IS/UC -インフィニット・ストラトス/ユニコーン-   作:諸葛ナイト

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頼れる者たち

 翌日の夜、セシリアたちの訓練を終えて食堂に入った一夏は目に付いたカツ丼とミニうどんのセットを頼んで席を探していた。

 そこで見慣れた親友の姿を見て声を掛けながらその席に向かう。

 

「おーい、翼〜!」

 

 白身フライの定食を食べていた翼が皿から顔を上げて返す。

 

「お、一夏、お前は今からか?」

 

「ああ、にしても珍しいな。俺より早く飯を食ってるなんて」

 

「シャルルに無理しすぎるな、しっかり寝ろって言われてさ……そのことを簪に零したら整備室から叩き出された。

 んで、仕方ないから部屋で作業してたらシャルルの目が痛いからもう飯を食べて寝るしかないと思って……」

 

 翼はどこか不満げだったが一夏は彼に同情の言葉をかけることはない。

 至極当然のことであり、シャルルたちの言葉と行動は正しいと思ったからだ。

 

「なんて言うか……当然すぎる」

 

「え!? ……そう、か。そんな無理してるように見えてたか」

 

「まぁ、心配しすぎだったかもしれないとは思うけどさ。

 一昨日あった山田先生との訓練を見てたらなんかいつもの翼に戻ったなぁって、先生にも勝ってたし」

 

「……あれは手加減されてたんだよ。山田先生は教習機だったし、次戦ったらたぶん負ける」

 

 そう言い切った翼は味噌汁に口を付けながらも思考を回す。

 

(でも、たしかにあの時は体が固まるなんてことはなかった。

 トラウマなんて考える余裕がなかったんだ)

 

 その思考に至ると同時に味噌汁が入った椀をそっと置いた。

 

(いや、なるほど……なんとなく分かったなトラウマを克服する方法)

 

 トラウマを克服する方法は単純なことである場合が多い。

 それは翼もそうだ。

 

(俺は一夏たちを信じているつもりだったけど、あくまでも“だった”なのか……)

 

 自分の力は信用している。そしてそれと同じように友人たちの力も信じている。そのつもりだった。

 

 しかしその実、一夏たちの実力を「この程度のもの」と決めつけていた。

 シンクロシステムの暴走時、一夏たちは戦力にならなかった。

 だからもし何かのきっかけで暴走してしまった時、彼らを殺すことになる。彼らは何もできずに殺される存在だ。

 そう考えているから動きと思考が止まっていた。

 

 相当な実力を持つ真耶に対してはいつものように戦えていたのは彼女ならばもし暴走したとしても抑えることができるという確信を持てたからだ。

 

 翼は重い息を吐くと食事を進めていた一夏に問いかける。

 

「なぁ、俺は背負い込むタイプ、なのか?」

 

「そりゃそうだろ。

 更識さんのIS開発も手伝って、自分の機体の調整もやって、俺のこともいろんな人に声をかけてさ。やりすぎだって思うぞ」

 

「そう、か……俺は割と他人を頼ってるつもりだったんだけど」

 

「うーん。翼はたぶん誰か1人に背中を預ける気分なんだよ。

 お前の側にいるのは俺だけじゃない。箒も、セシリアや鈴、あとはシャルルもみんなお前の側にいるのにな」

 

 そこで言葉を区切った一夏は熱いお茶で喉を潤わせて一息つくと再び口を開いた。

 

「翼みたいなことを1人じゃできない。できるやつの方がずっと少ないしもしかしたらいないかもしれない。

 でも俺たちは1人じゃない。だから、大丈夫だ」

 

「一夏……」

 

「どうだ? これでもまだ不安で頼れないか?」

 

 少し肩をすくめつつ問いかける一夏に翼は「ふっ」と小さな笑みをこぼす。

 

「ああ、不安だな。心配だしなにも考えずに頼る、なんてことはできない。なによりそれを俺はしたくない。

 自分で背負ったものだからな。やり遂げたいんだ」

 

「そうか……」

 

 一夏は残念そうに言うとしょんぼりとした表情を浮かべた。

 それからすぐに言葉を紡ごうとした彼より先に翼の口が開かれる。

 

「でも、とんでもなく頼もしい」

 

「……不安で、心配で、頼れないのに頼もしいのか?」

 

「精神的な話だ。たくさんの人が近くにいるってのはそれだけで力になるものだ」

 

 一夏は翼の言葉を完全に理解することはできなかった。

 なぜなら彼にとってはそれは当たり前であり、自然のことだからだ。

 だからこそ翼に対して臆することなくまっすぐに言葉を伝えることができたのだが、それを一夏が自覚することはない。

 

 少し緩くなったお茶を飲んで一息ついた翼は真剣な面持ちで言葉をかける。

 

「早速なんだが、みんなに少し付き合ってほしいことがある」

 

「付き合ってほしいこと?」

 

「ああ、難しいことじゃない。純粋に意見をもらうと思ってな」

 

 一夏は疑問符を浮かべながらも頷いた。

 

◇◇◇

 

 その日の放課後、第6アリーナピットに翼たちはいた。

 ISスーツを着て準備万端といった様子の一夏たちを見て翼は頷いた。

 

「よし、揃ったな!

 今日の目的は簪の専用機、打鉄弐式の飛行試験と火器管制、わかりやすく言うと武装のプレ試験だ。ついでにユニコーンも少し調整したから合わせて試験をしたい」

 

「つ、翼!! こ、これ、これどういうこと!!?」

 

 声を荒げてチラチラと集まっている一夏たちを見ている簪に対して翼はいつもの調子で答える。

 

「俺の周りは幸運なことに代表候補生が多いからな。どうせならすでに専用機を持っている面々からの意見を貰った方がいいだろ?」

 

「そ、それはそうだけど! で、でもみんなの時間を奪うのは、その……!」

 

「構いませんわ。えっと、更識さん、でしたわね?

 私たちにも理がなければ翼さんの頼みでも頷きませんわ」

 

「ええ、私たちとしては日本の機体のデータをなんの苦労もなく得られるのよ?

 乗らないわけないじゃない」

 

「そうだね。僕たちは自分の機体のデータはもちろんだけど、他国の機体データの収集も仕事の1つなんだ。気にしないでよ」

 

 セシリア、鈴音、シャルルの順にあくまでも“自分のため”に翼の頼みを聞いただけで、簪に対して同情や哀れんでいるわけでもないということを伝えた。

 実際のところ全員が全員、翼が頼んだからという理由だけで頷いたが、彼から聞いた簪の性格を考えると彼女も気後れすることは少ないだろうと考えたのだ。

 

「そ、それなら……いい、のかな?」

 

「ああ、簪、気にすることはない。火器管制系の試験の標的もそこにいるからな。なぁ、一夏」

 

「え! 俺か!?」

 

「なるほど、たしかに一夏の白式はブレードしか攻撃手段を持たないが機動力だけはある。

 試験の相手としてはこれほど適したものはないな」

 

 箒の言葉に対して翼は「うんうん」と頷き、セシリアたちは「なるほど」と言いたげな表情を浮かべている。

 彼らの顔を見回して最後に一夏を見た簪はジト目で呟いた。

 

「たしかに、私はあなたを何発か殴る権利もある。

 白式の開発とデータ集めに人を取られたせいだし」

 

「うっ!? そ、それは……すまん」

 

 素直に頭を下げた一夏に簪はふっと小さく吹き出すように笑って言う。

 

「いいよ。織斑君のせいじゃないっていうのは私もわかってるから……むしろ少し感謝しなきゃいけないかもしれないし」

 

「感謝?」

 

 疑問符を浮かべる一夏に対して簪は頷いて横目で翼を見る。

 彼は無言でタブレット端末の画面を見ては何か操作をしていた。

 

「「「……」」」

 

 簪が翼に対して向ける視線の意味を察知できたのは箒たち女子とシャルルの4人だった。

 彼女の視線の意味を察知した1人であるセシリアが声をかけようとしたところで翼から声が飛ぶ。

 

「よし、簪、準備はいいな?」

 

「う、うん。大丈夫」

 

「じゃあ行くぞ。セシリアと鈴はアクシデントに備えて俺たちに続いてくれ。

 一夏、シャルルもアクシデント発生時に対応してもらう。避難誘導とかな。箒はここから管制を」

 

 翼の振り分けに意見を出す者はいなかった。

 全員が頷いたのを見て翼はユニコーンを展開、カタパルトに両足を乗せる。

 

「岸原 翼。ユニコーン・グレードレス、出ます!」

 

 電磁カタパルトから射出されたユニコーンはリアスカートから伸びるアームについたアームドアーマーDEのスラスターを吹かせて高く飛び上がる。

 

 それに続くように簪も打鉄弐式を展開、両足をカタパルトに乗せた。

 

「さ、更識 簪、打鉄弐式、行きます!」

 

 ユニコーン同様に電磁カタパルトで射出された簪は打鉄弐式のステータス画面やコンソール画面を所狭しに並べた。

 ひとまず打鉄弐式が飛べていること、彼女の後ろにセシリアと鈴が控えていることを確認して翼は言葉をかける。

 

「簪、機体の方はどうだ?」

 

「エラーは今のところ出てないからこのまま調整しつつデータ収集をしたい」

 

「了解。セシリア、鈴、俺も少し調整しながら飛行データを集めたいから機体に何かあったら声をかけてくれ」

 

「了解しました。お2人はわたくしたちがお守りしますわ!」

 

「ええ、任せなさい。にしてもあんたたちすごいわね。飛ばしながら調整ってできるもんなの?」

 

「飛ばすだけなら自動操縦でどうにでもなる。ほら、2人だって最初の調整は整備の人たちに色々言いながらだったろ?

 それと同じだ」

 

 2人は一瞬「それなら」とも思ったが即座に首を横に振る。

 自動操縦で飛ばすだけならできるという翼の言葉は本当だ。

 だがそれは元々の調整されたバランスでの話。多少なりともカバーはしてくれるだろうが飛行しながらの調整など一歩間違えればスラスターのバランスが崩れてそのまま落下するようなこともあり得る。

 無論落ちた程度怪我をするほどのことはないが、それでも搭乗者の精神と機体には大きな負担がかかるため避けたいことである。

 

 それを防ぐには適宜機体の飛行バランスを見ながら細かい調整をする必要があるのだが、生半可な知識と技量でできる物ではない。

 

 作業を続ける2人を邪魔しないように鈴はプライベートチャンネルを繋いだセシリアに声ををかける。

 

『翼はまぁできるでしょって感じだけど更識 簪。あの子もすごいわね』

 

『ええ、さすがは生徒会長の妹というところでしょうね。惜しむらくは周りがそれができて当然な人しかいない、というところでしょうか』

 

『……どうにか引き込みたいわね。打倒翼作戦に』

 

 打倒翼作戦。

 名前からしてわかる通り異常な強さを持つ翼に一泡吹かせてやろう。と一夏に対して訓練していた者たちが集まってできてしまった作戦だ。

 先日からはシャルルも参加しており、5人となったが数はいればいるほど取れる戦術の幅は広がる。

 

『鈴さん。やはりその作戦名はどうにかなりませんの?』

 

『なによ。いいじゃない、わかりやすくて』

 

『はぁ……まぁ、発起人は鈴さんなのでそこは譲りますけど……』

 

 顔と声から明らかに嫌そうな雰囲気を出したがセシリアは一息をついて話題を少し変える。

 

『あの方もおそらく翼さんのことが』

 

『ライバル、増えたわね〜。ま、それでも私が勝つけど』

 

『いいえ、翼さんを射止めるのはわたくしですわ! ええ、間違いありません』

 

『へぇ〜、言うじゃない。ならこのあと──』

 

 鈴音が全てを言い切る直前に翼から声が上がった。

 

「よし! ユニコーンは調整完了」

 

「私も飛行試験のテストケース消化、調整完了。

 ありがとう、翼。えっと……凰さんとオルコットさんもあり、がとう」

 

 おずおずとした少し腰が引けているような簪の物言いに鈴音とセシリアは柔らかい言葉を返す。

 

「いいのよ。それと、私のことは鈴でいいわ」

 

「わたくしのことはセシリアで構いません」

 

「え? な、なんで」

 

「なんでも何もあんたは私たちと同じなのよ。色々とね」

 

「そういうことです。これから話す機会も多くなるでしょうし、気楽に呼び合えた方が私たちとしても楽ですから」

 

 2人は言葉こそは簪に向けているがその目はユニコーン、翼の方を向いている。

 2人の顔と翼を交互に見てそのことに気がついた簪はボンッと顔を一気に赤くさせた。

 

「ち、違う! わ、私はそうことは!」

 

「その顔で否定は無理よ」

 

「ええ、その話はゆっくりしましょう。私たちもあなたに話さなければならないことがありますもの」

 

 セシリアの表情は真剣でしかしどこか物悲しそうなもので簪は疑問符を浮かべるしかなかった。

 

 そうして飛行試験は無事に終了し、続いて火器管制のプレ試験を行ったのだが──

 

「「「おお〜!!」」」

 

 と感嘆の声を上げる翼たちと

 

「おお〜!! じゃないだろおおおお!!!」

 

 ──という一夏の嘆きがアリーナに広がった。

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