魔学院の食堂は、職員も含めると述べ一万人近い人間が利用するため、それ相応に巨大である。
一つの給食センターのように巨大な調理施設が並んでおり、生徒の中には巨人族やドラゴン族、獣人族といった大食漢の胃袋を持つ生徒も多く、料理が足りなくなるたびに増設を繰り返してきていた。
「「「「いただきまーす」」」」
そこの食堂の一角、二階建ての巨大なホールのような施設の一角。窓際のソファが並べられた席にレオポルト達は座っていた。
彼らはここから西大洋を超えた先に存在する極東の国、瑞穂国の文化である食事前の挨拶をする。
建国以来、旧大陸から逃げるように西に向かい続けたかつての合州国市民の先祖達。
そこで海に出た彼らはそこで船を作り、海を渡った。
その先で彼らは、旧大陸では極東に位置すると言われた島国、瑞穂国に到達した。そこで自らを合州国市民であると言った先祖に対し、瑞穂は国の承認と援助を行なった。
そしてその援助は、後の旧大陸領からの侵攻を退ける原動力にもなった。
そのため合州国にとって瑞穂国とは、独立を承認して援助をしてくれた建国の恩人であった。そのお礼と言った様子でこの国では多くの部分に瑞穂の文化が国民の習慣として残されていた。
「んん〜!やっぱパスタ定食ね」
「毎回お前それ食ってるよな」
ヴァージニアにレオポルトがややジト目でいつも同じパスタ定食の彼女に言う。彼は鶏・豚・牛の三種のチーズ肉丼定食を注文していた。
「たまにはハンバーガー定食でも食えよ」
それに同調してジャクソンも自分のカツカレー定食を食べ始める。
「これが一番食べ応えがあるの」
そんな二人に少しムッとなりながら、常人であれば食べることすら躊躇する量のそそり立つタワーとかしたパスタの山をフォークで巻いて食べていく。
この量はいわゆる『ドラコン盛り』と呼ばれる量の面であり、文字通りドラゴン族が食べるようなメニューであることからつけられた。量は見ての通り、一般的な人族の二〇倍はある。
「す、すごい量…」
「これ、全部食べちゃうからすごいですよね…」
「さ、流石にこの量は無理…」
それを見ていたアシュリア・アニ・ドーラの三名はそのパスタの山にそれぞれ感想を言ってから固まっていた。
「それにね、ハンバーガー定食なんて小さすぎで五十個食っても腹八分にもならないの」
「なら焼きうどん定食にしろよ」
「それかラーメン定食だな」
柔めに茹でて膨らんだ麺を使う定食を口々に言うレオポルトとジャクソン。
「生憎、気分じゃないの」
ヴァージニアはそこでモリモリとパスタを消費しながら返す。
「毎日食ってて飽きないのか?」
そう言う理由でほぼ毎日パスタ定食を食べるヴァージニアにレオポルトは思わず聞いてしまう。
「毎日日替わりだからね。まあ結構飽きないわ」
ヴァージニアはパスタ定食に飽きていないと言ってそのまま話しながら食事を続ける。
「…今度、大食い大会でもあったら連れて行ってみたいな」
「絶対、初見で出禁だろw」
レオポルトとジャクソンは、このグループでも数少ない男子枠として女子の会話を横目にそんな話をする。すると、
「あでっ」
レオポルトの頭に空になったトレーがぶつけられる。ぶつけたのはヴァージニアだった。
「っ〜!おい、俺の頭に何かあったらどうすんねん」
「あら?石頭じゃないのね」
「お前さんほど頑丈な人間じゃないの」
レオポルトはそこで空のトレーを持って自分のに被せる。
「ああ、吸血鬼ですものね」
その時、少々小馬鹿にするように見てきたので、レオポルトは分かっていてもヴァージニアに言う。
「日光かぶって灰にはならねえぞ。あれは最近作られた映画の架空設定だからな」
「だって、そうでもしないと吸血鬼って強すぎるでしょ」
「おーおー、メタいメタい」
でも吸血鬼というのは紫外線に全体的に弱いのは事実。だってそもそも病的なまでに肌白いからね?そりゃあすぐに熱中症になって倒れるよ。
「お兄、昔海で日焼けして死にかけてからね」
「ああ〜、そんなこともあったな」
確かあの時は、母方の祖父母の家に行った時だったはずだ。
海が近い場所に住んでいる吸血鬼と魔族の血族で、夏に毎年遊びに行っていた。
「じいちゃんの家でシャワー浴びて悲鳴あげてたからね」
「あれ以降、必ずラッシュガードを切るようになったものだ」
そんな妹からの暴露話に少し懐かしく思ってしまうと、
「ぶはははっw!」
「その気持ちわかります。痛いですよね、あれ…」
ヴァージニアは爆笑し、アニはうんうんと頷いた。
「え?アニも経験済み?」
そのことに少しヴァージニアが驚いていた。少し彼女のイメージにその姿が合わなかったからだ。
「えぇ…昔は少し、やんちゃでしたから…」
少し恥ずかしそうに彼女は言っており、皆が想像したそのやんちゃに思わず微笑ましくなる。
「なるほどね〜」
「まあ誰だって失敗くらいあるわよ」
ヴァージニアは頷いて最後の一口をフォークに巻き取り始める。
「え?もう最後の一口…」
アシュリアはその食べるスピードに思わず声を漏らすと、ドーラが囁く。
「多分、突っ込んじゃダメな奴よ」
「これを界隈ではジニー・マジックと呼ぶんだ」
「どんな界隈なのよ…」
レオポルトにヴァージニアが呆れた目でツッコミをかけると、彼女はトレーを持って席を立つ。
「じゃ、ちょっと先に失礼するわ」
「どこに行くんだ?」
「部活でね」
彼女はそう言い残すと、そのまま食堂を後にした。ソフトボール部エースである彼女は、今度の練習試合で士官学校の生徒を相手に戦う。そのための練習とミーティングがあると推察した。
「今度応援に行きたいですね」
「おお、みんなぜ行こうぜ」
アニの呟きにジャクソンが軽く頷く。特にエースと期待されている彼女の活躍を見に行こうと全員で応援に行こうかと話し合う。
「とりあえず、一年生は今日の午後も学校案内か?」
「そうだね」
「はい、まだ全部は回りきれていませんので…」
ドーラとアシュリアは頷く。まだ新入生は入学したばかりで、大半の教育施設がセンタービルにあるとはいえ、その他の実験施設などはすべて外にある。魔学院は多くの研究室や実験場を持っているので移動だけでも一苦労。ひどいと車移動が当たり前となるので、地図を常に持っている必要があった。
「じゃあ気をつけて」
「怪我だけはするなよ?」
「迷子になったら俺たちに連絡入れてくれよ?」
二年生三人は二人に言うと、彼女達は頷いた。
「はい」
「わかりました」
そこで事前に生徒に配布されるアプリをタップして二人は食事を終えると食堂を後にした。
その後、午後の時間になってアシュリアとドーラの二人は、それぞれ武器をもって学内を歩いている。
「次、どこか気になる場所ある?」
ドーラは渡された学内マップを持ってアシュリアに聞く。
「わ、私、魔物研究所をみに行ってみたいです」
「お〜、いいね(ちょっと危ないって聞いているけど…)」
ドーラはアシュリアの行きたいと言った魔物研究所につながる道を地図で探していると、
「っーーー!!」
唐突に笑い声が上がってその方を見ると、そこでは数名の男子生徒がグループになって道を歩いていた。
「…」
その少し品のない様子にアシュリアは少し目を鋭くし、ドーラは少し見てから一言。
「ここって動物園だったっけ?」
「ぶふっ」
その一言でアシュリアは吹き出してしまった。
この同級生、時折容赦なく皮肉を浴びせにかかるのでそれが結構聞いている側は笑ってしまうことが多かった。
「ん?」
そんな集団を見ていた時、一番後ろで影に隠れるように背を縮こませて歩く小柄な少年がいた。
「あれ?あれって…」
「完全にはぶられてますね…」
その状況を一言でまとめるアシュリア。なかなか君も容赦ない一言を浴びせている。
「可哀想に…」
「あの後グループから消えていくタイプだよ」
そんな影の薄い…と言うより、半ば無理矢理誘われた雰囲気があるその少年に軽く憐れみの目を浮かべていると、
ドゴーーンッ!!
突如学園に爆音が響き、振動がこの場まで襲ってくる。
「え?え?」
「何!?」
「ひっ!」
突然のハプニングに新入生達は悲鳴や動揺が広がる。すると、
ッーーー!!
唸り声をあげて空に羽を羽ばたかせて空に魔物が飛翔する。
「キメラ!?」
「脱走だ!!」
空飛ぶ猪のような体をする魔物に、上級生の叫びが響く。
「風紀委員を呼べ!」
「逃げろ!!」
その声で脱走した魔物を見た新入生達は悲鳴を上げて散り散りに逃げていく。
「痛っ」
その中で先ほどの少年も逃げようとしたが、後ろから突き飛ばされたため地面に転倒してしまった。
「痛た…」
派手に地面に転けた時、顔を殴打してぶつけた所を軽く摩った。
「おい!」
その時、見ていた誰かが叫び、気配を感じて振り返ると、
「ヒッ…!!」
目の前に先ほど逃げ出したキメラが唸り声と涎を垂らしながらコチラを見ていた。逃げ出そうにも腰が抜けて体を動かすことすらままならなかった。
「(そ、そうだ。武器…!!)」
少年はそこで持っていた
「馬鹿っ!」
咄嗟に見ていた誰かが言うが既に遅く、放たれた四五口径拳銃弾はカメラに命中するが、頑丈な骨に弾かれ、逆にキメラの逆鱗に触れた。
ガァァアッ!!
キメラが照準を少年に向けた時、
「伏せろ!」
その時、割り込んだ声が聞こえて咄嗟に頭を抱えると、直後。
ッ!!ッ!!
キメラに二発の擲弾が命中して爆発。
ゴォォ…
放たれたサーモバリック弾頭の爆発でキメラは急速に酸欠に陥り、視界が一瞬真っ暗になる。
「こっち」
「ぐえっ」
その隙に少年はドーラによって首根っこを掴まれると、そのままながらように引きずられる。
グァアアッ!!
キメラは軽く頭を振ってドーラを睨みつけた時、
『鎮まれ』
キメラの脳裏にその声が響くと同時、キメラの顔は忽ち青くしていく。
目の前に立つアシュリアが、ドーラの指示でフードを脱いで邪視の魔法を使用したのだ。
メドゥーサの血を引く人間であれば詠唱も必要しない邪視の魔法は、生物であれば誰もが硬直する。彼女の頭を蠢く蛇達も全てキメラを睨みつけており、その威容と気配にキメラはそのままブワッと汗を噴き出すと、白目を剥いて倒れた。
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