IS/UC -インフィニット・ストラトス/ユニコーン- 作:諸葛ナイト
翼と簪の打鉄弐式共同開発が決まった翌日の朝、教室に入った翼はここ数日起きた更識姉妹に関する話を一夏たちにしていた。
全てを語り合えて翼は一夏に両手を合わせながら頭を下げる。
「──と、言うわけですまん一夏。しばらくお前の訓練には付き合えない」
「いや、翼が謝る必要はないだろ」
「そうですわ。そもそも話を聞く限りでは翼さんではなく、生徒会長のせいではありませんか!」
一夏は納得し、セシリアは丸投げに近い形で押し付けられていることに怒りを表した。
そして箒は心配している様子で翼に問いかける。
「だが、専用機の開発か……やれるのか?」
「やれるとは思う。ただクラス対抗戦には間に合わないだろうけど」
「それは……技術的な問題でしょうか?」
セシリアの問いかけは暗に協力を申し出るようなものだった。
打鉄弐式は日本の新型IS。
日本の本心としては英国からの技術提供はありがたい申し出だが、政治的なことを考えればそれを受け入れることはないだろう。
翼のようにあくまでも個人が協力するだけならばどうとでも言い逃れできる。彼女もそれをわかっていての問いだ。
もちろん翼もセシリアの言葉の真意は汲み取っている。だがしかし彼は首を横に振る。
「いや、時間だな。
人がいたら設計はそこまで時間はかからないと思うけど、結局製造と各ブロックのすり合わせやプログラムの修正、ようは動かしながらでしか調整できない部分は短縮のしようがない」
「人手ではなく、時間か……どうしようもないところだな」
「ああ、天才が100人いようと無理だ」
翼の言葉に対して一夏の表情は少し暗い。
自分のせいで打鉄弐式の開発が半ば中止、その尻拭いを友人と本来ならば自分に向けられる支援を受けるはずだった少女がしている。
本当なら翼たちの協力をしたい。
だが、なにもできない。できることがわからない。
「一夏」
名前を呼んだ翼の表情は柔らかい物だった。
これからクラス対抗戦と専用機の開発というとてもではないが同時並行で進めるものではないはずの事態に陥っていながらも彼の表情は一夏を気遣うものだ。
「お前はお前のできることをやれ。今はそれでいい。
たしかに原因は一夏にある。でも、それでお前が自責する必要なんてないんだ」
「でも!」
「でもじゃない。自分の生まれを責めるな。
それをして楽になるのは自分だけだぞ」
「ッ……!」
一夏は俯いて拳を握りしめる。
そんな彼を見て翼はちょいちょいと手で箒を呼ぶと小声で言う。
「一夏のフォロー、頼めるか?」
「言われるまでもないが……どうすればいいのか私にも」
「あいつの愚痴を受け止めるだけでいい。その肩を撫でるだけでいい。
箒も知ってるだろうけど、一夏は強い。一度立ち止まって整理すればまた前を向けるやつだ。
だからそれまで支えてやってほしい」
「……ああ、そうだな。任せてくれ」
胸を張って頷いた箒に「頼んだ」と告げて翼はセシリアに視線を向ける。
「セシリアもごめん。しばらく1人で一夏のIS特訓頼んでもいいか?
「ええ、このセシリア・オルコットにお任せください!」
翼に頼られて少し嬉しそうに答えたセシリアだったが一抹の不安はある。
それを口にするか迷っていたそんな時、横合いから声が飛んできた。
「あんただけじゃ荷が重いでしょ」
「え? 鈴?」
「凰、いつからそこに」
急に現れた鈴音に一夏と翼が素早く反応した。
彼らの横合いにいつの間にか現れた彼女の物言いから会話の内容はほとんど全て聞いていたのだろう。
箒含め全員が少し呆気に取られた表情を浮かべる中、セシリアだけは少しの敵意を向けて問いかける。
「どういう意味ですか?」
「言葉の通りの意味よ。
あんた、射撃戦に関しては確かに腕が立つけど近接戦闘は一夏と大差ないじゃない。研鑽にはなるだろうけど訓練にはならない」
「ぐっ……」
自覚していることをまざまざと指摘されたセシリアは言い返すこともできず奥歯を噛んだ。
しかし、多少の時間を必要としたものの彼女は気丈に振る舞いつつ鈴音に返す。
「だ、だからなんだと言うのです。あなたには関係のない話ですわ!」
「残念だけど、薄くはあるだけであるのよ。
一夏とは幼馴染だし、翼とはクラス対抗戦で戦うことになるしね」
「……なにか狙いがあるのではないか?」
箒の鋭い視線と露骨に出された警戒心を真正面から受けた鈴音だが、それに動じることなく彼女は否定することなく頷いて笑みを浮かべた。
「ええ、私は岸原 翼。あんたに恩を売りに来たのよ」
「恩? 見返りはなんだ?」
ISコア開発者の息子に求める見返り。
しかもそれが国の代表候補生ともなれば流石に教室で彼らの会話に聞き耳を立てていた者たちは一斉に押し黙るしかない。
教室に走った緊張、各々の脳裏に浮かぶ鈴音が提示する条件に思考を巡らせている中で彼女はそれらを嘲笑うように言う。
「翼、私がそこのイギリス代表候補と一緒に一夏の訓練をしてあげる。
代わりにクラス対抗戦で全力で私と戦いなさい。絶対に『疲れて全力出せませんでした〜』なんて言うんじゃないわよ」
緊張ではなく、疑問で教室が静まり返った。
特に出される条件に対してどう丸め込もうかと考えていた翼は出かかったすっとんきょうな声をどうにか抑え込んで確認を取る。
「本当に、そんなことでいいのか?」
「私にとってはそれで十分よ。んで、あんたはこの話に乗るの? 乗らないの?」
裏があるかもしれないと翼は思ったがそれにしては鈴音の言葉はまっすぐで真摯なものに聞こえた。
そもそも本当の目的が別にあったとしても今の彼は1人でも手が必要な状況、そのため彼女の話に乗らないという選択はない。
「ああ、わかった。よろしく頼む、凰」
「鈴、でいいわよ。翼」
鈴音が差し出した手を翼は取った。
こうしてクラスは異なりながらも協力関係が生まれた。