再び始まる筑間先輩との1on1。
さっきまでとは違う。
考えずに身体の感覚に任せるように自分の思考を薄くする。
そうすることで筑間先輩が次にどう動くのかが面白いくらいにわかった。
「くそっ!」
「だから言ったでしょ。楽しくないバスケになるって」
クロは何度も何度も筑間先輩とこうしてバスケをしていたのだろう。
強豪校の選手相手にここまでのプレイはできないが、対筑間先輩となれば話は変わってくる。
何せあいつは、僕が小学四年生の頃からずっと筑間先輩を仮想敵としてバスケの練習をしていたのだ。
身体に刻み込まれた感覚は僕を勝利へと導いてくれる。
「お前、今まで本気出してなかったのか」
「いえ、本気でしたよ」
筑間先輩は信じられないものを見るような目で僕を見てくる。
的確に自分の癖を見抜いて対処してくる付き合いがそこまで深くない後輩。そんな奴気味が悪くて仕方ないだろう。
「ただ今はバフがかかっている状態なんで!」
クロの刻み込んだ感覚がより鮮明になる。
今回のことで、僕と筑間先輩の関係は以前までの仲の良い先輩後輩という関係ではなくなるだろう。
何せ僕は自分のエゴで筑間先輩の苦悩も何もかもを踏み荒らして、プライドすらも叩き折ろうとしているのだから。
確かに、二つの未来で紡がれていた関係を壊すのは寂しい。
でも、それで壊れてしまうのならば、それまでの仲だったというだけだ。
ノイズを除去して新しい関係を築く。
僕と筑間先輩が歪んだ関係にならないためにもそれは必要なことなのだ。
「僕の勝ちですね」
五本目になるシュートを決めて僕は告げた。
先程まで必死に食い下がっていた筑間先輩は呆然と立ち尽くしている。
「……ははっ、はははは!」
それから急に笑い出した。
「いやぁ、負けた負けた! ここまでコテンパンにやられたのは初めてだ!」
乱暴にシャツで汗を拭うと、筑間先輩はそのままコートに座り込んだ。
「やっぱ、思いっきりやるバスケは楽しいわ」
自分の得意分野で負けたというのに、筑間先輩は心底楽しそうだった。
その表情は憑き物が落ちたような表情に変わっていた。
「シロ、目が覚めたわ。サンキューな」
「お礼を言われるようなことはしてませんよ。僕はただ自分のためにやったことですから」
筑間先輩がこれからどういう道に進むのかはわからない。
それでも、バスケへの思いを拗らせて変な道へ行くことはないように思えた。
「約束は守ってもらえますか?」
「男に二言はねぇよ」
そして、天賦の才を持つ越後さんへ火を灯したヒーローとして、きちんと責任を取ってくれることも理解できた。