未来じゃ共依存!   作:サニキ リオ

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第53話 立つ鳥跡を濁しまくり

 英さんの表情を見た瞬間、クロの代わりに霊体として外にあった僕の魂は突然何かに吸い込まれた。

 

「ん?」

 

 目を開けると、宝石のような瞳に沿って引かれた強調線のような長い睫毛と色っぽさを引き立てる泣きボクロが視界に飛び込んできた。

 視線を下げればそこには薄いピンクのリップが塗られた艶やかな唇。そして、感じるとてつもなく柔らかい弾力の存在感。

 

「ん!?」

 

 至近距離にある英さんの顔、抱きしめられている感触、鼻腔を擽る甘い香り。

 あまりの情報量に自分が肉体に戻ったということを理解するのに時間を要した。

 

「英、さん?」

「どうしたの?」

「元の僕に戻ったみたいなんだけど……」

 

 僕の呼びかけに英さんは一瞬きょとんとする。

 やがて、その事実に気がついたのか、みるみると顔どころか耳まで赤く染まっていく。

 

「ちょわぁぁぁぁぁ!?」

「ぐべっ!?」

 

 先ほどまで優しく抱きしめられていたのに、奇声と共に僕は地面に突き飛ばされていた。

 

「あっ、ごめん!」

「……いや、大丈夫。クロの奴が急に主導権戻してきたのが悪いんだし」

 

 慌てて謝ってくる英さんに苦笑いしながら立ち上がる。

 

「ったく、クロの奴はどこに――」

 

 そこで気づく。いつも感じる気配が近くに感じられない。

 

『ここだ』

 

 辺りを見渡すと、そこには後ろの景色が見えるほどに体の透けたクロがいた。

 

「えっ、これが未来の白君? 想像の十倍はガラ悪いんだけど」

『うっせ……いや、待て。紅百合、お前俺が見えるのか?』

 

 クロの言葉を聞いてハッとした。何故かはわからないが、英さんはクロの姿が見えているようだ。

 英さんはクロに近づくと、恐る恐るといった様子で手を伸ばす。すると、その手はクロの体を通り抜けた。

 

「実体はないのね……」

『時をかける幽霊だからな』

 

 悲し気な表情を浮かべる英さんに、クロは淡々と答える。

 クロに残された時間は少ない。十年近く傍にいたせいだろうか。あんなに鬱陶しいと思っていたのに、今更ながら寂しさが込み上げてきた。

 

『そうだ、シロ。最期に言っておくことがある』

 

 初めて僕をあだ名で呼ぶと、クロはタバコを咥えて火を着ける。

 

『今日まで頑張ってきたのは俺じゃない。この時代を生きる白純、お前だ』

 

 そして、紫煙を吐き出すと真剣な眼差しを向けて告げた。

 

『だから、安心しろ。紅百合もメス顔で見ていたのは俺じゃない。あくまで俺の行動を通してお前の未来を見ていただけだ』

「メス顔なんてしてないわよ!」

 

 横で顔を真っ赤にして抗議する英さんを無視してクロは続ける。

 

『せいぜい紅百合を幸せにしてやれ。今のお前なら余裕だろ?』

「当たり前だ!」

 

 僕の中で、クロとの思い出が次々と蘇ってきた。

 部屋でタバコを吸われたり、勝手にお小遣いを使って服やゲームを買われたり、何かにつけては僕を揶揄ってきたり、碌な思い出がない。

 

 でも、クロはいつだって僕の傍にいてくれた。気がつけばこいつは僕の日常の一部になっていたのだ。

 

 ああ、そうか。両親との時間を碌に過ごせなかった僕が寂しくなかったのはクロがいたからなんだ。

 

「クロ、ありがとう」

『よせや、礼なんて気持ち悪ぃ』

 

 ぶっきらぼうに言うと、クロは照れたように頬を掻いた。それから、英さんの方を向くとある提案をした。

 

『そうだ、紅百合。冥土の土産だ。未来の自分の写真くらい見ていくか?』

「えっ、そんなの見れるの!?」

 

 興味津々な様子で食いつく英さんに、クロはスマートフォンを取り出して写真を画面に表示した。

 

『ほれ』

 

 そこには前に見せてもらった未来の英さんの写真が表示されていた。

 

「うっわ、未来のあたし落ちぶれすぎじゃない? 髪とか荒れ放題じゃん」

『これでも俺の店でしっかり髪質改善してやったんだけどな……』

「……なんかごめん」

 

 どこか遠い目をするクロに、英さんはバツが悪そうに謝罪していた。

 

『あっ、やっべ』

 

 クロの指が振れ、画面がスライドされる。

 その瞬間、画面いっぱいに肌色面積過多な動画が流れ出した――ハメ撮りである。

 

 そして、突如大音量で響き渡る未来の英さんの嬌声。それにその場にいた全員が凍り付いた。

 

『……じゃ、俺はこの辺でお暇させてもらうわ』

 

 今生の別れだというのに軽い調子で言うと、クロは気まずそうに消えていく。

 光の粒子となって消えていくクロを、僕達は呆然と眺めることしかできなかった。

 

「「……………………」」

 

 しばらく沈黙が続き、最初に口を開いたのは英さんだった。

 真っ赤に染まった顔を手で隠して小刻みに震えていたが、やがて耐え切れなくなったのだろう。僕の胸倉を勢いよく掴んで叫んだ。

 

「なんてもん流してんのよ!」

「僕じゃない!」

「未来のあんたでしょうが!」

「いや、理不尽!」

 

 英さんは怒りはなかなか収まることはなく、後日学校でもしばらく口を利いてもらえなかった。

 

 立つ鳥跡を濁しまくりじゃないか、あのクズ!

 

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