抱いていた疑惑を直接ぶつけると、彼は諦めたのかすぐに身分証と写真データを送ってきた。鹿津宮はそれを浦菱と佐納に見せ、「湖田はダークバルタンに保護されている」「湖田とミクソメは別」という設定のまま説明した。アシルに招き入れた地球人にもこのことは伝えていない。鹿津宮とクイロのみに共有されている。

 

 

 

 

 

『杏次さん。あなたは本当に、僕が発したあの一言から考えを広げて、僕の正体に辿り着いたの?』

 

 通信機器を通して響くミクソメ——湖田の声には、一抹の恐れが感じられた。

 

「たしかにきっかけは佐納の名前に反応したことだったな。だが正体を確定させたのは他の要素もある」

 

『他?』

 

「例えば、葬儀場で俺を助けたときは常に人の姿だった。お仲間はバルタン星人の姿のまま出てきたからお前の異様さが際立ったよ。それに、戦いの後俺達に話をしただろ。お前はその時腕を組んでた」

 

『それがどうしたんだ』

 

「バカでかいハサミが付いたバルタン星人の手でどうやって腕組むんだよ。仮に地球人に擬態したバルタン星人ならあんな動きはしない」

 

『……目の付けどころが気味悪いね』

 

「俺を変態みたいに言うんじゃねえ。お前が間抜けだからバレてんだぜ」

 

「いや、杏次。正直私も少し気味が悪いと思った」

 

 口をつぐんでいたクイロが申し訳なさそうな目線を向けた。

 

「君、誰に対してもそういう一挙手一投足見逃さない見方をしてるのか。女性はやめた方がいいぞ、いらない誤解を生む」

 

「殺すぞ。どうでもいいんだよんなことは。で、湖田。作戦の何が不服なんだ?」

 

『……唯を危険な目に遭わせたくない』

 

「だと思ったよ」

 

 つまらない答えだった。

 

「言ったろ。俺達に人材の余裕はねえんだ。その中で特錬隊員が生まれたのは奇跡に近い。これを使わずに大人しく匿うなんて馬鹿のすることだ。事実、作戦自体には無駄がねえだろ」

 

 再び返答はない。彼においての沈黙は「はい」の返事ととっていいだろうか。

 「ご安心を」とミクソメが付け加える。

 

「ミクソメさんの正体が湖田さんだというのは伝えてない」

 

『それは徹底してほしい。僕に繋がる情報を少しでも持っていて欲しくない』

 

 湖田はそう言ったが、鹿津宮にとって情報を明かさない理由は他にもあった。

 浦菱は湖田を探すために自分たちの計画に乗ったし、佐納はそれについて行く姿勢だ。湖田に会えるかわからないからこそ浦菱はやる気を維持している。実はミクソメでした、通話もできます、などと言おうものなら彼女のやる気は削がれてしまうだろう。馬を走らせたいのなら人参を食わせてはいけない。口が届かないところに吊っておかなくては。

 

『そうだ。改めてになるけれど二人とも』

 

「どうしたんですか」

 

『花梨さんを救えなかったこと、謝罪させて欲しい。申し訳なかった』

 

 湖田の重々しい声が届いた。おそらく今、向こうで頭を下げているのだろう。

 クイロと顔を見合わせた。おそらく考えていることは同じだ。

 

「別に。しゃあねえだろ、お前には姉貴を救う義務も理由もなかった」

 

「貴方が人を救うために死力を尽くす人間だということは容易に想像できます。私たちを助けてくれたんですから。その上で花梨は間に合わなかったというなら……杏次の言うとおり、仕方ないです」

 

『…………ありがとう』

 

 それよりも、と鹿津宮は言いかけてとどまった。

 それよりも、湖田についてより知りたい。彼に対する疑問は尽きなかった。

 

 なぜあれだけ強かったのか。鹿津宮らの目の前でツルク星人1人と、MA(メテオールアーツ)に近い装備を身につけた男2人を下した。なぜあんな芸当ができる。

 

 また、怪獣墓場でも彼は戦っている。その時は巨大ダークバルタンとしてドラコと相対したそうだが、ここで1つの疑問が生じる。

 

 湖田はダークバルタンなのか?

 

 湖田には地球で暮らした記録がたしかに残っている。なぜ怪獣墓場ではバルタン星人に返信して戦えたのか。これはおそらく、同化したのだと推測される。かつてのウルトラマンの中には地球人と同化し、非常時に光の巨人の姿となって現れた個体も確認されている。湖田がこれと同様の場合、ダークと相当な信頼関係を結んでいることになるが、地球人として暮らしていたことの説明はつく。先ほど鹿津宮が言った腕組みなども考えると、やはり湖田は地球人だろう。

 

 だがだとしたら強すぎだ。斎場で3人を完膚なきまでに叩き潰したあの戦いぶりはなんだ。湖田は単なるエリート大学生ではないのか。

 

 疑問は他にもあった。これはどちらかというと花梨に関することだが、姉が行動を起こすきっかけになった最初の違和感、八十川・安生が録音した内容と安全委員会で目にした報告に齟齬があったという点について。録音の中では湖田が「UFOを見た」と発言しており、報告にはその記述がなかった。

 

 運輸安全委員会の上層部はなぜこんな工作をしたのか?

 

 これは墜落が確認されてすぐのことだったから、バルタン星人が絡む内容ではない。そもそもこの工作で、ダーク及びシルバーどちらかに有利になるような要素はなかった。これは「誰のせいで事故が起きたのか」というよりも、「そもそも墜落事故に異星人は関わっていない」という主張を補強する。まるで、地球が何かに狙われている()()()()()()()()()ような――。

 

「なあ、湖田」

 

 しばし思案して、口を開いた。

 

「お前は、何がしたいんだ?」

 

 この男には何か目的がある。ダーク族を救おうとしているし、地球人も救う意思がある。そこには漠然明確な行動原理がある気がした。 それがわからなければ、姉に勝ったといえない。今の段階ではただ、湖田がどんな存在か理解が深まっただけだ。

 

『…………僕はただ、抜け出したいだけなんだよ』

 

 湖田の方も間を置いて答える。

 

「抜け出す?一体何から」

 

『血を吐きながら続けるマラソンから』

 

 何の比喩だ、と聞き返そうとした時、『もう時間だ』と宣告されてしまった。こいつはいつもいいところで切り上げるなと歯噛みしたが、簡単に聞き出せるものでもなさそうだ。

 

「いつかあなたの目的を聞かせてください」

 

 その時、クイロが機器に顔を近づけて訴えた。

 

「今日でなくてもいい。でも知りたいんです。だから、いつか必ず」

 

『わかった。きっと、きっと君たちに話すことになると思う。だから、それまで死なないでくれ』

 

 遠く離れた場所から通信機器を介して届くその声は、目の前で放たれた肉声のように聞こえた。

 

「……もちろんです」

 

「湖田も死ぬなよ。作戦はてめえにかかってんだ」

 

 ふ、と笑う声が聞こえたかと思うと「じゃあまた」と通話は切られた。

 静けさが室内に満ちる。クイロがふうと息をつき、鹿津宮に向き直った。

 

「浦菱さんたちは、びっくりするだろうな」

 

「お前こっそりあいつらに教えたりすんなよ」

 

「しないさ、そんなこと」

 

 クイロは席を立ち、窓際に向かう。鹿津宮も続いた。やはり地球の都市部と大差ないビル群の景色がそこにある。

 

「アシルは慣れないだろう」

 

 景色から目を逸らさずにクイロが尋ねる。

 

「一応は安全だけれど、様々な種族が通りを歩いている。このビルにいるのもほとんどがペガッサ星人だし、しばらくは気疲れするかもしれないが」

 

「いや、地球と大差ねえよ」

 

 あっけらかんと答えると、意外そうな目がこちらを捉える。

 

「そりゃ景色は似ているかもしれないが」

 

「他もだいたい一緒だろ。むしろ」

 

 鹿津宮は目だけを動かしてクイロを見た。長く黒い頭を、ごつごつとした太い首が支えている。肩と腕にかかる白い衣装が、暗い体色とコントラストを作る。

 アシルは無数の種族が入り乱れるからこそ、擬態装置は配布されない。ここならば、クイロは人間に溶け込む必要がない。

 

「アシルの方が面白えかもな」

 

 釈然としない顔のクイロをよそに、鹿津宮は外の景色に目を細める。

 さっきよりほんの少しだけ、建物を見分けられるようになった気がした。

 

 

――――――――――

――――――――

――――――

――――

――

 

 

 

ペダン星 ランバルム第三戦闘用機体ドック

 

 休憩室は多くのペダン星人で溢れている。先ほどまで修繕庫(ドック)内で改良型キングジョーの点検を行っており、一休みということで皆がこの部屋に移動した。短時間の休憩のため、誰も青色の防護服を脱いでいない。ヘルメットのシールドを下ろしたままの者も多かった。

 

 休憩室の一角では、空中ディスプレイに情報番組が垂れ流されている。ぼーっと眺めていたペダン星人シモンだったが、ある疑問が浮かんだ。

 

「先輩、この映像って何すか」

 

 地球人だろうか。壮年の女が何かを述べている映像だ。女の表情に親しみや朗らかさといったものは皆無だが、翻訳される字幕はペダン星に対する感謝が述べられている。

 

「ああ、これは地球からペダン星にあてられた感謝の言葉だ。ほら、少し前に地球が侵攻してる砂漠の星。…モシリスだったか。あそこで怪獣被害があったろ」

 

「なんかありましたね」

 

「そん時、ペダン星人がちょびっと支援したんだよ。リカバーネットシステムを強化するための技術者と迎撃システム強化の提言。それに対してありがとーございますって、このオバさんは言ってる」

 

 なるほど。画面の右端に置かれた女の紹介文は『地球日本国 モシリス統括長官 久茂祈(クモイノリ)』とある。

 

「はァ、なるほど。地球人がおれらに感謝っすか」

 

 先輩と顔を見合わせた。笑いをこらえる口元がぷるぷると震えている。きっと自分も同じだ。

 

「っく!ぷっははははは!」

 

「あっはははははははははは!笑っちまうよな!」

 

 こらえきれずに爆発した。気づけば周囲のペダン星人も映像を見ながら笑っている。室内が爆笑の渦に飲まれていた。

 

「くくく……おめでてぇよなぁ全く」

 

「自分たちがどんな立場なのかもわかってないんすねえ。ははっ、哀れっつーか馬鹿っつーか。ねえ、ラルバさんもそう思いません?」

 

 シモンは入り口付近で壁にもたれる一人のペダン星人に同意を求めた。ラルバという老齢の男はシモンを黙って見据える。明るく話題を振ったのにくすりともしない。白いものが混じった髪をまとめ上げるヘアバンドの下、しわに囲まれる双眸の中に怒りとも憐憫ともつかない感情が宿っていた。

 

 何なんだよ、このじいさん。シモンは狼狽えた。

 

 ラルバは黙って部屋を出て行った。とん、と肩に先輩の手が置かれる。

 

「あのじいさんには構うな。変わり者だ」

 

 休憩時間が終わり、皆がぞろぞろと席を立つ。シモンもあとに続くが、気は晴れなかった。ラルバのあの目は地球人に向けられていたのか。それとも、俺達に。

 思わず舌打ちが出た。わかってる。地球人を嘲笑できる立場じゃない。でも仕方ないじゃないか、下を見て安心したのが心理だろう。

 

「あ、全然関係ないんすけど」

 

 気分を変えようと、別種の質問を先輩に向ける。

 

「今整備してるキングジョーって結構重装備積んでますよね。何星人対策なんですかね」

 

「あ~目下警戒してるのはメトロンだわな」

 

「え?でもメトロンってペダン星人(おれら)と同じスタンスじゃないですか。地球と友好協約結んで擦り寄っていく、っていう」

 

「その通り。でも一部で変な動きが見られるってことで警戒してるんだ。数が多けりゃおかしな思想の奴も出てくるんだろうよ、ラルバさんみてえに。噂じゃ、メトロンの兵士の中に地球人がいるらしい」

 

 シモンの眉が上がった。

 友好協約があるから地球人を攫っているはずもないだろう。どういうルートでその地球人を獲得し、なぜわざわざ兵士として使っている。

 

「えっ、怖……。何なんですか、その地球人」

 

「これも噂なんだがな。その地球人はもともとバルタンの捕虜で、それをメトロンがかすめ取ったって話があるんだ」

 

 先輩は足を止めた。

 

「メトロンはバルタンの円盤を攻撃し、中にいたその地球人の身柄も拘束した。そのバルタンの円盤は、モシリスから飛び立ったものらしい」

 

 

 

3章 怪獣墓場/黎場 完

4章 アペヌイ/燼戦 へ

 

 

 

 




3章おしまいです。
長かった……ここまで読んでくださった方、もしいれば本当にありがとうございます!
この作品は本当に自分が楽しいから書いてるだけなので、最新話にUAがついたり、反応をいただけたりするのが誇張抜きで奇跡だと思っています。
感想・評価・SNSの反応等あると非常に嬉しいので、よろしければお願いいたします。
4章も頑張って参ります。最終話までの流れはぼんやりと浮かんでいるので、気力を維持していきたいです。よろしくです!!

3章完結感謝のイラスト

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