IS/UC -インフィニット・ストラトス/ユニコーン- 作:諸葛ナイト
グラウンドで行われる2クラス合同での授業。
人数がいつもの倍であり見慣れない顔があるということで普通なら浮き足立つものだが、授業の主教師が千冬ということでピリついた雰囲気が流れている。
「では、本日から格闘及び射撃を含む実戦訓練を開始する」
「「「はい!!」」」
そのことを示すかのようにいつもよりも数段気合いが入った返事がグラウンドに響いた。
「今日はまず戦闘を実演を行う。岸原!」
「ッ、はい!」
呼ばれた翼は整列した生徒たちの列から離れて千冬の方に歩き出した。
そうして彼が3メートルほどの距離を開けて立ったのを見た千冬は頷いて全員に聞こえるように声を張る。
「これより、岸原 翼と教員による模擬戦を行う。
お前たちが目指す姿はこれだと思え、いいな!」
「「「はい!!」」」
生徒たちは返事をしたかが脳裏には疑問が浮かぶ。
教員と模擬戦とは言うがその教員とは誰なのか、と。
その疑問が誰かの口から出るよりも先にその音が響いてきた。
それは甲高い「キィィイイイン」という空気を切り裂く音だ。
「ん? なにこの音」
誰かが呟いたのを皮切りににわかにざわつき始める。
(この音、ISの飛行音? 欧州系列か?)
翼が音の正体になんとなくの当たりを付けたところでそれが自身の方に近付いて来ていることに気が付いた。
「ああああーっ!ど、どいてください~っ!」
飛行音に続いて叫び声が向かってきていた。
より詳しく言うのなら翼へと向かってきている。
それに翼が気がついたのと同時、方向に頭を向けたのとユニコーンを展開してそれを受け止めるために手を伸ばした。
瞬間、ユニコーンと飛んできたそれがぶつかり合う激しい音が衝撃波と共に辺りに広がる。
ユニコーンは足裏からクローを展開して地面を掴み、リアスカートから伸びるアームドアーマーDEの下部にあるスラスターが吹かしていたため突き飛ばされることはなかった。
完全に動きが止まったことで安堵のため息を翼は吐く。
「ふうっ、びっくりした……大丈夫で、山田先生!?」
翼が受け止めたのはラファールを纏った真耶だった。
予想していなかった人物を見て目を丸くした彼に対して真耶はどこか複雑な表情を浮かべている。
「す、すみません。ありがとう、ございます……」
「い、いえ……」
「で、ですが、あのう、岸原くん……そ、その、ですね」
妙に歯切りが悪い真耶を見て首を傾げた翼だったが彼女が視線を向ける先を見て理解した。
彼の手は真耶の大きな胸の上にあった。
いくらISの装甲が間にあるとはいえ、ISの触覚センサーは有能であるためその柔らかな感触は良く感じられる。
「す、すみません!」
翼は謝ると後ろに跳び下がった。
その直後、レーザーが彼がいた場所を通り過ぎて地面を焼き焦がす。それが飛んできた方向を見るとライフルを構えたセシリアの姿がある。
「見損ないましたわ。翼さん……」
「待て! 待ってくれ! 今のはどう見ても不可抗力だったぞ!!」
「ええ、そうかもね。でも、あんたちょっと喜んだでしょ」
「ッ、い、言いがかりだ!」
「え? そうなのか?
翼……お前、結構むっつりなんだな」
一夏がやれやれと首を横に振ったのを見て女子たちがざわざわとないことを話し始めた。
このままだと自分の評判だけが悪くなると判断した翼の口は早い。
「お前が言うな!
検索履歴ほとんど歳上もの──」
「鈴! やれ!!」
「当然!」
翼が言い切るよりも先に一夏が声を上げて鈴音は
そのまま彼女の手が下ろされて投げられる直前、真耶が空に向けて撃った銃声が響いた。
「そこまでです!
凰さん、オルコットさん、緊急事態だった岸原君はともかくとして、お2人のIS展開は許可されてませんよ!」
「「うっ、はい……」」
セシリアと鈴音は渋々と、しかし反省の色を浮かべながらそれぞれのISを解除した。
他の女子生徒たちも視線で会話を続けているがとりあえず口を閉じて次の指示を待つ。
その様子を見て頭を抱えた千冬はため息をついて翼と真耶を見る。
「では改めて、準備はいいな」
翼は雷電と
「はい、いつでも」
翼が装備を展開している間に実弾カートリッジをライフルにセットした真耶も答える。
「はい。私も完了しました」
「よし、では……始め!」
千冬が模擬戦の開始を告げた瞬間、2機のISは急上昇した。
2人の考えは全く同じだ。
(この勝負は──)
(──有利なポジションを取った方が)
そこで2機はほぼ同時に急停止、互いに銃口を突きつける。
((……勝つ))
引き金を引くのもほぼ同時、それから始まったのはほぼ同じ距離を付けた銃撃戦だった。
近接戦闘ほどの激しさはない。派手なものでもない。
しかしそれでも生徒たちは全員その戦闘から目を離すことができなかった。
今目の前で行われているのはISの戦闘のはずなのに位置を取り合い、相手が有利ポジションに着こうとすればそれを邪魔して代わりに自分が狙う。
秒単位で行われるその戦闘はまるでボードゲームの対戦を見ているような錯覚を覚える。
「……すごい」
シャルルがポツリと呟き、最初こそ甘く見ていたラウラもその表情を真剣なものに変えていた。
真耶が使うIS、ラファール・リヴァイヴはデュノア社製の第2世代型ISだ。
開発自体は最後期だがその分性能は他の第2世代型ISよりもかなり良く初期第3世代型にも劣らないほどである。
それに加えて高い安定性、整備性も備えているため操縦者としてはもちろん整備士としての訓練機として多国で使用されている傑作機だ。
しかし、例え傑作機とはいえ所詮は2世代型ISであり、3.5世代に分類されるユニコーンと普通は互角に戦えるものではない。
この状況はひとえに山田 真耶の実力で生まれている。
真耶は足を狙って放たれたビームを側転することで回避しつつ反撃の狙撃。
それはユニコーンに当たることはなかったが、それでも彼の追撃を制限することはできた。
(……今は撃ち合えてる。
でも距離を詰められると私じゃ対処できない、ですね)
翼の動きには他の生徒たちには見られない癖がある。
それは足、いや四肢の動かし方だ。
普通の操縦者と比べて彼はISの四肢をきちんと四肢として使っている。
武器を掴むための腕ではなく、地面を歩くための足ではなくAMBACシステムとして使っているのだ。
本来ならば推進剤の消費を抑えるためだけのものだが、ことISに置いてはそれが行動と行動のわずかな隙を埋めるものになる。
防御や回避、攻撃の間にあるはずの隙を彼は四肢を使うことによってシームレスに繋いでいる。
どれほどのIS操縦者であれ、あの千冬ですら生まれるその隙が彼においてはない。
近接戦闘においてそのアドバンテージはあまりにも大きする。
(近付かれたら、負ける)
真弥は口をキュッと締めて距離を詰めさせないように正確な射撃を続けた。
対して翼も攻めあぐねていた。
(攻めきれない。俺の行動が全部読まれてる……?)
翼が着こうとした位置を正確に撃ち抜き牽制を続けながら自身の攻撃を確実に、そして堅実に繰り出す真耶の操縦センスと判断力は経験した戦闘を糧として身に付けたものだろう。
文字通り経験した時間が違うのだ。
(にしては動きに違和感がある)
自身よりも遥かに経験を積んだ者にしては積極的な行動にほとんど出ていない。
牽制を主として攻撃に関してはそのついでにしているように翼は思った。
(行動を読めているのならもっと前に出てもいいはず……この撃ち合いで決定打を与えられないのは先生もわかってるはずだ。
それなのに攻めてこない、ということは──)
真耶はまだ翼の行動を読みきれていない。
翼の行動が読まれているのではない。真耶が読める範囲の行動に制限させられているのだ。
あまりにも自然な行動の抑制。それを悟られないように適度に自由に泳がせるタイミングの判断。麻耶の実力がこのIS学園においてトップ層にあることは間違いない。
だがそこに勝機はある。
(──先生の常識外の動きをすればいい!)
雷電と棘風を投げ捨てたユニコーンは両腰からビームブーメランを装備した。
それを見上げていたクラスメイトたちからどよめきが上がる。
「動いたわね」
「ええ、あの距離では互いに決定打がありませんでしたから」
鈴音とセシリアはある確信を持って翼たちの戦闘を見ていた。
そんな彼女たちを横目で見ていた一夏に対して千冬が問いかける。
「そろそろだな。織斑、この戦闘どちらが勝つ」
「え!?」
「そうだな……当たったら課題を1つ減らしてやろう」
突然振られた質問とその報酬を聞いて半分程度の生徒たちは顔を、残りは耳だけを一夏に向けた。
突然振られた質問に彼は驚愕の声を上げてバッと千冬を見たが、彼女は変わらず空を見上げたまま返されるだろう答えを待っている。
それに習うように一夏も空を見上げて返した。
「……翼です」
信じているから、という気持ちも多少はあったが流れは翼が取った。
ならばここから勝てるものはまずいない。一夏はそう予測し、そしてそれは的中する。
翼は両手に持ったビームブーメランを迷わずに投擲。それらは真耶を挟み撃ちするように飛んだ。
(動いた!)
真耶は右から迫るものを撃ち落とし、左から迫るものに対しては回避を選んだ。
撃ち落とされたブーメランと入れ替わるように翼は真耶へと直進。
当然、それを迎撃するようにライフルを続けて3発打つ。
対して翼はアームドアーマーDEのスラスターを前方に向けて急制動をかけながら両脇から取り出したビームサーベルを投げ飛ばした。
ビームブーメランよりもはるかに読みやすいその攻撃をかわさない真耶ではない。
そう、動きを止めるのはまずいと判断し、回避を選んだ。
選んで行動したその時に気がついた。
(……ッ、しまった!)
真耶を通り過ぎたビームブーメランとビームサーベルの刃が干渉、本来ならばユニコーンに戻るはずだったブーメランが再び彼女を目指して飛び始めた。
そしてその正面には両腕からビームサーベルを取り出した翼が迫っている。
今から両方に対処することは不可能だ。
片方はどうとでもできるが残った方に対しては何もできない。
この勝負の流れを翼に取られた。
(岸原君の動きに囚われ過ぎた)
それでも真耶が対処する方として選んだのは翼だった。
ビームブーメランによって左脚の背部を切られてバランスを崩したが、左腕にブレードを展開できたおかげで翼には対応できる。
翼が右腕で振り下ろしたビームサーベルを真耶はブレードで受け止めた。
鍔迫り合いになったがそれも一瞬のこと。出力の差はユニコーンの方が高いため、真耶は後ろに弾き飛ばされた。
その勢いのまま後ろに下がろうとしたが翼がそれを許すことはない。
即座に距離を詰めた翼が左腕のサーベルを横に振り切った。
攻撃に反応できはしたが真耶の動きに機体が追いつけずに右腕に持っていたライフルが切り裂かれ爆散。その煙の中を突っ切ったユニコーンが右のサーベルを突き出す。
真耶の頭の真横を通り過ぎ、反撃として彼女はブレードを振ったが逆手に持たれたビームサーベルに弾き飛ばされた。
大きく仰け反った真耶へと翼は連撃を叩き込む。
右から左へ、左から右へと切り払い。斜めに振り下ろし、切り上げる。
隙を見て真耶は距離を取ろうとするが、最初に彼女自身が予測したように翼が作る動きの波に飲み込まれて抜け出せない。
苦し紛れに不慣れな蹴りを繰り出したがそれはユニコーンの脛にあるチェーンブレードが回転、ラファール・リヴァイヴの装甲を削りながら蹴飛ばされる。
しかし距離はできた。
続けて行動の間隙を作るためにシールドを向けたがそのシールドはユニコーンの足裏にあるクローに捕まれ無理やり下ろされた。
「くっ!」
「ッ! 決めます!」
真耶は歯噛みし、謝罪の意も込めた言葉を吐いた翼は彼女の腹に脛、すなわちチェーンブレードの刃を当てた。
そのままアームドアーマーDEのスラスターを全力で吹かせてグラウンドへと急下降しながらブレードを回転させる。
ガリガリと不快な音を立てながらラファール・リヴァイヴのエネルギー削り切ったのと同時、2機のISが落ちた地面から土煙が上がった。
その土煙が足首程度の大きさになり、地面に倒れる真耶に翼が手を差し伸べるまでクラスメイトたちからどよめきすら上がることはなかった。
全員がこの授業の前に千冬が言った言葉を思い出していたのだ。
『お前たちが目指す姿はこれだと思え、いいな!』
レベルが違う。
壁が高いなどという話ではない。
世界が違う。
普段気楽に接している者たちの異常な一面を彼女たちはようやく知ったのだ。
しかし、彼女たちが覚えたのは恐怖ではなかった。畏怖でもなかった。
(((す、すごい……)))
純粋な尊敬だった。
たしかに異常な光景だったがレベルが違う、世界が違う。そんな“些細なこと”で恐怖するものなどこのIS学園にはいないのだ。