未来じゃ共依存!   作:サニキ リオ

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第52話 だって、あたしはあたしだから

 映画館を出る頃にはすっかり日が落ちていた。

 もう五月とはいえ、時刻は十九時をとっくに回っているので当然といえば当然だ。あまり高校生だけで出歩くべき時間帯ではない。

 ゆっくりと手を繋いで歩いている二人を後ろから眺める。

 

「ねぇ、白君」

 

 不意に英さんが口を開いた。

 

「あたしに話があるんじゃないの?」

「……そうだね」

 

 空気を読むのが得意な英さんはクロから漂う告白前の空気を敏感に感じ取っていたようだ。クロは立ち止まると英さんの方を振り向いて、真剣な眼差しを向ける。

 

「場所を変えようか」

 

 クロはそう告げると、ラッシャイ通りから外れ、池袋にあるアニメショップ前の公園へ英さんを連れていく。

 

「おっ、まだ喫煙所がある……」

 

 クロ曰く、未来では喫煙所も撤去されて綺麗に整備された広場になっているそうだが、今はアニメの缶バッジを交換しているオタクらしき人が公園の入り口付近にちらほらいるだけだ。

 

「白君、先に教えてくれる?」

 

 英さんはそう前置きすると、続けて尋ねる。

 

「あなた、白君だけど白君じゃないんでしょ」

「なっ……」

 

 僕もクロも予想外の発言に言葉を失った。

 英さんは確信を持って僕らの目をじっと見つめてくる。その瞳は真っ直ぐで、一切の曇りはなかった。

 

「急にどうしたんだよ英さん」

 

 クロは動揺を悟られないように冷静を装いながら答える。

 

「一ヶ月くらいだけど、これだけ一緒にいればわかるわ」

 

 クロは苦笑いを浮かべながら誤魔化そうとするが、英さんはそれを許さなかった。

 しばしの沈黙のあと、クロは観念したように溜息をついた。

 

「ったく、未来でも過去でも紅百合には敵わねぇな」

 

 ガシガシとセットした髪を掻くと、クロは頭を垂れる。

 

「俺は十四年後の未来からきた白純だ」

「十四年後かぁ……随分と女慣れしたみたいね」

「うっせ」

 

 英さんの皮肉めいた物言いに、クロはバツが悪そうな顔をする。

 

「白君の言ってた虫ってあなたのことだったのね」

「ハッ、酷ぇ話だよな。こちとらいろいろアドバイスしてやったってのに」

「……つまり、あたしの本性をバラしたのはあなたってことよね」

「おいおい、そう睨むなよ。未来じゃ俺に対してずっと本性剝き出しだったんだぞ?」

 

 恨めし気な表情で睨んでくる英さんを見て、クロは楽し気に笑っていた。

 

「未来のあたしとは随分と親しい関係だったみたいね」

「まあな。今とそんな変わんねぇよ」

 

 楽し気な表情から一転、どこか寂し気な表情を浮かべると、クロはポツリと呟いた。

 

「居心地の良い関係だった。ずっとこのままいたい……そう思うくらいにはな」

 

 クロは、英さんと関係を持つようになってから英さんのことを好きにならないように必死に抑え込んでいた。それでも、心の奥底では英さんのことが好きだったのだ。

 程良い距離を縮めようとすれば英さんが離れていく、そう感じていたのだろう。

 

「でも、それじゃ何も変わらない。何もかも先送りにして考えるのをやめた結果、未練に塗れたタイムスリップだ」

 

 英さんが死ぬ運命を回避したとしても、セフレという歪な関係は続き、いずれ破綻していた。クロはその事実に気づきながらも、自分からは動けなかった。

 クロが事あるごとに、僕へ自分で考えるように促していたのも英さんを支えられる人間になってほしかったからだろう。

 

「その、未練って?」

 

 英さんは真剣な表情のまま尋ねる。それに対して、クロは少し躊躇するような素振りを見せたあと、意を決した様子で口を開く。

 

「俺は、紅百合のことが好きだ」

 

 クロは堂々と胸を張って英さんに想いを伝えた。普段の態度や言動とは裏腹に、その顔は真剣そのものだった。

 英さんは目を逸らすことなくその言葉を受け止めると、クロが入った僕の体を優しく抱きしめた。

 

「ありがとう、こんなあたしを好きになってくれて」

「く、ゆり……?」

「あたしも好きだったよ」

 

 一瞬、英さんが未来の英さんになったかのように感じた。

 

 でも、それは気のせいで英さんはただクロのために未来の自分の気持ちを代弁していたのだ。

 その言葉を聞いた途端、クロは英さんに抱きしめられたまま泣き崩れた。

 

「俺は、お前を支えてやれなかった……! ごめん、本当にごめん……!」

「ううん、すごく支えられていたのよ。未来のあたしがどうなってるか知らないけど、気持ちだけはわかるの」

 

 そう言って微笑むと、英さんは満面の笑みを浮かべて告げた。

 

「だって、あたしはあたしだから」

 

 その表情は本当に……本当に、何よりも綺麗な笑顔だった。

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