IS/UC -インフィニット・ストラトス/ユニコーン- 作:諸葛ナイト
地面に降り立ったセシリアは半ば放心状態で地面を見つめる。
持っていたインターセプターを落としたことにも気がつかず、肩で息をしながら両手を握りしめていた。
(負けた……このわたくしが)
最初こそ油断と驕りがあったのは否めない。
だが、途中からは本気を出していた。
翼の実力を認めてビットを使った。それもミサイル型のビットも使ってまでこの勝負に勝とうとしていた。
たが軍配は翼に上がった。
「くッ!」
そんなセシリアの耳にISが降下してくる音が入る。
その視線を試合時間が表示されているウィンドウへと移す。
「残り時間、37秒」
「ッ!? バカにしに来ましたの!? それとも嘲るため!?」
10分経てば負けでいい。
代表候補生に出すハンデとしてはあまりにも無謀と思えたそれを提示した翼はその通りの時間内にセシリアを倒した。
翼がポツリと呟いた残り時間は今のセシリアにとっては屈辱的な敗北を改めて突きつけているようなものだ
「……たしかに、俺は時間内に君を倒した。でも、ずっとギリギリだった。残り時間がそれを表してる」
「でもあなたはわたくしのビットを見切っていた。
回避だけではなく、撃破までしてみせた!」
慟哭に似た声を上げるセシリアに対して翼は告げる。
「でも俺は最後まで君の狙撃を見切ることはできなかった。
あの土壇場でビームサーベルを撃ち落とされるなんて考えてもなかった」
「ッ!」
同情の声音ではない。憐れむような声音でもない。
戦った相手を讃えるその声音を聞いたセシリアは顔を勢いよく上げた。
ようやく彼女と目が合った翼は安心したようにその表情を柔らかなものへと変える。
「セシリア・オルコット。
たしかにまだ甘いところはあるけどそれは俺も同じだ。今回の決闘でそれが実感できた。
だからこそ俺は心底から言える。君は強い」
その言葉を受け取りあまりに驚いて反射的に何も言えなかったセシリアがようやく返す言葉を考え始めたのと同時、翼はバッと頭を下げた。
「すまない。君の国を侮辱したことを心から謝罪する」
翼の言葉の意味を理解するのにセシリアはしばらくの時間を要した。
数十秒ほど固まり、そして自分が押し黙っていることに気がついた彼女は少し慌てて言葉を返す。
「……べ、別に構いませんわ。
わ、わたくしもの方も、いえ、わたくしの方から挑発しましたし」
「だが、それでもあれは言っていいことでは──」
「ですから! それはわたくしも同じですわ」
しかし翼は納得できていないのか頭を上げる様子がない。
彼の責任感と後悔をまざまざと目にしたセシリアは自分が彼に向けてきた言葉があまりにも酷かったことを理解した。
だからこそ自分も彼から許しをもらわなくてはならない。
「岸原 翼さん。まずはお顔を上げてくれませんか?」
そう言われて少しの間を置いて翼は渋々顔を上げる。
そんな彼にセシリアは続けた。
「わたくしは貴方を許した。
同じことを貴方にしたわたくしを貴方が許していただけなければ、わたくしはどうすれば良いのですか? 誰に許しを請えば良いのですか?」
「それは……」
「今回のような喧嘩では互いに謝りあって許しあって初めて終わるものだと考えていますわ。
貴方はまだこの喧嘩を終わらせたくない、と?」
「いや、それは違う!
……わかった。俺は君を許そう」
翼の言葉を聞いてセシリアが清々しい笑みを浮かべる。
勝負は完敗だった。しかしそれでも彼女の気分はどこかすっきりとしていた。
そんな彼女の前に手が差し出された。
それに疑問符を浮かべるのと同時、翼の口から言葉が発せられる。
「仲直りとこれからよろしくって意味だ。
最初こそ険悪だったけど、まぁ同じクラスメイトなんだ。これからは仲良くしてくれると嬉しい」
「ええ、そういうことでしたら……」
セシリアはその差し出された手を取った。
彼の手の温かさがIS越しでも伝わってくる。
「では、改めて自己紹介といきましょう。
わたくしはセシリア・オルコット。ISブルー・ティアーズの操縦者でイギリスの代表候補生ですわ」
嫌味を1つも感じない気品ある柔らかな表情のセシリアに翼は答えた。
「俺は岸原 翼。ISユニコーンの操縦者でISコア開発者、岸原博士夫妻の息子だ。翼でいい。
これからよろしく頼む」
「ええ、ではわたくしもセシリアで構いませんわ。
こちらこそよろしくお願いしますわ」
改めて自己紹介をした2人はなにが引っかかったのか自覚できないままに吹き出すように笑い出した。
その間に最初に会った時のような険悪なものはない。
雰囲気が柔らかくなったことを感じ取った翼は思っていた言葉を口にする。
「セシリアは美人系だからそういう朗らかな表情の方がいいな」
「と、突然、なにを……!?
えっ、と……そ、そうでしょうか」
「ああ、俺は好きだよ。セシリアが今みたいに笑ってる顔」
「すっ!? そ、そう、ですかッ!」
顔を真っ赤にさせたセシリアは俯くと上目遣いで翼を見た。
その顔を見て小さく笑ったセシリアは、彼が好きだと言った表情で胸を張って宣言する。
「ええ、では、翼さんの前では笑っている顔を存分に見せ差し上げてもよろしくてよ」
──だから、目を離さないでくださいね。
それはセシリア・オルコットという少女の胸に灯った