英さんのバイトが終わり、僕達は一緒に帰ることになった。
てっきり英さんのことだから、クラスメイトに見られるのを嫌って別行動をとるものだと思っていた。
「あのね、あたし達は同じグループの人間って認知されてるんだから別にどうとでも言いわけできるでしょ」
「というと?」
「他のメンバーが先に帰ったって言うだけでいいのよ」
「なるほど、何なら事実だしね」
まるで高校生のカップルが言いそうな陳腐な言い訳を自分が用意することになるとは。
人生わからないものである。
『あ……あぁ……』
モモは脳破壊から立ち直れていないようで、ゾンビのように英さんの後を付いてきていた。憐れである。
「門限は十八時だっけ?」
「ええ、もちろん延長も可能よ」
「カラオケかよ」
悪戯っぽい笑みを浮かべて携帯電話を取り出してみせる。どうやら恵莉花さんへ電話する気満々のようだ。
「わかった。遅くなり過ぎないようにするね。うん、大丈夫……はーい」
電話の結果、恵莉花さんは喜んで門限を延長してくれた。
「お母さんからの白君への信頼度はもうカンストレベルね」
「そこまで恵莉花さんに何かした覚えないんだけどなぁ……」
まあ、信頼されるのは悪いことじゃない。あとは、その信頼を裏切らないよう行動するだけだ。
「せっかくだから本屋寄ってく?」
「いいわね、ちょうどこの前出たミステリーの新刊気になってたのよね」
書店の軒先のワゴンで平積みされている新刊を見て、英さんは目を輝かせた。
そういえば、クロの真実が判明したときも本屋での会話がきっかけだったっけ。
……ミステリーの話しなくてもモモは死にかけ、というか死んでるけど。
「新刊って不動翔子の新刊?」
「うん、今回は三角関係のドロドロしたやつみたいね」
「うわー、英さんが好きそう」
「ちょっと、どういう意味よ」
英さんが睨んできたので話題を変えよう。
「そういえば、バイト仲間のあの人も翔子って名前だったよね」
未来じゃVtuberとやららしいけど、もしかしたらあの子の影響もあって配信者になるのだろうか。
「あー、翔子ちゃんね。名前知ってたの?」
「名札に書いてあったからね」
「はい、鼻の頭掻いたから嘘。それに名札には苗字の桜井しか書いてないから。どうせどっかであたしが呼んでるのが聞こえてたんでしょ」
しまった。つい癖で……!
いい加減この癖ともおさらばしたいところである。
「翔子ちゃんって歌うまいのよね。前にカラオケ行ったときとかビックリしちゃったもん」
「バイト仲間とカラオケとか行くんだ」
「付き合いでね。翔子ちゃんもダルそうにしてたわ。でも、推しの男性アイドルの曲歌ってるときは楽しそうだったわ。あれは普段からボイトレとかしてるわね」
「そんなことまでわかるの……」
もう英さんはミステリーに出てくるような探偵やって方がいいんじゃないだろうか。
いや、本人が亡くなりまくってるから探偵は無理か。
「もしかして、英さんもボイトレとかしてる?」
「活舌の練習と、人が聞いたときに心地良い高さの声がすぐに出せるようにはしてるわ」
「想像を優に越えるのやめて」
相も変わらず英さんは完璧美少女である努力をやめるつもりはないようだ。
負担になっていないのなら別に悪いことじゃないから止める理由はない。モモを大人しくさせてからは英さんの表情も活き活きとしているし。
「あれ、もしかして生徒会長じゃない?」
驚いたように英さんが指を差すと、そこには参考書を選んでいる生徒会長がいた。
「生徒会長って高校三年生よね。今の時期に参考書選ぶっておかしくない?」
「あれれー、おかしいぞーってか」
「パラパラと捲ってるだけだけど、あんなの意味あるのかしら」
眼鏡の小学生(高校生)の真似はスルーされた。
「これは事件ね……!」
英さんの目は輝いていた。それはもうキラッキラと。
まったく、しょうがない。どうせ夏休みで暇だし、英さんの気が済むまで付き合うとしよう。