この時代において『最後の勇者』と『最後の魔王』という両者への評価というのは共にきっぱりと分かれていた。
まず最後の勇者、シャターン・デ・アルビレオ。
彼の最後は帝城決戦の玉座の間で死亡し、その後遺体は消失して失われた。
生前、その出自ゆえに前半生は苦労を強いられたとされる彼。その後の革命の混乱などにより彼に関する記述は多くが消失していた。
しかし彼のその天才的な軍才はあらゆる歴史書にその兵法が残されている。
特に彼が軍才で優秀であるということは、彼が行った軍制改革を見ればわかる通りである。
勇者の能力として、当時は世界最大級の多民族国家であった連合王国の人々を人血の束ねることが可能なその力を受け継いだシャターンは、王族の血族やその勇者としての能力を最大限発揮していた。先々代国王による後押しも彼が王族内の軍人として認めざるを得ない理由の一つであっただろうと推測されている。
当時、最も次期勇者として期待されていたオルグレリオ公ジェイク・デ・アルビレオは病弱で幼く、公務を行うには体に負担があるとして代わりに勇者としての能力が顕現したシャターンが勇者として連合王国軍総司令官に就任した。
彼の行った軍制改革は、今の軍組織の基本となった近代軍制の先駆けとも称されていた。
明確な上下構造を持った軍組織。人数で仕切られた部隊。徹底管理された徴兵制度。
建国以来初の非貴族階級出身の勇者であったことも彼が『平民勇者』として名を馳せた理由でもある。
そんな彼の名声を落としたとされているのが『帝城決戦』である。
この攻撃に関しては今でも実に多くの議論が飛び交う疑惑の戦場である。
次に、最後の魔王であるジブリール・フォン・リヴァイアン。
彼女の最後もまた帝城決戦による戦いの中で帝城の大火災によって遺体が消失した。
生前、彼女は生まれながらにして次代魔王としての帝王学が教育されていた。
彼女は古代魔法の天才であったと言われており、単独で連合王国軍の一個師団を壊滅させることが可能であったと言われている。
しかし幼少期から徹底した思想教育を受けたとされる彼女であるが、一方で彼女は多くの慈善活動を行なったとされる記録が残されている。
魔王としての能力が顕現した後は、帝国を率いる諸種族の王として勇者との戦いに明け暮れていた。
彼女はシャターンとは生涯にわたるライバル的関係にあり、連合王国軍の軍制改革を前に自国の帝国連邦軍の改革を行なっている最中に帝都決戦による襲撃を受けていた。
この勇者シャターンと魔王ジブリールによる勇者と魔王の戦争は、双方の血族の死によって終戦を迎えた。
そしてその後、両国はもはや自国の経済力以上に膨れ上がってしまった戦費や、国内の諸種族の反乱に注力せざるを得なくなり、とてもではないが戦争を行える情勢ではなかった。
意外なことかもしれないが、勇者と魔王の血筋というのは詳しい詳細な能力については今もわかっていない。
そもそもその能力がこの二人以降、現れることがなくなってしまった。そのことが結果的に『諸種族の春』と呼ばれる戦争の名の下に行われてきた同化政策・愚民化政策の反発となって両大国の崩壊に繋がった。
この帝城決戦に対して、歴史家は高評価する。
ーーなぜ軍事の天才であった彼がこの様な無謀とも言える作戦を行ったのか、我々は熟考する必要がある。
今現在の合州国で高等教育の義務課程の中で学ぶ歴史の授業というのは、主に新世界歴を中心に学ぶことが多く、あまり旧世界歴と呼ばれる時代について勉強をすることはない。
「やれやれ、今度の考査の範囲もなかなか面倒なやつだな」
「第五次大陸遠征軍のこと?」
「それって四カ国同盟のことか?」
「阿呆、それは二個前の第三次大陸遠征軍でしょうが」
放課後に教室に集まって教科書を開いているレオポルト達。いつもの四人は頭を悩ませながら歴史の暗記を行っていた。
「そうだ。第五次大陸遠征軍はネーデルランド・フランク・アンサルドの三王同盟軍だ」
「もうわっけ分かんね」
頭を抱えて投げ出しそうになるジャクソンを隣でレオポルトが宥めていた。
「この第五次大陸遠征軍は三八二年にロングロング島のブルックリンクに三王同盟軍が敵前上陸を行ったところから始まる」
「へえ、流石に詳しいな」
「お前ら、小学校の修学旅行で行ったことねえのかよ」
ジャクソンにレオポルトはツッコミを入れると、それぞれが反論の意味も込めて答えた。
「だって俺西海岸出身だし…」
「私中部だからそこ修学旅行じゃないもん」
「私は南部生まれですので…」
「マジかよ…」
まさかの全員が違う出身地ゆえに修学旅行も別々であったという事実に驚愕をすると、目を大きく見開いて彼は驚いていた。
「でも古代魔法が得意な人って歴史得意ってのは割とそうなのかな?」
「世界史じゃねえの?そういうのって国史学が得意なのか?」
ヴァージニアの呟きにジャクソンが首を傾げていた。その言葉にレオポルトは反応する。
「でも案外、歴史が得意なのと魔法が得意なのは近似できるかもな」
「あっ、じゃあ今度の自由課題それで出してみない?」
「アリだな…」
「それなら、先輩方の実績もありますしね」
それにはアニも同調すると、レオポルトがそこで聞いた。
「誰か知り合いに同じことやったのはいないか?」
「ゼミの先輩に聞いてみますね」
「おう、頼むわ」
空き教室で考査前の勉学に苦労していた彼らであるが、自由研究課題を見つけて少し気が楽になっていた。
「よし、ここら辺でとりあえず今日は終わろうか」
「ん」
「OK」
「分かりました」
レオポルトが腕時計を見て言うと、ジャクソン、ヴァージニア、アニはそれぞれ頷いて教科書を片付けていく。
「あの、レオくん」
「?」
そこでアニが少し強張った声で話しかけてきたので、レオポルトは振り返って反応をする。
「この後、ゼミで渡された新しい研究資料があるんですけど、一緒に確認って、できるかな?」
「ん?ちょっと待ってろ…」
予定を聞かれてレオポルトは携帯を確認すると、この後のシフト表の確認をしていく。
「…ん、良いぞ。この後特に予定もなさそうだしな」
「うん、分かった」
彼の頷きを見て少し嬉しげにアニはレオポルトと共に教室を後にして行った。
「「…」」
その様子を見つめていたジャクソンとヴァージニア。
「おやおやぁ?」
「おい、あまり野暮な事すんじゃねえぞ」
そしてやけにニヤつくヴァージニアをジャクソンがスンと大人びた様な反応をした。そんな彼の反応にヴァージニアは面白くなさげな顔をしていた。
「何よ、私が引っ掻き回す通り魔だとでも?」
「それを口にした時点でそれをやる気満々だったろ…」
半眼になってジャクソンはヴァージニアを見つめると、彼女は平然と返す。
「だって焦ったいんだもん。いやらしい雰囲気にしたくない?」
「アホか」
コイツは一体何をさせる気なんだと聞いていたジャクソンは呆れていた。
「あっ、後でアイツに聞いとかないと…」
そこで思い出した様にジャクソンは呟いた。
レオポルトは、正確に言えばゼミ生ではない。しかし父親がその筋では有名であったために仮入部員のような幽霊部員の様な形で彼はその部屋に出入りすることが許可されていた。
「風紀委員、魔導具設計局、魔法史学ゼミ…いや、最後は入ってないんだがな……」
「すごい兼部だね」
「他人事みたいに言いよって…」
隣で話してくるアニに呆れた様な、疲れた様な様子でレオポルトはため息混じりに校舎を出て部活動舎に向かう。
「全くさ、風紀委員も俺をなんだと思ってんだよ」
「結局出戻りしちゃったしね…」
「本当だよ」
何のためにふう会員をやめたのかがわからなくなってしまった。確かに今まで一度も呼ばれた事はない。しかし風紀委員会で自分がどの様に扱われてるのかもわからない。
「でも元々、レオくんの魔法は評判が良かったじゃないですか」
「そうか?」
「うん。先生からも評判がいいって話だし…」
二人はそう話しながら部活動棟に入ると、そこでは多くの生徒が行き交っていた。
基本的に魔学院の生徒であるのだが、そのなかで一人の女生徒が手を振って手招きをした。
「おお、レオくん。こっちだよ」
そこで部室に入ってきた二人を呼んだのはエカテリーナだった。彼女は二人を招き入れると、そこで早速レオポルトに話しかける。
彼女は悪い人ではないのだが、人の扱いがとにかくひどい。なんというか、自分よりも人の使い方という点に関しては粗雑で、人を振り回すことに関しては卓越した才能を持っていると言っても過言ではない。
「で、部員でもない生徒を呼んだのはどうしてですか?」
「うむ、実は先生から新しい史料をお貸しして貰ったのだ」
そう言い、彼女は卓上に置かれた布に包まれた石板を見せた。
「ああ、これですか?」
「おや、知ってるのかい?」
「ええまあ、この前発掘されたばかりの二百年戦争末期の石板ですよね?」
「ああ、これが闇系統の魔法であることはわかるのだが、実践しているところを見せてくれないか?」
「いいですよ」
そう言いながらレオポルトは石板を手に取る。見覚えのある石板で、この前自室に訪れたカールが見せてきた代物だ。
分かるだろうが、今の魔法史学ゼミの顧問を請け負うこととなったのは父親だ。まあ誰がどうみてもお似合いだろうというのが俺たち兄妹の反応でもあったし、実際生徒からのウケは最高と言っても良かった。
「ああ、こんな希少なものを快く貸してくれるとは、君のお父さんは太っ腹だな」
「親父は壊さなきゃ大抵貸してくれますからね」
まああの人の場合、管理が雑だから家の床に掘り出したばかりの遺物をの晒しに置きっぱにすることが多いともいうべきか…この人もこの人で粗雑な部分があるのだ。
「まあ、一度壊すと後が怖いんですけどね」
「そうなの?」
「ああ、昔それでどっかの学校があらゆる発掘現場を出禁にされたからな」
「えっ…」
そこで目を見開いて驚愕するアニ。悪いがそれが事実なんだ。
「発掘現場を出禁か、これは痛いな」
想像しただけで末恐ろしいと思わせてくれる話にエカテリーナは苦悶の表情をしていた。
「まあ大丈夫だと思いますよ?ここの学校の生徒は流石に掘り出したばっかの土器を鞄振り回してぶつけて割るなんてしないでしょうし…」
「あ、それは怒りますよ」
「それは学校側の問題だな…」
そこで用意にカールが激怒したことが二人でも用意に想像ができてしまった。
「この石板なら簡単です。今から実演しますね」
「おう、ちょっと待っててくれ。部員を集めよう」
レオポルトは言うと、エカテリーナは新たに発掘された新魔法を前に部員の召集を開始した。
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