二年生となったレオポルト達。年子の妹でもあるドーラも無事に入学をしてくれたことで、兄としても少し気が楽になった気がする。
「ーーで、これによって古代魔法は…」
その日、レオポルトは学校の講義室の一つを借りて古代魔法の教鞭を執っていた。
「なるほど…」
「しかしその場合、古代魔法の発動条件から外れてしまうのは?」
教鞭を執っていた相手は魔法史学ゼミ。
学内で主に古代魔法の調査と研究を行うゼミであり、本来であればレオポルトがいるべき場所であったかもしれない部であった。
「ええ、しかし私が実験したところ、この際に闇系統の魔法は発動しています」
「…ここで実践できますか?」
「安全が確認できるのであれば」
魔学院は中央に聳えるサイエンスセンタービルに全ての教育に必要な施設を集めており、教室や視聴覚室、職員室などは全てここにあった。
「…」
レオポルトは古代魔法の実演を行いながらゼミ生と意見交換を行なっていた。
その後、やや疲れた様子で彼は廊下を歩く。
「はぁ、わざわざ俺を指名してくるとはね…」
「ごめんなさい。部長が言っても聞かなくて…」
意見交換会を終えてレオポルトは短息すると、隣でアニが少し申し訳なさそうにしていた。
「いや、気にしなくて良いさ」
しかしレオポルトはそれほど気にしていない様子でアニに返すと、二人は教室に入る。部屋の中では多くの生徒が出入りをしていた。
「今日の講義はどうしますか?」
「受けるつもりだぞ?アニはどうする」
「レオくんが受けるなら私も受けようかなって」
「ん、OK」
レオポルトは頷くと、教室の席に座って二人は教材を取り出す。
「今日はどこの範囲だっけ?」
「数列だ。はさみうちの原理をやる筈だぞ」
「はぁ…少し疲れますね」
「むしろ数列が苦手じゃない生徒って珍し気がするがな」
軽く笑ってアニに答えると、レオポルトに大いに彼女は頷いていた。
少なくともこの未来の世界に自分という存在が誕生してからというもの、前世の頃よりも優れた技術や豊かな生活を前に、よくある小説にある無双モノの創作話とは行かないもんだと思った。
そもそもああいう作品は『未来という最適解を知っている』からこそ過去に戻った事でその手腕を活かす事ができ、答えを最短ルートで突っ込んでいくからチートたらしめているのだ。
そもそも答えどころか問題提起すらされていない状態の世界から、解法と答えを提示された未来の世界に過去の人間が飛ばされたところで何ができるのかという話だ。
まあ少なくともレオポルト達ができることとすれば『当時を生きた人間』として歴史書を執筆することが精一杯だと思っていた。
「レオポルトくん」
「?」
二人で話していると、そこで話しかけてくる人物が一人いた。
「談笑中すまない」
ロバートだ。
「ど、どうされました?」
意外な人物から話しかけられ、レオポルトは少々意外な様子で彼を見上げると、ロバートは言ってきた。
「すまないが、近日中に空いている日はあるか?」
「え?」
一体全体、どうしたのだろうかと困惑しつつもカレンダーで予定を確認する。
「…三日後の午後一番の授業なら」
「ではその時間に試合を入れてくれ」
「へ?」
そして彼から告げられた話にレオポルトは驚愕する。
「何故ですか?」
「ふむ、まあ事情があるのだが…」
ロバートはそこでレオポルトに試合を持ちかけた事情を話す。
「唐突で悪いんだが、現代魔法と古代魔法で試合をしたいという要望が二年生からいくつか上がってな」
「はぁ…」
「そこでウリヤノフ先生も、現代魔法のハーキュリー先生も乗り気になったんだ」
「は?」
真顔で困惑顔で顔を見上げると、ロバートも困っている様子で同じ気持ちを抱いているというのが理解できた。
「で、二人の先生が、二年生で一番腕のいい魔術師を選んだ…ってところか?」
「よく分かったね」
「親父の考えなんて予想がつくよ…」
大方、この意見を聞いてノリノリで現代魔法の講師に提案したに違いない。
カールとレオポルトの関係というのは、生徒会にいて尚且つ古代魔法の授業を受けていれば自ずと察することができる。
「…まあ、そう言うことだから。頼むよ」
「気乗りしないなあ…」
「それは僕とて同じだ。それじゃあ」
それだけ言い残すと、彼は部屋を後にした。
「…三日後に試合ですか?」
「ああ、面倒なことになった…」
レオポルトは軽く頭を抱えると、アニは隣で言う。
「逃げちゃえばいいのに…」
「それができたら苦労しねえ…よっ」
彼はそう言うと、座っていた椅子を立ち上がる。
「悪い、今日の授業飛ぶわ」
「え?いいの?」
「大丈夫。考査の成績さえよけりゃあなんも問題ねえよ」
彼はそう言うと、教室の窓を開けて下を見た。
「え…?」
風が吹く教室。そこで彼は大きく身を乗り出したので、見ていたアニは目を見開く。
「悪い、窓閉め頼んだ」
彼はそう話すと、窓のサッシに足をつけてそのまま窓の外に飛び出た。
「レオくん!!?」
アニは目を見開いて彼が飛び降りた窓を追いかけて下を覗き込むと、そこではビルの壁を歩いて降りていくレオポルトの姿があった。
「…凄い」
その時、彼女はレオポルトが自分の履いている靴やズボンに重力の向きを変える魔法を使っているのを見た。その器用さと繊細な魔法をこうもあっさりと使っていることに驚いていると、次に彼は真っ直ぐ街に向かって飛翔していった。
「何だ!?」
「レオが飛び降りやがった!」
「マジかよ!?」
その時、後ろから聞こえてきた声にアニは内心で『ああ、面倒なことになった』とゲンナリしていた。
その日の夜、学内工場の打刻機の前で本を開いていたレオポルト。
先ほど市販品で売られていた軍用のマチェテを購入し、刃を加熱魔法で溶かし落とした後に打刻機に突っ込んで魔導はんだを入れる準備を終えて待っていた。
ブーブー「?」
その時、携帯のバイブ音がして彼はスマートフォンを取ると、二件の着信があったことを知る。一つはカール、もう一つは風紀委員会からだった。
「いけね、電話かかってきていたのか…」
着信履歴に風紀委員会からの連絡は留守番電話になっていたのを見て、レオポルトはこのうるさい工場にいたせいだと理解すると打刻機を同じ魔道具設計局の生徒に頼んでから電話を折り返す。
「…」
学内工場の控え室で彼は電話が出るのを待つと、直後に繋がった音がした。
「ああ、もしm『レオ!頼むから風紀委員会に戻ってくれ!!』ああ…」
その時、同期で風紀委員会に入ったジノヴィ・アレクセイ・スホーイが悲鳴をあげて電話越しでも分かる苦痛を漏らしていた。
『アイツら!お前がいないって分かった瞬間に大暴れしやがったんだ!』
「ああ…そう」
『頼む。仮面でもいいから籍置いてくれ』
「やだ」
その直後、電話越しでも分かる台パンの音が聞こえた。
『馬鹿!こう言う時は親友の誼で頼みを聞くところだよ!』
「んな映画みたいな展開求めるなよ…」
レオポルトはそう言って断固拒否の構えを示す。
「(戻ったら戻ったでこき使われるに決まってる)」
彼はそう思い、去年の出動命令の回数の多さを思い出す。今でも確実に思っているから言えるが、明らかに自分だけあの風紀委員長は出動命令を多くしていなと思う。おかげで制作できた魔道具も他の設計局所属の生徒と比べれば少ない。
レイセオン先輩やシャーマン先輩も卒業をしたことで新しい設計局局長と副局長が選任されて久しいと言うのにこの有様である。
「言っておくがな。俺は戻らねえぞじゃなきゃ卒論も書けやしねえ」
『去年アリサカ先輩にこき使われたことか?大丈夫だ!俺が保証する!』
ジノヴィは心の底から声を上げていうが、いまいち去年の嫌な経験を思い出す。
「いや、ダイムラー先輩にも悪いが、俺はやりたい研究がしたいの」
『名前借りるだけ!マジ頼む。このままならお前の目の前で土下座しにいくぞ』
「マジでやめろ」
真顔になってレオポルトは言う。ジノヴィのことだ、本気でやりかねないのが恐ろしいところだった。
こうなっては仕方なかった。
「はぁ…ハロウィンパーティーに出動命令出されるのは勘弁だぞ」
『っ!!』
彼はそう言うと、ジノヴィは明らかに目を見開き、嬉しげにした様子で言う。
『ありがとう!お前の名前があるだけで不良どもは震え上がるんだ!』
「ああ、そう…」
そこでレオポルトは『そんな俺怖いか?』と思っていたが、連日連夜の出動に旧校舎での古代魔法の試射を思い出して『ああそうか』と自分自身で納得してしまった。
「おーい、レオ。打刻終わったぞ」
「おう、悪いな」
休憩室で呼びにきてくれた同級生のガズ・モスクヴィッチに答えると、やや男まさりのある彼女は聞いた。
「三日後の試合か?」
「ああ…あれ、何で知ってんだ?」
レオポルトは首を傾げると、彼女はその訳を話す。
「ウリヤノフ先生が、見れる生徒は見た方がいいってな」
「チッ…親父め」
軽く舌打ちをすると、ガズは軽く笑いながら言う。
「いいじゃないか、次席が首席に泡吹かせるチャンスだぞ?」
「別にそんな機会求めちゃいねえよ」
レオポルトはそう答えながら工場に戻ると、打刻を終えて祝詞の文字が刀身に無数に羅列されたマチェテを見る。
「あっ、レオくん」
「よ、ワズ」
その打刻されたばかりのマチェテを前に立つ一人の少女、見た目は完全にこの隣に立つガズとそっくりだった。
彼女はワズ・モスクヴィッチ。名前の通り、ガズとワズは一卵性双生児である。ただ意外なことにボーイッシュなガズと年頃の少女らしいワズと、性格は分かれていた。
「新しい魔導具ですか?」
「ああ、ベリザーナとセットで使いたくてな」
彼はそう言って赤い刀身のマチェテを見せる。
「じゃあ魔導はんだ、私がやってもいいですか?」
「ん、いいぞ」
「やったやった〜!」
ワズはそこで嬉しそうに許可をもらってから打刻を終えたオリハルコンを使った真鍮色の刀身に魔導はんだで祝詞を描いていく。
「おお、流石に腕上がったな」
「ええ、これでも練習しましたから!」
胸を張って彼女は見ていたレオポルトに答えると、黙々と魔導はんだを打刻したマチェテに流していた。
お気に入り登録、高評価をよろしくお願いします。