IS/UC -インフィニット・ストラトス/ユニコーン-   作:諸葛ナイト

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騙し終わり

 多くの生徒たちが同時に着替えることやピットや整備室への移動時間を考慮してアリーナには複数の更衣室がある。

 そのうちの1つ、複数ある更衣室の中では手狭な部類で50程度のロッカーしかない、しかし男2人で使うには大きすぎるそこで翼と一夏それぞれ着替えていた。

 

「なぁ、シャルルって体になんかあるのか?」

 

「……なんの話だ? まさかお前」

 

「ち、違っ、そういうのじゃないって!

 ただ一緒に訓練してても着替えだけは絶対に別だったりでさ、もしかして体に傷でもあるのかなって」

 

 シャルルが一夏の訓練に合流して6日目。その間に2人が揃って着替えをしたことはない。なにかしら理由をつけて別々で着替えるか先に着替えてしまっているかのどちらかだ。

 さすがの一夏でもなにかを隠している事に勘づく。

 

 一夏の心のうちを翼は読むようなことはできないがそれでも「なにかあるのならば助けになりたい」というようなことを思っているのだろうことを察するのはあまりにも容易なことだった。

 

「傷か……当たらずともいえ遠からずって感じかもな」

 

 ポツリと吐かれた言葉を一夏は聞き逃さなかった。

 

「お前、やっぱ知ってるんだな?」

 

「完全に裏が取れたのは昨日の夜だ。話さなかったのは時間がなかったってのもあるけど、付き合った方が今はいいと思ったんだよ。まだなにもしてないからこれからどうとでも動ける」

 

「助けられるのか?」

 

「……俺は人を助けられるほど偉くもなければ力もない。ただそれでも隣に立つことぐらいはするつもりだ」

 

 どこかホッとした様子で胸を撫で下ろした一夏に翼は怪訝な顔を浮かべた。

 

「なにもう終わった顔してるんだ? お前も一緒にやるんだぞ?」

 

「え!? 俺もか!?」

 

「当たり前だろ。これは俺と一夏と“彼女”の話なんだからな」

 

「彼女って、まさか!」

 

 一夏がそれに気がつくと同時、更衣室の外から間延びした声がかけられる。

 

「あのー、3人ともいますかー?」

 

 声かけてきたのは真耶だった。

 会話を遮られて一瞬、言葉を探す一夏に変わって翼が返す。

 

「岸原と織斑はいまーす!」

 

「入っても大丈夫ですかー? まだ着替え中とかだったりしますー?」

 

 翼は一夏と自身の姿を見る。

 シャツのボタンは1番上だけ閉じられていないが、この程度ならば問題ないだろうと翼は返した。

 

「はい、大丈夫です」

 

「そうですかー。じゃあ失礼しますねー」

 

 更衣室のドアを開いて入ってきた真耶は改めて中を見回しつつ問いかける。

 

「デュノア君は一緒じゃないんですか? 今日はみんなで実習するって聞いてましたけど」

 

「機体の確認をしてから来るって言ってたのでピットにはいると思いますけど……。大事な話なら呼んできますよ」

 

「ああ、いえ、大事というほどの話ではありませんので、代わりにデュノア君にはお2人から伝えておいてくださいね」

 

 少し真剣な顔で2人が頷いたのを見て真耶は続けた。

 

「そこまで緊張しなくてもいいですよ。ええっとですね、今月下旬から大浴場が使えるようになります、

 時間で分けようとしたんですけど……色々問題が起きそうでしたので男子は週2回の使用日を設けることにしました」

 

 その話を聞いて2人は目を輝かせて真耶の方にずいっとにじり寄った。

 

「「本当ですか!?」」

 

 彼らは生粋の日本人であり、風呂文化に強い親しみを覚えている。

 大浴場があるのにも関わらず、自分たちが入らないことにある種の哀愁すら感じていたほどの大の風呂好きだ。

 そんな彼らからしてみれば週に2回も大きな湯船に入れるということは朗報に他ならない。

 

「やったな! 翼!」

 

「ああ! パンフレットでしか見れてなかったあの風呂に入れるんだなぁ。楽しみだな!」

 

 あまりにも予想してなかった2人の反応に真耶は笑みを浮かべた。

 

「そんなに喜んで頂けると私も頑張った甲斐がありました」

 

「あ、山田先生、話はこれだけですか?

 これだけならわざわざここに来るほどのことじゃないような」

 

「はい。織斑君は白式の正式登録に関した書類、岸原君はユニコーンの新しい武装の受領書の訂正をお願いしたいんです。

 岸原君のはすぐ終わると思いますけど、織斑君は少し時間がかかるかもしれないんですけど」

 

「わかりました。一夏のは俺が手伝えそうなところは俺がやりますけどいいいですか?」

 

 真耶は「うーん」と少し考え込むと2人の顔を交互に見ると仕方ないと言うように小さく息を吐いて笑みを浮かべた。

 

「本当ならダメなんですけど、まぁ、私が監視してるので良いでしょう。ただ署名欄は織斑君の直筆でお願いしますね」

 

「もちろんです! よし、じゃあ一夏、パパッと終わらせちまおう」

 

「そうだな!」

 

 そうして3人は更衣室から職員室に向かった。

 

◇◇◇

 

 シャルルは寮の自室で端末のモニターに映るメッセージを見た。

 

『野暮用で職員室に行ってくる。終わったらみんなで飯を食おう』

 

 簡素なメッセージを閉じた彼は大きく息を吐いて肩を落とす。

 

 心が痛い。

 彼らのような親切な者たちを騙しているという事実が彼の背中に重くのしかかっている。

 

(騙す……騙す、か)

 

 大半の者は騙せていると思う。一夏には怪しまれているだろうがまだ言い逃れはどうにかこうにかできる。

 

 だが、翼に対してはわからない。

 もうすでにバレている可能性はある。それでも彼からなんのアクションもないのは信じられているからか、泳がされているのかのどちらかだ。

 前者であれば心苦しいもので後者ならば尻尾を出してしまったら全てが終わるだろう。文字通り、全て。

 

(……シャワー、浴びよう)

 

 シャルルはクローゼットから着替えを取り出して脱衣所に向かった。

 

◇◇◇

 

 翼と一夏は揃って寮の廊下を歩いていた。

 ぐーっと背伸びをした一夏は肩を回しながら言う。

 

「あー、疲れたぁ」

 

「結構量あったなぁ」

 

「まぁでも翼が手伝ってくれたおかげで割と早かったな」

 

「だな。じゃ、部屋で少しゆっくりしたら合流して飯に行こう。

 ……シャルルの件はその後に」

 

「……わかった」

 

 一夏が部屋に入ったのを見て翼も部屋に入りながら声をかける。

 

「ただいまー。っと、シャルル?」

 

 シャルルがいないことにすぐに気が付いて翼は部屋を見回していたがすぐにシャワールームから水音が響いていることに気がついた。

 

(ああ、シャワー中か。……あれ? そういえば昨日ボディソープ使い切ってたような。

 シャルルに伝えてなかった気がする。最初に使うつもりだったから)

 

 翼は共有クローゼットから代えのボディソープを取り出してじっと見つめる。

 これを持っていくのが正解なのは間違いない。少なくとも同じ性別ならばなんの迷いもなく手渡していた。

 

 そう、同じ性別ならば、手渡せていた。

 

「………………」

 

 たっぷり30秒悩んだ翼だったが意を決する。

 

(いや、そうだ。脱衣所に置いておけばいいんだ。よし、さっと置いて伝えてさっと戻る。これななんの問題もない)

 

 脱衣所のドアは思いの外暑いため開けてからでなければシャワールームに声が届かない。

 そのため、翼はそのドアを開けて声をかける。

 

「シャルル、代えのボディ──」

 

 ──ガチャ。

 

 翼が声をかけたのとシャワールームのドアが開かれたのはほぼ同時だった。

 彼の目の前にいたのは1人の女子だった。

 

「つ、つば、さ……?」

 

 驚愕を顔いっぱいに浮かべる彼女のウェーブがかったブロンドの髪は濡れ、独特の色艶を出している。

 そしてすらりとした体と長い足、腰のくびれやそのくびれによって強調された胸には珠の雫が乗っていた。

 

「……お前」

 

 翼に照れはない。ただ「やはり」という顔とどこか悲しそうな顔とが入り混じった表情を浮かべていた。

 そんな彼の顔を見てシャルルは全てを悟った。悟れてしまった。

 

「……とりあえず、戻れ。風邪引くぞ」

 

「え? あ、きゃあっ!?」

 

 指摘されて初めて自分の姿を思い出したシャルルは小さな悲鳴と共にシャワールームに戻ってドアを勢いよく閉めた。

 バァンッ、という音から数10秒、先に言葉を口にしたのは翼だった。

 

「ボディソープの代え、ここに置いとく。

 とりあえずちゃんと体を温めてから出てきてくれ。話は、その後にしよう」

 

「うん……」

 

 翼が脱衣所から去ろうとする気配を察してシャルルは反射的に声をかける。

 

「ねぇ、翼は……いつから知ってたの?」

 

「……裏が取れたのは昨日。怪しんでたってレベルなら一目見てすぐ」

 

「ッ!? ははっ、そう、なんだ……」

 

 自嘲するために出てきた小さな笑い声を無視して脱衣所から出て扉を閉めた。

 扉を背にして大きく息を吐いた彼はそのまま部屋から出ると隣の部屋、一夏の部屋のチャイムを鳴らす。

 

 間延びした声と共にドアを開いた一夏に翼はたった一言、告げた。

 

「予定を繰り上げる。部屋に来てくれ」

 

 それだけの言葉で翼の言わんとしていることを察した一夏は小さく頷くしかなかった。

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