未来じゃ共依存!   作:サニキ リオ

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2章 ~未来じゃ疎遠~
第55話 クロノート


 クロがいなくなってからそれなりに時間が経った。

 不思議なもので、あれだけ鬱陶しかった奴もいなくなれば寂しいという感情が芽生えてしまう。

 

「もう梅雨か……」

 

 外から聞こえる雨音は僕の中に巣食う寂しさを増大させているようにも感じられる。

 

 何せ小四のときからずっと傍にいたのだ。

 それが綺麗さっぱり跡形もなく消えてしまえば寂しくて当然だ。

 辛うじてクロがいたことを証明するものは無駄に二台あるゲーム機や身嗜みを整えるための道具くらいだ。

 

「ったく、僕は自分じゃ髪切れないってのに……」

 

 すきバサミなんてあったって僕には使えない。どうしろっていうんだよ。

 それでも、僕がクロ()であった確かな証を捨てる気にはなれなかった。

 

 クロは成仏した後、どうなったのだろうか。

 存在そのものが消え去ってしまったのか。はたまた未来のあの世で英さんと再会しているのか。

 あれだけ苦しみ続けたのだ。あいつにこれからがあるというのならば、それは幸せなものであってほしいと願ってしまう。

 

「にしても、進まないなぁ」

 

 蛍光灯の光に照らされる室内は酷いものだった。

 クロの遺品と英さんの持ち込んだ私物で散らかった室内を僕は直視することができない。

 最近では暇を持て余している越後さんまで来るのだから散らかし具合に拍車がかかっている始末だ。

 

 とはいえ、明日はまた英さんが家に来る日だ。

 ここで片付けておかないと、足の踏み場もなくなってしまう。それだけは絶対に避けなければならない。

 僕は無理矢理やる気を出して部屋を片付け始めた。

 

「何だこれ?」

 

 しばらく片付けを進めていると、見覚えのない鍵が出てきた。

 いや、見覚えはある。

 確かほとんど使っていない机の引き出しの鍵だ。

 さっそく引き出しの鍵穴に差し込んでみると、カチャリと音を立ててあっさり引き出しが開いた。

 引き出しには何も入っていない。が、すぐに違和感に気がつく。

 引き出しの大きさに比べて底が浅すぎる。

 案の定、下から衝撃を与えてやれば板がズレた。

 

「二重底って、漫画じゃないんだから……」

 

 呆れながら引き出しの板を持ち上げると、そこには一冊の大学ノートが入っていた。

 

「本当にノート出てきちゃったよ」

 

 名前を書くと人が亡くなるノートでないことを祈りながらノートを開くと、そこには驚くべき内容が記載されていた。

 

「これって、クロが書いたのか」

 

 そこには未来に起こる出来事や、かつてクロが出会ったであろう信頼できる人間についての情報が事細かに記載されていた。おそらく、僕が寝ている間に体を乗っ取って書いたのだろう。

 当然、そこには父さんの事故の原因や日時まで詳しく記載されていた。

 

「クロの奴……」

 

 親なんてATMだとしか思えないなんて言っていた癖に、こうして僕のために情報を残しておいてくれたのだ。

 その事実を理解した途端、両頬に涙が伝う。

 あいつはあいつなりに、残された僕のことを考えてくれていたらしい。

 そのまま読み進めていると、今度は競馬で活躍する競走馬の名前などが出てきたがそれについてはさっぱりわからなかった。

 というか、バタフライエフェクトでいろいろ変わっているのに、このノートの通りに未来が進むとも思えない。ギャンブルの類には手を出さない方がいいだろう。

 

[これだけ書いておいてなんだが、ギャンブルだけはやめとけ]

 

「だったら書くなよ!」

 

 競馬欄の下に書かれていた一文についツッコミを入れてしまった。

 まあ、これもクロなりの冗談なのだろう。

 

「それにしても、未来じゃ外でマスクするのが当たり前なんて信じられないなぁ」

 

 どうやら十年後には大規模な感染症で世界が大混乱に陥るらしい。まるでゾンビ映画のパンデミックみたいだ。

 

 飲食業界は大打撃を受けるからやめておいた方がいい。

 キャバクラやガールズバーが潰れた代わりにコンカフェが台頭する。

 巣ごもり需要の影響でライブ配信業界が活性化する。

 他にも様々な未来の情報がそこにはあった。

 

 そして、そこには未来において英さんが入社することになった企業の名前も記されていた。

 

[紅百合を不幸にしたら化けて出てやる]

 

「もう化けて出てきてただろ……」

 

 まったく、本当に素直じゃない奴だ。

 英さんとの関係は友達以上恋人未満止まり。このままダラダラとこの関係を続けていてもクロの二の舞になってしまう。

 

 だから、前に進まなければ。

 託された思いと芽生えた想いを胸に、僕は英さんに対して想いを告げようと心に決めた。

 

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