IS/UC -インフィニット・ストラトス/ユニコーン-   作:諸葛ナイト

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訓練中の乱入者

 各々で夜の密会を終えた翌日、土曜日の午後。

 多くの学校では休日であることが多いが、IS学園ではそのカリキュラムの量のため午前中のみ座学を行い、午後は放課となり自由時間だ。

 

 しかし土曜日はアリーナの使用条件が緩和されるため、実習を望む者は多い。

 そもそも優先されるのは専用機持ちであることは平時と変わらず、訓練用の機体もアリーナの場所も有限であるため全員ではないがそれでも平日に比べれば多くの生徒が実習を行うことができる。

 

 翼たちもそうだ。

 一夏とセシリアが模擬戦を終えたが結果は一夏の負け。一夏自身の技術は高くなっているがそれでもセシリアの方が知識の面で一歩先を行っている。

 彼に足りない知識、例えばそれは射撃武器の特性だ。

 

 白式は唯一仕様(ワンオフ・アビリティ)の方に容量をほぼ全て割り振っている影響で他の武装を量子変換しての格納が難しい。それに加えて機体本体も執拗なまでに簡略化と効率化が行われているためユニコーンのように本体に装備を付けることすら難しい。

 そういった事情から一夏は射撃兵装を使用した経験がなく、それゆえに知識がなくそこが敗因となっているのだ。

 

 そこでシャルルが武装を貸して射撃訓練を行なっているのだが、構えはもちろんだが狙いの付け方もわかっていないことは側から見てもよくわかった。

 

 初めて銃を持った者らしい構えの一夏を見てセシリアが呟く。

 

「あれは時間がかかりそうですわね……」

 

「目測でやってるからなぁ。仕方ない。

 俺だってまともに攻撃当てられるようになるまで結構時間かかったし」

 

 笑いながら言った翼に箒とセシリア、鈴音、簪は「へぇ〜」と軽く受け流した。

 それから一夏のライフルが5度火を吹いたところでようやくその意味を理解した4人と耳だけ向けていたシャルルがバッと翼の方に視線を向ける。

 

「ま、待って。ユニコーンにセンサーリンクはある、よね?」

 

 真っ先にそう質問した簪に対して翼は頷く。

 

「もちろんあるぞ。

 ……ん? そう言えばみんなには言ったことなかったな。

 俺、最初はISのセンサ補助全部外して動かしてたんだ。歩行も飛行も、武装も全部な」

 

 一夏以外の全員が目を見開いた。

 翼は簡単に言ったがISのセンサ補助は優秀すぎる。それこそISに乗って数時間の一夏のような存在でも辛うじてとは言え戦闘ができることからもそれはわかることであり、それがISというものが他兵器と比べて優れている点の1つだ。

 それゆえにどれほど戦闘技術があってもその技術そのものはセンサ補助を前提としたものだ。それなしにまともな戦闘などできるわけがない。

 

「ああ、でも今は武装はセンサに頼ってるぞ。さすがにあれも同時にやりながら戦闘機動なんて難しいから」

 

「できない、とは言わないのですね」

 

「やってたからな。ただすごく疲れるからできることなら2度としたくはない」

 

 その時のことを思い出している翼の表情があまり明るくないことからなんとなくその日々の苦労というものが窺い知れる。

 そんな彼に鈴音が確認する。

 

「ねぇ、あんた。武装はって言ってたわよね?

 もしかして他の機動系は今も全部手動?」

 

「ああ、鈴と箒、一夏……は今は意識できてないだろうけど、とにかく特に近接戦闘をしてる時にISが固まることがあるだろ?」

 

 翼の確認するような言葉に箒と鈴音は頷いた。

 たしかに度々操作を受け付けない時間がある。時間にして1秒もないわずかな時間だ。

 

「あれってIS側が体勢を崩さないように制御しててその間は搭乗者からの操作を一時的に弾いているのが原因でな。俺はそれが嫌で今も手動制御してるんだよ」

 

 彼の説明をそのまま受け取るのであれば例えば通常では攻撃、体勢調整、移動になるところを翼は攻撃、移動、攻撃のようにスムーズに繋げているということだ。

 ISは高速戦闘が基本であるため通常よりも一手多く動けるということは文面以上の効果がある。

 

「なるほど、山田先生が押されていたのはそういうことね」

 

「まさに呼吸を乱される、ということだな。

 翼の動きの波に飲まれるとまともに戦えなくなるのもそういうことか。私が動くころには翼はすでに次の攻撃態勢に入っている、もしくはすでに攻撃している」

 

「それを防いで反撃してもその頃には翼は移動しているから当てることは難しい」

 

「そう、ただこれにももちろん弱点がある。

 それも結構大きい。たぶんこれのせいで主流になっていないんだけど、わかるか?」

 

 翼の投げた問いの答えを求めて全員が押し黙る。

 しかし、すぐに目を見開いたセシリアがそれを口にする。

 

「一度流れを止めてしまうと立て直すのが難しい……」

 

「「「ッ!!」」」

 

 他3人が目を見開く中、ちょうど1マガジン撃ち終えた一夏がシャルル共が話の輪に入って来たのを見ながら翼は頷いた。

 

「さすが遠距離戦が得意なだけあるな。

 そう、俺の動かし方は良く言えば行動と行動の隙間を埋めているが悪く言えばバランスが極端に悪い。走り続けないと倒れるような仕様と言ってもいい」

 

「無茶苦茶だな。まるでマグロだ」

 

「マグロ! 言い得て妙な例えだな一夏」

 

「えっと、それはつまり……翼の動きの流れを断ち切ることさえできれば少なくとも通常と変わらない戦闘に持ち込める?」

 

 シャルルの確認に対して「もちろん」と頷いて翼は答える。

 

「むしろもう一度流れを作らなきゃいけないから俺の方が不利だ」

 

 その答えで国家代表候補生たちは唸り始めた。

 おそらく頭の中で翼の動きを思い起こし、どうすれば自分の攻撃を差し込めるのかを考えているのだろう。

 そんな彼女たちから翼に視線を移した箒は問いかける。

 

「良いのか? 自分の弱点をそんなに話して」

 

「ああ、これだけ説明できるってことはつまり俺もその弱点を自覚してるってことだからな。もちろん対策は考えてるし、そう簡単に差し込ませたりしない」

 

 胸を張って言い切った翼に「それもそうだな」と納得した箒と変わるように一夏が問いかける。

 

「……なぁ、それって俺でもできるか?」

 

「いや、一夏の動きは静と動のバランスが良いから向かない。箒もそうだ。

 たぶん2人は、っていうかみんなは通常調整のISに乗った方が強い。そういう訓練をしてきたんだからな」

 

 翼がそう断言したところで周りのざわつきが彼らの耳に届いた。

 

「ねぇ、ちょっとアレ……」

 

「ウソっ、ドイツの第三世代型だよね?」

 

「え? でもまだ本国でトライアル段階じゃ……」

 

 小声で話をする彼女たちの視線の先にいるのはドイツの代表候補生であるラウラ・ボーディヴィッヒがいた。

 クラスに馴染んだと言ったもいいシャルルとは違い、彼女は会話さえまともにせずまだ浮いている存在となっていた。

 

 黒いIS、シュヴァルツェア・レーゲンを纏ったラウラが開放回線(オープン・チャンネル)で翼に向けて声を飛ばす。

 

「おい」

 

「なんだ」

 

「この国ではお礼参り、というものがあるのだろう。それをしに来た」

 

「俺は君にそんなことをされるなにかした記憶はないな」

 

 答えながら翼はユニコーンを展開させる。それと同時に一夏たちに言う。

 

「悪いみんな、この辺りにいる人たちを下がらせてほしい。あと管理してる先生にも連絡をしてくれ。

 たぶんやる気だ」

 

「たぶんじゃなくてあれは完全にやる気だろ。わかった翼」

 

「先生にはもう連絡した。たぶんすぐに止めに入るとは思うけど」

 

「ありがとう。簪、なら時間を稼、ッ!!」

 

 翼はユニコーンのセンサがそれを捉えるのとほぼ同時に補助アームを動かしてシールドでラウラが放った大型レールカノンの砲撃を防いだ。

 

 初段が通らないことをラウラは予測しており、彼女はすでに距離を詰めていた。

 振り下ろすのは両腕から展開したプラズマブレード。それを翼は腰から右手に持ったビームブーメランで受け止める。

 

((ッ、速い!))

 

 互いが互いに行動を予測していたが、その行動は予測よりも数段速かった。

 翼が上げた蹴りを飛び上がりつつ後退してかわしたラウラは構えを取る。

 それに応えるように翼は左手にもビームブーメランを装備、2人の間に一瞬とも永遠とも取れる沈黙が流れたが、ほぼ同時に2人はスラスターを吹かせて距離を詰めるとそれぞれの獲物を振るった。

 

 片方が攻撃すれば片方はそれを弾いて反撃を繰り出す。さらにそれを弾いて攻撃が振られる。

 エネルギー刃がぶつかり合うことで生まれる独特のバチッという音が連続して辺りに響き続ける。

 

 最初こそ拮抗していたように見えたがたまたまそこにいた生徒たちもそれに気が付き始めた。

 そのことを箒がポツリとこぼす。

 

「翼が押し始めたな」

 

 今でこそラウラは翼の攻撃を凌いでいる。いや、凌ぐことに注力することでどうにか凌げているようになり始めていた。

 真耶との模擬戦時は中距離での射撃戦だったためいまいちはっきりとはわからなかったが、近接戦になれば翼の異常な強さがよくわかる。

 

 ともすれば一歩にも満たない、すり足程度の動きの差でラウラは行動を封じられ、先手を打たれ、攻撃をいなされている。

 

(なんだ。こいつは……! 教官のような山ではない。

 例えるのならば海、それも北海のような荒れ狂う海だ)

 

 翼の動き()を止めてしまえばいいということはすぐにわかった。そもそもあらかじめ得ていた情報からもそう判断して戦闘プランを立てていた。

 にもかかわらず、ラウラは手も足も出さないでいる。

 

 当然のことではある。

 そもそも波を相手に人間ができることなど逃げるかただそれが過ぎるのを耐えることぐらいだ。

 

 波に船が飛ばされるような攻撃をいなしていたレーザーブレードが大きく跳ね上げさせられたことでラウラの胴体が大きく開いた。

 

「ッ!」

 

「もらった!」

 

 その隙を翼は見逃さない。

 両腕のビームブーメランはレーザーブレードを弾いたことで追撃には使えないが、ユニコーンには足がある。

 

 ユニコーンの脛装甲が開き、2列並んだチェーンブレードが回転を始めた。

 その足をラウラの腹に押し当てようとした翼だったが、その足がピタリと止まった。

 

(なんだ? 足が動かない?)

 

 急に動きを止めた翼へと後退しつつ大型レールカノンの砲門を向ける。

 そしてそれから砲弾が放たれる。その直前に拡声器が動き始めたことを告げるように「キーンッ!」という音に続いて声が飛ぶ。

 

『そこの生徒! 何をやっている! 学年とクラス、出席番号を言え!』

 

 ラウラはその放送を聞くと苦虫を噛み潰したような顔で翼を睨みつけると無言でアリーナゲートへと向かった。

 そこで足が再び動かせるようになった翼は上げていた足を下ろした。

 

(……なるほど、これが噂のAIC(アクティブ・イナーシャル・キャンセラー)。なかなか厄介な能力だな)

 

 次にラウラと戦う時に備えて考えを巡らせようとしたが、すぐに首を横に振って飛ばして周りを見る。

 騒然とはしているが怪我をしたような生徒はいないようだ。

 

 ひとまずは、と胸を撫で下ろして息を吐いた翼は一夏たちと共にアリーナから半ば逃げるように出た。

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