しかし、こいつの髪の荒れ具合は酷いもんだ。
ちらほらと千切れてるところを見るに、相当キューティクルが痛んでるな。
「シロって名前なの?」
「苗字が白って書いてツクモって読むからシロってあだ名になっただけだ」
「あっはは、シロって犬みたーい」
「はっ倒すぞ、この酔っ払いが」
本当に面倒なのに絡まれたもんだ。面倒だが、穏便に対処しないといけない。
生憎、こんな態度で絡まれても快く対応できるほど俺の器は大きくないというのに。
「ちぇー……お兄さんさては女の子で痛い目見た口ね」
「その心は?」
「だってあたしの胸を全然見ないから。大抵の人は面倒臭がりながら胸ばっか見てくるもん」
言われてみればこの紅百合とかいう女の胸はデカかった。顔もいいし、女に免疫のない奴ならコロッと落とされるだろう。
「どんなに容姿が良くても面倒な酔っ払いとは関わりたくないだけだっての」
「へぇ、容姿が良いとは思ってくれてるんだ」
「事実だからな」
思わず口を滑らせる。言ってから余計なことを口走ったと後悔するのがいつもの流れだ。
俺の言葉に気を良くしたのか、紅百合はぐいぐい身を寄せてくる。
「ねぇねぇ、お兄さん。良かったら一緒に飲まない?」
「もう飲んでるだろうが……ま、別に構わない。その代わり――」
責められっぱなしというのもムカついたため、こっちからも仕掛けることにした。
「俺と飲むからには無事で帰れると思うなよ」
「へぇ、言うじゃん?」
凄んでみるも、紅百合はただただ楽しそうに笑うだけ。その態度が気に食わなかった。
「んじゃ、まずショットでどれだけやれるか見せてもらおうか」
「上等よ!」
よし、バカだこいつ。乗ってきやがった。
とっとと潰して横で寝かせておこう。静かに眠っていればどんな酔っ払いも無害である。
それから二時間後。
「でさー! 同じグループにいたリーダー気取りのクソ女がさ本当にムカつく奴でさー! あたしはえちゴリラって心の中で呼んでたのよ!」
「だっはっは! えちゴリラっ、えちゴリラって! あだ名にしてもひどすぎるだろ!」
俺達は意気投合していた。
話してみればこの女、なかなか面白い奴だった。
趣味も合うし、打てば響くような小気味良い会話も、気まずくならない無言の時間も楽しかった。
お互い喫煙者だったことも意気投合した理由の一つだろう。
「紅百合がコンカフェ嬢ってのも納得だわ。そんだけ完璧美少女演じてたんなら天職だわな」
「でしょー? 純、わかってんじゃん」
気がつけば名前で呼び合うほどに俺達の波長は合っていた。
「そうだ、紅百合。その髪、だいぶキューティクルが痛んでるからケアとかやらせてもらえないか?」
「そっか、純って美容師か。あたしは嬉しいけど……いいの?」
初めてみる申し訳なさそうな顔で紅百合が聞いてくる。何で酔っ払って絡むときは気にしないのに、髪の手入れで申し訳なさそうにするんだ。
「そこまで荒れきった髪を放置しておくのは俺のプライドが許さん。せっかく素材がいいのに、台無しだ」
「……純って女たらし?」
「見た通りだ」
「じゃ、女たらしだ。あと美容師だし」
「同業者への熱い風評被害はやめろ」
軽口を交わしながら俺はスマホを取り出した。
「ここ、俺が働いてるヘアサロン」
「何だ、営業か」
「俺もこれで食ってるんでね。今なら友達割引にしとくぞ」
紅百合の痛んだ髪を手入れさせてほしいというのも嘘ではない。
こんな素体がいいのに、このヘアケアは見ていられなかったのだ。
仕事である以上、技術の安売りはできないというだけだ。
「ま、彼女ならタダでやらんこともないが」
「ねーよ」
「だよな」
俺達は笑い合うと、お互いの連絡先を交換する。
それからの記憶は曖昧だ。
酒に強いと言っても、限界というものは存在する。
どうやって帰宅したかまるで覚えていないが、ベッドの上にいるということは無事に帰れたようだ。
「……嘘だろ」
そして、二日酔いで痛む頭を押さえながら体を起こすと、隣には裸で寝ている紅百合がいたのだった。