IS/UC -インフィニット・ストラトス/ユニコーン-   作:諸葛ナイト

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IS学園 Ⅱ

 IS学園では入学初日から本格的な授業が始まる。

 しかし、いきなりよくわからない用語の羅列が並べ立てられるということではない。

 授業内容としてはISに関わるのならば基礎的な知識ばかりであり、そもそも入学前に配布された教科書の確認するようなものだ。

 

 現在はその1時間目が終了した休み時間。

 

「……」

 

 2時間目に使う教科書を流し見していた翼は心の中で呟く。

 

(初日だからって感じもあるけど、そこまで踏み込んだ内容はあんまりないな……)

 

 真似事とはいえISの開発、設計をしていた翼にとっては教科書に特別目を引く内容や驚くほどの内容はない。

 しかし悪い本、という感想を彼は抱かなかった。

 それは基礎的な知識をわかりやすく説明していて真に教科書というものだったからだ。

 

(にしてもすごいな……これ、内容としては下手な専門書より詳しい。

 いいなぁ。俺もこれで勉強したかった)

 

 翼が当時の苦労を思い出して教科書を何の気なしにめくっていたところに横合いから声がかけられる。

 

「なぁ、岸原。でいいんだよな?」

 

 声をかけたのはもう1人の男性IS操縦者、織斑 一夏。

 高校の入試試験の日、道に迷ってその結果、偶然ISに手を触れてしまったところそれを起動させた。

 そして、あの織斑千冬の弟。

 

「ああ、織斑 一夏だよな?

 千冬さんに弟がいることは知ってたけど、まさかそれがこんな出会いになるなんて思わなかったよ」

 

「えっと……岸原はさ──」

 

 一夏が全てを言い切る前に翼が手で制する。

 

「翼でいい。同じ男同士で、同じ教室にいて、しかも隣の席。

 気楽に接してくれた方が俺としてもやりやすそうだって思うんだけど?」

 

 翼のその声音は柔らかいものだった。

 一夏はその接し方をされて邪険にすることも警戒することもなくただどこか嬉しそうに頷いた。

 

「ああ、そうだな! なら俺のことは一夏って呼んでくれ。

 これからよろしく、翼」

 

「ああ、よろしく一夏。

 んで、なんだ? 何か聞こうとしてたみたいだったけど……」

 

「そう! なんか千冬姉と親しそうだったけど、昔会ったことあるのか?」

 

 その質問に翼は疑問符を浮かべたが、すぐに自分が千冬をさん付けで呼ぼうとしたことに違和感を覚えたことを察した。

 

 千冬は元IS日本代表。そのため名前は知っているだろうがそんな人の名前をいきなり『さん』と付けて呼ぶ者などはいない。

 加えて2人のやりとりはどこか親しみが感じられ、明らかに会ったばかりの者たちとは思えなかったのだ。

 

「母さんと父さんの友達みたいな人だからな。それで俺も何回かあったことがあるんだ」

 

「へぇ、そうなのか。全然知らなかった」

 

「あの人はそういうことはあまり言わないみたいだし……弟は苦労も多そうだな」

 

 一夏はどこか困ったような表情で頷く。

 翼は両親に振り回されることが多く、同じ男性IS操縦者ということ以外にも似通っている箇所を見つけて翼は一夏に親近感を覚えた。

 

「にしても––––」

 

「……ああ、そうだな」

 

 視線をゆっくりと横に動かした一夏から彼が言わんとしていることに思い至って翼は同意した。

 先ほどから彼等は考えないようにしながら普通に会話をしていたが、辺りはそうではない。

 

「「「……」」」

 

 授業終了後からクラスだけでなく、廊下にまでいる女子達の視線が集中しているのだ。

 

「これはきついな」

 

「ああ、これじゃ、まるでパンダだな」

 

 仕方ないと納得することはできなくはないが、正直なところあまりいい気はしない。

 予想よりも辛い針の筵に2人が顔を見合わせ息を吐いたところで突然声がかけられた。

 

「ちょっといいか?」

 

 声をかけたのは無論女子だ。その顔はどこか申し訳なさそうにも見えるが別の何かも見え隠れしている。

 

「……箒?」

 

「知り合いか?」

 

 一夏が箒と呼んだ少女は長いポニーテールが特徴的な少女だった。

 身長は大体平均的、凛とした印象を受けることができるその鋭くもあるがある種の美しさを覚えられるその目つき、しかし今のそれはどこか不機嫌な感じがしている。

 

「ああ、篠ノ之 箒だ。俺の––––」

 

「あ、彼女か?」

 

「なっ!? そ、そんなわけないだろ!?」

 

 翼にとってはふと口から溢れてしまった程度の言葉だったが箒が真っ先に否定した。

 予想していなかった勢いの否定に翼は目をぱちくりさせる。

 

「ご、ごめん……。じゃ、じゃあ友だち、とかか」

 

 言いつつ翼は助けを求めるように一夏に視線を向けた。

 それに応えるように彼は頷くとにこやかに答える。

 

「そうそう。より詳しく言うと幼馴染だ。

 まぁ、色々あって会うのは久々だけど」

 

 一夏はそう言っていたが、翼は後ろに立つ箒の表情に一瞬、怒りのようなものが見えた気がした。

 そのことを一夏に指摘しようとしたがそれよりも先に彼が口を開いた。

 

「ここじゃちょっと話しにくいし、廊下に行かないか?」

 

「それは……私は構わないが、その、岸原はいいのか?」

 

「ん? ああ、いいよ。久々の再会なんだろ?

 ゆっくりと話すのは難しいかもしれないけどな」

 

「よし、じゃあ行こうぜ。箒」

 

「あ、ああ……」

 

 箒の手を自然に取って廊下に出て行った一夏を見て翼は微笑ましいものを見た時のように笑みが混ざった小さな息を吐く。

 

(幼馴染、か……。そういや、俺も会ってないなぁ)

 

 そんなことを思いつつ、翼はその幼馴染である少女な顔を思い浮かべた。

 

(にしても、篠ノ之 箒、か……。

 たしか妹が同じ名前だったっけ?)

 

 篠ノ之 箒という少女に出会ったのはついさっきが初めてであり本人から話は聞いていないが、彼女はISコア開発者の3人の内の1人、篠ノ之 束の妹で間違いない。

 

(ISコア開発者の関係者と男性IS操縦者……そりゃ、1クラスにまとめるし、担任に千冬さんを当てるよな)

 

 今後の学園生活が無事に終わることはないだろうことをその時点で翼は確信できた。

 

◇◇◇

 

「であるからして、ISの基本的な運用は––––」

 

 すらすらと教科書の内容を読み上げていく真耶。千冬はその隣、窓側の椅子に腰掛けている。

 

 翼はその内容をほぼ聞き流しつつまだ読まれていない内容を先読みしていた。

 一方、その隣の一夏は理解できないのか周りを少しキョロキョロしている。

 

「織斑くん、何かわからないところがありますか?」

 

 その行動に気付いた真耶が一夏に声をかけた。

 

「あっ、えっと……」

 

 どうしようか戸惑っている一夏を他所に翼は教科書を読みつつそのわかりやすさに舌を巻いていた。

 そんな中でも彼らの会話は続けられる。

 

「大丈夫ですよ。私は先生なんですから」

 

 一夏は逡巡していたが、真耶が胸を張った姿を見て頼ることを決めた。

 

「先生!」

 

 学校に通う生徒らしく大きな声で言いながら一夏は手を挙げる。

 

「はい、織斑くん!」

 

「ほとんど全部わかりません」

 

「……えっ、全部、ですか?」

 

 一夏のその答えは予想外だったらしく、真耶の顔から先ほどまでの自信満々なものは消え去り、一気に困り顏になった。

 

「えっと……織斑くん以外で、今の段階でわからないっていう人はどれぐらいいますか?」

 

 真耶そう言い挙手を促した。だが、誰も手を挙げない。

 

 そんな光景を見て困惑している一夏。

 その隣の翼は真耶が話していた内容のページまで戻り、その内容を軽く読んで問いかける。

 

「一夏、この辺は入学する前に渡された参考書の内容だぞ。しかも割と序盤の。

 読まなかったのか?」

 

 翼の質問に一夏は記憶の引き出しを開け始めた。

 そして、そこに行き着くと「ああ」と思い出したように言う。

 

「あれなら古い電話帳と間違えて捨てた」

 

 言った瞬間、響く出席簿で頭を叩く音。

 

「必読と書いてあったろうが馬鹿者」

 

 もちろん叩いたのは千冬だ。

 

 彼女は腕を組みながら一夏を見下ろす。

 その表情や言葉には誰にでもわかるほどの呆れが含まれていた。

 

「あとで再発行してやるから1週間以内に覚えろ。いいな」

 

「え、いや、1週間であの厚さはちょっと––––」

 

「やれと言っている」

 

 一夏が言い終わる前に千冬は有無を言わせぬように言った。

 

「は、はい、やります」

 

 さすがにもう言い返せないと判断した一夏はやむなく返事をする。

 

「それと––––」

 

 次は、と言わんばかりに千冬は一夏の隣に居る翼の方を見た。

 

「岸原は織斑に勉強を教えてやれ、いいな」

 

「えっ、俺がですか?」

 

「ああ、お前にとってはこの内容……いや、IS学園の授業は簡単過ぎる。

 なにもわからんそこの馬鹿に知識を叩き込め。お前にはそれぐらいがちょうどいい」

 

 翼は視線を一夏に向ける。

 その先にある彼の顔には助けを求めるようなものしかなかった。

 そんなものを向けられては自信がないから、と言う理由で断ることも難しい。

 

「……わかりました。正直、自信はありませんけど、やってみます」

 

「よし、では山田先生、授業をお願いします」

 

「あ、はい! それでは──」

 

 気を取り直して真耶は授業を再開させた。

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