IS/UC -インフィニット・ストラトス/ユニコーン-   作:諸葛ナイト

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一角獣vs青い雫

 アリーナの会場は端的に言うと闘技場のような形になっており、円形のグラウンドを囲うように観客席が並んでいる。

 そのグラウンドの中央、上空10メートル程度の位置で純白のユニコーンとセシリアの専用機である鮮やかな青色のブルー・ティアーズが対峙する。

 

「あら、全身装甲(フル・スキン)とは、ずいぶんと珍しいISを使いますのね」

 

 セシリアは金髪の髪をブルー・ティアーズの腕で軽くなびかせた。

 

 彼女が纏うISの特徴的な部分は大型のフィン・アーマーを4枚、背に従えているところだろう。

 加えて各装甲もどこか騎士甲冑を思わせる造形になっており、彼女自身の雰囲気も合わさってどこか王国騎士のような気高さが感じられた。

 

 しかし、彼女が持つ武器は剣ではなく、スナイパーライフルであり、その長さはゆうに2メートルを超える。

 

(ブルー・ティアーズ。

 イギリスのBT兵器実動データ収集を目的としたIS。調べた限り中遠距離を主体とした機体の武装構成、そして……)

 

 翼はブルー・ティアーズのフィン・アーマーから視線を右腕のビームマグナムに向ける。

 

(リーチも連射もこっちが不利なのは確実だな……)

 

 頭の中でこれから起こす行動を組み立てていた翼へと自信を惜しむことなく見せつけながらセシリアが告げる。

 

「最後のチャンスをあげますわ」

 

「チャンス?」

 

 翼は答えながらシールドを構えビームマグナムの銃口をセシリアに向ける。

 

「わたくしが一方的勝利を得るのは白明の理。ですから––––」

 

 セシリアが言い終わる前だった。

 

 ──ズドュゥゥン!!!

 

 耳に残る高く、そして重いビームマグナム独特の発砲音がアリーナに響いた。

 

 不意打ちの攻撃だったがセシリアは銃口を向けられていた時点で警戒しており、放たれた太いビームを綺麗に回避していた。

 

「まだわたくしが話しているでしょう! 話はきちんと最後まで聞きなさい!」

 

「もう試合は始まっている。

 こっちは10分以内に試合を終わらせなきゃならないんだ。話を聞く暇はないな」

 

「いや、それ自分で言ったんだろ」

 

 そんな一夏の冷静な突っ込みがあったのを翼は知らない。

 

 気にせず翼はビームマグナムのトリガーを引く。

 アリーナに響く独特の発砲音、セシリアはまたもやその攻撃を回避。

 

「そうですか……ならば! 踊りなさい!

 わたくし、セシリア・オルコットとブルー・ティアーズの奏でるワルツで!」

 

 射撃、射撃射撃射撃、また射撃と、まさに弾雨のような攻撃が翼へと降り注いだ。

 翼は回避を最小限に、大部分はシールドで器用に攻撃を防いでいる。

 

「わたくしの腕を舐めてもらっては困りますわ!」

 

 その言葉ともに放たれたレーザーはユニコーンの右肩に命中した。

 

「ッ!?」

 

 次いで放たれたレーザーは右足に命中。この戦闘でのHP、シールドエネルギーを削っていく。

 

「なるほど、さすがは代表候補生。よく狙える!」

 

「ふふん。当然ですわ! 次!」

 

 セシリアがトリガーを引くのと同時、ユニコーンのシールドが上下にスライド、その中にある装置を覗かせた。

 それを中心に円形で透明のフィールドが形成される。

 

 本来ならばシールドの横を通り過ぎてユニコーンに当たるはずだったレーザーは展開されたフィールドに当たった途端に霧散、消失した。

 

「な、なにが」

 

 ISのビームやレーザー兵器はISのシールドバリア技術の応用、ビームやレーザーを作る光や熱線といったエネルギーをシールドバリア技術で束ねて放出、という原理で実現している。

 本来ならば可視化できるほどではないそれらを無理やり束ねている都合上、束ねているバリアが消失すればそれらのエネルギーはすぐさま霧散する。

 

 AB(アンチ・バリア)フィールド。

 ユニコーンのシールド中央部にある装置は先ほどの原理から翼が開発したシールドバリアに干渉、消失させるフィールドを展開することができるものだ。

 

 突然の現象に戸惑うセシリアへと翼はビームマグナムを放つ。

 合計で3回、独特の発射音が響くがやはりそれらが彼女にかすることすらない。

 

(そうそう当てられないか。やっぱり失敗武器じゃないか。

 誰だ作ったの! ……俺か!!)

 

 心の中で設計した自分を呪いつつさらに一発放ったが、それも当たらない。

 

「そんな遅い攻撃当たるわけがありませんわ!」

 

「ならッ!」

 

 新たなカートリッジをビームマグナムにセット、トリガーを引くが放たれた熱線はセシリアが居た場所を虚しく撃ち抜くだけだ。

 当然のように“自然に”セシリアはかわしたが、すぐにまた発射音が響いた。

 その熱線が走るのはセシリアの回避先。

 

「なっ!?」

 

(回避先を誘導された!?)

 

 初撃をわざと回避させ、その回避先を読んだ上の2射目。

 だが、さすが代表候補生なだけはあり、セシリアはぎりぎりのところで踏み止まり、急上昇で回避。

 しかし熱線に掠ってしまいブルー・ティアーズの右脚部装甲の一部が少し溶けた。

 

「や、やりますわね」

 

 虚勢の笑みをなんとか浮かべるがセシリアの内心に余裕などはない。

 

(レーザーを無効化するシールド、掠めただけで平均的なライフルの直撃クラスのダメージを与えられるライフル。

 まだ機体のスペックは見られていませんが、それでも装備している武装だけでもかなり厄介ですわね……)

 

「ですが––––」

 

 ブルー・ティアーズの背中にあった4つの特徴的なフィンアーマーが外れ、浮遊した。

 

「なるほど、それがビットか」

 

「ええ。これがブルー・ティアーズ。これを出されてもまださっきのように動けますか?」

 

 セシリアは今度こそ余裕の笑みを浮かべて右腕を横に優雅にかざした。

 それを合図に4つのビットが多角的な直線機動を取りながらユニコーンに接近。それぞれ上下、背後、斜め下などに回るとビット先端が発光、レーザーを放った。

 

 それらを後ろに下がりつつ上昇することでかわしたがビットの攻撃がそれで終わることはなく、回避したユニコーンの周囲にすぐさま移動、再びレーザーを放つ。

 

 そのレーザーたちも回避できたが、その場所へとセシリアが放ったライフルのレーザーが走る。

 反射的にシールドを構えたが左足に命中した。

 

(ビットによる全周囲からの同時攻撃とその合間に出される彼女の正確な狙撃。

 これはなかなか……ッ!)

 

 位置を変えたビットたちから放たれたレーザーを群を回避、しかしその先に再びセシリアの狙撃が駆ける。

 今度こそそれも綺麗に回避できたがすぐさまビットが攻撃を行う。それを回避したところでセシリアの狙撃が飛ぶ。

 

「ッ!!」

 

「ふふっ、無様ですわね! その踊り様は!」

 

 ビットによる攻撃とセシリアの狙撃の連続を翼はどうにかいなしているがそれも限界が近い。

 ほとんどは回避できているがそれでもだんだんと掠ることや命中することが多くなってきていた。

 

 ように側からは見えるが翼は1つの道筋を見つけていた。

 

(なるほどな……。そういうことか)

 

 何度目かのレーザー雨をかわして感じたそれが間違いでないことを確信した翼は表示されているタイムを一瞥。

 

(あと5分弱……)

 

 時間はまだ残っている。

 

(そして、攻撃の手は読めた。ならば!)

 

 ビットから放たれるレーザーをくぐり抜けて回避した翼はセシリアへとシールドを向けた。

 

「いくらわたくしの攻撃を防いだところでブルー・ティアーズ(ビット)からの攻撃は防げませんわよ!」

 

 ABフィールドの性能は確かなものであり、これを突破するのは難しい。

 しかしセシリアは弱点を見つけていた。

 シールドにあるABフィールド発生器はユニコーンの全身を覆うほどのフィールドを張ることはできない。

 現に、ユニコーンはシールド前面以外の攻撃には回避行動を取っている。

 

(つまり、シールドを向けられない位置からの攻撃ならば有効打を与えられる!)

 

 その考えでセシリアはビットを動かした。

 しかしレーザーの発射音より早くビームマグナムの発射音が響き、ビットからのレーザーではなく、そのビットを溶かす熱線が走った。

 

「なっ!?」

 

 そのビットが爆発する中、翼が呟く。

 

「やっぱりか」

 

「な、なぜ……」

 

 何故動き回っているビットに当てることができたのか、あまりのことにセシリアの表情が歪んだ。

 そんな彼女へと翼は淡々と解説する。

 

「ブルー・ティアーズの性能は確かなものだけど、そのビットは必ず俺の反応が一番遅くなる角度を狙っている」

 

 翼はビームマグナムをバックパックにマウントして左サイドスカートにあるビームブーメランをブレードモードにして光の刃を展開。

 

「ビットは自立型の兵器だ。ある程度自動で動いてはくれるが理想的な動きをさせるならば操縦者の命令は必須。

 だが、その制御中は意識をそこに裂かれるから操縦者は通常通りの動きはできない。

 だから狙撃タイミングがいつもビットの攻撃後、または直前になる」

 

 ISの全方位視界接続は完璧だ。視線や首を動かすことなく全方位を見ることが可能である。

 

 だが、それを使っているのは所詮人。

 全方位見えているからと言って視線や首を動かさない操縦者は少なく、それと同様に通常死角となる部分は直感的に見ることが出来ない。

 一度それを視認するためにコンマ数秒の隙ができる。そこをセシリアは突いていたのだ。

 

「それはつまり、隙を作ればそこにビットが勝手に飛んで来る。

 だからさっきみたいに攻撃できるし、回避もできる。

 といっても回避の方は物理的に難しいから完全にすることはできないけど……」

 

「ッ!」

 

 セシリアは強い動揺を表した。

 ビットの行動パターンを見切って本来なら避けられるわけがない攻撃を回避し、当てられるわけがない攻撃を的確に当てる。

 それは今まで経験したことがないことだったのだ。

 

 ありえない。という考えが頭に浮かぶ。

 

(一体なんですの? あの人は……)

 

「ッ!!」

 

 セシリアへとビームブーメランを手にしたユニコーンが向かう。

 彼女は向かってくるそれを睨みつけ、ライフルを構え直した。

 

(まだ手はありますわ。焦る必要はありません。

 そう、わたくしは──)

 

 ──絶対に負けるわけがない。

 

 その強い意志だけがセシリアを今、突き動かしていた。

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