今頃、純は筑間先輩と話をつけている頃だろうか。
マグカップに入れた紅茶を飲みながら一人で思いにふける。
時刻は夜の九時。学校の宿題も粗方終わらせ、クラスメイト達の話題に上がった情報をノートにまとめ終わった頃だ。
純からの報告があるまで眠れなさそうだし、久しぶりにゲームでもしようと手を伸ばすも電源を付けたところで気が乗らなくなった。
モモの成仏が掛かっている今、ゲームに没頭できる精神状態ではなかったのだ。
「はぁ、つくづく自分が嫌になるわ……」
モモの存在は、一歩間違えれば自分がこうなるということを見せつけられているようで心底嫌な気持ちになる。
それでも純はモモを救おうとしてくれる。あたしのあり得たかもしれないもう一つの姿だから。
「リラはどうしてるのかな」
モモの未練は自分の意気地のなさが原因でリラを不幸にしてしまったこと。
それは理解できる。
あたしだって同じような状況になったら死ぬほど後悔するだろう。
だったら行動するべきは純じゃなくてあたしなんじゃないだろうか。
あたしは今日まで碌に何もしてこなかった。
モモという未来の自分の存在を確認しながらも、何も……。
「はぁ、やめやめ! お風呂入ってメンタルリセットしよ」
後ろ向きな思考を振り払うように首を左右に振ると、あたしは机を離れ風呂場へと向う。
すると、インターホンが鳴った。
「紅百合ー! ちょっと出てくれない?」
「はーい!」
お母さんの声が聞こえ、慌てて玄関へと方向転換。どうやら今は手が離せないみたいだ。
「えっ」
サンダルを履いて玄関の扉を開くと、そこにはリラが立っていた。
「その、よっす……」
「いや、よっすじゃなくてこんな時間にどうしたの? 門限とかあるで――っ」
突然の訪問に驚いていたが、リラの顔を見て全てが吹き飛んだ。
目は真っ赤に腫れ、頬にはくっきりと涙の筋が残っている。
さっきまで泣いていたのだろう。その表情だけで全てを察することができた。
あの母親と何かがあったのだろう。
「とにかく、上がって」
玄関へと迎え入れ、リラをリビングへ通す。
今リラに必要なのは心を落ち着けるための時間だ。
ホットミルクの入ったマグカップを用意する。
「……ごめん、急に来ちゃって」
「いいのよ。友達でしょ」
友達。自分で言っておいてその言葉に胸が痛む。
どの面下げてそんな言葉を吐くんだ、あたしは。
これは友情なんて綺麗な代物じゃない。
罪悪感から来る贖罪。
それは未来でのことじゃない。
あたしがリラにしてしまったこと。
遠回しにリラに嫌がらせをして、リラがあたしへ直接的な行動を起こすことを誘導した。
リラがこんな複雑な家庭環境にいることなんて知らなかったなんて言い訳だ。
「そんな顔しないでよ。あんたの方がよっぽど辛そうな顔してんじゃん」
この子は本音でぶつかってきてくれたというのに、あたしは結局自分のしでかしたことを謝ってすらいない。
リラと友達でいるのは居心地が良かったから、そんな卑しい気持ちがあった。
バレてなければわざわざ言うことじゃないか、そんな情けない気持ちがあった。
「心配かけちゃってごめん」
その言葉を受け取る資格はあたしにはない。
でも、だからこそ。今度こそ、本当の友達になりたいと思ったんだ。
「あっ、ごめん。メールだ」
一人だけ音楽を変えているため、誰からのメールなのかはすぐに分かった。
[白純:うまくいったよ!]
届いた自慢の彼氏からのメール。
それは情けないあたしに勇気をくれたのだった。