ハッピー至上主義のヒロアカ冒険譚 作:もーまんたい
モブ男はモブじゃない
「先生、コレお願いします……」
ひとりの男子生徒が鞄から一枚のプリントを出す。そこには、「雄英高等学校」と書かれていた。
普段は明るい奴が静かなせいか、「うむ……」などと返答しながら進路希望調査書を受け取る先生。
ガラガラ、と扉を開け、職員室から男子生徒が退室していく。
☆☆☆☆☆☆☆
生まれて、すぐヒロアカの世界に転生したことに気づいた。
“超常”が、日常だったからだ。
テレビではヒーローが人々を救い出す映像と、ヒーローが敵《ヴィラン》と戦う映像が四六時中流れていた。
「僕のヒーローアカデミア」
俺が転生した世界だ。
通称「ヒロアカ」は少年ジャンプに掲載されているジャンプ看板漫画の一つだ。その人気は日本だけにとどまらず、世界へと向かう。そして、世界累計発行部数8500万部を記録するほどの人気作である。
ヒロアカ世界は、世界の総人口の約八割が、何らかの特異体質である超人社会であり、混乱渦巻く世界。
混乱渦巻く世界では、誰もが空想して憧れた一つの“職業”が脚光を浴びていた。
そう、【ヒーロー】だ。
ヒーロー。
超常能力を駆使して人々を救う者。
力を持った者が、奪い、弱者を踏み躙る世の中を、変えようと立ち上がった者達がいた。正義の心を持った者達は、弱者を守り、悪を討ち倒さんとする。それこそが、ヒーロー、そう呼ばれる者達の始まりだった。
しかし、人の為だけを思って働き続けるのは、不可能。
そこで、国はヒーローと呼ばれる者たちに、市民権を、金銭を、名声を、与えた。彼らが、人の為だけに動けるように。
そんなヒーローがいる世界に、転生した俺は、人を救うヒーローに憧れ、自分にしか救えない人々を救うために動く。
俺にしか、救えない人。
前世で、この世界の
そうしてーー
ーーいつしか超常は日常に、夢は現実に。
しかし、それは夢が叶うという意味ではーーなく。
ーー夢から覚めるという意味だ。
このコミックの世界で、現実を教えられる。
夢が現実に、なる変わることはなく。
代わりにあったことはーー
ーー夢が覚め、現実に直面する。
俺の原点は崩れ、夢が現実になった瞬間だった。
俺の原点……前世から夢見たこと。
元々、不幸になる人々を見るのが好きじゃなかった。人の笑顔が好きだったんだ。
誰かが不幸になるよりも、幸福になることを願う。幼い頃からそんな子だった。
そんな幼き頃。
俺は1つのコミックスと出会う。
「僕のヒーローアカデミア」
この漫画を見つけたのは、たまたまだった。でも、今思えば、
ヒーローを目指す少年が、困難にぶち当たりながも、乗り越え強くなっていく。王道の少年漫画。
コミックスを全巻揃え、アニメを全話視聴し、特典も集めるほどに、俺は、僕のヒーローアカデミアに心奪われる。
子供ながら、その少年に、ヒーローに、悪に立ち向かう人々に、憧れた。彼らは、どんな
そんな彼らを目標にした。
だが、同時に願う。
彼らが幸せになることを。
いつまでも理不尽に苛まれる登場人物たちは、悲しそうな顔をしていた。乗り越え立ち直り、再び、理不尽に襲われる。
今であれば、コミックだから仕方ないと割り切れるものの、幼い自分が割り切れるはずもなく。
考えた、常に理不尽が襲う彼らが、幸せになる道を。
俺がいれば、全てを幸せに出来るのに、と。
しかし、そんなのは所詮、妄想にすぎない。
俺の幼少期の夢は、叶うことはない。
だが、その叶わないはずの
ヒロアカの漫画を偶然本屋で買ったときと同じように、運命だと。夢が叶ったと。そう、夢を見ていたのだ。
そしてーー俺の
転生チートを、異常な強さを、なんでも出来る力を、持っていた。もちろん、血反吐を吐く思いで頑張った。そういう力だった。努力しなければ、強くはなれない。逆に言えば、努力さえすれば、強くなれた。
しかし、【
けれど、諦められなかった。小さい頃からの夢だったから。諦めず、ひたすら
それでも、
世界が俺の行動を否定する。
運命を捻じ曲げようとすれば、運命によって修正され、元に戻ってしまう。無駄だ、と言わんばかりに。元通りに。
モブとしての限界なのか、何がいけないのか、わからなくなってきた。
14年間頑張ってきた。
走って走って走り着いた先にはーー
ーー絶望しかない。
何度も何度も目にした不幸。
コミックスで何度も読んだことが、目の前で起こっていく。自分が無力なことを、自身の行動が何の意味もないことを、突きつけられる。
息が出来なくなるほど……胸が締め付けられた。
世界からーー人生を、夢を、願いを、否定される。
その度に。
心を折られそうになって、立ち直って、折られて、立ち直って、折られて、立ち直って、立ち直って、折られて、立ち直って、折られて、立ち直って、立ち直って、折られて、立ち直って、折られて、立ち直って、立ち直って、折られて、立ち直って、折られて、立ち直って……完全に折れた。
ーー何をやっても世界は変わらない。
その
ようやく気づいたのだ、
言い忘れていたが、コレは無個性の少年が最高のヒーローになる物語ーーではなく。
ヒロアカに転生した俺こと、影山モブ男の物語が終わる話だ。
★☆☆☆☆☆☆
自室にて、俺は合否発表用の小さいな円盤が入った封筒を開封しようと机に置いた。
さーて、雄英はどんな風に落としてくれるのだろうか。落ちることが確定してると、こんな楽しみ方もあるのだ。
ガチャを回すような感覚に近い。
今回は、不正疑惑とかそこら辺だろうか。
なんてガチャだ、不幸しか詰まっていない。
何もなければ合格は必至だろうが、何も起こらないわけがないからなぁ。
まあ不合格だろうけど……映像は見てみたいし、と。少し躊躇いつつも、封筒を開け、円盤を取り出す。
小さな円盤を机に置こうとしたーー
ーーその瞬間、小さな円盤から立体映像が飛び出す。
『『はーはっは! 私が投影されたァ!!!』』
角のように伸びた金髪。日本人離れした彫りの深すぎる顔と、筋骨隆々の身体。黄色いスーツ纏った男ーー
平和の象徴ーー生ける伝説・オールマイト。
たった10年で日本という国を変えた男。
ひとりの力で運命を変え続けたモブの俺とはかけ離れた存在だ。彼への接触は何度も試みたが、一度たりとも会うことは叶わなかった。彼と会うことは今後も画面越しになりそうだ。
『『なぜ私が雄英の合否通知に出てるかって? それはね、雄英に勤めることになったからさ! ゲホッ、コレは一応まだオフレコだから、内密にね』』
オールマイトが口元に指を当て、ウィンクしてくる。
咳が出てるってことは、活動限界が近いのか?
多分、俺が1番最後なのだろう。
不正疑惑の者は1番最後に、ってことだな。
『『ゲホッ、君には色々と話たいことが……ええ? 何だい!? 巻で!? 彼には話さなきゃいけない事が……後がつかえてる!? あーあーわかった0K……時間がないからね。
よし、じゃあ手短に豪快にいこうか!!!
影山少年!!
筆記試験、満点。実技試験、500P!!
主席合格おめでとう!!
それと! ……歴代No.1の記録だってさ!!』』
「…………」
はいはい、嘘嘘。
そうやって期待させた上で、落とすんだろ?
はぁー、運命ってのは本当、芸ってものが無いな。
どうやって落としてくれるか期待した俺がバカだったわ。
最後の最後にこの落とし方は、ナンセンス。
だって、俺でも予想付く落とし方なんだぜ?
合格させてから不合格。
喜ぶ俺を見てから不合格にして、ガッカリする俺を見ようとしてたんだろ? ヒロアカ最新刊が予定より早めに出たってガセネタを掴まされて、東京まで飛行機で行った俺が、引っかかるとでも……?
引っかかるだろ、と思ったそこの貴方。
しッかーし!!
俺は、今回は引っかかりませぇーーん!
何故なら、
俺は、14年間もこのやり取りをしてきたからな!
(訳:14年間、引っかかり続けた)
じゃあ、コレで俺の物語は終わり!
お疲れ様でした!!
はい、解散解散。
2次会なんてありませんよ。
はーい、皆さん、家に帰ってアンコールと一緒に胃の中、全部ひっくり返しましょうねー。
『『まあ君が信じることは、無さそうだから言っとくぞ』』
あれ? コレってビデオ通話なの……?
おいおい、そんな訳ないだろ……?
『『ちなみに、コレは繋がってないぞ。録画された映像さ』』
えっ、思考が盗聴されてる……?
いや、録画された映像ってことは……どういうこと?
オールマイトの発言に、俺の頭はひどく混乱していた。
『『私は、分かるんだよ……君が今、諦めようとしていることが……私も、何度も経験したからね……だからーー』』
急に何言ってんだ? 俺の気持ちが分かる……?
ふざけたこと抜かすな……って言いたいけど、この人、確か20年以上AFOと戦ってんだよな……。
でも、真にはわからんよ。
オールマイト、アンタは
だが、俺は、打ち勝てないように運命付けられている。
『『だからーー私は君に教えたいんだ……諦めないために必要な、言葉を……そして、支えになりたいんだーー君が諦めないように……ッ』』
嘘に決まってるのだから、期待するな。
そう自分に言い聞かせる。
俺は何も変えられなかった
いつもの事だ……運命が騙そうとしてくるなんてーー
『『もう諦めちまうのかい? 君のオリジンは、それを許してくれるのか? 支えてくれた人は、応援してくれた人は、どう思う?』』
俺のオリジンが許そうが、許さまいがな……もうどうでも良いんだよ……。
ガキの夢は、大人になって消えていくんだ。
ちなみにな、オールマイト。
支えてくれた人達はいたさ。
でも……その人達は、死んだよ……
……俺の無謀な夢のせいでな……。
だから、俺は諦めなきゃいけないーー
ーーコレ以上、犠牲を出す前に……。
『『君が、諦めた理由は、私にはわからない……』』
……だろうな。
一生、アンタにはわかんねーよ。
お前ら、
次第に俺の口調は、荒くなっていく。
オールマイトの言葉が癪なのだ。
主人公級の奴が、何を言ってる……モブの気持ちが分かるって? 俺のこの絶望が
『『ゴホッ、私よりも強い君が、何を成し遂げようとしていて、何を諦めたのか、すらも……だからーー教えてくれよ、影山少年。
君が歩んで来た冒険譚を』』
言える訳がない。
誰にも、言えない……支えてくれた人達にすら、言えなかった。そして、今後も言うつもりはない。
それに、言いたくもない。
だってーー
ーーなにも、変えられなかったから……
……誰も……救えなかった。
だから、諦めた……手放した……背を向けた。
救えなかった人達の顔が思い出される。
だからーー無理なんだよ、オールマイト……
俺がそう考えていると、血を吐きながら、スタッフたちを制止しながら、彼は言う。
『『ゴホッ、ゴホッ、君が助けて欲しそうな、顔をしてた……だから私は君に言うよーー』』
……期待しちゃダメだ。
何度も、騙されてきただろ……?
俺は騙されるな、と自分自身に言い聞かせる。
しかし、運命は、とことん俺を虐めたいようで、俺が今最も欲している言葉を彼に言わせる。
『『来いよ、影山少年。
ーー
……ポタポタと涙が床に落ちる。
なんで、こんなに涙が溢れるんだ。
今回だって、どうせダメだって分かっているのに……なんで、なんで、涙が止まらないだ……。
頬を大粒の涙が流れていく。
涙を腕で拭き取るが、涙は拭き取れない。
顔面は、涙と鼻水でぐちゃぐちゃになっていた。
涙を流すたびに、自身の無力を痛感した。
世界に否定されるたびに、心が折れそうだった。
折れそうになって、泣いた。
今回も、泣いて、諦めようと。
なのに……なのに、なんで……
ーーもうやめようと、諦めようと……
やっと……諦めがついたのに……
そう思っていたのに……こんな期待させる言い方されたら……コレじゃあ、コレじゃあーー
俯き、嗚咽を吐きながら呟く。
「コレじゃあーー諦められないだろぉ……」
それからは、涙が枯れるまで泣いた。
その日、一人の
世界の修復力は、すでに機能を失った。
言い忘れていたが、この物語は無個性の少年が最高のヒーローになる物語ーーではなく。
俺こと影山モブ男が、モブから
面白いと思っていただけましたらお気に入り・高評価、感想などよろしくお願いします。
1話の泣いて喜ぶモブ男と、喜びすぎてシャドーボクシングしてしまうモブ男、どちらがしっくりきますか? アンケートの結果で書き換えるか考えます。
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泣いて喜ぶモブ男
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喜びすぎてシャドーボクシングするモブ男