レオポルト・ウリヤノフは吸血鬼と魔族の混血の青年である。
科学が優先される遺伝子の関係ではそこで終了するのだが、精神面…俗に魔法が優先される環境において彼の魂は非常に特異的な人間でもある。
元々魔法に疎いわけではなかったが、前世に於いてはその魔法を使う能力が戦闘に足り得る物ではなかったので使うことのなかった魔法。
常に魔王軍と称された軍隊を前に聖剣を振っていた身としては剣術があったのでほぼ使ってきていなかった。
しかし転生をし、その肉体では満足に魔法を扱える能力を得た事でその精神に少なく無い変化を齎していた。
その日、レオポルト達は学校の小さな演習場に訪れていた。
ここは学院の生徒達が自由に魔法の練習をする為の施設である。
「んじゃ、今日の練習と行きますか」
片手に赤い刀身のベリザーナを握って口を開くレオポルトにやや苦笑するヴァージニア。
「いくら魔法実習とはいえ…」
「ちょっと雑すぎんだろ…」
そんな彼女にジャクソンも苦笑していると、そんな彼らを横目にレオポルトはアニに教鞭を取っていた。
「魔法のデバイスを使わない方法は分かるか?」
「はい!」
元々魔法史学ゼミ通いの彼女は通っている次第に影響されて魔法に対し強い興味を示しており、実際レオポルトの父に尊敬の念を抱くほどだった。
その父親の息子の自分としてはあんな親父に尊敬なんて行き過ぎた物だと言いたいが、実際世間様の評価からすると魔法史学においてはとても優秀と言えた。認めたくは無いが…。
「んじゃ、初めて見ますかね」
自分のデバイスはこのベリザーナを使う。一応これでもデバイスを使えるように基本の構造は仕込んでいるんでね。
「まず課題の閃光魔法からやってみるか」
「はいっ」
魔法実習は学院の単位取得のための必須科目であり、特例を除く場合以外ほとんどの生徒が行わなければならない。
基本的にこの時代、ほとんどの人間が現代魔法を使う事が可能であり。よっぽど魔法に関する病気でも持っていない限り魔法を使うのは可能だった。
「(魔法は貴族の特権だったのになぁ…)」
貴族や上流階級のみで許されていた娯楽の一般大衆化、産業の発展と共に行われてきた文化である。
非常に自分の知っている時代との乖離ではあるが、そもそも本屋で魔導書が一般販売されている時点で自分の知っている時代とは違うのだから割り切るべきだろう。
「よしっ、閃光魔法を選択して…」
すると次の瞬間、持っていたベリザーナの刀身が激しく魔力による発光が起こり、部屋が真っ白になった。
「ぎゃぁぁっ!!」
「目がっ!目がぁぁぁああ!!」
突如の閃光に目潰しを喰らったヴァージニアとジャクソンの二人が軽く地面に仰け反ってのたうち回っていると目元を覆ったままヴァージニアが叫んだ。
「ちょっと!!いきなりやらないでよ!」
「なんだよ今の威力!アセチレン・ランプかよ!?」
ジャクソンも同様に毒ガスに目をつぶされた兵士のように目を覆った状態で驚いていた。
「ただの閃光魔法さ」
「なんでこんな強いのよ!!」
目潰しを喰らうほどの強い閃光魔法に文句をつけるヴァージニアにレオポルトはケタケタと軽く笑いながらベリザーナを持ち変える。
「普通のデバイスは制限がかかっているからな。どうしても魔法の威力は落ちるさ」
そう言うとレオポルトはベリザーナの赤い刀身を触る。
「制限?」
「安全装置さ。授業でやっただろう?」
レオポルトはそう聞くと、二人は思い出したように納得していた。
「あぁ…」
「そういえばそんな物あったわね」
普段使いをしているデバイスに特段違和感を持っていないのでそんなこのもあったな程度で頷くと、レオポルトはそんな二人に仕方ないかといった様子で軽く頷く。
「まぁ、制限のない現代魔法を使うときはほぼ戦場だけだからな」
「戦場だとないんですか?」
「あぁ、軍用品に現代魔法の規制はほぼないな」
アニの疑問にそう答えると、そのままデバイスに関する話をする。
「基本的にデバイスの安全装置は魔法式の破綻による自爆を防ぐ代わりに幾らか魔力を使う。故に少し本来の魔法と比べると威力が落ちるんだ」
「じゃあそのレオのデバイスに安全装置は無いってことよね」
「そうだな」
ベリザーナはレオポルトが一から作った魔導具であり、そこに安全装置は当然存在しない。
免許さえ持っていれば魔導具の制作は合法であり、この免許自体はレオポルトはすでに持っていた。
「大丈夫なのか?」
「大丈夫さ、俺謹製のオリジナル魔導具だ」
自信満々に答えるレオポルト、しかし友人達の目は少々訝しんでいた。
「遊びで上位精霊を呼び出したのに?」
「グホッ」
手痛い言葉のボディーブローを食らって思わず頽れる。
「ってか、アンタらおかしいのよ」
「うむ、そうだな」
そしてそこにアニも加わる。
「普通遊びで精霊呼び出しなんてしませんし、ましてや子供が上位精霊を呼び出すなんておかしいですよ」
「…」
すでに瀕死状態に追い打ちをかけられたレオポルトは弁明をする。
「だって普通できると思わないじゃん!精霊召喚術が破綻すると思うじゃん!」
実際、精霊召喚を行った後にドーラと二人して魔力切れを起こしてぶっ倒れたわけだし。
あの後二人の大人にそれはもう盛大に叱られてもう精霊召喚は懲り懲りです。
「上位精霊が出てきた理由とかは…」
「分かる訳ねぇだろう!」
そもそもダメ元での発動だったし、本来術を使ったのは下位精霊を呼び出す筈の小さな術式だった筈なんだ。
「でもバケツさん、いい人でしたけどね」
「そもそも人なのか?」
「オートマトンでしょ。そうでしょ?」
「俺に聞かれても…」
バケツと言う非常に分類の難しい存在に四人は何とも言えない表情を浮かべていたが、それでもあのメイド服を着たオートマトンに三人はまだ好意的な印象だった。
「おまけにその精霊は子供好きってのがね」
「あんな特徴的な精霊は見た事が無いけどな」
そういって親バカとも言うべき子供好きなオートマトンを思い浮かべると、レオポルトは少々…いやかなり苦笑する。
「今日の夕方、またいきましょうね」
「…はい」
アニの良い笑顔にレオポルトはかなり落胆した様子で頷いていた。
放課後、レオポルト達はバスとトラムを乗り換えて学園都市の郊外に向かう。
目的は最近の日課であるエリカに会いに行くためだ。
意外にも、彼女の事を一番気に掛けたのは最初にあの少女に会いに行こうと提案したヴァージニアではなくジャクソンの方だった。
理由は何となくと言うものだったが、そこでヴァージニアに『それ惚気じゃないの?』と言われた時はアホほど反論していた。
「すっかり習慣ね〜」
「意外なのはジャクソンが気に入った所だがな」
いつものPCCカーに乗りながら移動する四人。そんな二人の呟きにジャクソンは呆れまじりに答える。
「あのなぁ、だからって惚気判断はバカすぎんだろ…」
「でも気に入っているじゃん。好きなんじゃないの?」
ヴァージニアの意見にジャクソンはいたって真面目に答える。
「好きではないな。何というか…ほら、レオなら分かるんじゃねぇか?」
そう言って話を振ってきたジャクソンに少し考えた後にジャクソンの悩みの正体がピンときた。
「愛嬌があるってことか?」
「そうそう!なんかさ、妹とかがいたらこんな感じなのかな…って」
「あぁ〜」
そこで弟が居るアニが納得して頷いた。ちなみに一人っ子のヴァージニアは少しよく分からない表情で軽く首を傾げていた。
「ジニー、ペットて飼ったことあるか?」
そんな彼女に助け舟を出すかのようにレオポルトは聞く。
「えぇ、もちろんあるわ」
「その時可愛いって思っただろう?」
「えぇそうね」
それに頷くヴァージニア。
「それと同じような感じさ」
「あぁなるほど〜」
それで納得してくれたヴァージニアに少しほっとしていると列車は最寄停車場に着いた。
今日のお土産である最近できたケーキ屋のショートケーキを持って彼女達のいるコンテナハウスに向かう。
「今日はどんな反応するかな?」
「さぁ?」
少し笑いながら話していると、コンテナハウスの前で一人で風船ガムを膨らましてぼーっとしていたエリカがレオポルトに気づいて少し嬉しそうに見て手を小さく振っていた。
「ジャック兄ちゃん〜」
「よぅ、元気そうだな」
ジャクソンに駆け寄ってきたエリカの頭を軽くジャクソンは撫でると、エリカは尻尾をブンブン振っていた。
「マジこうやって見ると兄妹見たいね…」
「「分かる」」
そんな様子を前にレオポルト達はうんうんと頷いていた。
お気に入り登録、高評価をよろしくお願いします。