魔学院は国立の学園である事は今更言うことでもないだろう。
しかし学校という環境に於いて、どうしたって学力というのは生徒を評価する上で最も簡単な指標となる。一概にそうとは言い切れないという部分もあるが、やる時にやる人間であるという事を証明するためにも考査が用意されていた。
その日、夜空に月が昇っている中である場所に二人の影があった。
「で、一年間サンドバッグかよ」
「良かったぞ?良い練習相手でな」
そこで私服を纏った半眼のドーラに答えるレオポルト。二人は旧校舎まで歩いて移動していた。
「時々指名手配生徒を捕まえて報奨金も出るしな」
「ああ、だから兄貴羽振りが良いのね」
数日前にヴァージニアに手伝ってもらって放った竜の息吹で火災を起こした事で反省文を書かされた彼ら。火事になった事や海面に茹で上がった魚類、それからちょうど船舶の修理を行っていた人魚族から『火傷をした!どうしてくれるんだ!?』などの苦情があってそれ以降、同様の実験の禁止令が出されてしまっていた。
「あそこが旧校舎。不良達の溜まり場ね」
「へえ、兄貴のサンドバッグかあ」
失礼ながらも事実である呟きを行うと、ドーラは窓ガラスが霧散してしまっている校舎を見つめる。
「偶にここは風紀委員の夜間巡回があるから、見つかるとそれはそれで面倒なんだよな」
「へえ、こんな場所に巡回あるんだ」
「補導目的でな、偶に警察官もうろついているから気が抜けないって事」
彼はそう話すと、片手に下げているベリザーナの柄を握って抜くと、早速魔法を展開する。
「象すら一撃で気絶させられる魔法だ。強いぜ?」
「それ人死なない?大丈夫なの?」
「今のところ死んだ事ないし大丈夫」
不安がったドーラにレオポルトはそう答えると、彼は古びた校門を抜けて魔法を展開しながら被っていたニット帽を下ろしてバラクラバを展開して顔を隠す。
「悪い子ぁ、いねぇがぁ…」
そしてナマハゲの如く彼は校舎で古代魔法を対人戦闘の訓練として何度もこの地を襲撃していた。
「…あれ?」
しかし一切の物音がせず、首を傾げて素の声が漏れるレオポルト。息を潜めて隠れてある様子もなく、本当に無人な様子の雰囲気があった。
「どうした兄貴?」
「いや、ビックリするくらい人の気配がねえからよ」
「逃げ出したんじゃないの?」
「ええ、まじかよ…」
そこでレオポルトは拍子抜けした様子で気まずそうに頭を掻く。
「しまったなぁ…」
「逃げ出すってやりすぎでしょ、兄貴」
そこでドーラは苦笑気味にレオポルトを見ると、伽藍堂な旧校舎を見ていた。
一〇月二二日
二年生に入り、授業らしい授業は古代魔法の実技演習や一部の二年生に行わなければならない基礎授業などである。講義は選択式で、一年の内に必要な科目数を受講すれば問題なかった。
一年生のうちに授業は詰め込み、日々苦労した後の高学年は他学園との交流も深くなって行く時期であった。
「では…」
そこでレオポルトが音頭を取って話す。
「今日はドーラの誕生日を祝いたいと思いまーす」
「「「「「「イェーイッ!!」」」」」」
店の個室を貸し切って集まった生徒達は盛り上がる。
「おめでとうございます」
「お誕生日おめでとう」
「ありがとうございます」
ネルやアニから言われ、ドーラも嬉しげにジョッキに注がれたコーラを鳴らす。
「くはーっ、もうドーラちゃんの誕生日とはね」
「ふふっ、これでも今年から魔学院の生徒ですよ?」
ヘンリーはしみじみと感じながらドーラを見ていた。
他にもこの場には色々な制服を纏った生徒達が集まっており、皆ヘンリーやネルの学校の友人だった。全員がパーティーをすると聞いて集まった面々であった。
「あー、焼肉最高」
「俺ら普段から肉なら食ってるでしょうに」
そう話すのはビショップ・カーデンロイドとキャリバー・クロムウェル、どちらも連邦軍士官学校の制服を纏っていた。
「学園交流会以外で食わないでしょって話」
ビショップはそう話すとカルビ争奪戦に突撃していく。
「美味、流石だな」
「リュミのお陰だよ」
レオポルトは塩タンを堪能すると、ヘンリーは隣に座っていた生徒を紹介する。彼女はモルガン商工学園の制服を纏っていた。
「ここはモルガンの卒業生がやっていて、少し伝手があったんです」
黒縁丸メガネが特徴的な少女はリュドミラ・イジェフスク、ヘンリーと同期で部活動に入った生徒だという。
「以前の
「へぇ、なるほどね…」
ここな学園都市中心部の繁華街。様々な学園の生徒達が入り乱れ、この焼肉店も他に何かの打ち上げを行なっている光景があった。
「すごく美味いぞ。食い放題とはいえ、こんな値段なのによ」
「それなら良かったです」
リュドミラはレオポルト達の様子を見て少し嬉しそうにしていた。
「ねえ誰〜、ニンニク頼んだの?」
すると席でヴァージニアが聞いてきた。その視線の先では加熱中のアルミホイルに包まれたニンニクの塊があった。
「豚トロ焼けるぞ〜」
「おいカルビ焦げてんじゃねえか、ふざけんな!」
「こっちハラミ追加…えっと何人食べる?」
彼方此方で注文をしていく面々。食べ盛りの良い年齢とはいえ、
「こっち、牛タン二〇人前ね」
「味噌のホルモン八人前頼んで〜」
注文のタブレットに次々と注文をかけて行く。この誕生日が初めてだと言うのに、普段は滅多に交流する機会が少ないからなのか参加した面々は連絡先を交換しながらお互いに知らない世界の学校の話で盛り上がっていた。
「へえ、もう士官学校って基礎訓練課程終わってるんだ」
「ええ、今年の後期からは各専門に分かれて実習ですよ。古代魔法の実習を遅くても再来月に行うので、その時に魔学院と交流するはずです」
そこでヴァージニアがキャリバーに話しかけていた。元々彼女は士官学校志望であった為に色々と彼らから話を聞いていた。
「古代魔法の実習はどうしたって広い場所が取れる魔学院か士官学校ですからね。私たち商工学園も義務実習で入れなければならないから、魔学院か士官学校にお邪魔することになるんですよね」
「じゃあ今度一緒の日に受講しません?そこにいるレオポルトって、古代魔法の授業が免除されるから、つきっきりで練習に付き合ってもらいましょうよ」
そこでリュドミラにジャクソンが話しかけていた。あの雰囲気、さては狙ってるな?
そんな和気藹々とした話に盛り上がっていると、ヘンリーが思い出したように聞いてきた。
「あっ、そうだった。カールさんって古代魔法のプロなんでしょう?」
「何なら今年の古代魔法の非常勤に親父が来てるよ」
「え?嘘…」
そこでネルが驚いた様子でレオポルト達を見た。
「本当ですよ。パパ、この前非常勤で来てましたから」
ドーラは頷きながら厚切り牛タンを頬張る。
「えー、カールさんに教わるなら私も日にち合わせようかな」
「どうせなら兄貴に教えてもらったらどうです?」
少し考えるネルにドーラはレオポルトを見て提案してきた。すると彼女は名案に頷く。
「おー、それ良いわね。昔からバカ上手いし」
「今度実習の日一緒にどう?レオ」
「んまあ、俺は構わねえけどよ…」
そこでレオポルトは幼馴染達を見る。古代魔法はカールが言う通り『使って慣れろ』が基本の学問だとレオポルトも思っていた。二人とは仲も良いので実習を合わせることに特段断る理由もなかった。
「実習すんなら事前に連絡くれよ、俺一応免除されてるけど監督員連れてこないとダメなんだわ」
「OK、他の子も連れてきて良い?」
「…常識的な範囲で考えろよ」
レオポルトはそう言い、前科で子供の頃に友達と遊ぶと言って二十人くらい連れてきた彼女に言う。その事は流石にネルも思っていたようで、分かっていると数回頷いていた。
「僕も良いかな?」
「良いぞ、一応基礎授業は受けてんだろう?」
「安全確認の方法くらいは流石にやってるよ」
ヘンリーも確認を行うと古代魔法の実習の日付の空いている日を確認し合った。
そして誕生日パーティーも最高に終わり、他学園との交流もできて満足したレオポルト達兄妹は、そこでレオポルトが借りている学生寮に向かう。
「ホクホクだな」
「当然!こんなに貰えたんだし〜♪」
彼女はそう言って誕生日プレゼントで貰った荷物を両手に持って頷く。
店を赤字に追い込んでやると意気込んでモリモリと食べた彼らであったが、ヴァージニアなどの大食漢な種族はそもそも料金が高く設定されているので基本的に赤字にすることはできなかった。
「で、兄貴からはなんか無いの?」
「まあ待て」
ドーラはそこで聞いてきたのでレオポルトは自信がある様子で答えた。
これほど渡されていて余裕があるので、どれだけ自信があるのかが伺えると、二人はレオポルトの部屋に入る。
「お前にはこれだ」
そして部屋の中でレオポルトは彼女に一つの細長い紙箱を渡してきた。そしてすぐにドーラはそれがレオポルトが作ったものなのだと理解してから早速受け取った箱を開ける。
「これは?」
そこで取り出したレイピアにドーラは首を傾げた。
「『スカジ』…お前の誕生日祝いだ」
「おお…!!」
その剣を前にドーラは嬉しそうに白と青を基調とした鞘を受け取って片手に握った。思わず両手で持っていたプレゼントを床に置いてしまう。
「半年以上かけて準備したんだぞ?どんな使い方をしても壊れねえように調整してんだ」
彼はそう言うと、大いにドーラは納得する。
「刀身ににミスリルを使用したから、磨くのを忘れるなよ」
「ええ、
ドーラはそう話し刀身を確認すると、そこでレオポルトの持つベリザーナと同様に刃の付いていない模造刀となっているのを確認した。
「柄の部分に安全装置と、刀身の酸化防止用に空気遮断の魔導具を埋め込んではいるが、酸化防止の魔法は使用者が柄を握った時しか発動しないんだ」
「へぇ…」
そこで説明を受けながら渡されたドーラは自分に作ってくれた剣を見つめると、レオポルトは少し胸を張って言う。
「だが、そいつはそれで完成じゃない」
「え?そうなの?」
「ああ、ソイツはもう一つ揃える必要がある」
「?」
そこで首を傾げると、レオポルトは笑って言った。
「まあ、ソイツはまたしばらくしてからのお楽しみだな」
その時、彼の目はまるで子供のように煌めいていた。
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