ハッピー至上主義のヒロアカ冒険譚 作:もーまんたい
時は少し遡り、入試の採点直後。
ガタリ!
椅子が床に倒れる音と共に、オールマイトが急に立ち上がる。
演習会場Gの仮想
ーー仮想
あまりに一瞬すぎて、私でなければ気付かなかっただろう。
私は、確信していた。
仮想
この少年が
全盛期の私と同様に、弾丸よりも速く。
高速で、全ての仮想
この速さーー
この強さーー
その姿は、まるでかつての全盛期オールマイトーー自分そのもの。いや……それ以上。
ビルの屋上から、仮想
彼は一体、何者なのだろうか……。
「どうしたんだいオールマイト?」
根津校長が、急に立って驚かせてしまった同僚たちを代表して、立ち尽くしている私に尋ねてきた。
しかし、コレは……なんと説明すれば……。
言葉に詰まっていると、再度、声をかけられる。
「オールマイト?」
「は! いや、失礼。なんと言ったら良いか……。いずれ、私を超えるであろうーーいや、すでに超えているかもしれない子を……見つけてしまいましてーー」
「「「…………ッ!?」」」
オールマイト自身が、No.1ヒーローが、伝説が、自分を超えている可能性がある、と公言した。
その少年とは、誰なのか、教師全員の意識は、オールマイトが言及する少年へと向けられる。
「………………君の言う、その少年とは…?」
「ーー
私は、監視カメラに映らない彼を、資料の中から取り出した情報をスクリーンへと映し出す。
No.100201
名前 影山 モブ男(かげやま もぶお)
個性 筋力強化(異形型)
年齢 15歳
性別 男
誕生日 4月4日
身長 188cm
出身 静岡県
出身校
演習会場 G-演習場
EXAMINATION RESULT《試験 結果》
筆記試験
数学 100/100
英語 100/100
国語 100/100
理科 100/100
社会 100/100
合計 500/500
実技試験
ヴィランポイント:10
レスキューポイント:5
合計 15P
「筆記試験、オール満点ッ!?」
「……しかし、実技は、15ポイント……」
「この子が、オールマイトを超える逸材……?」
この結果だけ見れば、確かに私を超える逸材とは、なり得ないだろう。が、この結果は間違っている。
「演習会場Gの映像を、見ていただければ、分かると……」
演習会場G、多くの仮想
私は、監視カメラの映像をいじり、仮想敵が自爆する直前をスクリーンに映し出した。
「コレは……ッ」
そこには……仮想敵の胸部を穿つ、影山少年。
その映像をスロー再生すると、次の瞬間、少年は消えていた。つまり、高性能カメラのスロー再生ですら、捉えられない速度で、走り回っていることになる。
サポート科の先生方の頭を悩ませる原因を作ったのは、彼だったのだ。
「彼のヴィランポイントが低い理由、そして演習会場Gの仮想敵が自爆した原因、それらは、彼だったのです」
「そうか……カメラに映らなければAIが得点を判断することさえできない。しかし、このカメラは……」
そう、高性能カメラに映らないのであれば、彼は全盛期の私かそれ以上のスピードを有している。
だが、彼はスピードだけじゃない。
実際に、0ポイント仮想
彼に倒されているのだから。
「……た、確かに……この映像を見れば、オールマイトを超える可能性も十分に理解できる……」
来年度の1年B組を受け持つ強面の教師、ブラドキングこと管くんが呟く。
「つまり、故障による自爆は、全て彼のポイントになる。そうなると、影山少年のポイントはーー
ーー……ヴィランポイント:486P」
「筆記試験ですら、満点など出たことはなかった。それに加え、実技試験は……歴代最高得点。ここまでの個性を持っているにも関わらず、今まで全くの無名。中学も名門ではない。ここまで来ると不正を疑いたくなる」
来年度の1年A組を受け持つ相澤くんが、合理的に考えた結果か、疑いの目を影山少年へ向ける。
確かに、筆記に関しては不正の可能性もあるだろう。だが、私の直感は言っている。
「私の直感は、彼を合格させるべきと……」
「直感……合理的じゃあ無い。オールマイトさん、彼は個性を偽装しているかもしれないし、経歴にも違和感がある。ヴィランの手先かもしれない」
相澤くんの指摘で、腹に風穴を開けられた苦痛と共に
自然と拳に力が入ってしまう。
しかし、
ーーかつて対峙した巨悪の根源とは、彼は似ても似つかない。
彼の表情はーー
「何故、そこまでして彼を庇うんですか?……オールマイトさん」
庇っているというより、私は……彼をーー。
「何故、私が影山少年を庇うか……か。
それはーー……私が、彼を
私は昔、何度も彼の表情を見た事がある。
彼の表情は、絶望だ。
師匠、グラントリノと共に、巨悪の根源と戦い。
敗北したとき、救えなかった人々を見たとき、師匠が
私はーー彼と同じ表情をしていた……。
無力を痛感し、後悔に苛まれ、心が折れそうになり、立ち直って、また心が折れそうになる。
それでも、私がこうして自身に、OFAに、勝てたのは、師匠の教えがあったからだ。私が、挫けそうなとき、何度もお師匠の教えには救われた。
彼には、その師匠が、いない。
……支えとなる、人が。
私の脳内を、お師匠からの数々の教えが、映像と共に流れていく。
『どんだけ恐くても、自分は大丈夫だっつって笑うんだ。世の中笑ってるやつが一番強いからな!』
『俊典。限界だーって感じたら思い出せ。何の為に拳を握るのか。』
『原点……オリジンってやつさ。そいつがお前を限界の少し先まで連れてってくれる!』
私を救ってくれたお師匠の言葉。
そして、彼にはないであろう教えの数々。
だから……。
痩せ細った
「だから……私が教えなければならないんだよ。
『世の中、笑ってる奴が1番強い』ってことを。
『何の為に拳を握るのか』
『オリジンってやつが、自分を限界の少し先まで連れて行ってくれる』ことを……!!!」
「「「…………ッ」」」
オールマイトの迫力に飲まれた空間で、
「ココで、私が提案をするのサ!」
ぴょこん、とオールマイトの肩に乗っている根津校長。
「相澤くんの意見も、No.1ヒーロー・オールマイトの直感も、どちらも正しい。なら、どちらも採用すればイイのサ!」
「……と言いますと?」
私の問いかけに、根津校長は新たな選択肢を提案してくる。
「影山くんは合格される。……けど、何だか怪しい! そこで、彼を監視しつつ、何もなければ、そのまま。何かあれば、会議にかかればイイのサ!」
「俺は、何かあれば、すぐにでも除籍にするつもりです。それでも……?」
「それで、イイのサ!」
相澤くんは、あくまで影山少年を疑い続けるつもりらしい。
もちろん、私も完全に疑いを解いたわけではなく、その可能性も考えつつ、行動するつもりだ。
あとは、影山少年が、相澤くんのクラスにならないことを願うだけだ。出来れば、緑谷少年にも相澤くんのクラスにはなって欲しくはないな。
「さぁ、これで合格メンバーは決まったかな? さあ、合格通知の撮影サ! オールマイト、準備をするのサ!」
ぽむぽむ、と根津校長が肉球を叩き合わせ、話し合いは終了した。
これがモブ男が知らざる、雄英高校の受験記録であった。
ーーそんな事件がありつつも、1ヶ月の時が流れる。
桜散る、雄英校門前。
多くの学生が新しい学校、学年に心を弾ませながら校門をくぐっていく。俺も、その学生達と共に門をくぐる。
合格通知から、今日までの1ヶ月間。
この1ヶ月は雄英に、スシ電(回転寿司のようなエンドレス電話)をしていた。しつこすぎて、危うく不合格にされそうになったので、最近はやっていない。というより、出来ていない。
ちなみに、今日の朝だけは電話させていただいた。
とりあえず、不合格にはされてないみたいだ。
そんなハラハラドキドキな1ヶ月が過ぎーー
ーーついに、俺は入学日を迎えることになった。
降り注ぐ桜色の祝福と目の前にそびえ立つH型のビルを前し、俺は立ち止まる。
桜吹雪。
立派な桜の大木から、花びらが舞う。
そんな舞い散る花びらの中を、緑色の髪をした1人の少年が走ってくる。
俺は桜の木の下で、彼を見つめ、宣言するように呟く。
誰でもなく、自分自身に。
「ココからが」
走っている少年とすれ違い……
……一瞬、目が合う。
俺と少年ーーモブと主人公。
「ココからがーー
――走り去っていく
桜が散り、桜吹雪が辺りを覆い尽くしていく。