IS/UC -インフィニット・ストラトス/ユニコーン-   作:諸葛ナイト

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偶然の出会い

 IS学園にはISの訓練を扱う際に使用するアリーナが複数あり、それらに隣接するようにこれもまた複数のIS整備室がある。

 本来ならばISの整備関係の授業は2年生から始まるため普通の1年生が使用することはまずないが、翼は専用機持ちのためそんなことは関係ない。

 

 時刻は夜。翼は団子の串を咥えながらキーボードを叩いていた。

 

(んー、さすがはIS学園、設備が本当にいいなぁ。

 優先権が2年生にあるから夜しか使えないのがキツイけど……)

 

 ハンガーにユニコーン、ウェポンハンガーには近代的なデザインの太刀とボウガン、ロングバレルのライフルが架けられている。

 翼が見ている投影モニターには『華片(はなひら)』、『棘風(ほこかぜ)』、『雷電』の文字が並んでいた。

 

 それぞれの下に並んでいるタスクバーがそれぞれ「100%」になり、「complete」という文字が表示されたのを確認して翼は投影液晶を消した。

 

「これで新武装のインストール完了っと……」

 

 翼はそこで大きく背伸びをした。

 あとは微調整もしなければならないがそれは実際に使用しながらすることであるため、今できる作業としてはもうない。

 

 整備室を片付けて帰ろうと思い、作業机に目を向けた時にそれが映った。

 

「ん? 外部メモリ? 俺の……じゃないな」

 

 それはUSB型の外部メモリー装置だった。

 翼が使っているものとは明らかに違う形状であるため、それが誰かの忘れ物であるということはすぐにわかった。

 

(不用心だな。こういうのを忘れるなんて……)

 

 作業机に置いていた袋に咥えていた串を突っ込みつつそのUSBメモリをまじまじと見つめる。

 

「……」

 

 岸原 翼はどちらかと言えば模範的な人物だ。

 規則にはひとまず従い、人の顔色も伺える人物だ。モラルも比較的ある方でもある。

 

 しかし、それでも魔が刺すときというのはある。

 

「……んー……」

 

 右を見て、左を見てそして背後を振り返って誰もいないことを確認した翼は再び視線をメモリに移した。

 

(上級生の整備記録……気になる)

 

 今の翼は完全に好奇心だけで動いていた。

 明らかに落とし物とわかり、個人情報が含まれている可能性も高いそれを罪悪感を覚えつつデバイスに差し込んだ。

 瞬間、モニターにパスワード入力ウィンドウが表示される。

 

(当然といえば当然なんだけど真面目だな……でもこの程度のプロテクトなら──)

 

 翼は迷うことなく別のウィンドウを開きキーボードを弾き始めた。

 

 そこで彼は気がつくべきだった。

 USBにきちんとパスワードをかけるほどセキュリティ意識のある者がメモリを忘れて立ち去るわけがないということを、整備室の出入り口付近の影になっている場所に「成功」と書かれた扇子を広げる女子生徒がいることに。

 

「これで、よし」

 

 最後に翼がエンターキーを押すとメモリにかけられていたプロテクトが解かれ、ファイルが表示された。

 その名前に翼の手が止まる。

 

(まさか──)

 

「──整備記録かなんかだと思ってたのに、大当たりじゃないか」

 

 ファイルには【打鉄弐式(うちがねにしき)】と書かれていた。

 名称的に日本の純国産量産型ISである【打鉄】の後継機であることは間違いないが、そんな機体が開発されているとは聞いたことはない。

 おそらく今ここで開発されている機体なのだろうとは予想できる。

 

(開発途中っぽいな……所々に穴がある)

 

 もはやメモリの内容を勝手に見た罪悪感は完全に消え失せ、1人の開発者の思考に切り替わった翼はその内容に目を通すと一目で気になった部分の改修を始めた。

 

(ここと……ここはこうして……この処理は裏に回して、表でこっちの処理を……ここの部分は消去して、代わりにこっちに機能を……)

 

 集中して作業し始めて20分弱、ペットボトルを掴んで持ち上げたところでそれが空であることに気が付き、それと同時に集中も切れた。

 翼はモニターの右隅に表示されている時間を見る。

 片付けることを考えると急いで作業をしなければ申請していた時間内に整備室を出ることが難しくなる。

 

「帰るか……でも、これどうしよう……」

 

 翼はデバイスから抜き取ったUSBメモリを見つめた。

 整備室を管理している教師に預けた方がいいだろうが、中身は開発中の新型ISの設計データだ。

 もしかしたらデータの管理不足としてその人物が責められるかもしれない。

 

(んー、持って帰って落とし主を探すか)

 

 少し迷ったが、翼は落とし主を庇うことにした。

 それはプロテクトを破ってまで中身を見てしまったことに対する謝罪の意味が強かった。

 

 翼はそそくさと設備を片付け、ユニコーンを待機状態にすると整備室を後にした。

 

◇◇◇

 

 整備室から寮へと向かう道を翼は少し駆け足で進んでいた。

 

「食堂、行けるか? いや、これギリギリ無理じゃないか?」

 

 USBの一件のせいで整備室から出る時間が予定より遅れてしまった。一食ぐらいならば抜いても構わないが気分としては良くはない。

 どうにか食堂に駆け込もうと早足から走り出そうとしたところだった。

 

「あっ、あんた岸原翼でしょ」

 

「ん?」

 

 突然声をかけられた翼が振り向いた先にはIS学園の制服を着ている生徒がいた。

 

 特徴的なのは肩にかかるか、かからないかぐらいの髪。それは左右それぞれ高い位置で結ばれている。

 顔は日本人と似ているが少し違う、鋭角的でもどこか艶やかさを感じさせる瞳は、中国人のそれであった。

 体格に対してすこし不釣り合いな大きなボストンバッグを持った彼女はクシャクシャになっている紙を広げて翼に問いかける。

 

「えっと、本校舎一階総合事務受付ってどこ? 知ってたら案内してくれない?」

 

「ああ、別にいいが」

 

「ありがと、じゃあ早く行きましょ」

 

 そう言い少女は歩き出した。

 

「そっちは反対だぞ」

 

「えっ!?」

 

 少女は歩き始めた足を止め翼の方を向く。

 

「っていうか道分かんないのになんで俺より先に行くんだよ」

 

「う、うるさいわね! 早く案内しなさいよ!!」

 

 羞恥で少し顔を赤くした少女の理不尽な声が夜のIS学園に響いた。

 

◇◇◇

 

 時は少し進み、落ち着いた少女の案内を翼はしていた。

 

(食堂は……もう絶望的だなぁ。まぁ、仕方ないか)

 

 心の中でため息を吐きつつ翼は横を歩く少女を横目で見る。

 制服こそ着ているがあまり着慣れた様子は見えない。まるで昨日今日袖を通したかのような状態だった。

 

「なぁ、もしかして転入生か?」

 

「ええ、そうよ。8割はあんたと一夏のせいでね」

 

「ああ、なるほど。情報収集か……大変なんだな。代表候補生って」

 

 さらっと出された翼の言葉に少女は少し驚いた様子で足を止める。

 それに気がつくのに少し遅れた翼が立ち止まると少女の方を向いた。

 

「あんた、察しがいいのね」

 

 そう言った少女が再び歩き出したのを見て翼も歩を進めつつ返す。

 

「そりゃ不釣り合いな大きなバッグに真新しい制服からして明らかに転入生だし。

 IS学園への転入なんて国とか企業からの推薦がなきゃまず無理ってところと男性IS操縦者への接触を言われてるなんて代表候補生以外ないだろ」

 

 翼が「間違ってたか?」と視線で問いかけると少女は頷いて合っていることを告げた。

 

「ええ、正解よ。機体のデータ収集ももちろん言われてるけど、どちらかと言えばあんたたちとの接触の方が重要視されてる」

 

 専用機のデータ収集に加えて男性IS操縦者の情報収集もしなければいけない。

 改めて大変なんだなと心の中で呟いた翼はふと気になったことを問いかける。

 

「もしかして一夏とは知り合いか?」

 

「えっ、なんで?」

 

「なんか親しげに呼んでたように聞こえたからどうなのかなって」

 

 目の前の少女は何の違和感も感じないほどにスムーズに一夏の名前を呼んでいた。

 たしかに翼のことを「あんた」と気安く呼んでいたが一夏に対してはまるで旧友を呼んでいるかのような距離感の声音のように翼には感じられた。

 

「ああ、そんなことか。あいつとは幼馴染なのよ。まぁ、腐れ縁って言ってもいいわね」

 

「へぇ、そうなのか」

 

(幼馴染って箒だけじゃなかったのか……。

 ん? 待てよ、じゃしかして彼女も一夏のことが?)

 

 箒にライバルが現れたかもしれないと翼が考え始めたところで目的地が見えた。

 

「あっ、ついた。あそこだ」

 

 翼が指差す先の窓口には30代前後の女性がいる。

 

「ああ、ありがとう」

 

 少女は礼を言いその場所へ少し駆け足で向かうと受付の女性と話を始めた。

 少し距離があるため翼にその会話の内容はわからなかったが、どちらも時々翼のことをチラ見している。

 かと思えば少女の顔には驚きのようなものが浮かび、かすかに「え!?」と驚くような声が聞こえた。

 

 しばらくすると会話が落ち着いたのか少女は翼の方に戻ってきた。

 

「あんた、クラス代表らしいじゃない」

 

「……だったらなんだ?」

 

 唐突な質問に翼は首をかしげる。

 確かにこの間の模擬戦の結果クラス代表を務めることになったのは事実。

 

「ふーん」

 

 少女は首を傾げる翼を品定めするようにじーっと見つめる。

 その視線は足から頭、頭から足とそのながれを数度繰り返していた。

 

「な、なんだよ」

 

 翼がそれに耐え切れず疑問の声を漏らす。

 その時、少女はふっと含みを感じさせ微笑み言う。

 

「なんでもないわよ。じゃ、案内ありがとね」

 

 少女はそうどこから意味深に言い学生寮のある方向へと向かった。

 

「なんだったんだ?」

 

(でも、なんか嫌な予感が……。ま、気のせいか)

 

 翼はそう思いながら寮の方向へと向かう。

 ちなみに本人に自覚はないがこういう時の翼の嫌な予感というものはよく当たる。

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