IS/UC -インフィニット・ストラトス/ユニコーン- 作:諸葛ナイト
2時間目の休み時間、翼はさっそく一夏に勉強を教えていた。
しっかりと教え込む時間はないがそれでも授業で触るだろう範囲に対しての前提知識程度なら教えられる。
詰められるうちに詰めておこうとする翼、教えて貰うということもあるが自分に知識がないと自覚している一夏の2人が共に苦心していたそんな時だった。
「ちょっと、よろしくて?」
「ん?」
翼達に声をかけた少女は日本人にはまずない鮮やかな金髪を持っていた。
IS学園は国籍問わず国や企業、研究機関からの推薦があればほぼ無条件に入学が可能であるため、外国人というのは珍しくはない。
現に翼たちのクラスの半数は外国人だ。
しかし、それにしても白人特有の透き通った白い肌、絵画でも見ているような美しい気品のある顔立ちはクラスの中でも良い意味で一際に目立つ。
そんな顔立ちのブルーの瞳は少しつり上がっており、座っている2人を見下ろしていた。
わずかにロールがかっている髪が高貴なオーラを出しており、雰囲気もいかにも『今の女子』という印象を翼は受けた。
現在、ISのせいで女性はかなり優遇。いや、もはや行き過ぎて女=偉いという構図ができている。
そうなってくると男の立場は奴隷や労働力。そのため今ではすれ違っただけで女のパシリにされる男、というのも珍しくはない。
つまりそういう女子が翼達の前にいた。
腰に手を当てているその姿は妙に様になっている。
「訊いています? お返事は?」
「ああ、訊いているけど、なにか用か? 今ちょっと忙しいから後にしてもらえるとありがたいんだけど」
嫌な予感と焦燥感を覚えた翼はこの会話を早々に切り上げようと答えたのだが、少女は軽くあしらっていると感じたようでわざとらしく声をあげた。
「まぁ!? なんですの、そのお返事。わたくしに話しかけられるだけでも栄光なのですから、それ相応の態度というものがあるんではないかしら?」
改めて翼はその少女の顔を見つめた。
その上で少し思考し、口を開いた。
「では、改めて、セシリア・オルコット嬢。
私たちは今少々忙しく、そのためイギリス代表候補生であるあなたに対して誠意を持った態度での対応が難しい。
後ほど私の方から赴きますのでそれまで時間をいただきたい」
相手の態度に多少の不快感こそあれどそれでも可能な限り翼は誠意を持って言葉と愛想笑いを向けた。
その対応はセシリアは少し予想していなかったのか、どこか前のめりだった彼女は瞬きをして慌てて答える。
しかし、その直前、一夏が手を挙げた。
「あっ、質問いいか?」
「ふん。下々の者の要求に応えるのも貴族の務め。よろしくてよ」
「代表候補生って、何?」
聞き耳を立てていたクラスの女子が数名ずっこけ、一夏の隣にいる翼は落ち着きかけた話が終わらなくなったことを確信して頭を抱えてセシリアはピクピクと震える。
「あ、あ、あ……」
「あ?」
「あなたっ、本気でおっしゃってますの!?」
セシリアのその剣幕は相当なものであり、翼自身も彼女の態度を当然と思った。
だが、しかし一夏はそれにかなりあっさりと答える。
「おう、知らん」
あまりにも胸を張ったその答え、そのような態度を取られたセシリアは怒りが一周して冷静になったらしくこめかみに人差し指で押さえながらブツブツと呟き始めた。
その代わりに翼が頭を抱えたまま深いため息を挟んで説明する。
「あ、あのなぁ、代表候補生ってのは国家代表IS操縦者の、その候補生の事だぞ。IS操縦に関しての超エリートな奴らしかなれないものだ。
っていうか社会常識じゃないのか、これ……」
「いや、そんなこと俺には関係ないことだって思ってたからさ」
飄々と言ってのける一夏に呆れたセシリアは嘲りが含まれた笑みを浮かべた。
「その程度の知識でよくこの学園に入れましたわね。
男性IS操縦者と聞いていましたから、少しくらい知的さを感じさせられるかと思っていましたけど、期待はずれですわね。
ですが……」
セシリアはそこで言葉を切ると視線を翼の方へと向けて続ける。
「あなたは見込みがありますわね。さすがはISコア開発者の子息。
あなたでしたら泣いて頼まれたらISの操縦に関して教えて差し上げてもよくってよ」
「それはありがたい申し出だが、教えるなら俺より一夏の方を頼めるか?
俺は入試で教官に勝ててある程度の力があるってわかってるからさ」
「は……?」
翼の言葉に面食らったセシリアは情けない声が口から漏れた。
「きょ、教官を倒したのはわたくしだけと聞きましたが?」
「たぶん女子ではってオチじゃないのか? 俺も倒したぞ、教官」
一夏の言葉に今度こそ言葉をなくしたセシリア。
ちょうどそのタイミングで3時間目開始のチャイムが教室に鳴り響いた。
「っ!? またあとで来ますわ! 逃げないことね! よくって!?」
それにより勢いを完全に削がれたセシリアは言い捨てると自分の席に戻って行った。
◇◇◇
「それではこの時間は実践で使用する各種装備の特性について説明する」
3時間目の授業は1、2時間目とは違い千冬が教壇に立っていた。よほど大事なことなのか窓際に立つ真耶もノートを手にして耳を傾けている。
「ああ、その前に再来週行われるクラス対抗戦に出る代表者を決めないといけないな」
ふと思い出したように千冬は言う。
「クラス代表者とはそのままの意味だ。
対抗戦だけでなく、生徒会の開く会議や委員会への出席、まぁクラス長だな。ちなみにクラス対抗戦は、入学時点での各クラスの実力推移を測るものだ。
今の時点でたいした差はないが、競争は向上心を生む。一度決まると1年間は変更はないからそのつもりで」
一通りの説明を終えた千冬はクラスを見回し始めた。
その目前の翼はどうするか考え込むようにしていたが、答えは早く出た。
(ふむ、パスだな。こういうのは時間を取られるって相場が決まってるし、なによりただでさえ注目を集めるのにこういうのはやりたくない)
「はいっ。織斑くんを推薦します!」
翼が結論を出すのと同時、女子が1人手を挙げながら言った。
そして、それに同意するような声が続く。
(推薦されてるし、一夏に押し付けてしまうのも手か……)
どこか他人事のように思っていたが、半ば面白半分で一夏が推薦されたということはつまりそれは──
「私は岸原くんを推薦します!」
──翼も推薦されるのも当然の流れである。
「「お、俺!?」」
状況を飲み込んだ翼と一夏は同時に言い、立ち上がった。
「織斑、岸原。揃って立つな。席に着け、邪魔だ。
さて、他にはいないのか? いないなら、この2人のどっちかに決まるぞ」
決定を下そうとする千冬に一夏は拒否の言葉を飛ばす。
「ちょっと待った! 俺はそんなのやらな──」
「自薦他薦は問わないと言った。他薦されたものに拒否権などない。選ばれた以上は覚悟をしろ」
しかし、千冬のその言葉と眼力により封じられた。
「ぐっ」
「い、いやでも……」
一瞬たじろいだ一夏の代わりに反論をしようする翼を今度は甲高い声が遮る。
「待ってください! 納得がいきませんわ!」
そう言いながらバンッと机を叩いて立ち上がったのは、あのセシリアだ。
「そのような選出は認められません!
大体、男がクラス代表者だなんていい恥さらしですわ!
わたくしに、このセシリア・オルコットにそのような屈辱を一年間味わえとおっしゃるのですか!?」
(そうだ、もっと言ってや……んん?)
セシリアの言葉に翼と一夏は同意するようにうんうんと頷いたが言葉の妙なニュアンスに気がつき首をかしげる。
「実力から行けばわたくしがクラス代表になるのは必然。それを、物珍しいからという理由で極東の雄猿にされては困ります!
わたくしはこのような島国までISの技術の修練に来たのいるのであって、サーカスをする気は毛頭ございませんわ!」
先ほどの休み時間の鬱憤もあってかセシリアの勢いは止まることを知らず、さらに言葉が出る。
「大体、文化として後進的な国で暮らさなくてはいけないこと自体、わたくしにとっては耐え難い苦痛で……」
「イギリスだってそんなお国自慢ないんじゃないか?」
言い返したのは翼だった。
物珍しい物を見る目を向けられることは我慢できる。変な噂話が流れるのも我慢できる。それはどちらも経験してきたことだからだ。
しかし、それでも直接言われてしまえば言い返したくもなる。
セシリアと一夏、どちらも驚愕の表情を表にしていたが、挑発された本人であるセシリアがすぐさま返す。
「あっ、あっ、あなたねぇ! わたくしの祖国を侮辱しますの!?」
「先にしたのはそっちだ。自分がされたくないことはするなって教わらないのか君の国は。
同じ島国なのに随分な差があるな」
このままでは口論はどんどん激しくなる。
そう誰もが予想したがそれはセシリアの机を叩く音と続く言葉によりその予想は外れた。
「っ!! 決闘ですわ!
そこまで言ったのです。当然、やりますわよね?」
「ああ、わかった。
ここで言い争うよりはずっと早い」
「言っておきますけど、わざと負けたりしたらわたくしの小間使い、いえ、奴隷にしますわよ」
そのどこか余裕を感じる顔に翼は苛立ちを募らせるが、顔を背けることでそれを抑え込む。
「侮るな。真剣勝負で手を抜くほど腐ってない」
「そう? 何にせよちょうどいいですわ。イギリス代表候補生のこのわたくし、セシリア・オルコットの実力を示すまたとない機会ですわね!」
翼はあることを思いつきセシリアに聞いた。
「それでハンデはどれぐらいだ?」
「あら、早速お願いかしら?」
「俺がどれぐらいハンデをつければいいかって聞いてるんだ」
翼が言うと同時にクラスからドッと爆笑が巻き起こった。
「き、岸原くん、それ本気で言っての?」
「男が女より強かったのって、大昔の話だよ」
「岸原くんは、それは確かにISを使えるかもしれないけど、それは言い過ぎよ」
全員本気で笑っている。
それもそうだろう、現在、男性はかなり弱い。腕力は全く役に立たない。
ISは確かに限られた一部の人間しか扱えないが、女子は潜在的に全員が扱える。それに対し、男は原則ISを動かせない。
もし男女で戦争が起こったら1日もたないだろう。
しかし、彼女たちはある部分を見落としていた──
「そうだな、制限時間は10分。これが過ぎたら負けでいい」
「なっ、あなたはどこまでわたくしを馬鹿にしますの」
「先に馬鹿にしたのは君の方だ。俺は売られた喧嘩を買っただけだ」
──岸原翼はISコア開発者の息子であり、そんな2人から約8ヶ月間ISの操縦訓練を受け、最新鋭のISを専用機にしている、ということを。
「さて、話はまとまったな。それでは勝負は一週間後の月曜。放課後、第三アリーナで行う。織斑、岸原、オルコットはそれぞれ用意をしておくように。それでは授業を始める」
ぱんっと手を打って千冬が話を断ち切ると立っていた3人は席についた。
教室の雰囲気としては興奮と好奇心がひしめき合っており、授業としてはかろうじて成りたっている程度のものとなってしまった。