その日、魔学院のスタジアムに多くの生徒が集められていた。
最も小さなスタジアムであるが、それでも三千人の生徒たちが着席可能なスタジアムだった。
「流石に人が多くない?」
その様子を見て呆れて見ていると、隣でヴァージニアが言った。
「そうか?それほどでもないような気がするが…」
そこでレオポルトは気にしていない様子でいたので、見ていた彼女たちは呆れていた。
「まあレオがいいならいいんだけどさ…」
今回は授業の一環として現代魔法と古代魔法の優位性を証明するための試合を行うと事前に広告を打っていたせいで、別の学園カラーや色や形の違う制服までスタジアムの席に見えた。
「よく慣れてますね、こんなに見られるのに」
「まあな」
レオポルトはそこで頷くと、ドーラが言った。
「そりゃあ兄貴ですからね」
「オメエもだろうか」
それには流石にレオポルトは反論をする。
二人とも前世では自前で二万人規模の軍隊を率いており、その総司令官として立っていたのだからこれくらいの視線が集まっていても特段緊張するようなことはなかった。
「(兄貴は前世は戰上手だったしね)」
「(だからオメエが言うな)」
古代魔法で話しかけてきたのでそこでも再度ツッコミを入れると、待機室でレオポルトの知り合いが話していた。
「大丈夫なんですか先輩?」
「ああ、良いさ良いさ。どうせいつもの親父の悪ノリだから」
そこで不安げにジャンが聞いてきたので、無問題であると言う雰囲気で軽く答える。
「まあパパの悪ノリはいつものことよね」
「え、そうなの?」
「ええ、まあ古代魔法の実習受けてたら分かるでしょ」
ドーラに指摘をされ、途端に二年生達は糸目になる。
「「「まあ、うん…」」」
そしてやや肩を落としてひたすらに実習で魔法式破綻による自爆をしてきた同級生達を思い出していた。
少なくとも実習が終わってシャワーを浴びに行った奴がいたら、そいつは古代魔法が自爆したやつだ。
「兄貴、行けそう?」
「なんとか」
そこでドーラが聞くと、レオポルトはその珍しい色合いの刀身を見せる。その見覚えのないマチェテにジャクソンが聞いた。
「何だそれ?」
「新しい俺の魔導具」
「え、いつの間に作ったんですか?」
アニが驚くと、彼は答える。
「この試合のために仕上げたの」
「ああ、あの買い出しに行った時ですか?」
「そそ。事前に打ち込む打刻魔法はパターンが決まってるし、打刻機に突っ込んであとはモスクヴィッチ姉妹がはんだとメッキやってくれた」
「ああ、アイツらか」
そこで工場によく呼ばれていたジャクソンは知っていた顔であったので思い出すと、次に黄金色にメッキされた刀身を見て苦笑いする。
「随分と派手な見た目だな」
「この方が伝導性高いし、魔法の杖代わりにも使う予定なんだから仕方ないだろ?」
彼はそう答えると、彼は立ち上がって両腰にマチェテを下ろす。
「今回、銃火器の使用は禁止。あくまでも魔法のみの試合。ルールは渡される護符が破壊されるまでか?」
「ああ、魔法の衝撃を無効化させる障壁魔法だ。魔石を使用するな」
「あっ、感応石じゃないんですね」
アニが反応すると、レオポルトは頷く。
「ああ。だからそれだけ短い時間で終わらせろってこと」
「うわ、これはすごいのが見られそうね」
ヴァージニアが楽しげに答えると、レポポルト達は苦笑気味に反応していた。
「一応、私が監督で見ておこうか?」
「親父とハーキュリー先生が監督してるから問題ないと思うけどな…」
そこでドーラが耳打ちをすると、レオポルトは大して問題ない様子で待機室を出ていく。
「「「「頑張れー!」」」」
「おう、行ってくるわ」
一番上の白衣を脱ぎ、その下のベストとズボンの姿で彼は友人達の声援を送られながら待機室を出て行った。
その頃、別の待機室でも二人が話していた。
「いよいよね」
「ああ、まさかこんなことになるとは思っていなかったがな」
ロッカーに白衣を片付けながらロバートは言う。その仕草にエレオノーラ・ツポレフは苦笑気味にこの曲がりしたスタジアムを見る。
「やれやれ、ハーキュリー先生とウリヤノフ先生の無茶振りには困ったものね」
「現代魔法よりも古代魔法の方が優れてるっていう認識も多いからな。まあ、それを打開する良い機会だろう」
そしてロッカーの鍵を閉めて、暗証番号を入力する。
「武器は?」
「いつものこれでいくさ」
そう言い、彼はデバイスを握る。昔から使い慣れてきた、今ではやや型落ちに近いデバイス。
「そろそろ新しいの買ったら?」
「最新のは敏感すぎるからね、古い方がまだ僕には使いやすい」
エレオノーラと親しげに彼は話すと、直後に待機室の扉がノックされた。
『そろそろ時間です』
「今行くわ」
代わりに彼女が答えると、次に親友を見て言った。
「ご武運を」
「ああ、行ってくる」
そこで二人は軽く拳をぶつけると、彼は待機室を後にする。
そして待機室を出ると、反対からも人が出てくる。
「よっ、今日はよろしく頼むぜ」
「ええ、お手柔らかにお願いしますね」
レオポルトと顔を合わせてからスタジアムに向かって移動をすると、二人は試合会場に出る前に審判役の二人の教師と顔をあわせる。
「今日はあくまでも古代魔法と現代魔法の有利不利を教えるための教育の一環としての試合だ。ルールは厳格に決められている」
まずハーキュリーがそう言ってから細かいルール説明を行う。
「接近戦は禁止。お互いコートの中心線の前後五メートル以内に近づいた場合は、警報がなる。警報が二回鳴ったら失格扱いだ。また魔法によるコート破壊も失格の対象となる」
「一応ルールは、この護符が焼け切れた時。判定はこちらで行う」
そこでカールから二枚の印刷された護符を渡されると、二人はそれを制服のベストの胸ポケットに入れられる。
「ルール説明は以上だ。コート周辺は結界を用意しているから流れ弾が生徒に当たることはない。あとは好きなだけやり合ってこい」
「分かりました」「了解です」
説明を聞き、魔法の無制限使用などが認められたことを把握すると、二人は了承した。
「何か質問は?」
「「ありません」」
「よし、十分後に始める。お前らは外で待機しろ」
カールは頷いて二人を送り出すと、彼らは外に出てコートを歩く。
「やれやれ…」
そこで沸き立つ歓声。試合の賭け、そうしたことが行われていることに呆れてスタジアムを見上げていた。
「なるほど、サッカーコートは焼け野原にして良いってことですね」
「おっ、やる気あるじゃねえか」
青々としていたサッカーコートを見て呟いた一言にレオポルトが反応すると、二人は不敵に見合った。
「よっしゃ、んじゃ頑張りましょうかね」
そこで軽く屈伸を行ってコリをほぐしてからレオポルトは入ってきた右手コートに移動し、ロバートは左手コート中央に移動する。
『試合開始、五分前〜』
そこでカールの声でアナウンスがされると、生徒達は風紀委員会の摘発から逃げながら聞いていた。
するとコートに立ったロバートはメガホンで怒鳴られた。
「毎年部費減らされているんだ!古代文明の力を借りねえと何もできん連中に一泡吹かせてやれ!」
彼も所属している現代魔法学ゼミ長エミール・メッサーがそこでスタジアム席で怒鳴っていた。
これでも面白く敬愛している先輩であったので、ロバートも微笑んで頷いた。
「わかっていますよ。先輩」
「おう!ぶちかましてやれ!」
彼らは大いに頷くて反対座席に座る面々を睨んでいた。
「あの遺跡をぶっ壊しまくる馬鹿どもに教育してやりなさい!古代魔法の素晴らしさをね!」
そのほぼ真反対に位置する席では魔法史学ゼミ長エカテリーナ・ジルがメガホンを使ってレオポルトに怒鳴っていた。
「はいはい、わかってますよ」
宥めるようにレオポルトは答えると、その隣で押さえ込んでいるアニや複数の生徒を見た。
「気をつけて」
「おう、そっちもな」
そこで今にも落っこちてしまいそうな勢いで乗り出して、今にも座席で乱闘が起こってしまいそうな雰囲気に苦笑していた。
基本的にこの学校だけかもしれないが、現代魔法学ゼミと魔法史学ゼミは予算の取り合いで毎年大揉めに揉める部活動だ。生徒数も多く、いつも三番手の魔導具設計局の頭上で罵り合いの喧嘩をしている印象しかなかった。
『試合開始、二分前』
アナウンスの時間が刻一刻と迫る中、レオポルトは改めて試合開始前に自身が持ち寄った二本のマチェテの再確認を行う。
「急増だが、設計上は問題ない耐久性…」
事前に演習場を使って試運転も行なっていたので問題なく魔法行使可能である品質であるのはわかっていた。役所に届出もして、日常で使える自作魔導具である。
「大丈夫なの?数日で作った魔導具なんて」
「兄貴に作った魔導具よ?下手な安物買うより絶対頑丈よ」
制作日数を聞いてアシュリアが不安がる隣でドーラが自信を持って答えていた。
「レオポルト先輩が作った魔導具だもんね…何もかも未知数だよ」
ジャンも席に座って相対している二人を見ると、次にドーラが下ろしている鞘に収まったショートソードを見た。
「その剣を見た時、すごい精度だって先生も言ってたし…」
「でしょ?」
自分のことのように誇らしげにしているドーラはジャンに返すと、その頭上で怒声と罵り合いの嵐が吹き荒れていた。
「おうおう!びびってねえでこっち来いや!」
「は?なんでアタシらがそっち行かなきゃならないのよ!?」
そこでは魔法史学ゼミと現代魔法学ゼミの所属生同士が座っていた。
「どうするのこれ?」
アシュリアが不安げにそのやりとりを耳にしてドーラに聞くと、ジャンが恐る恐る提案した。
「に、逃げた方がいいんじゃ…」
「下手に巻き込まれる前に退散した方がいいかもね」
ドーラも流石にこの状況に危険を感じて退散を決定すると、すぐに逃げ出していった。
「あ、喧嘩始まった」
その直後、逃げた先で座った席から先ほどいた場所を見下ろすと、そこでは乱闘騒ぎになって風紀委員が笛を鳴らしながら警告を行なって乱闘に突入していく様子が窺えた。
「あーあー、大丈夫なのこれ?」
「さ、さあ?」
ドーラが呆れていると、隣でジャンは首を傾げていた。
『試合開始!』
その直後、ブザーと共に旗が下ろされて爆発音がスタジアムに響き渡った。
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