前世軍人記憶持ち系元正実のシャーレ所属万事屋生徒がサオリと色彩をぶん殴る話 作:拳正義実現委員会
「なぁ?随分とグレたみたいじゃねぇか。」
「『ほぅ……一応聞いておこう。何故知っている?』」
「私もトリニティなんだよ、元な。お前の事も数回だが見た事がある……随分と風貌は変わっちまってて気付かなかったが、上着脱いでっからピンと来た。……なんでこんなとこで傭兵やってんだ?」
トリニティの退学者……。トリニティ総合学園は成績不振者も手厚くサポートする為、極端に退学・停学者が少ない筈だ。
「『──よく退学できたな?アソコを退学するのは成績上位100位内に入るより難しいぜ?相当やらかしたな、お前。』」
と、一筋の汗を流しながら返していると。
「──レンさーん!」
「『……む?』」
少し離れからヒフミが声を上げこちらに近づいて来ている。
口振りからして、私の正体は気付いていないらしい……?
「なんでトリニティの英雄サマが正体隠してブラックマーケットで傭兵やってんだか知らんが……さては、正体知られたらまずい事情があるな?」
ニヤリ、とチンピラの顔が歪む。
「おい!そこのトリニティの嬢ちゃん!」
「は、はいぃ!?」
「こいつ実はなぁ!?あの英ゆ───」
ガン、と鈍い音を立ててチンピラが横へ吹っ飛ぶ。顔があった所には私の右脚。
「レンさん!?何を……」
「『ん、蹴り飛ばしただけだ。』」
「えぇ……」
コツコツと瓦礫の上を歩き、チンピラに近付く。腕を踏みつけながら、顔を覗き込むようにしゃがむ。
しかし尚のこと、また口の端を吊り上げ言葉を紡ぐ。
「ゲホッ、おいおい……別人過ぎるだろお前。あの人懐っこい可愛い笑顔はもうしないのか?」
「『黙るってことを知らねぇか?』」
「グ、踏むなよ……目付き悪ィな、あのどんぐり眼でくりくりしたお目目は、もう見せてくれないのか?あ?」
「『……はぁ。あー、分かった分かった。アンタはもう不良でもチンピラでもない……私の、敵だ。』」
「おぉ、怖い怖い……」
どうする?オトすか?いや、私の正体に気付いたコイツを気絶させてほったらかす事は出来ない……連れていくか?いや、ヒフミがいる。安易に証拠隠滅をするのは難しい。出来るっちゃあ出来るが……そういう事が出来る業者のクリーナーを使うのは費用が嵩むんだよなぁ。
冷や汗が頬を伝う。
そこまで考えた後、下卑た笑いを上げ奴は更に言葉を紡ぐ。
「ハァ、ハァ……面白れェ顔しやがって!そこの嬢ちゃん、お前も見てみろよ!コイツがあの月見里コ──」
駄目だ、もう殺そう。
手に持っていたコンバットナイフをくるりと回して逆手で持ち、刃先に神秘を込め、更に刀身を上からドス黒い"恐怖"でコーティングし、振り上げる。
ただの神秘を込めたナイフならば刺さりはしても直ぐに治ってしまう。しかし、そこに恐怖を交えることでキヴォトス人に致命的なダメージを負わせられる……これまでこの仕事をやってきた上で学んだ事だ。
これが、神秘と恐怖の同時使用。"半"反転状態である私だからこそできる事……だと、黒服が言っていた。
「……あ?なんだよそれ……その、禍々しいモノは……?」
何かを察知したのか、途端に顔を青くさせ怯えを見せる。
──ここで止めたらまた付け上がる可能性がある。このまま振り下ろす……!
コンバットナイフを握る力を、より一層強くさせ──
「レンさん!!」
「『──ッ!?』」
ヒフミの悲鳴にも似た叫びに、急に引き戻される。
暗く狭まっていた視界は唐突に開け、青い空が自分を照らす。
「……ヒ…」
「『あー…その、アレだ。』」
コンバットナイフをゆっくりと下げ、ポリポリと頬を掻く。
ダメだな、私は。今何をしようとしていた?
今をときめくJKに殺しの現場を見せつけようとしていた……はぁ。何してんだ。アホか。
……私が本当に"レン"だったのなら、もっと最良の選択が出来たはずだ。つくづく痛感させられる。
私の追っている背中の、成ろうとしている背中の、遠さ。
確かに私はレンとして生きた全てを持っている。だが私はあくまで"コウ"であって"レン"では無い……
ジレンマ、だな。
何をそこまで躍起になっているんだか。別にバレたところで……問題は色々生じるが。
戻れないにしろ、生存報告くらい良いのではないか?きちんと話せば分かってくれるだろう……どうだろう?色彩の事はそのまま言えないし……。
うん?復学せず、むしろ退学を所望するに足りる十分な理由って──なんだ?
諸事情?家庭の都合?……なら、こんなにも長い間行方を晦ました理由は?ティーパーティー様はなまっちょろい嘘が通じる相手じゃねぇぞ?
……まずいな。正実の前に生徒会たるティーパーティーを納得させられる理由が思い付かない。やはりバレるのは無しだ。
旧友のハスミとツルギにだけ伝えるのは……いや、2人とも隠し事は得意なタイプでは無い。無しだ。
やはり潜伏を続けて先に色彩を叩く。これしかない。
しかしまぁ、この期に及んでまだこんな……うーん、やはりどうしても思考がコウに寄ってしまう。いかんなぁ……
っと、違う違う。私はあくまでも▇▇として生きて死に、そしてキヴォトスでコウとして生を受け、レンと身を偽って活動している人間だ。
そうでなければいけないのだ。全く、どうしてもふとした時に分離してしまう……。
そういった場合、大抵長くは生きられない。自己同一性というのは確固たるものでなくてはならないのだ。自分が分からなくなった奴など戦場じゃあ真っ先に死んでいく。
「う……クソッ!」
思案に耽った隙を突き、走り去るチンピラ。
「『……おっと、殺しはしないが逃げるのは問屋が卸さないよ?』」
左手を口元まで持って行き、手袋を噛んで外す。
するりと、中から鈍色に光り輝く機械的な義手が姿を現した。
「──!」
後ろから息を呑む音が聞こえたが、一先ずは無視。
袖を捲って左手を開き、前へ突き出す。
大きく息を吐いてから、義手の機能の1つを起動させる。
──システム起動。"スタンニードルキャノン"発射シーケンスへ移行。
掌の装甲が音を立て少し浮かび、中央がデジカメのレンズカバーよろしく螺旋状に開き、中から大口径の銃口の様な穴が露出する。
──アシスト起動。ターゲットロック開始。
右眼を瞑り、左眼を大きく開く。
すると、義眼が放っていた淡い光は強まっていき、蒼く更に光り輝いていく。
続いて眼の前に円形のディスプレイが浮かび上がり、様々な情報が羅列。
アシスト機能により、こちらに背を向け走り去っていく敵を──捉える。
「『……あー、思い出した。同じ学年で、退学になった奴。って事は学校にいたなら今は高二か……?』」
──出力上限を調整。上限を70%へ変更。
ザッ、と足を踏み込み、ブレないようにコンバットナイフを捨てて空いた右手で左腕を抑える。
「『なら、全治1年で勘弁してやる。』」
──"スタンニードルキャノン"発射。
瞬間、掌から電流を帯電させながら、光り輝くニードルが轟音と共に射出される。
長い尾を作り、さながらビームのような姿を描いたそのニードルは奴の足元に着弾。同時にニードルに内蔵された放電機構が展開してドーム状に放電を起こし、その意識を確実に刈り取る。
「……え、え?」
困惑するような声を上げるヒフミをよそに、体制を直し右手で携帯を取り出す。
バシュゥゥ、と音を立てながら熱を白い煙として排熱させ、開口させた腕上部から空となった帯電する巨大なカートリッジを放出。
パーツが駆動し、元の腕へ戻っていく。
──"スタンニードルキャノン"、残数2。
ガン、と重厚な音を鳴らし地面を転がるカートリッジを眺めながら、ディスプレイに表示された残弾数メッセージを流し見し、"眼"の機能を停止。眼の光の強さが収まると共に、右眼を開く。
ガチャン、と自動で行われるリロードの音を聞き、それによる軽い振動を感じながらプラプラと左手を揺らし、右手でスマホの連絡先アプリからある者へ通話を掛ける。
「『──よォ、私だ。あぁ、クリーナー頼む。料金出来るだけまけてくれ。え?はっはー、本社爆撃すんぞ?』」
……めっちゃビクンビクン痙攣してんな。70%でもこの威力……マエストロめ、改めてとんでもないもん作ったな。一応リハビリ込みで1年で治るように調整したが……少し自信がなくなってきたな。もっとかかるかもしれん。
「い、今のは……レーザービーム……?あの噂、嘘じゃなかったんですか……!?」
「『……ん?いや、これはそういうのじゃなくてだな……えぇと、そう。スタンニードルキャノン。大型ニードルを射出、着弾後に放電を起こす私専用の兵装だ。』」
1発撃つだけでかなりの費用が吹き飛ぶ大食い兵装だ……が、その分威力は凄まじい。ミミズのような見た目をした巨大な自立防衛型兵器*1の頭部に当てればそのシールドも壊す事が可能だろう。あとは大型レールキャノンで狙撃すれば完璧だ。
驚異的な威力に加え弾速の速さ、リロードの速さによりランクマでも猛威を振るうこと請け合いだな。*2
何言ってんだ。
そういえば、とヒフミが話を切り出す。
だがその話は、私にとっては少々都合の悪い話だった。
「あの、あそこの人が言っていたのを聞いちゃったんですが……それで思い出したんですが、レンさんって、あの……
「『──ヒフミ。』」
「は、はい!?」
言葉を遮られ狼狽えるヒフミに、なるべく優しく声をかける。
「『……こういった仕事をする上で重要な事は何か、分かるか?』」
「いえ……」
「『依頼人の信用、それから成る信頼。それが最も重要なんだ。良い仕事は良い関係から成るものなんだよ。……だから私は、依頼人は基本的に信頼するし信用する。それがこの仕事をする上での、私なりのルールなんだ。』」
「は、はぁ……」
「『私が初対面で苗字を明かすのは、依頼人を信用しているからだ。信用の証として、学園都市の数多の人間の中でも類を見ない、この特異な苗字を明かすんだ。』」
一旦、言葉を区切る。
「『ヒフミ。』」
もう一度名前を呼ぶと、ヒフミは肩を跳ねさせる。
「『君は、私の"信用"を……裏切らないでいてくれるかな?』」
そうにっこりと笑ってみせる。相手は学生だし、できるだけ優しく尋ねたのだが…どうやらこれが逆に効いたらしい。
「ひ、ひぇ……はい……」
「『うん。よろしい。じゃあ行こうか?』」
手渡されたダウンコートを羽織りながらヒフミの返答を確認し、苦笑しながら帰宅を促す。恐らくそろそろ頃合いだろう。
大通りの向こう側からバタバタと足音が聞こえてくる。
『おい!こっちだ!』
『なんだってこんな郊外でドンパチするんだ!』
『さっきのデカい放電はなんだ!?漏電でもしたのか!?』
「『もうちょっと早く来て欲しかったな。マーケットガード。』」
マーケットガード。この混沌たるブラックマーケットの警備を行う者たちだ。
本来自分もこういったドンパチする傭兵を制圧する側だったんだがなぁ……人生とは分からんものよ……。
「は、早く行きましょう!」
「『そうだね、捕まる前に行こうか。』」
ヒフミの手を左手で掴もうとし…直前で思い直して右手で引き、ブラックマーケットの出口へ駆ける。
「あ、あの……レン、さん。」
「『ン?どうした?』」
「えっと、その腕って……」
「『あぁこれ?んー……まぁ、色々あって吹き飛んだ、みたいな?ついでに眼も。でもこれはこれで便利だからいいと思ってる。』」
「えぇ……?」
☆★☆★
「『──ここまで来れば追ってこないか。依頼内容も丁度ここまでだな。』」
ブラックマーケットの境界線辺りで足を止め、ヒフミの方を見る。
「はぁ、はぁ……はい……ありがとう、ございました……」
何とか息を整えようと呼吸をするヒフミ。少し飛ばしすぎた様だ。
元に戻るまで待つ。そう時間も立たない内に息が整い、背筋を伸ばし、カバンから戦利品の精査を行い始める。
「──ほっ。ペロロ様も無事です。良かった……」
どうやら何も問題は無かったらしい。
まぁ、それはそれとして。依頼を受けた身としてやるべき事があるな……。
ヒフミの目を見たあと腰を折って頭を下げ、謝罪を口にする。
「『結果がどうにしろ、依頼内容の"護衛"を完全に達成することが出来ず、君を危険に晒すことになってしまった。本当に申し訳ない、詫びといってはなんだが、今回の料金はタダにさせてもらおう。』」
「……えっ?」
なんとも間の抜けた声が帰ってくる。え?とはなんだ。
「い、いやいや!ダメですよ!私は無事ですし怪我もないです!それにペロロ様も無事だったんですから、お金はちゃんとお支払いします!」
「『いや、それでも私の油断のせいで君が危ないところだった。依頼を完遂出来ていない以上、報酬を受け取る訳にはいかない。』」
「う……自分に厳しいんですね……?」
そんな問いかけに頭を上げ、胸を貼って返答する。
「『万事屋としてのプライドがあるからな。ここはなあなあにする訳にはいかない。』」
結果良ければ全て良し、では無いのだ。結果は勿論過程も完璧でなくてはならない。軍隊とは完璧主義により出来ているもの。徹頭徹尾の"完璧"により敵を内側から、つまりは士気から粉砕する。
その思想は元軍人たるレンが大隊より言い続けている事。違えるとこなど論外に等しい。
レンが営む万事屋、"Side"は依頼達成率96%と驚異的な記録を持っている。今まで数多の依頼を完遂してきた身として、ミスを犯した事を有耶無耶にする事は許せない事だ。
てか、普通に契約不履行。
「でも、私が払いたいんです!」
「『……むぅ。』」
たが、今は万事屋。第1なのは依頼人だ。依頼人の主張は尊重しなければならない。
払いたい、と言われれば弱いのだ。時には妥協も必要……と。ん?契約書に準ずるべき?うるせ。
「『なら、こうする。今回の料金は1部失敗有りとして値引きした分を受け取る。そして、これを君にやる。』」
そう言ってどこからともなく1枚の紙を手渡す。
「……これは?」
「『無料券……のようなものだと思ってくれて構わない。これを使えば、1度だけどんな依頼もタダで請けよう。』」
「え……なん、でも?」
「『何でも、だ。犬の散歩でもいい。嫌いな奴を病院送りにするも良し、要人の暗殺でもいい。自治区のテロ工作でもいい。連邦生徒会の武力制圧もいいな。文字通りなんでもタダでやろう。私一人の力では限界があるが、全力を尽くそうじゃないか。』」
「そ、そんな事しないですよ!」
「『あぁそうだ。普段は絶対しないんだが、エロ目的でもいいぞ?』」
「エっ……もっとしないです!」
「『はは、冗談だ。しかしいいのか?▇▇▇とか▇▇▇▇とか▇▇▇▇もしてやってもいいぜ?あ、でもさすがに▇▇▇▇は無理だな。生理的に。』」
「怒りますよ!?」
そりゃ怖い、と両手を上げる。そういや手袋がどっかに行った。物珍しそうな好奇の目で左手を見る奴がチラホラと散見される。
「で、でも!ならこんな大変な物尚更受け取れないです!凄く貴重なものじゃないですか!」
「『まぁ、こんなモンがあると知られれば企業とかはこぞって確保しようとするわな。』」
「そんな……もう嫌がらせの域ですよそれ!?だ、大体、1部報酬値下げだけで十分じゃないんですか!?なんでこんな補填を……」
「『私からのささやかな気持ちだよ。大丈夫、こういうクーポンかあるとか誰も知らないから。君みたいな普通の……普通の?女子高生に色々やなもの見しちゃったし聞かせちゃったからねぇ。』」
「く、口止め料……?」
「『はっはー、どうだろうね?じゃあ、私はこれで。請求書は後で送っとくよ。気を付けて帰りな。』」
「は、はい……。あっ、今日はありがとうございました!」
頭を下げるヒフミに背を向け、ヒラヒラと片手を振りながら再びブラックマーケットへ戻る。
ちなみにヒフミはまたすぐに依頼をしてきた。
無料券はまだ使ってない。はよ使え。
Topic:レンは生前社会主義国を相手にしょっちゅう戦争をしていた為アカが心の底から嫌い。故にレッドウィンターとは絶望的に相性が悪いのだ!!
っぱ資本主義だよな。計画経済は悪、はっきり分かんだね。
次回、いよいよ原作開始時間に入ります。待ってろアビドス。