英さんは硬直から立ち直ると、精一杯の営業スマイルを浮かべて告げる。
「珍しい組み合わせだね(これは、どういうこと?)」
「あっ、いや、これは、その」
目が笑っていない。
何とか事情を説明しようにも、英さんにどう告白すればいいかの相談をしていたなんて言えるわけもない。
「くゆちゃん、やほー。ここでバイトしてたんだねー」
一方、吉祥院さんは自然体だった。
「言いたいことはいろいろあるだろうけどさー、大丈夫だよ」
「え?」
予想外の言葉に英さんは目を丸くした。
「シロ君は大丈夫だよ」
「吉祥院さん……」
有無を言わせない真っすぐな瞳に感じ取れるものがあったのだろう。
「そうだね、信じる」
ふっ、と肩の力を抜くと、英さんは自然な笑みを浮かべた。
「おかわり持ってくるね」
「あの、英さん」
吉祥院さんのおかげで変に拗れなくて済んだ。
それでも僕も何か言わなくちゃいけない。そんな気がして必死に言葉を紡ぐ。
「えっと……バイトの制服着た英さんも可愛いね」
何でだよ。
「けほっ、げほっ……!?」
ほら、変なこと急に言うから英さんが咽ちゃった。
「お、おかわりもらってくるね!」
目を激しく泳がせると英さんは慌てて厨房へと引っ込んでいった。
『紅百合ちゃん、彼氏? 修羅場?』
『ち、ちが、違うからね!』
『あー、好きな人か』
『そ、それは、違わな――いや、ちがっ』
『ほー!』
『いやいや、ちょっと待って! 違うから、話聞いて翔子ちゃん!?』
どうやらバイト仲間に揶揄われてしまったようだ。また英さんが猫を被り損ねてる。申し訳ない。
いや、素を出せる知り合いが増えるのはいいことだ。そう思うことにしよう。
「…………良かったぁ」
てっきり笑っているのかと思いきや、吉祥院さんは心から安堵したような表情を浮かべていた。よく見れば変な二つの窪みがついた指輪をはめた指が震えている。
あの指輪についてる宝石、小さいけど本物じゃないよな……? それともお嬢様は学校にもマジモノの宝石付きアクセサリーをつけてくるものなのか。
「さっきのはポーカーフェイスかよ」
「あはは……こう見えて結構トラウマなんだよね」
「トラウマ?」
「昔からさ、私が関わると碌なことにならないんだ」
力なく笑うと吉祥院さんは初めて本音を吐露した。
「お邪魔虫っていうのかな。きっと私がいなければ誰も不幸にならなかったんだ」
どこか遠い目をする吉祥院さんは過去の行いを悔いているようだった。
「そういうわけで、私は傍観者気取ってるわけよー」
「それじゃあ、何で今回は僕の相談に乗ってくれたの?」
吉祥院さんが過去、自分が積極的に関わったことで何らかのコミュニティを崩壊させてしまったことは理解できた。
だとしたら、そんなトラウマを抱えた上でどうして僕の相談に乗ってくれたのだろうか。
「うーん……そうだねー」
吉祥院さんはしばらく考え込んだのちに答える。
「余計なお世話がしたかったから、かな」
どこかの誰かさんのような言葉を告げた吉祥院さんは、困ったように笑うのだった。