ハッピー至上主義のヒロアカ冒険譚 作:もーまんたい
ヒーロー育成の最高峰・雄英には、通称「ビッグ3」と呼ばれる生徒達がいる。
高校3年生のトップ3。
雄英での2年間に渡る訓練と、プロヒーローの元で実際にサイドキックとして働くインターンを経て、上位のプロヒーローと大差ない実力を有している者達だ。
その内の1人、
教師相澤から「プロを含め、俺の知る限り最もNo.1に近い男」と言わしめるほどの実力者である。
“個性”『透過』
発動中はあらゆる物をすり抜ける!
あらゆる攻撃をすり抜けて無効化できることから、"無敵の個性"と評されている。しかし、個性の発動中は、肉体が無差別にあらゆる物体を透過するため、全身に個性を発動されると、光や音、空気さえもすり抜けてしまい、視覚、聴覚、触覚が機能せず、呼吸も出来ない。
更に個性の発動中は地面まで透過してしまうため、足の裏にまで個性を発動すると、地球の中心に向かって「落ちて」しまうのである。
そのため、例えば1枚の壁を透過する際もーー
その1、こちら側の足以外全身を透過させる。
その2、向こう側の足の透過を解除して接地。
その3、残った方の足を透過させ壁抜け完了。
といったように、ごく簡単な動作にもいくつかの工程を踏む必要がある。
まったくの没個性。
しかし、彼は、インターン先で身につけた瞬時の予測で、この没個性を強個性に変えた。目が見えなくとも、耳が聞こえなかったのしても、予測を立て、動くことで。
そんな彼に、1年生の担当である相澤先生から、依頼が舞い込む。
それはーー影山モブ男を探れ、というものだった。
影山の情報と、相澤先生の危惧していることを聞かされ、依頼を受けることを決断する。
そして、彼は依頼を受けたその日に動き出す。
モブ男との接触を図る。
狙うは、昼食。
彼が、クラスで少し浮いていることは事前情報から分かっていた。だから、学食で彼のことを待った。
狙い通り、彼は1人で学食へと来ている。
ならば、あとは簡単だ。
空いた席の隣に、座って話しかければ良い。
「やあ、隣いいかな?」
そう呼びかけて、図々しく隣の席に腰を下す。
「いやー、席が無くてね! 困ってたんだよね! 君のお陰で、助かったよ! おっと、カレーはUA限定のーー」
「ビック3の通形先輩が、無名の俺にーー何か用ですか?」
多少強引に会話に引き込もうとすると。
質問されてしまった。しかも、すでに警戒されている。
しくじった、と。
表情には出さないが、内心焦る。
相澤先生から事前に、影山くんがなかなか頭の回る少年と聞いていたが、隣に座るだけで、色々と気づかれてしまうとは、思ってもいなかった。
微笑んだ状態で、表情筋を固め、返答する。
「いやー、実は何も用事なんてないんだけどね!
それよりも、よく俺のこと知ってるね。雄英以外では有名じゃないんだけど……君、1年生だよね」
焦っていたせいか、要らない質問をしてしまう。
ミスに重なるミス。
コレで、彼は余計に警戒を強めたはずだ。
しかし、逆にコレで焦ってくれれば、流れは一気にこちらに来る。
彼は、へらへらと笑う。
「そりゃー、入学初日から友達から聞きましたからねー。
先輩こそ、俺が1年だってよく分かりましたね」
しばらく、ニコニコと睨み合いが続く。
その間に、流れを取るための一手を考え、俺は指した。
「いやね! 実はね、個性把握テストで凄い記録を出した子がいるって聞いてね! 気になって会いに来ちゃったのさ!」
「そうですか……で、感想は?」
全く焦ることなく、彼は俺の問いかけに答える。
流れは取れず、警戒も強まってしまった。
大失敗だ。
今回、失敗に終わるのは、良い、だがこの失敗は、次回、その次へと続く失敗。なんとしてもココから挽回する必要がある。
「そうだね……かなり強い。すでに俺は超えてるかな」
褒める。しかし、正直な気持ちだ。
この子は、すでに俺を超えている。
オールマイト同様の強者のオーラが、雰囲気が、威圧感が、初対面でもわかってしまう、圧倒的な力の格差。
しかし、こう話してみて改めて分かるのは、力だけではない。俺は、この子に、彼に、頭脳も負けている。
惨敗だ。
相澤先生には、悪いが、彼から情報を引き出すのは不可能だろう。彼と一対一の頭脳戦で勝てるのは、ハイスペックアニマルこと根津校長くらいではないなものだ。
「先輩も相当強いですね。プロヒーローと大差ない。いや、ビルボードチャート下位のヒーロー以上だ」
「はっはっはー! そうだね! かなり強い自信はあるね!」
俺と彼は、熱くなった会話を冷却すべく、お互いを褒め称える。
熱くなった会話では互いに情報を開示しなくなってしまう。それでは意味がない。
だが、俺と先輩の思惑は、今のやり取りで一致していることを理解した。お互いに“会話”に、まだ価値を見出しているのだ。
俺はそう見せかける。
すでに、彼から情報を引き出すことは諦めている。そして、それをブラフに。先ほどの大失敗のフォローに出来れば、今回は大の字だろう。
彼との水掛けのような会話が続き、食堂からも段々と人が少なくなっていく。
昼休みが終わろうとする頃。
彼が仕掛けてきた。
「先輩、そろそろ教えてくれませんか。
最初の質問の答えを。
俺は、水掛けの無意味な話し合いがしたいわけじゃない」
そう、彼は最初から俺に対して聞こうとしていることは、一つ。「何故、無名の自分に用事があるのか」ということだけだ。
もちろん、相澤先生から調べろ、と言われたからなどとは口が裂けても言えない。だから、相澤先生から聞いていた情報をココで使う。
「さっき、友達から俺のことを聞いたと言ったね。
ーーじゃあ何故、君は1人なんだい?」
「ぐはっ!」
胸を押さえて、彼は苦しみだした。
悪いね、君がぼっちなことは元々しっていたんだ。
恨めしそうな顔で俺のことを見てくる影山くん。
殺気はこもってないものの、圧倒的な強者から睨まれる。俺の心臓はバクバクとそのスピードを上げていった。
「あ、もうすぐ友達来るんで。1人ではないですね……(大嘘)」
それは、嘘だ。
「そうか、さっきから20分くらい友達は来てないみたいだけど」
「いやーー! みんなトイレ行っちゃったからなーー!!」
それも嘘だ。
「君だけ残して?」
俺は攻める、コレが有効だと分かったなら。先ほどの大失敗をカバーするために。俺の心臓が保つ、ギリギリで。
俺は放った。
「君、いじめられてるだろ?」
「はい、今まさに」
「え?」
「え?」
最高のタイミングで放った言葉により、話は完全にズレた。狙い通りだ。
確かに、イジメかもしれない。
けど、ライオンをいじめられるネズミがいるだろうか? いるとすれば、それは根津校長だろうね。
そうして、俺ははったりをきかせ、相澤先生からイジメられている生徒のサポートという理由をつけた。
相手が納得すれば嘘は有効打になる。
しかし、つき過ぎれば、いずれバレ、会話は成立しなくなってしまう。だから、少しだけ、嘘を混ぜて話す。
あとで、先生に報告するとき、話を合わせて貰う必要があるな。嘘をつかせるのは申し訳ないが、相澤先生に頼んでおこう。
こうして、俺と彼、影山モブ男くんの初の邂逅は終わりを告げた。
★★☆☆☆☆☆
「……と、いう感じですね。
ーー彼、僕らが思っている以上に頭が回る。高校1年生とは思えませんよ。常に色々なことを頭で予想、予測して動いている。
そして、オールマイト並みのオーラ。
アレじゃ、クラスメイトが馴染むまで友達が出来ないのも納得しました。一瞬で、格の違いを理解させられましたね。
ただ、相澤先生が言ったようなことにはならないと思います。まだ一回しか会っていないですが、彼からヴィランたちのような悪意や邪気のような負のオーラは全く感じなかった。
もう少し、探ってみますが。
今回ので、だいぶ警戒されてしまったから、少し時間をおきます。
あ、そうだ。
俺がついちゃった嘘の口裏合わせ、よろしくお願いします!
では! 失礼しました!」
相澤先生への報告を終了させた俺は、自分の教室へと戻っていく。
同じクラスで、残りのビッグ3の2人と会う。
青髪ロングが特徴的な
「ねえねえ、通形! なんで1年生とご飯食べてたの!?」
「それさ! 言えないんだよね! はっはっはーー!!」
極秘の依頼なので、言えるはずもなく、笑って誤魔化す。
「波動さん、人には言えないことがあるんだよ。だから、あんまり人には喋りかけない方がいい。そうすれば自分も聞かれたくないことを言われなくて済む」
「ムゥ」
黒髪でビビリ症の
「じゃあ、その1年生どうだった? 可愛かった? かっこよかった? それともーー強かった?」
「……波動さん、聞くのはーー」
「ああ、強かったさ。
ーー
まだまだ、僕らは弱い。
だから、この1年間で、さらに強くならなくてはならない。サーにもっと鍛えて貰わないと。
あ、そうだ。
サーにも近頃、紹介できればしたいな。
ーーオールマイトのような子がいるって。
そして、俺は知る。
一週間後。
影山モブ男が、雄英を去ったことをーー