IS/UC -インフィニット・ストラトス/ユニコーン-   作:諸葛ナイト

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転入生への所感

 翼と真耶の模擬戦闘が終了し、千冬が振り分けによって各専用機持ち6人が班のリーダーとなったグループ分けがされた。

 翼が借りて来た演習機は打鉄だ。

 

「さて、と……午前中はとにかくISを動かすこと、歩くことを意識しよう。

 どういう順番でいく?」

 

「あ、じゃあ私先にやりたい!」

 

「わかった。じゃ、木原さんから出席番号順に行くか」

 

「「「はーい!」」」

 

 翼の言葉に班員たちは元気に声を上げる。

 木原は少し緊張した面持ちで打鉄に背中を向けて座るように腰を下ろした。

 人が乗ったことを認識した打鉄は腰のフレームで彼女を固定すると四肢のアーマーを取り付け、アンロックユニットを浮かべる。

 

「よし、エラーは出てないか?」

 

「う、うん。大丈夫」

 

「なら歩いてみよう」

 

 木原は返事をして打鉄を歩かせる。

 そのまま翼はその様子を見ていたが、明らかに歩行バランスが悪い。松葉杖を外したばかりの人の歩き方のように少し不安になるような足取りだ。

 

「木原さん、もっと足を上げた方がいい。

 ISは元々歩くことは前提にしてないからいつもより足を上げないとしっかり上がらないし、足裏を地面につけられない」

 

「はい!」

 

 翼の助言を意識し始めた木原の動きは先ほどよりよくはなったがスムーズな動きと言うには少し心許ない。

 彼女の動きを真剣な眼差しで見ていた翼はユニコーンを展開させると木原の真横に立つと肩を貸すようにしてその前に腕を差し出す。

 

「もっとISに体を預けていい、大丈夫、こけても怪我をすることはないから。不安ならユニコーンの腕を掴んでいい。

 動かしているのは自分だけど、立っているのはISの足なのを意識して……うん、そう……地面を掴むイメージで」

 

 顔はユニコーンの頭部装甲によって見えないがいつもよりも数段優しい声に少しドギマギしつつも木原は足を動かし打鉄を歩かせる。

 それからほんの数分で木原はISの歩行は完璧にできるようになっていた。

 

 ひとまず支えなしでも十分に歩けるようになったことを確認した翼は頷いた。

 

「ここまでできれば上出来だ。木原さんはすごいな」

 

「そ、そう……かな? ありがと」

 

「うん、よし、交代しよう。次の人が乗りやすいように腰を下ろして。

 次は……波根(はね)さん」

 

「は、はい!」

 

「同じように歩いてみよう。木原さんに言ってた内容覚えてるか?」

 

「う、うん。でもまた教えてくれると嬉しいかも……」

 

「ああ、わかった。なら始めよう」

 

 波根と入れ替わるように木原は打鉄から降りると順番を待っている班員たちと合流した。

 瞬間、木原は大きく息を吐いた。

 彼女は昂る気持ちをどうにか抑え込むと班員たちの顔を見回して切り出す。

 

「みんな、気をたしかに持ってた方がいいよ」

 

「……どういうこと?」

 

「あの距離で、あんな優しく声かけられたら……やばい」

 

「「「やばい……」」」

 

「うん。ユニコーンが全身装甲で岸原君の顔が見えなかったから正気を保ててたけど、もし見えてたら……」

 

「「「見えてたら……?」」」

 

「……死んでたかもしれない」

 

「「「ッッ!!?」」」

 

 待機組がそんな会話などしているとはつゆ知らず、翼は視線をラウラの班に向けた。

 実習らしく黙々と行っているようには見えるが、他の班のように真剣でありながらも和気藹々とした雰囲気はまるでない。

 例えるのならば初めて実銃を触る訓練兵のようだ。

 

 それから視線を外してウィンドウを表示して授業が始まる直前に情報収集を頼んでいた咲夜から返されたメールの内容を読む。

 

(ラウラ・ボーデヴィッヒ。代表候補生でありながら軍人、しかも階級は少佐で部隊も持っている。随分と早い昇進だな)

 

 少なくとも現状、世界は平和であり“目立った”内戦や内紛はない。

 いくら女性であり代表候補生とはいえ簡単に階級を上げられるような機会はないはずであり、そもそも佐官に上がるまでの期間があまりにも短すぎる。

 であるにも関わらず彼女は部隊と階級が与えられている。

 

(特殊部隊……なにかの実験部隊か、でもなんの?

 これだけの権限を与えるほどの理由、か……)

 

 咲夜から送られたメールの内容には翼が求める答えは記されておらず、今後も情報収集を続けると記載されていた。

 

(少なくとも表立った経歴があまりにも作られ過ぎているな。彼女“も”警戒対象だ)

 

 波根が打鉄から降り、三嶋が乗り込んで打鉄を立ち上がらせる姿を見つつ今度はシャルルを一瞥、咲夜から送られていた別のメールを開く。

 

(シャルルに関しては……養子、か。まぁ男性のIS操縦者を自分のところで抱えたい、というのは企業なら当然の判断だな)

 

 その他に情報として目立ったものはない。

 ラウラほどに作られた経歴、という雰囲気は感じられないが所々に嘘があるように見える、という印象だった。

 

 強いて上げるのならば最後に添えられていた咲夜の個人的な意見だった。

 

(アベールとロゼンダの間に子がいないのはたしかだが、それ以外の可能性はある、か……)

 

 つまりシャルル・デュノアは養子ではなく、愛人との子であるということだ。

 

(1企業の代表が隠すのには十分な理由だな)

 

 翼はメールを閉じてシャルルを視界に収めた。

 ラウラは敵意を隠すつもりがさらさらないようであるため警戒はしやすい。いや、それどころか自ら接触してくる可能性がないことを考えればしなくてもいいと言うところまである。

 

 しかし、シャルルは逆だ。

 同じ男性である、と言うだけでIS学園では警戒心が緩んでしまう。

 現状翼や一夏に対してなんらかの行動を起こしやすいのは間違いなく彼であり、もっとも警戒しなければならない存在だ。

 

 転入生2人への対応を決めた翼は思考を置くと実習へと全ての意識を向けた。

 

◇◇◇

 

 その日の昼休み、翼たちは屋上にいた。

 西洋風の石畳、季節の花々が咲き誇る花壇、そして等間隔に置かれた円テーブルとイスと昼休みぐらいしかまともに使われない場所にしては手の凝った整備がされている。

 

 翼がわざとらしく教室で呟いた「学園の案内ついでに学食で食べる」という情報を信じた女子生徒たちは学食の方へ行ったようで屋上に人はいない。

 そう長くは持たないかもしれないが、少なくとも食事を取る時間は確保できた。

 

 それぞれが弁当を広げる中で一夏が空を見上げて呟く。

 

「いや〜、にしても今日は本当に天気がいいな」

 

「ああ、そうだな。シャルルはどうだ? 学園には慣れそうか?」

 

「う、うん。慣れるのには時間がかかるだろうけど、翼たちがいるからたぶん大丈夫だよ」

 

「それはよかった。学校はもちろんだけど国も違うからな。鈴ぐらい強気じゃないと雰囲気に飲み込まれそうでちょっと心配してたんだ」

 

 にこやかに言った翼の言葉をシャルルはありがたく受け取ったが、引き合いに出された鈴音はこめかみをピクリと動かした。

 

「へぇ〜、まるで私の我が強いみたいな言い方するじゃない」

 

「実際そうだろ」

 

 翼が言おうとして飲み込んだ言葉をさも当然のように口にした一夏の頭めがけて鈴音はタッパーを投げつける。

 それの直撃を頭に受けた一夏が「ぐえっ!?」という情けない声を漏らすなか、反射したタッパーは翼の膝の上に落ちた。

 

 それを掴み上げてタッパーを開けた翼は目を開く。

 

「おお、酢豚だ!」

 

「そ、あんた、前に食べてみたいって言ってたじゃない?

 作ってきたからありがたく食べなさい。一夏も、幼馴染だし食べていいわよ」

 

「翼、鈴の酢豚はマジで美味いから期待していいぞ」

 

「へぇ、それは楽しみだな」

 

 翼がそんな感想を口にしたところでそれに続くようにセシリアがバスケットを開いてその中を彼に見せながら言う。

 

「あ、あの! 翼さん、わたくしも今朝は早く目覚めまして、サンドイッチを用意してみましたの。

 よろしければおひとつどうぞ」

 

「あ、ああ……ありがとう」

 

 写真のように綺麗な彩のサンドイッチを見た翼の表情は笑ってはいるがどこか固い。

 それに気がついたセシリアは首を傾げた。

 

「どうかしまして?」

 

「い、いや、なんでもない! ……うん、なんでもないんだ」

 

 翼の表情が芳しくない理由はたった1つ。

 セシリアの作る料理は見た目こそ写真のように美しく食欲もそそるものだが、なぜか味が悪い。

 ここまで味が酷いのに見た目がどれも良いのはなにか秘訣があると思っている翼だが、それを直接セシリアに聞くということは彼女に「料理が不味い」と伝えることにもあるため聞けないでいる。

 

 そんな翼の横、一夏は箒から弁当を受け取って広げて感嘆の声を上げていた。

 

「すごいな! どれも手が込んでそうだ」

 

「つ、ついでだ。あくまで私が自分のために作ったというだけだ」

 

「そうだとしても嬉しいぜ。ありがとう、箒」

 

「……ッ! そ、そうか、うむ」

 

 方やどこかこそばゆいながらも仲睦まじい2人と方や2匹の獣に追い詰められている1人を交互に見たシャルルは1人心の中で呟く。

 

(僕は……この人たちを、みんなを……)

 

 彼はただ静かに人知れず唇を噛んでいた。

 

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