IS/UC -インフィニット・ストラトス/ユニコーン-   作:諸葛ナイト

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クラス対抗戦

 クラス対抗戦当日。

 第2アリーナの観客席は人でごった返しており、会場に入りきらなかった生徒や関係者たちがモニターを見るほどまでに注目されている対戦カードがある。

 それは1年1組の岸原 翼と1年2組凰 鈴音だ。

 どちらも専用機持ちであることはもちろん、特に翼はクラス代表を決める際に一度代表候補生に勝利しているため注目がより集まっている。

 

「……」

 

 好奇の視線に晒される翼は目の前の鈴音とそのIS、甲龍(シェンロン)を見据える。

 彼女のISの特徴は非固定浮遊部位(アンロックユニット)だ。

 肩の横に浮くそれのスパイクアーマーや全体的に赤い色はまるでその装備者の意気込みを示すかのように攻撃的なものを主張している。

 

『それでは両者、規定の位置まで移動してください』

 

 アナウンスに促されて翼と鈴音は空中で向かい合う。

 その距離が5メートルほどまでになったところで鈴音がオープンチャンネルで翼へと言葉を飛ばす。

 

『んで、体調は?』

 

「少なくとも久々に8時間しっかり寝られたよ。機体の調整もしっかりできた。

 俺もユニコーンも鈴の約束通り万全で全力で戦える態勢だ」

 

『そう、ならよかったわ。

 全力で万全のあんたと戦えなきゃ協力した意味ないもの』

 

 鈴音はすでに戦闘モードに思考を切り替えているのだろう。

 その目はまさしく獣と形容するに相応しいほど鋭いものになっていた。

 

 その眼光を受けて翼は右手に雷電、左手に棘風(ほこかぜ)を展開、それらのトリガーに指を添えて強く握りしめる。

 

『それでは両者、試合を開始してください』

 

 ビーッ!と鳴り響くブザー。

 それが切れる瞬間に翼は棘風と雷電を構えて迷うことなく引き金を引いた。

 放たれる杭のよう弾丸とビームを鈴音は上昇することでかわす。

 

 情報によれば甲龍は近接戦闘に主眼を置いたISだ。

 

(距離を詰められないようにするためにも射撃で削れるだけ削る、つもりなんだけど……)

 

 射程には収まっているが甲龍の機動力は翼が得た情報よりも数段上だった。

 放たれる実弾とビームを鈴音はするりとかわしていく。その動きに不安定なものはなく、見定めるようなものだ。

 

(セシリアよりもずっと早いな。撃たれることに慣れているしこっちを見定めるような回避行動、ということはそろそろ来るか)

 

 翼が予測した通り、射撃をかわし続けていた鈴音は突如旋回を行うとジグザグの軌道を取りながら距離を詰め始めた。

 

 詰められる距離を開けるように後退しつつ射撃を続けたがそれが鈴音を捉えることはない。

 鈴音は両手にしていた辛うじて青竜刀と呼べるそれ、双天牙月をバトンでも使うように器用に回しながら翼へと切りかかる。

 

 それを雷電の銃身下部にあるブレードで受け止めたが、翼の方が軽く押された。

 一瞬の鍔迫り合いの後、間髪入れずに鈴音は双天牙月を荒々しくも正確に振り回す。

 

 右から、左から、上や下や斜めと力強く振るわれる刃を翼は左腕のシールドと雷電のブレードで受け止める。

 ぶつかり合うたびにガギンッ、ガギンッという重苦しい金属音がアリーナに響いた。

 

 側から見れば鈴音が押しているように見えるが、しかし攻勢に出ている彼女本人は歯噛みしていた。

 

(くっ、こんだけ攻撃してるのに押し切れない!)

 

 反撃の隙を与えれば負ける。翼の反撃を許せば下手をすればそのまま彼のペースに乗せられるからだ。

 だから反撃の隙を与えないように攻撃を続けているのだが、防御に入った彼を押し切れない。

 

 だが手を全て出し切ったわけではない。

 

 距離を作るために翼が棘風の銃口を向けようとしたその隙を鈴音は見逃さなかった。

 

「ッ! もらった!」

 

 言葉と共に甲龍のアンロックユニットの装甲がスライドして開き中心の球体が発光した。

 

「っ!?」

 

 翼は直感に従って右に回避行動を取ったが、間に合わずに左肩が目に見えないなにかに殴り飛ばされた。

 それによりバランスを崩したところで鈴音はにやりと不敵な笑みを浮かべる。

 

「今のはジャブだからね」

 

「ああ、だろうな!」

 

 翼は叫びつつ体勢を整えて左腕のシールドを構えようとしたがそれよりも見えない砲弾が放たれる方が早かった。

 

 ドンッ!!

 

 腹部に命中したその衝撃で翼は地表へと吹き飛ばされた。

 地面に叩きつけられる寸前でブースターを全力で吹かし上昇する。

 

(さすがは代表候補生。セシリアとは違う方向性の強さだ)

 

 翼は両手に装備している装備を見る。

 距離を保ちつつ攻撃するということを考えるならばこのままでも良いが、あの青竜刀と打ち合うことを考えるならば今の装備では相性が悪すぎる。

 そう判断した翼は棘風と雷電を収納、華片(はなひら)を展開した。

 

 それを見て鈴音も青竜刀を構え直した。

 

(太刀を出してきた)

 

 彼も近接戦を選んだため先ほどのように鈴音が一方的に攻め続けるのは難しいだろう。

 例えこの龍砲があったとしても。

 

(ええ、でもだからって一方的に負けるわけにはいかない。負けていい理由にはならない。

 私はここまで成り上がった中国の代表候補生なのよ)

 

 甲龍のスラスターが吹かして一息にユニコーンとの距離を詰めると双天牙月を振り下ろした。

 

◇◇◇

 

 ユニコーンの華片と甲龍の双天牙月がぶつかり合う。

 2機の間に舞う火花は白と赤の外装を煌めかせ、重い金属音が演奏のように断続的に響いていた。

 かと思ったが甲龍のアンロックユニットの装甲がスライド、その中央の球体が光ったかと思えば見えないなにかが放たれる。

 

 ユニコーンは回避できたようだが距離を測りかねているのか彼自身から距離を詰めることはない。

 

「なんだよあれ」

 

 そんな様子をピットからリアルタイムモニターで一夏が反射的に呟いた。

 それに答えるのはセシリアだ。

 

「衝撃砲、名称はたしか龍砲ですわ。

 空間自体に圧力をかけて砲身を生成、余剰で生じる衝撃、それ自体を砲弾化して打ち出す。ブルーティアーズと同じ第三世代型兵器ですわ」

 

 彼女の説明を聞いて箒が疑問の声を上げる。

 

「見えない攻撃、か……厄介だな」

 

「ええ、砲弾が見えないだけならまだやりようはありますが、砲身が見えないということは砲口が見えないことと同義。

 今どこに射線が通っているのかわかりませんもの」

 

「そういえば鈴も言ってたな『射線は銃口でわかる』って」

 

「そもそも砲門が見えたところであの猛攻の中でかわすのは至難の業だが……」

 

「翼……」

 

 一夏たちは不安げな面持ちでモニターを見つめる。

 

◇◇◇

 

 一夏たちと同じように不安げな表情で試合を見ている者はアリーナの控え室にもいた。

 

「……」

 

 更識 簪だ。

 打鉄弐型を形にすることはできたが、まだ戦闘は難しいということで今回のクラス対抗戦では打鉄で出場することになっている。

 彼らの試合が終われば少しの間を空いて彼女の番になるのだが、その緊張よりも今目の前で繰り広げられているものの方が彼女にとって重大だ。

 

(見えない砲身と砲弾に隙の少ない手堅い近接戦闘……普通に考えたらあんな無茶苦茶いなせるはずはない、はずなのに……)

 

 妙な違和感を覚えた。

 最初の方は攻撃を受け続けていたはずの翼がだんだんと反撃を入れ始めているように見える。

 

 甲龍のアンロックユニットが開口、龍砲が放たれた。

 だが、ユニコーンにダメージが入っている様子はない。

 

「ッ!? かわした!」

 

 偶然ではない。

 それにしてはあまりにも迷いがない回避行動、まるでそこに攻撃が来ることを知っていたかのようだった。

 

 それから数度、ユニコーンと甲龍がぶつかり合いその中で龍砲が放たれたが、それが白い一角獣を捉えることはない。

 

(まさか──)

 

◇◇◇

 

 簪が目を見開く中、鈴音は小さく舌打ちを鳴らした。

 

(──もう見切られた!?)

 

 セシリアとの戦闘と彼女から話には聞いていた。

 

『敵に塩送るようなものになりますのであまり気乗りはしませんが……』

 

『なによ』

 

『翼さんの学習能力は尋常ではありません。一度手の内を晒せばそれは2度と通用しないと考えた方が良いでしょう』

 

『つまり、手札を晒したら速攻で潰せってことね』

 

『ええ、まぁ……それができればおそらく苦労はしないでしょうけど』

 

 その時はセシリアの過言だと思っていたが実際に戦闘して手の内である龍砲を見切られて初めてそれが真実を語っていたことだと知った。

 

(予想よりもずっと見切られるのが早い! こいつ、本当に人間!?)

 

 ユニコーンが一息に飛び込まように距離を詰める。

 それを撃ち落とすように龍砲を放つが高く飛び上がられさらに横へのロール回転でかわされた。

 そのままさらにブースターを吹かしたユニコーンは華片を振り下ろす。

 

 鈴音はそれを双天牙月で受け止めた。

 ギリギリと2つの刃が擦れ合う中で鈴音が口を開く。

 

「後学のために聞かせてもらえるかしら?」

 

「なにをだ?」

 

「あんた、龍砲をどうやって見切ってるのよ」

 

 龍砲。

 甲龍の専用装備であり、その特徴は砲弾だけではなく砲身も見えないということだ。

 シンプルな特徴だがそれゆえに第3世代型兵器であるのにも関わらず扱いに関する癖はなく、“普通の射撃装備”と同じ感覚で扱える。

 

 それが翼が龍砲を見切れる理由だ。

 

「簡単だ。鈴の頭の向きと視線から割り出した」

 

「は、はぁっ!?」

 

「龍砲はたしかに銃身も砲身も見えない。でも、搭乗者までに見えないのでは扱いにくくなる。

 慣れていなければ自分が今どこを狙っているのかすらわからなくなるだろうさ」

 

 図星だった。

 鈴音が甲龍で苦労した点がそこだ。

 触れ込みとしては扱いやすい、燃費も比較的良いというものだったが砲身が見えないことに慣れるのに時間がかなりかかっていた。

 

 冷や汗を浮かべながら鈴音は返す。

 

「私がその弱点を克服してるとは思わないの?」

 

「思ってるさ。でも、最初はそうじゃなかったんじゃないか?

 たぶんISのUIで擬似的な砲身を出してたんだろう」

 

「……ッ、まさか!」

 

「そう、残ってるんだ。その時の癖がな。

 龍砲を打つ直前、鈴音は一瞬だが左右を見る。たぶんその位置に架空の砲身があるんだろう。

 そして狙う方向に頭が向く」

 

 鍔迫り合いのから甲龍を蹴り飛ばし距離を作ったユニコーンは再び太刀を振り下ろした。

 鈴音は歯を食いしばりながらそれを受け止める。

 

「凰 鈴音、お前は努力家なんだな。すごいよ。

 ここまで癖として残るほどに体に覚え込ませて今使い切ってる」

 

 龍砲が展開、放たれた時にはユニコーンは後退してシールドを向けていた。

 2発の砲撃を受け切るとそのまま前身、シールドを押し付けバルカンを放つ。

 

 1発1発はそこまでないが確実にガリガリと甲龍のシールドエネルギーを削っていく。

 

「くっ! まだ、まだぁ!!」

 

 鈴音はシールドを掴むとそのままユニコーンを投げ飛ばした。

 

「はぁ、はぁ……まだ勝負は終わってない。これ(龍砲)だけが、私の武器じゃないもの」

 

「ああ、そうだな。お前の武器はその意志だ。何があろうと突き進もうと邁進できるその根性だ」

 

 鈴音は双天牙月を構え直し、息を吐く。

 それに対して翼は華片も構え直してシンクロシステムの解放を告げる。

 

 その直前──

 

 ズドォォォォンッ!!!

 

 ──という大きな音と衝撃がアリーナ全体に走った。

 

 それは空からアリーナのステージ中央あたりに何かが落ちてきた音だった。

 そのことを証明するかのようにそこからはもくもくと土煙が上がっている。

 

「なんだ!?」

 

『翼、試合中止よ』

 

「わかってる」

 

 答えるのと同時、それぞれの機体のハイパーセンサーが緊急告知のウィンドウを展開させて機械音声が響く。

 

『ステージ中央に熱源。所属不明。現在ロックされています』

 

「「チッ」」

 

 翼と鈴音は状況の悪さに舌打ちした。

 アリーナ内にいると言うことはISのシールドバリアとほぼ同等の防御力を持つ遮断シールドを破ったということ、その力を持った機体が乱入、ロックしているということだ。

 

 もはや敵でしかないが規則にのとって翼は左手に棘風を向けながらオープンチャンネルで呼びかける。

 

「そこの機体、今すぐに所属している国家又は企業等を言え。ここはIS学園敷地内だ。

 お前のその行動は国際社会に対する敵対行為だ」

 

「……」

 

 予想通りそれから答えが来ることはなかった。

 それから30秒ほど待つがそれでも何か言葉が返されることもない。

 

(まぁ、答えるわけもないか)

 

 なら、と翼が次の行動に移ろうとしたところで高エネルギー発生のアラームが鳴り響いた。

 その方向は自分、ではなく––––

 

「鈴ッ!?」

 

 ロックオンされたのは鈴音だ。

 翼はそれがわかるや否やすぐさま鈴音の体を抱きかかえてさらったその直後、彼らがいた場所を熱線が通り過ぎる。

 

「ビーム兵器!? しかもビームマグナムと殆ど同じ威力だと!?」

 

 驚愕する翼の腕の中で抱えられている鈴音は顔を赤面させ暴れ始めた。

 

「ちょっ、ちょっと、馬鹿! 離しなさいよ!」

 

「言ってる場合か!! あれに当たったら普通のISなんて一撃で──」

 

「う、うるさいうるさいうるさいっ! だ、大体どこ触って––––」

 

「ッ! 次!」

 

 鈴音を解放してその目前に出たユニコーンはシールドを構え、AB(アンチバリア)フィールドを展開、煙を晴らすかのように放たれたビームの連射を全て霧散させた。

 その間に射手であるISがふわりと浮かび上がる。

 

「ねぇ、あれ、あんたの知り合い?」

 

「残念ながら、変人は何人かいるがこんなことする奴は知らないな」

 

 そのISは深い灰色で手が異常に長い。つま先よりも下まで伸びている。

 それにはビーム砲口が左右に2つずつ合計4つあり、それを支えるためか全身にはスラスター口らしきものが見えている。

 剥き出しのセンサーレンズが不規則に不規則に並ぶ頭部は肩と一体化されており、どこか不気味さを醸し出していた。

 

 加えて一番の特徴はユニコーンと同じ全身装甲(フル・スキン)というところだろう。

 

 翼達が目の前の侵入者を警戒している時通信が送られてくきた。

 

『岸原くん! 凰さん! 

 今すぐアリーナから脱出してください! すぐに先生達がISで制圧に行きます!』

 

 通信を送ったのは緊急事態のせいかいつもよりどこか威厳のある真耶だ。

 しかし、それに対して翼は同様も戸惑いもなく毅然とした態度で返す。

 

「いえ、先生が来るまで俺たちで食い止めます。

 今下がればやつが何してくるか、最悪の場合、観客席にいる人たちが被害に合う。

 悪いけど鈴、避難までの時間稼ぎ付き合ってくれるか?」

 

「ええ、もちろん」

 

「悪いな。1人だとさすがに心許なかったんだ」

 

「ふん、どの口が言ってるのよ」

 

『岸原くん!? だ、ダメで––––』

 

 翼は真耶の制止を無視し途中で通信を切ると棘風を収納、華片を両手で握りしめた。

 

「俺が前衛で突っ込むから鈴は援護頼む」

 

「……わかったわ」

 

 翼はユニコーンのシンクロシステムを解放、一息に侵入者との距離を詰めると華片を振り下ろす。

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