その日の夜。
電気を消して目を瞑っているとどうしても生徒会長のあの顔が頭を過ぎる。
『知ってる? 地獄って生きてても落とせるのよ』
人の笑顔に恐怖を覚えたのは初めての経験だった。
生徒会長が何故セクシー女優になったのか。その答えがあの笑顔だ。
もし有名大学に入学し、あの母親が周囲に自慢しつくしたタイミングでセクシー女優になったらどうなるか。
あのルックスも、学力も、全てをかけて母親を地獄に堕とすための準備でしかなかったのだ。
『ばあ!』
「うわぁ!?」
眠れずに体を起こした僕の前に突然ピンク色の幽霊が現れる。英さんに憑りついているはずのモモである。
『にひひっ、ビックリした?』
「マジで心臓に悪いのやめろ」
君は幽霊的に言えば本物なんだぞ。暗闇で出てこられるとシャレにならない。
電気をつけて部屋を明るくするとモモは表情をムッとさせた。
『そんなに邪険にしなくてもいいじゃん』
「……英さんのとこにいなくていいのか」
『こっちのあたしはノーパンにならなきゃあたしが見えないから退屈なのよ』
「難儀なもんだよね」
振り回される続ける英さんが本当に不憫でならない。
クロのときも大概振り回されてきたが、英さんはその比じゃないだろう。
『……怒ってる? ノート隠したこと』
僕の機嫌を窺うようにモモは顔を覗き込んでくる。
これは罪悪感でしょんぼりしている顔だ。何だかんだでモモも英さんである。
「いいや、全然」
だから、ここは嘘でも怒っていないと言ってやるべきである。
『やっぱ怒ってるじゃん! 今、鼻の頭掻いてた!』
「そこは気づかない振りしときなよ」
せっかく人が気を遣っているというのに。
「正直、怒ってはいるよ」
『っ!』
僕の言葉にモモは表情を強張らせる。
「でも、それ以上に君を救いたいとも思ってる」
『えっ』
僕の発言がよっぽど予想外だったのか、モモは目に見えて戸惑っていた。
僕にとって、ノートのことなんて些細なことだ。
大切なのはモモの魂を解放してあげること。
「たとえ、どんなに君の性格が悪くなろうがモモは英さんだ」
良いように解釈し過ぎだと言われても、曲げるつもりはない。
英さんは心の根の優しい女の子だ。
じゃなきゃ越後さんのことでこんなに苦しんだりなんかしない。
モモだって、父さんの事故のことは気にかけてくれていたのだ。
ノートを奪ったのは確かに自分勝手な都合だったかもしれない。本来救えた人が救えなくなったことに関しては怒ってもいる。
それでも、僕はモモを救いたいという気持ちは変わらなかった。
「好きな人が死んで未練タラタラで成仏できないのに、放っておく理由がどこにあるんだよ」
『白君……あたし、あたし……! ごめんなさい!』
僕の言葉にモモは瞳から大粒の涙を零した。