IS/UC -インフィニット・ストラトス/ユニコーン- 作:諸葛ナイト
IS学園
黒板の前に立つ女性は教室に揃った面々の顔を見回すと笑み浮かべた。
「全員揃ってますねー。それじゃあSHRはじめますよー」
黒板の前でにっこり微笑むのはその教室にある生徒たちの副担任である
身長は生徒と変わらないか少し低いぐらいなのに加えて顔も童顔でどこか子どもっぽさがある。
しかしその体つきからは女性特有の柔らかさがあり、特に胸に関しては凶悪と言えるほどのものを持っていた。
「それでは皆さん、1年間よろしくお願いしますね」
「「「……」」」
しかし、教室内は妙な緊張感に包まれており誰からも反応がない。
その場の雰囲気をなんとか変えようと真耶は額に汗を浮かべながら言った。
「じゃ、じゃあ自己紹介をお願いします。えっと、出席番号順で」
そんな彼女と同等、もしくはそれ以上の冷や汗を浮かべる少年がいた。
(まさか……まさか、ここまでとは……)
ISは男性では動かせない。
常識を打ち破ってしまった存在が衆目を集めるのは至極当然のことであり、翼もそれは理解していた。
好奇の目が向けられることも予想していた。
しかし、それにしても翼の運はなかった。
席は出席番号順のはずなのになぜかそれを無視して彼の席は真ん中のそれも最前列、さらに加えてなぜか隣まで同じ“男”だ。
「えっと、織斑 一夏です」
今自己紹介をしている少年が
このIS学園にいることからわかるとおり彼もまた翼同様にIS操縦可能な少年である。
(本当なんでこの席なんだ?
誰かが仕組んだとしか思えないけど、でもだとしたら一体誰が……?)
その半ば現実からの逃避のような思考は方向を変え、想起を始めた。
◇◇◇
時は遡り8月の真夏の日。
翼がユニコーンを起動させてから2時間が過ぎた頃、昼食を終えた翼たち岸原家族はリビングに集まっていた。
夕食の買い出しに出かけた咲夜が淹れたお茶を飲んで一息ついた鳥也が真剣な面持ちで沈黙を断ち切る。
「さて、話は分かっていると思う」
「ええ、そうね」
鳥也に真剣な面持ちで楓が頷く。
そんなあまり見ない真剣な両親を目の当たりにして翼は何も言えずにコクリと静かに頷くしかなかった。
「そう、我ら岸原家は今年、旅行に行っていない」
「うん……って、うん?」
翼は神妙な面持ちで頷いたが不思議と場違いな言葉が聞こえたような気がして首をかしげる。
「そうなのよね~。ねぇねぇ、鳥也さん今年は海に行かない?」
楓は首をかしげる翼を無視、どこからか取り出した旅行のパンフレットたちをテーブルに広げ始めた。
「そうだな。去年は山に行ったから、海でいいか。さて場所は––––」
「ちょっと待って」
鳥也がどこからか取り出した地図を広げようとしたところで翼がそれを止めた。
急に止められた鳥也は口を尖らせながら翼の方を見る。
「なんだ~、翼。どこか行きたい場所があるのか?」
「いやいや。なんで旅行の話になってるんだ? 今は旅行より大切なことがあるだろ!」
ISを男性が動かした。それもISコア開発者の息子が動かしたのだ。
話題にならないわけがない。下手をすれば世界の常識はもちろんパワーバランスまでもが崩れかねない出来事。
翼は両親を信用している。相当な実力も、工作も、策もあると思っている。
それでも自分を中心に世界が変わるかもしれない。いや、変わるという事実は翼の背中に重くのしかかっているためとてもではないが旅行になど行く気分でもない。
「大丈夫よ」
そんな翼の心配をよそに楓の表情には余裕があった。
「母さん。まさか何か策があるの?」
「ううん、なぁんにもないわ」
「な……ん、なにもって!」
「まぁ、落ち着きなさい。
正直あなた自身や私たちから公表しない限りバレることはないし、もしバレたとしてもいくらでもやりようはあるわ」
「だが、それはおそらく翼のためにはならないと考えた」
先ほどまでのすっとぼけた雰囲気はすでに綺麗に消え去り、そこにはいつになく真剣な両親の顔がある。
「それは、どういう?」
「IS学園だ」
【IS学園】とは端的に言ってしまえばISの操縦者育成を目的とした教育機関であり、研究機関だ。
世界の様々な情勢により日本がその資金を拠出するそこは各国の有力なIS操縦者、その整備士や教師、そしてそれらを十全に活かせる設備が整っている。
「IS学園はことISに関しては最先端を行っている。まだ試験段階のISとその装備がさも当然のように集まっている。
おそらくそこは翼にとっては良い刺激を受けられる場所だろう」
翼が目指しているのは開発者であり、操縦者ではない。
そのために学校から出された課題を早々に片付けては1日中モニターや資料と睨めっこできるほどにIS関連の知識を貪欲に求めている彼にしてみればそこは楽園と呼んでしまえる場所だ。
「たしかに、それはそうかもしれないけど……」
「不安かしら?」
「そりゃ、いい刺激にはなると思う。たぶん学べることも今よりずっと多い。
でも、いきなり放り込まれるってなったら、さ……」
素直に翼は自身が覚えている不安を吐露した。
そんな彼に楓は母親らしい包容力のある笑顔と声音で告げる。
「大丈夫よ。翼はIS関係の事はほとんど知っているし、ISの操縦訓練は旅行先のラボでやるから」
「そう、なんだ。って言うかそこまで旅行に行きたいの?」
「「もちろん!!」」
その子供のようにはきはきとした返事を聞き翼は「はぁ~」と深いため息をこぼす。
(なんか嫌な予感しかしないんだよなぁ)
そう思っている翼の目の前には旅行の話でかなり盛り上がっている両親の姿がある。そんな両親を見て翼はまた深い深いため息をついた。
◇◇◇
(そして、それからその日の内にラボに行って3月までずっとISの操縦訓練漬け。しかもすごい厳しいし)
何度か見かけた死地を思い出し身震いする翼。
「あの~、岸原君?」
そんな彼へと真耶は声をかけているが呼ぶ声が当の本人は未だ思考の中、答える以前に聞いていない。
(確かにおかげで操縦は覚えることはできた。それが通用するかはわからないけど……)
でもそれが果たして世界の有力なIS操縦者たちに通じるのだろうか。
そんな不安に深いため息をついた途端、頭を硬い何かで叩く音と衝撃が同時に翼の頭に現れた。
「いった!!?」
あまりの痛みに頭を抑え、悶絶する。
(な、なに!? 急に、いった……)
翼は衝撃で下がっていた頭をゆっくりと上げて自分を叩いた人物を見る。
その人物は黒のスーツとタイトスカートを完璧に着こなし、すらりとした長身で狼を思わせる吊り目をしていた。
翼はその人物をよく知っている。
「ち、千冬さ––––」
再会した人物の名前を呼びきる前にまた強い衝撃と音が頭に現れた。
彼の頭を2回硬い出席簿で叩いた人物は
翼の隣にいる一夏の姉であり、翼にとっては両親の数少ない友人であり顔を見たのも話をするのも一度や二度ではない。
「お前は自分の名前を忘れたのか?」
千冬の力強い眼光が翼を見下ろす。
その目を見るのは数年ぶりで翼はどこか懐かしい感覚を覚えた。
「い、いや、そういうわけじゃ––––」
「なら、さっさと自己紹介をしろ」
感傷に浸る時間など与えるつもりもないらしく千冬は言い放つ。
千冬のその指示に翼は返事をするよりも早く体は動き、席から立ち上がっては後ろを向き、咳払いをする。
「岸原 翼です。えっと……まぁ、男だし、みんなとは違うとは思う。
けど同じ教室にいるんだし、気軽に接してもらえると嬉しい、です」
言いぎこちなくニコッと少し笑った。
その途端––––
「「「きゃぁぁぁぁぁ!!」」」
という黄色い悲鳴がクラスに響いた。