暁の水平線の怪獣王   作:真奪還

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第三話 事情説明

『何とか撒けたな……』

 

 突然の来訪者により長門の追及を逃れたゴジラは長門が眠っていた建物を離れ、現在はそこから少し離れた浜辺にいた。

 確かに長門は話こそはしたが人間が造ったモノの質問にそこまで答えてやる義理はない。ここでアイツとはお別れだ。

 

『……』

 

 眼前に広がる紺碧の海、そして磯の匂い。あの子と一緒に居る以外はこうやって海を見るのが一番心が安らぐ。

 

『これから……どうしようか』

 

 離れたは良いがその先のことは考えていなかったゴジラ。どれだけ考え込んでも思いつきやしない。

 

(当たり前か……)

 

 守るべきものを失い、体も力も無くした、ただただ辺りを漂うだけの自分に一体何が出来るのだろうか?

 

『……ダメだな』

 

 これは昔からの自分の悪い癖だ。ついつい余計なことまで考え込んでしまう。

 ともかく、このままでは延々と負の思考に浸ってしまいそうなので、とにかく動いて余計なことは考えないようにした。とりあえず、海に出ようと足を一歩踏み出したその瞬間――

 

『――ッ!?』

 

 急に全身から力が抜ける、そしてそれはすぐに耐え難いほどの苦痛に変わりゴジラに襲いかかった。

 

『グ……ガ……ァ……ッ!』

 

 息が苦しくなり、視界も段々定まらなくなる。意識も遠のいてきた。偶然目に映った手を見ると端の方から光の粒になり消えていってるではないか。

 このままでは確実に自分は消えると、ゴジラは察した。

 

『まず……い……!』

 

 ほぼ無意識に、ゴジラは後ろへと下がる。すると先程までの苦痛が嘘だったかのようにピタリと収まり消えかけていた体も元に戻った。

 そして、一気に体力を消耗したのかゴジラはそのまま仰向けに倒れ込んだ。

 

『ハァ……ハァ……まったくどうなっているんだ……』

 

 水の触れたのが原因なのかそれとも別のなにかなのだろうか……。

 これに対する回答を考えるがなぜこうなるのか確信できる要素が何一つ思いつかなかったため、この思考は徒労に終わってしまった。

 

『本当……今日一日ロクな目に合ってないな、俺』

 

 乾いた笑い声を上げながらそう呟くゴジラ。だが、すぐにその呟きを訂正する。

 

『……いや、あの時から俺には何一ついいことなんて起こってないな、あの子出会ったこと以外……』

 

 自嘲気味にそう言うゴジラ。そしてそれからしばらくの時間が経った

 

『そういえば……どうやって俺と長門はあの鳥から逃げられたんだ?』

 

 ふと、そんなことを思う。確かに不思議だ、なぜあの鳥から自分らは逃れられることが出来たのだ?

 鳥が見逃した? いやそれは断じてない。あの鳥の目は自分が定めた獲物は必ず殺すといった目であった。ならばなぜ逃れられることができた?

 考えているとおぼろげながら思い出してきた。

 

『そうか、そういうことか……』

 

 そう、自分は極短い間だが元の肉体を取り戻しあの鳥を倒していたのだ。だからこうやって長門も自分も無事でいる。

 

『俺は元の体を取り戻せるのか……!』

 

 力と肉体を取り戻せれば、自由に動けるようになればどうにでもなる。そう思えるようになると俄然希望が湧いてきた。

 自分と同じようにここへと流れ着いてきたかもしれない、あの子を探すことだってできるのだ。そして、元の体を取り戻すための鍵は――

 

『長門……』

 

 それともう一つあの時、自分は「消えたくない」と思った。それが鍵だ。

 確証もなにもないのに、なぜか、そうだと確信できた。とにかくそうだと分かれば話は早い。だが、下手に動けば長門に怪しまれる可能性が高い、だからまずは機会を待つ。

 そう結論付け、ゴジラは来た道を辿りながら戻っていった。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 長門に名を教えた茜はオイゲンにあることを頼み退室させ――その際、散々セクハラはしないようにと釘を刺されて――今、執務室には長門と茜の二人だけだ。

 

「さてと、長門さん。今、貴方の頭には色々と疑問がありますよね」

「まぁ……そうだな。貴様みたいなやつがなぜ提督の座に居るのかも充分疑問だが……」

「酷いッ!?」

 

 長門の容赦ない言葉に打ちひしがれ、執務机に突っ伏す茜。

 

「ま、まぁ、良いでしょう……とにかくそれらについて順を追って説明しますね」

「どんな手を使って提督になった、とかか?」

「もう勘弁してくださーい!!」

 

 そんな会話をしながらも茜は執務机から様々な写真や書類を取り出し、長門の前に置いた。

 

「――事の始まりは十九年前、1996年七月二十五日。その日、奴らが現れました」

「奴ら……?」

「その奴らのことを我々は深海棲艦と呼んでいます」

 

 そう言いながら茜は積まれた資料の中から一枚の写真を取り出す、そこに写っていたのは数体の鉄の体を持つ魚の異形であった。気絶する前に戦ったあの異形たちだ。

 

「――ッ!?」

「深海棲艦はなぜ現れたか、原因は今も大本営が調査中です。分かっているのは奴らが人類の敵、ということくらいですね。深海棲艦は現れて早々に種類を問わず船を襲い、その結果世界中のシーレーンは破壊されました」

「それで……どうしたのだ? そうなったとなれば世界の国々が黙っていないと思うのだが……?」

「良い質問ですね、そう勿論人類も黙っていません。世界中の海軍が深海棲艦に反撃を試みました。しかし――」

 

 茜は一旦、言葉を切り。そして再び口を開いた。

 

「奴らは悪霊や幽霊のような存在でしてね。倒しても半日も経てば再び蘇るのですよ。それに深海棲艦は軍艦に比べて非常に小さい、攻撃を当てるのも一苦労です」

「…………」

「倒してもまた復活するというその特性のおかげで人類はどんどん追い込まれ、そして制海権を失いました。幸いなことに深海棲艦は陸を襲うことはありませんでしたが……ゆっくりと破滅に向かう状況でした。その時です、艦娘が現れたのは」

「艦娘……?」

「そう、在りし日の(ふね)が少女となって生まれ変わった存在。つまりは貴方のことです」

「そうか……」

 

 艦娘。自分やオイゲンのことをそう呼ぶらしい。

 

「艦娘は唯一深海棲艦を清め、払い完全に消し去る力を持っていました。深海棲艦への対抗策が現れたとなれば話は早い。すぐさまに艦娘を運用できるように国々の法やらなんやらが整備され、志願した適性のある人間を集め、世界のあちこちに基地や鎮守府と言った艦娘が戦うための拠点を建て……そうして深海棲艦との戦争が始まった、というわけです。こんな所ですね、まぁ他にも色々とあったんですが……後は資料室にでも行って自分で調べてください。それで他に何か質問は?」

「ああ、一つある」

「ふむ、なんです?」

 

 

 茜の適当さに内心呆れながらも、そう、茜に言われた長門は迷わずあることを質問した。それは、あの鳥についてだ。

 

「――私がここに拾われる前、生まれ変わった直後に私は深海棲艦と交戦したんだ。その最中、」

「その最中……?」

「一体の深海棲艦が蒼黒い鳥のような怪物になったのだ」

「怪物、ですか……? ちょっと待ってください」

 

 茜はそう言うと机から一枚の白紙とペンを取り出す。

 

「とりあえず、これにその怪物がどういった姿をしていたか描いてくれますか?」

「ああ、分かった」

 

 長門は言われた通りに紙にあの鳥の姿を描いた。そしてそれを茜に見せる。

 

「その怪物は……こういう姿をしていた」

「長門さん……」

「? なんだ」

「意外と絵、上手いんですね」

「……今はそんなことどうでも良いだろう」

「場を和ますための冗談ですよ、とりあえずこのことは上に伝えておきましょう」

「信じるのか?」

 

 在るのは自分の証言だけで他には証拠もなにもない情報。正直、信じてもらえないことも想定していたのでこんなあっさりと信じてもらえるのは内心少し驚いた。

 だから、気になって茜に聞いてみたのだ。そして当の茜はさも当然かのように言った。

 

「当たり前ですよ、私たちが戦っているのは人間の常識を越えた存在、いつどんな進化をするかも分かりません。狭く小さい人間(ヒト)の常識に囚われて戦っていたら死にます」

「なるほどな……」

 

 もっともな意見だ。

 

「あ、そういえば長門さんに一つ聞くことがあるんでした」

「聞くこと?」

「ええ」

 

 茜は長門の方へと向き、

 

「長門さん、貴方は深海棲艦と戦いますか? それとも戦いませんか?」

 

 こう言った。茜は話を続ける。

 

「貴方は前は物言わぬ兵器かもしません。ですが、今は意思を持ち、笑うことも悲しむことも楽しむことも怒ることもできる一人の人間です。だから私は貴方の意思を尊重したい」

「…………」

「貴方が戦うのを拒否するのならそれで良い、戦うのならばそれで良い。貴方はどうしたいんですか?」

「無論――」

 

 茜の問いに長門は答える、そこに迷いはなかった。

 

「私は戦うつもりだ、私の祖国をそんな奴らに滅ぼされてはたまらないからな。それにこんな時に戦わなかったら長門の名が泣く」

「ハハハ……流石は日本が誇るビッグ7、と言ったところでしょうか。――良いでしょう、長門さん。大戸泊地は貴方を歓迎します」

「ああ、よろしく頼むぞ」

「こちらこそ」

 

 そのあと、茜はすっかり何時もの調子で喋り始める。

 

「いや~、正直言って助かりましたよ。家にはまだ戦艦が居ませんでしたからねぇ。それに、あんな初心(うぶ)な反応をする貴方を手放すには惜し――」

「ふんッ!!」

「どんまつごろう!?」

 

 そして息を吐くかのように不埒な発言をする茜に長門は容赦なく拳打を喰らわした。茜は一、二メートル程吹っ飛び床に倒れた。

 

「まったく……、少しは見直した私が馬鹿だったよ」

「あが……あががが……」

 

 そうは言ったものの、先程の「貴方の意思を尊重したい」と言った言葉は恐らく嘘ではなく茜の本心なのだろう。そこは信じることができる。

 正直、この極短い間でも嫌と言うほど分かったセクハラ癖さえはければ茜は好感の持てる人物なのだが……。と、長門は思った。

 

「――い、一応私は貴方の上官になるんですがね……」

 

 いつの間にか椅子へ這い上がっていた茜が長門に抗議の声を上げる。

 

「あんな煩悩塗れのことをするからだ」

「ごもっともで……」

 

 茜は服を整えながら、持っていた腕時計を見る。

 

「さて、と。私は少し用事があるので失礼しますね」

「用事?」

「そーれーはー、乙女の……ひ・み・つ♥」

「…………」

 

 ふざけて、ぶりっ子めいた声で言ってみた茜だったが長門は物凄く冷たい目で見ていた。例えるなら養豚場の豚を見るかのような目だ。

 

「ちょっ、ちょっとそんなムシケラを見るような目で見ないで下さいよぉぉぉぉぉ」

「冗談だ」

「な、なんだ冗談でしたか……ゴホン、ともかく後のことは彼女に頼んでおきました。ヘイ、カモン!」

「――は~い」

「っ」

 

 茜が指を鳴らすと執務室の扉が開かれ、そこから一人の少女が現れる。紫の瞳と髪をした少女だ。

 そして、長門はその少女を見たことがある。そうだ、彼女は自分と同じようにあの炎を浴びた、阿賀野型軽巡洋艦の四番艦――

 

「さか――」

 

 長門がその名前を言おうとした。その前に少女――酒匂が口を開く、それも長門の予想から反するもので。

 

「長門さんですよね? ()()()()()()! 酒匂です!」

「なっ……!?」

 

 

 酒匂のその言葉に長門は動揺してしまった。

 冗談なのか? それとも本当に覚えていないのか?

 

(――長門さん、ちょっと良いですか?)

 

 長門がそう考えていると茜が耳元で小さな声を掛けてくる。

 

「っ、なんだ提督」

(声が大きいです。……あの様子を見る限り……貴方は船だった時の最期を覚えているようですね?)

(当たり前だ。あんな事、忘れたくとも忘れられんさ)

 

 あの悪魔の炎に全身を焼かれ、海の底に沈んでいった自分の最後。今でも感じた暴力的な熱を鮮明に思い出せる。忘れたくても忘れられるはずがない。

 

(ですが……酒匂ちゃんは自分の最後を忘れています。それと酒匂ちゃん程忘れてはいませんがオイゲンちゃんも)

(なに……ッ!?)

(この記憶の喪失は二人だけではありません、艦娘は船だった時の最後を覚えていない場合があるんです)

 

 茜の話によると大半の艦娘は自身の最後を覚えているが、忘れている場合もあるという。酒匂やオイゲンがそのケースだ。

 そして忘れていると言ってもその具合も様々で例えば酒匂は完全に忘れているが、オイゲンは何時沈んだかその時どの艦居たかなどは覚えているが肝心の何が原因で沈んでしまったのかは覚えていないと言った感じだ。

 

(これは私の仮説なんですが……彼女たちは自分の精神を守るために無意識の内に沈んだ記憶を忘れたのかもしれません。人間も何かしらショックな事態に遭遇するとその事に関する記憶を忘れる場合があります。それと同じケースなのでしょう)

(……記憶を取り戻すことはあるのか?)

(どうでしょうね……他の鎮守府や泊地でも記憶を取り戻したという話は聞いたことがありませんし)

 

 長門と茜がそう話し込んでいると酒匂から不満の声が上がる。

 

「――ぴゃーっ! 司令も長門さんも私を置いてお話ばかりしないでくださいー!!」

「あぁ、ごめんね酒匂ちゃん。と言うわけで長門さん、この話また今度ということでではでは」

 

 そう言って茜は手を振りながら去って行った。そして現在、執務室に居るのは長門と酒匂だけだ。

 

「もーう、司令ってばぁ!」

 

 酒匂は茜が出ていった扉を睨み、頬を膨らませながらまだ怒っていた。どうやら酒匂はかなり子供っぽい性格のようだ。

 

「……そうだオイゲンちゃんに頼まれてたんだった!」

 

 しばらくは怒っていたが、オイゲン経由で茜に長門の案内を頼まれていたことを思い出し、早速長門の手を取る。

 

「それじゃ、ついてきてください長門さん!」

「あ、ああ。分かった」

 

 こうして長門と酒匂は歩き出した。

 

(しかし……)

 

 最後の記憶を失ったが酒匂はこうやって元気でいる。いずれ思い出さなければいけないのだろうが、今はこれで良いのかもしれない。

 今はまだ幸せなそうな笑顔をしていて欲しい、長門はそう思った。

 

 

 

 

 

 

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