未来じゃ共依存!   作:サニキ リオ

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第51話 やっぱこいつ嫌いだ!

 サイネリアでご飯を食べると既に十七時を過ぎていた。

 僕は目の前で(・ ・ ・ ・)手を繋いで歩く二人をどこかもやっとした気持ちで眺めていた。

 言い出したのは僕だけど、なんか複雑な気分だ……。

 

「英さん、先に席のとこ行ってて」

 

 今僕の体を動かしているのはクロなのだ。いつもの憑依とは違い、僕はクロの代わりに体から抜け出て二人の様子を窺っていた。

 

「ははーん、さてはまた奢るつもりね。これ以上カッコつけさせてたまるもんですか」

 

 頬を膨らませる英さんだったが、その膨らんだ頬は朱に染まっている。それにどこか楽しそうだ。

 何だか男としての格の違いを見せつけられた気分だ。

 

 クロが女性慣れしていることは理解していたつもりだったが、まさかここまでとは思わなかった。世間的にクズがモテる理由の一端を垣間見た気がする。

 

「英さんはポップコーン何味にする?」

「……あたしはキャラメルがいい」

「そっかー、僕は今日塩の気分だったけどキャラメルにしようかな」

「ちょ、あんたわかってて言ってるでしょ! わかったわよ、ホントは塩がいいですー!」

「よくできました」

 

 さっきからあの英さんが振り回されっぱなしである。

 それもそうか。クロは英さんの好みは完璧に把握しているうえに、女性経験豊富な女たらしだ。完璧美少女を演じ続けていた英さんとはいえ、勝ち目は薄いだろう。

 

 それにしてもクロの奴、幽霊とは思えないくらい生き生きしている。

 それもそのはずだ。何せクロは今、長年片想いし続けた相手である英さんと生前できなかったデートを満喫しているのだ。楽しくないわけがない。

 

 クロが倒れたあと、僕はクロから本当のことを聞いた。

 

 二人でニドコイを放映中に劇場で見たかったこと。

 未来での両親のこと。

 英さんが大量の睡眠薬を服用して意識不明の重体になったこと。

 自分が彼女の支えになれなかったことを悔やんでいること。

 セフレという関係を続けながらも、本当はずっと英さんが好きだったこと。

 関係が壊れるのを恐れて自分の気持ちを伝えられなかったこと。

 それを聞いて僕も胸が苦しくなるのを感じた。

 

 だから、僕はクロに体を貸すことを提案したのだ。

 クロのことは今も嫌いだ。それでも、こいつなりに必死に英さんを救おうとしていたのだ。その気持ちだけは嫌いになれない。

 

 本人曰く、過去に戻ったのは偶然で原因はわからないと言っているが、僕は偶然だとは思わない。クロの英さんへの強い想い。それがタイムスリップを引き起こしたのではないか。僕はそう思っている。

 ただのクズに成り果てた自分の最低な未来だと思っていたクロがこんなにも一人の女性を想えるという事実は、純粋に自分自身のこととして誇らしかった。

 

 誇らしいのだが――

 

「やっぱり白君変よ! 女慣れしてる感がすごいんだけど!」

「そうかな?」

「そうよ。なんか、調子狂う……」

 

 やっぱこいつ嫌いだ!

 

 頬を赤らめて俯く英さんを見ていると、誇らしかった気持ちなんてどこかへ吹き飛んでいた。

 

 何これ、完全に恋する乙女の表情じゃないか!

 英さんがこんな顔してるとこなんて見たことないぞ!

 

 それから映画上映中もタイミングを見計らってポップコーンを取ろうとした英さんと意図的に手を触れ合わせたり、とにかくこいつはアラサー女たらしとして培った技術をフル活用していた。ぐぬぬ……。

 

 そこでふと気がつく。何で僕はこんなにもモヤモヤしているのだろうか。

 別にいいじゃないか。英さんはあくまで大切な友達で、クロは英さんを救えなかった後悔から時を遡った。

 たった今、目の前のスクリーンで流れているニドコイに負けず劣らずの壮大なラブストーリーである。

 クロは報われる資格がある。そう思っているのは本心だというのに、やはり心にしこりが残る。

 

『ずっと自分の気持ちに気づかない振りをしてきた。でも、自分の気持ちに嘘はつけない』

 

 ちょうど映画は佳境に入ったところだ。

 過去でヒロインを救うことができた主人公は元の時代に戻ることになる。そこには無事に生きてるヒロインが存在していた。

 

 しかし、戻った未来では主人公とヒロインは何の関りもない赤の他人という関係性になっていた。

 ヒロインが助かればいい。そう思っていた主人公だったが、一度抱いた気持ちに嘘はつけなかった。

 

『過去とか未来とか関係ない。俺はただお前が好きなんだよ!』

 

 その台詞は、まるで僕の心境を表しているかのようだった。

 そして、熱に浮かされたような表情でスクリーンではなく、クロが入った僕の顔を見る英さんを見てようやく気づいた。

 

 ああ、そうか――僕は英さんが好きなんだ。

 

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