未来じゃ共依存!   作:サニキ リオ

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第8話 それなら、いっそのことちゃんと付き合えば良かったのに

 結局、英さんの圧に屈した僕は自宅に彼女を招き入れることになってしまった。

 学年一の美少女が家に来るなんて夢のような話だが、夢ならばどれほど良かったことか。

 

「お邪魔します」

「ああ、うちは両親共働きだから家にいないよ」

「あっそ、猫被って損した」

 

 すぐに営業スマイルを引っ込めると、英さんは肩の力を抜いて素の表情に戻った。

 気怠げな表情、よく見れば切れ長の瞳。

 学校にいるときとは打って変わって、今の英さんはクロに見せてもらった未来の英さんに近い印象がある。

 

「……何よ」

「いや、素のときの英さんってウルフ似合いそうだなーって思って」

「キャラじゃないでしょ。あたし、サバサバ系じゃないし。あたしは誰からも愛されるおっとりした完璧美少女なの」

 

 普通自分で言うか、それ。

 藪蛇になりそうだったため、僕は出掛かった言葉を飲み込んだ。

 それから英さんは脱いだ靴を綺麗に揃えてから僕に着いてくる。

 どうやらこういう部分は素でもしっかりしているようだ。

 二階に上がり、英さんを招き入れる。

 

「ここが僕の部屋。散らかってるけど、我慢してね」

 

 僕の部屋は漫画やゲームと物が多い。

 クロに体を乗っ取られたときはバカみたいに散らかされるため、できるだけ普段からある程度は片付けてはいるが、人を呼ぶならもっと片付けたかったところではある。

 

「うっわ、めっちゃ漫画あるじゃん! ゲームもこんなに!」

 

 僕の部屋に入るなり、英さんは少年のように目を輝かせた。

 英さんのことだから、オタクっぽくてダサいと切り捨てられると思っていたのだが、どうやら彼女は漫画やゲームも好きらしい。

 ファッション雑誌ばっかり読み漁っているイメージがあったから意外である。

 

「あれ、何で同じゲーム機二台ずつあるの?」

 

 英さんのツッコミは最もだ。

 これは主にクロのせいである。

 クロは僕の体を乗っ取っては勝手にゲームで遊び、僕のセーブデータに上書きをするのだ。何度殺意が湧いたことだろうか。

 そういった経緯もあり、仕方なく僕はソフトもハードも両方僕用のものとクロ用のものとで分けることにしたのだ。

 おかげで多めにもらっているはずのお小遣いはいつもカツカツである。

 

「ほら、モンテとかやるとき二台ないと通信交換できないだろ?」

 

 モンテことモンスターテイルズ。

 国民的大人気ゲームで、異次元からやってきたモンスターを捕獲し、共に冒険する育成ゲームだ。

 このゲームはお互いのモンスターを交換する機能がある。バージョンによって出現するモンスターが違うこともあり、モンテ捕獲コンプリートを達成するには別バージョンを持っている友人から交換してもらう必要があった。

 

「あー、確かにあのゲームボッチ殺しだもんね」

 

 僕の言葉に英さんは深く頷いて納得してくれた。うまくごまかせたようだ。ありがとう、モンテ。

 

「英さんもモンテやってるの?」

「まあね。こう見えてシリーズ初代からやってるガチ勢よ」

 

 モンテは僕達が幼稚園くらいの頃に発売された。

 つまり、僕や英さんはモンテと共に育ってきたような世代なのだ。

 クロ曰く、未来でもよりコンテンツとしての影響力が拡大しているようで、モンテをプレイしているかどうかは置いておいて名前を知らない人はいないレベルになっているそうだ。

 

「意外すぎる……というか、英さんなら友達たくさんいるんだし、交換してくれる人は結構いるんじゃないかな」

「あたしにモンテをやってる友達がいると思う?」

「納得できてしまうのが悲しい……」

 

 英さんの友人と言えば、バリバリのスポーツ系女子か、流行の最先端を行くギャルだ。

 クロのいた未来では、ギャルだろうとアニメもゲームもして当たり前らしいが、今の時代ではあまりゲームをやったり、漫画を読んだりする友人はいないだろうし、自分がそういうものが好きとも言えないのだろう。これは確かにストレスが溜まってしょうがない。

 

「とりあえず、飲み物とか持ってくるから」

「ん、ありがと」

 

 英さんは特にリクエストをすることもなく、短くお礼を言うと本棚から無造作に少年漫画を手にとって読み始めた。

 部屋を出ると、廊下にはどこか楽しげな表情を浮かべたクロが立っていた。

 

「クロ、英さんが家にいるんだから出てくるなよ」

『そう硬ぇこと言うなよ。ナニしてようが邪魔はしねぇからよ』

 

 なんだろう、気遣いの言葉のはずなのに酷い下ネタを聞かされた気分である。

 

「大人しくしててくれるならいいんだけどさ」

 

 それから一階に降りて麦茶と適当なお菓子をお盆に載せていると、横からクロが口を挟んできた。

 

『待て、菓子ならこっちの方がいいぞ』

 

 クロはそう言うと、戸棚に入っている甘さ控えめのチョコレートを指差した。

 

「何で知ってるんだよ?」

『紅百合が俺の部屋に来てたときは、いつもこれ持ち込んで食ってたからな』

 

 未来の趣向とどこまで同じかわからないが、選んでおいて損はない。クロの言う通り、甘さ控え目のチョコレートを出していると、クロは珍しく穏やかな表情を浮かべた。

 

『なんか懐かしいな、こういうの』

「え?」

『いや、確かに俺と紅百合はセフレだったが、普通に遊ぶことも多かったからな。普通にゲームして一緒に漫画読んだり、サブスクで映画見たりとか、そういう思い出もあったなぁって思っただけだ』

「ただの肉体関係って割には仲良かったんだな」

『まあな。相性が良かったのは体だけじゃないってことだ』

 

 それなら、いっそのことちゃんと付き合えば良かったのに。

 

『それなら、いっそのことちゃんと付き合えば良かったのに、とでも言いたそうだな』

「人の心を読むな」

『読まなくてもお前の考えてることなんて手に取るようにわかる。何てたって俺はお前()なんだからな』

 

 いつものムカつく台詞を零すと、クロは肩を竦めて訳知り顔で告げる。

 

『高校生のときの恋愛といい歳した大人の恋愛は違うってことだ』

「ああ、そっか。借金あるようなクズとは結婚なんてできないから恋人になれないのか」

『ははっ、言うじゃねぇか!』

 

 僕の辛辣な言葉にもまるで堪えた様子はなく、クロは楽し気に笑うだけだった。

 

『ま、俺も紅百合も気楽に遊べてお互いの性欲も解消できるwin-winな関係だったからな。体の相性は最高だったが、恋愛とかそういうのはお互いに面倒くさかったんだよ』

 

 鼻の頭を掻きながら何てことないように告げるクロに、改めて大人なんだなと実感させられる。

 普段は下ネタかバカ話しかしない癖に、こういうところで大人な一面を出してくるのはシンプルに腹が立つ。クズの癖に。

 

『おっと、もう一つお役立ち情報をやろう』

 

 タバコに火を着けながら、クロはもったいぶったように言った。

 

「お役立ち情報?」

 

 英さんと接するうえでの注意点だろうか。それならば是非とも聞いておきたい。

 

『さっき階段で覗いたが紅百合の今日のパンツの色は水色だ』

「少しでもお前に期待した僕がバカだったよ」

 

 

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