IS/UC -インフィニット・ストラトス/ユニコーン- 作:諸葛ナイト
白い装甲から覗くA.E.Bの赤い光がユニコーンが動くたびに軌跡を描き侵入者へと迫る。
振り下ろされた華片を侵入者は後退、反撃としてビームを放った。
ユニコーンはしゃがみ込むことで回避、さらにそこから飛ぶように立ち上がって切り上げる。
その一撃は侵入者の左腕に浅いが切り傷を入れることに成功した。
(やっぱりこの速度なら捉えられる──)
翼は確信してさらに踏み込んでは華片を横一閃に走らせる。
それも侵入者を捉え、その腹部に一線が描かれた。
(この速度なら、当たる──)
侵入者が右腕をユニコーンへと向ける。そこにあるビームの砲門が光を放つ直前、ユニコーンが振り上げた左脚が侵入者の右腕を蹴り上げた。
大きく上に挙げられた右腕から放たれたビームは天に伸び、アリーナに広がる遮断シールドに衝突して霧散。
(一夏の一撃は、入る!)
侵入者は続けて左腕を向けたがそれよりも早く、体勢を整えていたユニコーンは右足で侵入者の左足を蹴りつけて崩れた上半身を右足で蹴り飛ばした。
そのまま距離を取るユニコーンへと今度は両腕のビームで撃ち落とそうとしたがそれはブルー・ティアーズのビットと狙撃ライフルによって妨げられる。
『翼さん!』
「大丈夫だ! そのまま支援を頼む! このままポイントまで押し込むぞ」
『はい! ですが、無理はなさらずに!』
「大丈夫、セシリアが援護してくれてるんだ。こんなに心強いものはない!」
翼はそう答えると再び距離を詰めて華片を振るった。
縦に、横に、斜めに、さらに突き出し侵入者を攻撃ポイントに追い込んでいく。
動きは大胆で隙があるがそれは彼が狙ったものだ。
侵入者は目敏くその隙を使うと腕を向けるがそのたびにセシリアが繰り出す正確な狙撃を受けている。
そんな光景を見て鈴音は呟く。
「実際に自分が戦って、一緒に戦って、こうして改めて見てよくわかった。
あいつ、私よりもずっと強い」
「意外だな。鈴がそんなことを言うなんて」
「そりゃ言うわよ。
あいつ、侵入者がセシリアの方に注意を任せないようにしてる。私の時もそうだった。
私の方にも攻撃が飛んできてもおかしくなかったのにそんなことはほとんどなかった」
「周りを見れてるのか、こんな事態なのに」
「ええ、でもだから私たちは勝った」
「……なんで言い切れるんだ?
そりゃ作戦を立てたのは翼だけどやるのは俺なんだぞ? 不安じゃないのか?」
一夏の卑屈な言葉を聞いて鈴音は目を丸くした。
「あんた、しばらく見ないうちにずいぶん卑屈になったわね」
鈴音はそこで言葉を区切って一夏の顔を見た。
震えこそはないがその表情に自信は見えない。今の彼は自分を奮い立たせることすらできなくなっている。
昔の彼はそうではなかった。少なくとも鈴音の中の織斑 一夏はもっと愚直で真っ直ぐでがむしゃらにでも前に進める者だった。
(まぁ、すぐ近くにあんな奴がいたらそりゃ比べるか……)
大きく息をついた鈴音は一夏に問いかける。
「一夏、あんたには翼がどう見える?」
「そりゃ、すごいやつだよ。本当になんでもできるやつで──」
「そんな奴があんたを今、頼ってる」
「……あっ」
「そう、あいつはすごいやつかもしれない。なんでもできるやつかもしれない。
でも“自分1人で全てはできない”のよ。だからあんたを頼ってる。
消去法とかじゃない。あんたはあんたの意思でここまで来た。そんなあんたならできるって信じて頼ってるの」
「翼は俺を信用して、るのか?」
「そうに決まってるでしょ。
あんたは危険を承知でここに来た。私たちの力になりたいって思ってきたんでしょ?
それにあいつが気付かないわけないでしょ。たぶん相当嬉しかったと思うわ」
一夏は1度目を大きく見開くとそれを閉じて息を吐いた。
なんでもできると思っている友人が自分ができると信じて頼っている。
本当にできるかはわからない。自信もあまりない。それでも彼に信じられて頼られている。
それだけで織斑 一夏は今、戦える。
再び見開かれた一夏の目を見て鈴音が問いかける。
「全く……やれるわね?」
「ああ、ごめん。鈴、頼む」
「任せなさい!」
鈴音が答えた瞬間、ユニコーンが投擲したビームブーメランをかわすために侵入者がスラスターを噴かせて回避。
そこからさらに両腕を挙げたのと同時、ブルー・ティアーズのビット群から放たれたビームが四方から飛ぶ。
四方を取り囲むそれを侵入者は大きくその場から離れるのではなく、その場で体をずらすことでかわした。
そう、侵入者は攻撃ポイントで足を完全に止めたのだ。
「一夏!!」
「一夏さん!!」
翼とセシリアに呼びかけられた一夏は目を見開き、白式のスラスター翼を大きく広げることで応える。
「行ってきなさい! 一夏!!」
全開まで広げられたスラスター翼に向けて鈴音は龍砲を放った。
「ッ!!」
龍砲のエネルギーは全て取り込んでいるため白式のシールドエネルギーが削られることはないが、それでも衝撃までは押し殺せない。
否、押し殺す必要などない。
一夏は龍砲の衝撃を初速に使い、さらに瞬間加速を発動させる。
爆発的な推進力を得た白式は一夏が今まで感じたことのない速度を見せた。
「うおぉぉぉぉおおおおおおッ!」
瞬間移動。
側から見ればそう形容するしかない速度で白式は侵入者へと一瞬で距離を詰める。
しかし、一夏の視界は異常なほどゆっくりな速度で景色が流れていた。
だから狙いを違えることはない。今の彼にとって侵入者は動かないただの的だ。
ISを操縦して1ヶ月ほどの一夏でもそんなものを切るのに苦労はしない。
侵入者は一夏が向かってきていることを知るのと同時、いや、それよりも早く零落白夜を展開させた雪片弐型に切り付けられた。
侵入者の左肩から入った青白い光の刃はなんの苦もなく進み、その右下の腹まで切り進んで割いた。
上半身と下半身に完全に別れた侵入者は派手な爆発をすることもなく地面に崩れ落ちる。
「はっ……はっ……!」
しんと静まり返ったアリーナに一夏の荒い息遣いだけが響いていた。
それを管制室から見て真耶は安心したように椅子に体重を預けて大きく息をついた。
「はぁあっ……よかった。これで終──」
しかし、千冬と翼は違った。
「いや──」
「まだ終わってない!!」
翼が声を荒げ、全員が彼に視線を向けた瞬間、上半身だけになった侵入者が残った右腕を地面に叩きつけた。
そのまま地面を握り飛ばすと一気にスラスターを吹かせて近くにいた一夏の横を通り抜けて一直線に翼へと飛ぶ。
「こいつ!」
翼は華片で切り落とそうと振り下ろした。
その一撃はたしかに侵入者に命中したがその勢いを殺すことはできず、ユニコーンは侵入者に押されて大きく押し出される。
(なんだ? ユニコーンが押されてる?
こんな出力、普通のISコアで出せるはずが!)
侵入者に押されたユニコーンはアリーナのピットに展開されていたシャッターを突き破って最奥の壁に叩きつけられた。
(いや、こいつ……まさか!?)
翼は即座に侵入者の機体情報の収集を始める。
表示された様々な情報はそのすべてが彼の最悪な予測を肯定するものだった。
目の前の侵入者はISコアを自壊させようとしている。
通常では難しい量のエネルギーを無理やり生成し続けることでコア中枢に高負荷を掛けている。
ISコアはたしかに無限に近いエネルギーを生成できるが、それを構成しているものは地球上に存在する物質だ。
当然高い負荷がかかり続ければそれに耐えきれずにコアは崩壊する。
「つ、翼!?」
得られた情報から歯を食いしばっていた翼に声をかけたのは簪だった。
打鉄を纏った彼女は驚愕と動揺をその顔に浮かべてユニコーンと侵入者を見ている。
彼女の後ろには怯えた様子の女子生徒が5人いた。
作業着を着ているあたりからISの整備のためにいた生徒たちであろうことはすぐにわかった。
「なっ、なん、で……」
「ぴ、ピットの扉が開かないの! アリーナの警戒レベルが上がってて、に、逃げられなくて!」
よく見ればピットの扉には複数の弾痕や切り傷がある。
おそらく打鉄の武装で扉を破壊しようとしたのだろうが、威力が足りずに失敗。結果今もここに残っていたのだ。
(まずい……ダメだ。
ISコアの自爆なんてピットどころか周囲3キロは余裕で吹っ飛ぶんだぞ?
普通の人が生き残れるわけが……!)
「くっ! 全員、打鉄の後ろに! 簪は防御姿勢!」
簪の答えと生徒たちが動くのを見た翼は左手にビームマグナムを展開、ピットの扉に向けて放った。
独特の発砲音を響かせて扉を吹き飛ばしてゆっくりとユニコーンのブースターの出力を上げていく。
「みんな、早く逃げろ! できるだけ遠くに!」
言いながら翼はユニコーンのブースターを全開で噴かした。
じわじわとユニコーンが押していきこのままであれば侵入者を押し出すことができるだろう。
だが、そこで翼の視界左端に警告ウィンドウが表示される。
それと同時にA.E.Bが放っていた赤い光が消えた。
(時間、切れ……!?)
表示されたウィンドウ。それはシンクロシステムの稼動限界によってシステムを強制終了させたことを告げるものだった。
(通常形態じゃ押し返せないし、武器を出しても使う余裕なんてない)
簪たちはどうにかピットから出ることができたが人の足でISコアの自爆から逃れることはできない。
一夏たちは今向かっているだろうがおそらくギリギリで間に合わない。
ユニコーンもシンクロシステムの再起動はできないためこれ以上出力を出すことはできない。
「もっと力を出せユニコーン。
じゃないと、じゃないと人が死ぬんだぞ!」
ユニコーンはなにも言わない。
「お前、ISコアを2つも持ってるんだろ! 他のISにはできないこともできるんだろ!
なんで……なんでこんなやつから人を守れないんだよ!」
ユニコーンは答えない。
「力を、力を寄越せ! ユニコーン!!」
瞬間、翼の五感が消えた。
気が付けば白い空間にいた。
微妙な色合いの違いはあるかもしれないが翼の視界はそれを捉えることできない。
「なんだ……? なんだ、ここ」
白い空間のそこに翼は居たくなかった。
異常なほどの不安感と焦燥感を覚えて彼は辺りを見回すがどこを見ても白い空間が広がっているだけでなにもない。
「……?」
いや、なにかは居た。
白い空間で人の輪郭だけが黒い靄になっているそれを見つけるのは簡単だった。
(なんだ……この、寒気は……)
それはゆっくりと翼へと向かって歩き出す。
顔はないがなんとなく笑っているように翼には見えた。
「ッ! 来るな!」
翼が後退ったところで耳がそれを捉える。
──あははははは
「あはははははは」
『あはははははは』
声質はバラバラだったが女性の笑い声が聞こえる。
前から、後ろから、左右から上下から絶え間なくずっと女性の笑いが響いていた。
生物の本能からくる恐怖。
火や刃を見て反射的に構えるような警戒心、自分の体よりも大きいものへの対しての恐怖や畏怖。
冷や汗が止まらない。心臓が早鐘を打ち、全身に鳥肌が立つ。
「な、なん──」
「ああ、私の──」
笑い声が急に止まったかと思うとそんな声が真後ろから聞こえ、それに抱きしめられた。
「私の、愛しい──」
瞬間、翼の意識はモニターの電源を切るかのようにブツンッと途切れた。