IS/UC -インフィニット・ストラトス/ユニコーン-   作:諸葛ナイト

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対抗戦前夜

 クラス対抗戦を翌日に控えた日の夕方、 ISの整備室。

 工具を片手に浮かんだ汗を拭った翼は満足気な笑みを浮かべた。

 

「よし! 打鉄弐式、完成だ!」

 

 翼の前には1機のIS、打鉄弐式がハンガーにかけられていた。

 ブルーグレーの装甲色、フレームには打鉄の面影が残っているが機動力を重視した結果外装は9割が新造となっているため全く別の機体という印象を受ける。

 特に目を引くのは大型の固定浮遊部位(アンロックユニット)だ。

 全長は打鉄弐式と同等程度はあり、しかもその上半分はミサイルコンテナで構成されている。

 

 未だ武装の1つすらない外側だけで中身はなにもないが、それでもこうして目の前で形となった打鉄弐式を見た簪は肩の力を抜いて笑みを浮かべた。

 そんな彼女に翼は言葉を贈る。

 

「おめでとう、簪」

 

 笑みをこぼしていたことを自覚した簪は慌てて翼から顔を逸らした。

 そして一度深呼吸、さらに咳払いをして答える。

 

「その言葉は早い。まだ外側だけで中身はなにもない」

 

「ああ、そうだな。でもここまで来れたんだ。簪はちゃんと進んでるよ」

 

 大きく背伸びをして工具箱に工具を置いた翼はハンガーに固定されている打鉄弐式を見てそこから視線を簪に移して問いかける。

 

「自分が考えたものがそこにあるのってめちゃくちゃいいだろ?」

 

「それは……まぁ、うん」

 

 言葉と表情はどうにか平静を装えたが内心は興奮していた。

 たしかに翼という協力はあったがそれでも自分が考えて、自分のために、自分が作ったものが今すぐそこにある。

 充実感、満足感、感動に似た想いもひとしおだ。

 

 まだまだやらなければならないことは山積みだが、せめて今日ぐらいはここまできたことを喜ぶ時間に当ててもいいはずだ。

 

「簪、今日はもう上がっていいんじゃないか?」

 

「……そういうわけにはいかないせめて今できてる部分だけでもOSを入れておきたい。

 その後はちゃんと休むから」

 

 化粧なりで隠して目立たないようにはしているがよくみれば簪の目元にはクマができていた。

 終わったら休むと言ったがやり始めたらやり始めたでなにか理由をつけて作業を続けるのは間違いない。

 

「わかった。ならそこまでは手伝おう」

 

「え? でも翼は明日クラス対抗戦で……」

 

「ああ、そうだな。でもかと言ってそんな顔の簪を放ってはいけない」

 

「ッ!?」

 

 簪は慌てて翼に背を向けて端末の内カメラで顔を見る。

 たしかに少しやつれた印象は受けるかもしれないが、パッと見はわからないはずだ。現にクラスメイトたちからはなにも聞かれなかった。

 

 だが翼はそれを見抜いて指摘してきた。

 その理由が純粋に気になった簪は振り向いて問いかける。

 

「な、なんでわかったの?」

 

「ん? そりゃ1ヶ月近く簪を見続けてるんだぞ? わかるよ」

 

 それこそ笑みを浮かべながらさも当然のようになんの気なしに応えた翼は打鉄弐式とデバイスを繋いでいく。

 そのため簪の顔を全く見ていなかった。

 

 だがそれは簪にとっては幸運だった。

 鏡も内カメラも必要ない。自覚できるほどに顔が赤い。

 

(きゅ、急になに? そ、それって私のことを意識して──)

 

『少なくとも君の目の前にいる奴は更識 簪という人間を見ているぞ!』

 

 あの時は自分の内から溢れる感情で認識していなかったが、存在を認め、個人としてのあり方も認め、それを声を大にして相手に伝えるのは実質告白のようなものではないだろうか。

 心躍るものがある。ときめきを感じてしまう。

 

 だがもちろん翼にそんな意図がないのはわかっている。

 それを己に意識させるように息を吐いて口を開いた。

 

「そ、そういうの気軽に言うの良くないと思う……」

 

「なんでだ? 事実だぞ?」

 

「ッッ!! そ、そうかもしれないけど、そうじゃなくて!」

 

 そうして初めて翼は簪を見ようと振り返ろうとしたが、すぐに簪から声が飛ぶ。

 

「こ、こっち見ないで! 作業続けて!」

 

「は、はい!!」

 

 反射的に答えた翼は簪のことを気にかけつつも作業を続けた。

 いそいそと動く彼の背中を見て少し高鳴る胸を抑えて息を吐いた簪は投影モニターに視線を移す。

 そして内にある感情から目を逸らすためにも簪は作業を始めた。

 

◇◇◇

 

 アリーナの退出時間まで残り30分という時間。もう人もほとんど残っていないそんな時間に2つの白が対峙する。

 

「悪いな。一夏、こんなギリギリになって」

 

「……俺はいいけど、翼は大丈夫なのか?」

 

 元々今日打鉄弐式が組み上がる見込みということでそれが終わり次第明日のクラス対抗戦に向けて装備の完熟訓練をしたいと言う話だった。

 だが結局来たのはほんの数分前、アリーナの閉場まで残り時間が少ないということで翼はISスーツすら着ていない。

 

「問題ない。時間もないんだ、早速始めるぞ」

 

「ああ、わかった!」

 

 白式、一夏は言うと雪片弐型を中断に構える。

 対してユニコーン、翼は左腕にシールド、右手には雷電、左手には棘風(ほこかぜ)を展開した。

 

 戦闘態勢に入った2人を見て鈴音が右手を挙げる。

 

「──開始!」

 

 言うと同時、手を勢いよく降ろした。

 瞬間、ユニコーンは急上昇、白式はそれを追うように同じく上昇した。

 

 白式の機動は一直線でわかりやすい。牽制となる装備すらもないそれに対してユニコーンは雷電と棘風の砲門を向けて引き金を引く。

 放たれたビームと杭の全てを回避し、白式は速度を上げた。

 

(動きに迷いがない……?)

 

 ならば、と翼は追い縋る白式を振り払うように右に左、上下と機動を細かく変えながら射撃を続けた。

 いくつかは命中し、いくつかは擦り、いくつかは弾かれかわされる。しかし変わらず白式はユニコーンに追い縋る。

 

 細やかに変わる機動と正確な射撃をいなす一夏は逸る衝動を歯を食いしばって抑えつけて鈴音たちとの会話を思い出す。

 

◇◇◇

 

 それは翼が打鉄弐式の開発のためにしばらくISの訓練ができないと告げた日の放課後のことだ。

 アリーナのピットで全員ISスーツを着て顔を突き合わせている中で一夏が真剣な面持ちで切り出す。

 

「なぁ、鈴。どうすれば翼みたいにISを扱えるようになる?」

 

「……それはアイツみたいにISを動かしたいってこと?」

 

 頷いた一夏に対して鈴音は「なるほどね」と小さく呟くときっぱりと言い切る。

 

「やめておきなさい。あんたには無理よ」

 

「なっ!? そ、そんなのわからないだろ!」

 

「ああ、違う違う! ごめん。言葉が足りなかったわ。

 あんただけじゃない。このIS学園、いいえ、世界を見ても翼の動きを真似できる人なんていない。そもそもするもんじゃないわ」

 

 鈴音の補足を受けて一夏は首を傾げた。

 その隣にいた箒も同じように首を傾げつつおそらく同じ意見を持っているであろうセシリアの方に視線を向ける。

 

「どういうことだ?」

 

「そうですわね。私たちと翼さんとは操縦概念が違う、と言えば伝わりますか?」

 

「操縦概念が違う、か。

 例えば私たちが一刀流で戦っているのに翼は二刀流を使っているようなものか?」

 

 箒は自身が咀嚼した情報を一夏はもちろん自分にもわかりやすく言葉にした。

 それを聞いて鈴音は即座に首肯した。

 

「そう、それ!

 一夏、よく覚えておいて。あいつと私たちは根っこが違う。

 あれは真似する物じゃない」

 

「まぁ、翼さんの厄介なところは私たちの戦術はおそらくほぼ看破される、というところでしょう」

 

「それって俺たちの動きは完全に見切られてるのにこっちは翼の動きを予測できないってことか? 無茶苦茶じゃないか?」

 

 一夏はかろうじてまだ常識的な範囲にあるが、ユニコーンとそれを駆る翼はISの世界においてあらゆる面で特異だ。例外、イレギュラーと呼んでもいい。

 彼がその異常な常識しか持っていないのならば互いに互いの動きを読めない状態となり、まだやりようがある。

 

 しかし翼はISの常識を知っている。できる範囲を知っている。

 そのため一夏たちの動きを読み切りつつ自身の動きを読ませない翼の一方的な戦いになる。

 そんな一夏の考えを否定せず「しかし」と言うような顔で鈴音が口を開いた。

 

普通なら(・・・・)そうよ。でもアンタにはまだ勝ちの目がある。たぶん世界で唯一」

 

 鈴音以外全員が首を傾げたが彼女の言わんとしていることを察したセシリアと箒は「あっ」と声を漏らした。

 そしてすぐに考え込み始め黙り込む。

 

 そんな2人を交互に見た一夏が鈴音に問いかけた。

 

「俺が唯一勝てるってどういうことだ?」

 

「あんたの白式には零落白夜(れいらくびゃくや)があるじゃない。あれなら一撃でシールドエネルギーを吹き飛ばせる。

 ユニコーンはたしかに特殊なISだけどISなのよ」

 

「要は動きが見切られてしまう前に一気に近付いて叩き切るということだな」

 

「短期決戦に持ち込むことさえできればあるいは……っという程度ですが、それでも私たちよりも勝ちやすくはありますわね」

 

 幼馴染であり親友の箒と代表候補生であるセシリアと鈴音が口を揃えて言われれば一夏もいやがおうにも自身の力を自覚させた。

 

「俺なら、翼に勝てる?」

 

「そうよ。だから一夏、あんたには翼を想定した訓練をするわ」

 

「それはどうやって?」

 

「私たち3人と同時に戦うわ。

 遠中近をそれぞれセシリア、私、箒で分担するのよ」

 

 目を見開いて言葉を飲んだ一夏の代わりに箒が声を上げる。

 

「ま、待て! 一夏はまだISを操縦し始めてようやく2週間目だ。

 3対1の訓練など一方的にやられて終わりだ。訓練になどなるわけが──」

 

「でもあいつに勝つにはそれぐらいできなきゃいけないわ。セシリア、あんたはどう思う?

 こいつの友人としてじゃなく代表候補としての意見は?」

 

 話を振られたセシリアは少し考え込むと真剣な表情で頷いた。

 

「私も鈴音さんと同じ意見ですわ。

 翼さんはそもそも全距離に対応できます。ですから翼さんを想定した訓練となればそれぞれ得意距離が違う私たちと同時に戦えなくてはならないでしょう」

 

 2人の代表候補生の意見に一夏は黙り込んだがそれは一瞬のことだった。

 彼女たちに真剣な面持ちを向けて彼は答える。

 

「やる。みんなには悪いけど付き合ってほしい」

 

「い、一夏!」

 

「大丈夫だ箒。鈴とセシリアの言うとおり翼に勝つ、いや、それまではいかなくても今の俺が翼と戦えるようになるにはそれぐらいやれなきゃだめだ」

 

 本人からそう言われてしまえば箒は何も言い返せない。

 言葉を飲んだ彼女に対して一夏はいつもと変わらないようで少し違う顔と声音で言う。

 

「箒にも手伝ってほしい」

 

 その頼みを受けて箒は渋々頷いた。

 

◇◇◇

 

 ユニコーンに追い縋る一夏は歯を食いしばる。

 

(これだけ速度を出してるのに、これだけいなしてるのに、遠い!)

 

 3人から受けた訓練はたしかに一夏の身になっている。それは強く実感できた。

 しかし翼はセシリアと並ぶ射撃精度で鈴音と並ぶ機動力と箒に並ぶ判断力で一定の距離から近づけさせないようにしている。

 実力の差を改めて認識した一夏だが、それでも彼は諦めることなく、投げ出すこともなくただ前へと進む。

 

 対して翼は純粋に驚いていた。

 

(動きが、捉えられない?)

 

 一夏の動きは明らかに変わっている。成長している。

 予測した位置に射撃している。たしかにその位置に一夏は来ているがその攻撃を防ぎ、かわし、弾いていた。

 危なっかしい動きではあるがそれでも目覚ましい成長だ。

 

(一夏! お前──)

 

「──お前、強くなったな!」

 

 思っていた言葉が口をついた。

 たった数週間で一夏はたしかな技術を身につけて磨いている。上から目線にはなるが翼は心の底から彼の成長を喜んでいた。

 

「一夏、お前はなにも迷う必要なんてない。お前は進んでいる。確実に、前に!」

 

「翼!」

 

「だから俺は──」

 

 ユニコーンのカメラアイが光を放ち、白い装甲が開き、スライドを始めた。

 翼は棘風(ほこかぜ)と雷電を収納、華片(はなひら)を展開、それを中段に構えてS(シンクロ)システムを開放させた。

 

「──お前の壁になろう」

 

 先ほどまでずっと一夏を振り払うように動いていた翼が一気に距離を詰める。

 

「ッ!?」

 

 振り下ろされた華片を雪片弐型で受け止めたが機体の出力差のせいか一夏は大きく吹き飛ばされた。

 開いた距離を一息で詰めた翼は華片を切り上げる。

 それに反応して防いだ一夏だがやはり力負けしており大きくのけ反り、態勢を崩した。

 

「く!?」

 

(まずい!? 退がれねぇ、かわせねぇ! なら!)

 

 しかし一夏は丸まる勢いで無理やり立て直すとそのまま懐に飛び込むように前に進む。

 ユニコーンは全身装甲(フル・スキン)であるため翼の表情を一夏は見ることができないが彼は目を見開いていた。

 

(やっぱり、強くなったよ。一夏)

 

 近付いて来ている一夏は今、前にある翼にしか意識が向いていない。

 だから下から迫るユニコーンの足への反応が遅れた。

 

「がッ!?」

 

 翼によって蹴り上げられた一夏の体が止まる。

 たしかで、大きく、わかりやすい隙だった。

 その隙を彼が逃すことはなく、いつの間にか居合い切りのように華片を構えられていたそれを切り抜いた。

 

 ISのハイパーセンサーでようやく捉えられるほどの速度で振り抜かれた華片の太刀、AB(アンチ・バリア)フィールドを攻撃に転用したそれは白式のシールドエネルギーを削り勝者を決めた。

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