IS/UC -インフィニット・ストラトス/ユニコーン-   作:諸葛ナイト

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中国の代表候補生

 ふと気がつくと実際に見たことはない、しかし見慣れ始めてきた光景が翼の視界に広がっていた。

 そこを実際に訪れたことはないが、似たような場所は知ってる。

 

(ISの動作試験場……)

 

 そこはISの組み立てと起動、動作試験を行う場所だ。

 長方形の天井が高い部屋の中央には1機の全身装甲(フル・スキン)ISが立ち、その部屋を見下ろすように一面ガラス張りの管制室がある。

 

 管制室には4人の人間がいた。1人は男性、2人は女性、1人は子どもだ。

 ガラス張りに張り付いている子ども以外はそれぞれに投影コンソールを展開させている。

 そのうちの1人、短い髪の女性が試験場のISへと投げかけた。

 

「まさか本当に連れてくるとは思いませんでした」

 

『そりゃ連れてくるわよ。これは世界を変えるのよ?

 変わった世界を生きる子がいなきゃダメじゃない』

 

 返ってきた女性の声に男性が頷いた。

 

「まぁ、言い分としては分からなくはないな。

 束ちゃんも箒ちゃん、だっけ? 連れてくればよかったのに、たしか同い年だろ」

 

「うーん。まぁそれでもよかったけど〜、流石に初めての実機試験にはねぇ」

 

『あら、その言い方だとまるで私が能無しの能天気見たいじゃない?』

 

「実際そうでしょ〜?」

 

『まぁ、そうね』

 

 その女性と束が笑い始めた。

 重要な実験の前だというのに呑気な2人に短髪の女性は息を吐くとあまりにも緊張感のない空気を壊すように告げる。

 

「はぁ……仕方ありません。S(シンクロ)システムの起動試験を始めます。

 IS【スタイン】は準備を」

 

『ふふっ、了解』

 

 その声が管制室に響いた瞬間、翼の視界にスノーノイズが入って場面が移る。

 

 そして気がついた時には管制室には大きな警報音が鳴り響いていた。

 実験前までは和やかだった空気も今では鬼気迫る騒然としたものへと変わっていた。

 

「ダメだ! 停止システムが拒否された!」

 

「こっちもダメ! ISコアが両方とも外部との接触を拒否してる!

 無線じゃ停止信号が送れない!」

 

「なら私が直接止めます! 白騎士!」

 

 短髪の女性が叫んだ瞬間、光が溢れ純白のISが現れた。

 IS白騎士はブレードを具現化、プラズマ刃を展開する。

 

 それを見た束はガラスに貼り付いたままの未だ状況を飲み込めていない子どもへと駆け寄って引き剥がす。

 その瞬間、白騎士はスラスターを吹かせてガラスを突き破り、試験場へと入って行った。

 

 次に聞こえたのは騒音だった。

 金属の何かが激しくぶつかり合う音が響いていた。

 

 そして、翼の視界にスノーノイズが再び走り、次に目を開けた時には──

 

◇◇◇

 

 翼が目を開いた先にあるのはもう1ヶ月近く見ているIS学園寮、自室の天井だった。

 

(またあの夢か……)

 

 ユニコーンに乗るようになって見るようになった妙に鮮明な夢。

 あの夢は全て本当に起こったことだ。

 現に翼はあの時、あの場所に居た。

 

 その時のことを今なら鮮明に思い出せる。なぜ忘れていたのかもよくわかるほどの記憶。

 それから逃れるように視線を横、自分の手首に向けて白い腕輪を見つめる。

 

「……」

 

 事件のことは思い出せた。

 しかしそれでも思い出せないことがある。

 

 顔が出てこないのだ。どんな人だったのかも思い出せないのだ。

 

「母さん、か……」

 

 死んだ時のことだけはこうして思い出せるのに──

 

◇◇◇

 

 あの夢と同じぐらいには慣れた学園の廊下を翼は頭を悩ませながら歩いていた。

 彼の悩みの種は夢のことではない。楯無に頼まれた打鉄弐式の開発にどう協力するか、という方法についてだ。

 

(ほんと、どうすればいいんだ……?)

 

 翼は端末を開くと楯無から貰った簪の情報を見る。

 

(うーん。これ絶対会長にコンプレックス持ってるよな……。

 会長の頼みだから手伝う、なんて言ったら一生話してくれなさそう)

 

 接触の偶然を装うのは整備室を度々使用している翼にとっては簡単ではある。

 しかしその後、どう自然に協力を申し出て承諾させるかが浮かばない。

 

 翼は唸りつつ教室の扉を開けた。

 

「おはよう、翼」

 

 教室に入った翼へと一夏の挨拶が向けられた。

 

「あ、ああ、おはよう。セシリアと箒もおはよう」

 

 箒とセシリアから返された挨拶を受けながら翼は席に座り、道具を準備し始めた。

 

(どこで打鉄弐式のことを知ったのか、なぜ協力を申し出てたのか……この辺りの説得力がある説明ができればいける、か?)

 

 未だ頭を悩ませる翼に一夏が声をかける。

 

「なぁ、翼」

 

「ん、なんだ? どっかわからないところでもあったか?」

 

 現在、一夏は箒に基本的なことを教わり、発展や応用知識を翼やセシリアから教わるという方法で勉強を進めている。

 彼自身の物覚えの早さも重なり、今では普通のIS学園生徒とさほど変わらないほどの知識を身に付けていた。

 

 てっきりそんな日常となった会話をすることになると思っていた翼だったが、一夏は首を横に振る。

 

「いや、それは今のところは大丈夫だ。そうじゃなくて……」

 

「転入生が来るらしい」

 

「なんでも中国の代表候補生のようですわ。翼さんは何かご存知ではありませんか?」

 

「へぇ、中国の……。んーっと、たしか名前は……ん? 中国の代表候補?」

 

 脳に引っかかりを覚えた翼がそれを探る中で一夏はセシリアの方を見た。

 

「代表候補生といえば」

 

「おそらく、わたくしの存在を今更ながらに危ぶんでの転入でしょう」

 

 そう言いながら「ふふん」と誇らしげな表情をセシリアは浮かべた。

 

 ブルー・ティアーズは未だ試作段階とは言え完成度は高い。

 たしかに他の国が多少なりとも焦りを覚えて何かしらのアクションを起こすのも不思議ではない。

 

(転入生……転入生……あっ!)

 

 楯無に頼み事をされる前に見た1人の少女の姿が翼の脳裏に浮かんだ。

 そんな彼に箒が声をかける。

 

「翼は気になるのか?」

 

「あ、ああ、まぁ」

 

「って言ってもさ。翼は転入生を気にしている余裕あるのか? 

 来月はクラス対抗戦だぞ」

 

 一夏の言うとおり来月はクラス対抗戦、クラスの代表者同士のリーグマッチが行われる

 これはスタート時点での実力指標を作ることが目的で行われる行事であり、優勝賞品としては学食のデザートの半年フリーパスというささやかなな景品が贈呈されることになっている。

 

「あぁ、そういや来月か。ま、やるだけやってみるさ」

 

「やるだけでは困りますわ! 翼さんには勝っていただきませんと!」

 

「そうだぞ。男たるものそのような弱気でどうする」

 

「岸原くんが勝つとクラスみんなが幸せだよー」

 

 どこか他人事のように軽く言ってのけた翼へとセシリア、箒、クラスメイトの順で口々に言葉が飛ばされた。

 思っていなかった反応の多さに少したじろぎながらも翼は肩をすくめながら苦笑いを浮かべる。

 

「そうは言っても、俺も無敵じゃないから断言なんてできるわけないだろ?」

 

「まぁ、それはそうだけどさ。

 でも翼なら大丈夫じゃないか? それにほら、専用機持ちって今のところここと4組だけらしいし」

 

「その情報、古いわよ」

 

 一夏の言葉への答えは教室内からではなく、入り口の方からだった。

 それぞれが一斉に振り向いたその場所には1人の小柄な少女が仁王立ちしている。

 

「2組も専用機持ちがクラス代表になったの。そう簡単には優勝なんてさせないから」

 

 彼女を見て大半の者は疑問符を浮かべていたが、2人だけは違った。

 

「鈴……? お前鈴か?」

 

「お前……昨日の」

 

 一夏と翼が同時にその少女を指を刺された鈴音はふっと小さく笑みを漏らす。

 

「中国代表候補生、(ファン) 鈴音(リンイン)

 岸原 翼、今日はあんたに宣戦布告に来たってわけ」

 

 どこか楽しそうでかつ堂々とした物言いの鈴音に対して翼は苦笑いを浮かべるしかなかった。

 

「えーっと、俺って凰さんにそんな言われることしたか?」

 

「別に。ただ今のところあんたが一番強そうだったし、クラス代表なんでしょ?

 そりゃあんたにも意識してもらうわなきゃならいじゃない」

 

「そういうもんか……」

 

 挑発してきた理由に納得できた翼が頷き、そんな彼へとさらに続けようとした鈴音だったが唐突にその背後から声が飛ばされる。

 

「おい」

 

「なによ!?」

 

 鈴音が後ろに勢いよく振り向くその直前、痛烈な出席簿の打撃が入った。

 響いたのは大きな打撃音と鈴音の捻り出された悶絶する微かな声。

 

 彼女の頭に一撃を入れたのはもちろん鬼教官こと織斑 千冬である。

 腕を組んで鈴音を見下ろす彼女は冷たい声音で言い放つ。

 

「もうSHRの時間だ。教室に戻れ」

 

「ち、千冬さん……」

 

 相当いい角度かつ力が入った一撃だったらしく鈴音は頭を手で押さえ目を潤ませている。

 しかしそれに返されたのは容赦のない言葉だった。

 

「織斑先生と呼べ。さっさと戻れ、そして入り口を塞ぐな。邪魔だ」

 

「す、すみません」

 

 謝りながら鈴音はすごすごとドアから退いた。

 あからさまに変わったその態度から千冬に完全に怯えていることがわかる。

 

「またあとで来るからね。特に翼、逃げんじゃないわよ!」

 

「さっさと戻れ!」

 

「は、はい」

 

 鈴音は言うと2組へ逃げるように向かって行った。

 

「って言うかアイツ、ISの操縦者だったのか。初めて知った」

 

「あーあ、なんか変なことになっちゃったなぁ」

 

 それぞれ呟く2人に対し一夏には箒が、翼にはセシリアが詰め寄る。

 

「……一夏、今のは誰だ? 知り合いか?食えらく親しそうだったな?」

 

「つ、翼さん!? あの子とはどういう関係で──」

 

 それに続くようにクラスメイトから質問が翼と一夏に向けられる。

 

「席に着け、馬鹿ども」

 

 再び教室がざわつき始めたがそれは千冬の一声によって押さえ込まれた。

 落ち着きを取り戻した教室にいる面々を見回した千冬の視線は翼で止まる。

 

「岸原」

 

「は、はい」

 

「まぁ、お前は目をつけられた。諦めろ」

 

 一夏含め教室にいるものたちはつい先ほど宣戦布告に来た鈴音を指していると思ったが、翼は千冬が指す人物が楯無であることを察した。

 それゆえに翼はただ諦めたように苦笑いを浮かべて頷いた。

 

「ははっ、はい……」

 

 そうしていつもの授業が始まる。

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