IS/UC -インフィニット・ストラトス/ユニコーン-   作:諸葛ナイト

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ノイズの少年

 IS学園の第3アリーナに青と白のISが舞う。

 

 鳴り響く警告音と表示されるウィンドウの全てを確認した翼は纏うユニコーンを動かす。

 体を捻らせ、手足をずらした。

 瞬間、彼の上下左右に展開していたブルー・ティアーズがレーザー放つ。

 

 翼はその全てを回避、続けて放たれたセシリアからの狙撃も回避すると右手に持ったストックと砲身が長いビームライフル『雷電』と左手に持ったボウガンのような小型のレールガン『棘風(ほこかぜ)』のトリガーを引いた。

 

 どちらもビームマグナムよりも数段威力は落ちており、ISの持つ装備としては普通と言うしかない。

 だが、その相手をしていたセシリアは険しい表情を浮かべている。

 

(分かってはいたことですが、隙がありませんわね!)

 

 元々翼のIS操縦技量は高い。

 ビームマグナムという取り回しに難しかない武装から通常の兵装に切り替えただけで撃ち合いに隙がなくなっている。

 たしかに全距離に対応できる人物だとは思っていたが、それがこれほどまで高い水準だとは予想していなかった。

 

 対する翼にもそこまでの余裕はない。

 

(ビットの動きに癖がなくなってきてる。読み難いな……ッ!)

 

 セシリアの狙撃をかわした直後に向かってきたビットのレーザー群。

 それは翼を捉えるもの、というよりは動きを誘導するものになっていた。

 その誘導に従いたくはないが従わなければビットの攻撃に当たる。

 従ってかわしたその先には無論セシリアからの狙撃が飛んでくる。

 

 そんな使い方をしていたかと思えばセシリアの狙撃の雨が回避先を制限するものに変わり、回避先を取り囲むように展開していたビットからのレーザーが向けられる。

 

 行動としてはその2つだけだが、変化は不規則であるためこれを予測するのはほぼ不可能だ。

 

(だが!)

 

 ビットの攻撃をかわしていたユニコーンが急停止、その場で上下逆さまになってセシリアの狙撃をかわした思えば2つのビットに向けて雷撃を放った。

 それとほぼ同時、棘風をセシリアに向けて放つ。

 

「ッ!?」

 

 翼が放った攻撃は1つのビットとセシリアに直撃し、ビットは爆発、セシリアのシールドエネルギーを削った。

 

 たしかにビットの動きとセシリアの狙撃の連動と変則性は目に見えて向上している。

 しかし、ビットを操作しつつ自身も動くということはまだできていない。

 

(そこはまだ明確な隙だ。その隙はまだ突ける!)

 

 翼は上下逆さまになったままセシリアに接近、棘風の砲門を構えて下段のトリガーを引く。

 棘風のレールガン砲門の下にあるのはビームショットガンの砲門。それがビームをばら撒いた。

 

 距離を取ろうとセシリアは下がっていたが、放たれたビームショットガンの7割を受けて姿勢を崩す。

 

 この距離はまずい。

 そう感じたセシリアはインターセプターを左手に展開して近付いてきていた翼へと振り上げた。

 それは翼が振り抜いていた雷電の銃身下部にあるブレードとぶつかり、辺りに金属音を響かせる。

 

「驚いたな。たった1日でインターセプターの名前を呼ばなくてよくなったのか?」

 

「ええ、どうにか。まだ成功率は4割程度です、が!」

 

 雷電のブレードを押し返したセシリアはビットを向かわせ、周囲に展開。そのままレーザーを放とうとしたが、1つは棘風のレールガンに撃ち抜かれ、2つはその後に投げ飛ばされた雷電と棘風がぶつかったことによって射線が大きく逸れた。

 

「なッ!?」

 

「でも、まだここは俺の距離だ!」

 

 逆さまの状態から戻った翼が展開したのは太刀だ。

 機械的なそれは刀身と持ち手が綺麗に縦に並んでおらず、刀身の峰に持ち手を取り付けたような形状になっていた。

 それらの合間にはAB(アンチ・バリア)フィールド発生装置が存在している。

 

 太刀の名前は『華片(はなひら)』。

 ABフィールドを武器に転用、刀身に纏わせることができるものだ。

 シールドエネルギーに干渉、消滅させるそれは命中すればISの絶対防御を強制的に発動させる。

 そして絶対防御の展開には大量のシールドエネルギーを消費するため、今のセシリアに残っているシールドエネルギーなど一瞬で消し飛ぶのは間違いない。

 

 ミサイル型のビット、その砲門を構えるがそれよりも早く華片が振り下ろされた。

 

◇◇◇

 

 一戦終えた翼とセシリアは一夏が待つアリーナのグラウンドに降りた2人は満足気な表情でどちらが言うでもなく頷き合う。

 

「戦えば戦うほど苦戦するようになった気がするよ。セシリア」

 

「ええ、あなたに勝つにはそれ相応の努力が必要、というのは実感していますから」

 

 互いに技術を高め合うことが出来ている充足感を胸に2人は一夏へと同時に問いかけた。

 

「参考になったか?」

 

「参考になりましたか?」

 

「なるわけないだろ!! どっちの動きも真似できねぇよ!!」

 

 白式を纏った一夏の嘆きがアリーナに響いた。

 

「な、なぁ、これ俺がおかしいのか? 本当に俺がおかしいのか?

 2人がなんかおかしいくらい強いとか言う話じゃないのか?」

 

 一夏のどこかすがるような言葉に再び翼とセシリアは顔を巻き合わせた。

 そして小首を傾げてこれまた同時に言葉が口をつく。

 

「俺はセシリア以外とまともに戦ったことないから」

 

「私は翼さん以外とまともに戦ったことありませんし」

 

 全く参考にならない2人の言葉に一夏は肩を落とした。

 目標としては彼らと対等に戦えるぐらいには強くなることだが、それでも段階というものがある。

 

 技術が違う。知識が違う。経験が違う。

 ありとあらゆるものが彼等と比べて足りなさすぎる。ありとあらゆるものが自分にはない。

 

(力、か……)

 

 一夏は持っていた雪片弐型を握りしめて息を吐いた。

 そしてそれを中断に構えると翼へと呼びかける。

 

「よし、翼! 次は俺と勝負だ」

 

「ああ、行くぞ!」

 

 一夏は雪片弐型で切り掛かり、対する翼は華片で受け止めた。

 2人の戦闘は言ってしまえばISらしくないものだった。

 地面に足を付けて武器をぶつけ合うそれはIS戦闘というよりは剣道などの試合のような雰囲気がある。

 

 ブレードである雪片弐型の方が取り回しが良い分、攻撃の手数が圧倒的に多い。

 しかし、翼は振るわれる攻撃の全てを防ぎ、弾き、往なしては的確に華片が振るわれる。

 

 そんな2人の姿をアリーナの観客席にいた鈴音は見ていた。

 その表情は険しく、真剣なものだった。1人の少女ではなく、1人の代表候補生の鳳 鈴音がそこにいた。

 彼女はユニコーンを見て無意識に握っていた拳を握りしめる。

 

(なにが……なにが機体に振り回されてる、よ。なにが機体の性能に頼り切ってる、よ。

 全部逆じゃない。機体の方を振り回してるし、性能を活かしきってる)

 

 それは中国の諜報員から聞いた話だった。

 たしかにその評価は一夏に対しては正しい。だが、翼に対しての評価としては節穴もいいところだ。

 

 機体に対する理解力、状況に対する対応力、適切な判断能力とそれを実行できる反射神経。

 IS操縦に関するほぼ全ての能力が高い。器用貧乏にもなっておらずもはや器用万能と言ってもいい。

 

(あいつに勝つには生半可な戦術じゃダメ……!)

 

 鈴音は岸原 翼に勝つ戦略を練るために彼の一挙手一投足を見張る。

 

◇◇◇

 

 ISの整備室に簪はいた。

 モニターを見つめる表情はいつも通り、キーボードを弾く姿もいつも通り、だが思考は違う。

 岸原 翼というノイズがずっと居座っている。

 

『なんと、なく? こうかなって』

 

 あのすっとボケた表情がチラつく。

 嘘でもなんでもなく本当にそれで解決しているようでイラつく。

 姉の姿と重なって見えて──

 

「ッ!!」

 

 簪は湧き上がった様々な衝動と感情をそのままキーボードにぶつけるように出鱈目にキーを押した。

 規則性も何もない無意味な文字列がコンソール画面に一瞬で並ぶ。

 

「なに? あの人、いきなり……」

 

 翼が訂正した部分はたしかに自分がずっと悩んでいた箇所だった。

 その箇所が解決したことで他の箇所もドミノ倒しで進んでいる。

 

 コンソールにならんだ無意味な文字列を消していく中で冷静さを取り戻した簪は再びコードを書き始めた。

 

(そういえば、なんであの人は急に教室に現れたんだろう)

 

 翼にはわざわざ自分に話しかける理由はないはずだ。

 今度はすっとボケた表情ではなく、真剣にモニターを見ていた顔が浮かぶ。

 気付いたとしても関係がないはずの彼は無視してよかったはずだったのに手を出してきた。

 

「……」

 

 少し手を止めて考え込んだが、その答えが出ることはない。

 なんの理由もなく手伝ってきたとは思えない。絶対に何か理由があるはずだ。

 

 そのことが気になるといえば気になることではあるが、それがなんであれ自分は何も聞かずに一方的に突き放した。

 だからもう彼が話しかけてくることはないだろう。

 

「だから、うん。これでいつも通り……」

 

 簪は荒れに荒れた感情を落ち着かせて作業に戻った。

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