IS/UC -インフィニット・ストラトス/ユニコーン- 作:諸葛ナイト
6月も最終の週に入り、IS学園は月曜から学年別トーナメント一色に染まった。
これからこの1週間とほぼすべてのアリーナを使って学年別トーナメントが行われるのだ。
早速第1アリーナでは生徒同士の戦闘が始まっていた。
打鉄とラファール・リヴァイヴが持つブレードがぶつかり合い、火花が散った。
そこから少し離れた場所では2機のラファール・リヴァイヴがライフルでけん制しあい、互いに援護に入らせないようにしている。
1年生ということもあって動きに拙さはまだあるがそれでも戦闘レベルとしてはかなり高く、連携も取れているため観客席からは歓声が上がっていた。
IS整備室にいる翼もその光景を投影ディスプレイで見ていたが気持ちはそれどころではなかった。
タブレットにトーナメント表を映し、そのペアの名前を見つめる。
そこにはシャルル・デュノアとラウラ・ボーデヴィッヒの名前が書かれている。
「ああ、本当に神様という存在を恨むよ俺は」
何度目かもわからない溜息と言葉をこぼした翼の隣にいた簪は同じくそのトーナメント表を見て問いかける。
「やっぱり手ごわい?」
「手ごわいな。たぶん今回のトーナメントで一番強い組み合わせだ。
純粋に隙がない。仲はあまりいいとは言えないけどいざ戦闘になれば連携は取れるだろう」
「でも翼はボーデヴィッヒさんには絶対に勝てるって言ってたよね?
それでも厳しいの?」
「ボーデヴィッヒだけなら負けない。負けようがない。
でもシャルルは違うし、ボーデヴィッヒっていうハンデがあっても下手をすれば俺は負ける」
翼がそう言うと同時、アリーナで行われていた戦闘が終了した。
◇◇◇
専用機持ちは全員がシード枠として3回戦からとなるため、試合の消化具合にもよるが3日ほどは見学を行うことになる。
翼と簪のようにギリギリまで機体を調整する者たちもいれば一夏たちのように生徒用の観客席で見る者たちもいる。
「なぁ、みんなすごくないか? あれぐらいできるのが普通なのか?」
「当たり前でしょ。ここにいる理由なんだから」
「そうですわね。そもそもIS学園にいる生徒は全員専用機持ち候補ですから。
能力は十分にある。けれどもコアや人、時間や金銭の問題で持てていないという人もいますでしょうし」
鈴音とセシリアの言葉に体を少し固くさせる一夏に対してシャルルが優しい声をかける。
「大丈夫だよ。一夏も強くなってる。
もう少し自信を持ってもいいと思う。ね、箒もそう思うでしょ?」
「あ、ああ、そうだな」
どこか上の空で返されたことにシャルルは気が付かずに一夏に続けた。
「周りと比べて実力がどれぐらいかって俯瞰してみるのも大事だけど、どれだけ成長したかって考えるのも大事だよ」
「昔からどれぐらい、か……。確かにそうだな。最近はセシリアと鈴にも勝てるようになってきたし!」
「ま、たしかにそうね。なんかちょっと癪だけど」
一夏を横目で見て少し頬を膨らませる鈴音をなだめるように「まぁまぁ」と手で制していたセシリアは会話の方向を少し変えようとシャルルに問いかけた。
「ところでシャルルさんのほうは大丈夫ですの?
相方があの方なんて」
「……実力は十分すぎるほどあるから僕が合わせることができればいいところまでは行けるとは思う。
訓練機相手なら性能差でどうにかなるけど皆には負けるかもしれないね」
「でも、簡単に負けるつもりはないんでしょ?」
「それは当然だよ」
そうすることが今の自分にできることであり、このIS学園にいる純粋な理由だ。
次の試合開始を告げるブザーが鳴った。
◇◇◇
教員用の観戦室兼待機所となる部屋には千冬と楯無がいた。
緊急事態に備えて他にも数名の教員がいたが、IS学園において最強と呼ばれる2人の間に入ろうとする者はいない中で楯無は千冬に問いかける。
「今回の学年別トーナメント、どのエレメントが勝つと思います?」
「わかりきったことを聞くな。会話の無駄だ」
「まぁ、それはそうですけど」
声と表情はいつもとそう変わらないが体はそうではない。どこかそわそわとしている様が扇子を握る手に表れている。うまく握れないのか落ち着きなく、その指が動いていた。
いつも飄々として余裕綽々といったような彼女にしてはあまりにも珍しい。放置していても千冬としては構わなかったがそれでもしものことがあっても困る。
横目で彼女の顔を一瞥して口を開いた。
「妹が心配か」
「ええ、まぁ、あとは翼君も少し……あっ」
バッと千冬を見た楯無だったが、彼女の目に映るのは千冬の横顔だけだった。
妹の名前以外も口に出たことに対して彼女はからかうつもりは一切ない様子だった。
それでも覚えた少しの気恥ずかしさを紛らわせるように咳ばらいを1つして緩みかけた表情を引き締める。
「岸原 翼は現状ですでに学年トップ、いえ、私と並べるだけの実力はある。ですが、彼の機体は本調子ではなく、それに加えてエレメントはまだ戦闘経験が浅い。
実力に文句の付け所はないですが、それにしてもハンデが大きすぎる」
「それはIS操縦者であり、国家代表の視点だな。だが、お前自身はそうではない」
「はい。翼くんの機体は万全ではないですが、それでも動きはあの緊急改修前より良くなっています。
それに簪ちゃんは私の妹ですからね。負け筋なんてありませんよ」
先ほどまで浮かべていた不安はどこへやら。と感じられるほどに自信満々で胸を張る物言いで語った楯無は小さく笑う千冬に問いかける。
「織斑先生も一夏くんが負けるとは考えていないでしょう?」
「馬鹿者。今のあいつが翼に勝てるわけがないだろう。
しかし一矢報いるぐらいはできるだろうな。いや、むしろそれぐらいができなければ実機授業の補習だな」
2人のことを苗字ではなく、名前で呼んでいるあたりから多少気が抜けているようだったがその言葉からは本気がうかがえた。
当然のこととはいえ専用機を持っているうえに複数の代表候補生からの訓練を受けているともなれば楯無も「やりすぎないように」ということはできなかった。
「とはいえ、それも翼君があの2人を倒せるかどうか、ですね」
翼、簪チームと最初に当たる専用機持ちはラウラとシャルルのペアだ。
最初は別のブロックであり、決勝で戦うことになっていたが「彼らの実力が抜きんでておりトーナメントが半ば蹂躙されるかもしれない」という懸念から早々に戦わせ、どちらかを落とすことになったのだ。
「わざわざ考えるまでもないだろう。デュノアの方は見込みがあるがボーデヴィッヒがダメだ。
あいつでは翼には一生勝てん」
「おや? 言い切りますね。理由をお伺いしても?」
「決まっている。今のあいつには──」
◇◇◇
学年別トーナメント3日目。第1アリーナはこれまで以上に賑わっており、特に各国政府関係者、研究所員、企業エージェントが目立っている。
それもそのはず、今日このアリーナで行われるのは専用機同士の対決。それも翼が出る対決だからだ。
ピットでISスーツを身にまとった翼は簪に声をかける。
「簪、やれそうか?」
「う、うん。すごく緊張してるけど、翼がいるから頑張れそう」
「わかった。なら簪は作戦通りシャルルの頭を押さえてくれ。
ボーデヴィッヒを片づけてすぐに合流する」
「弾幕で近付けさせない、だよね?」
「ああ、そうだ」
ラファール・リヴァイヴ・カスタムIIとそれを駆るシャルル・デュノアは複数種類のライフルとそれを用いた中距離の射撃戦を得意としている。その上機動力も高く、操縦者の技能も十分。
経験が浅い簪が勝つことは難しいが今回はエレメント戦。簪だけで勝つ必要はない。
たしかにラファールの機動力は高いが、それは打鉄弐式も同様。武装の種類こそ劣ってはいるが有効射撃範囲は打鉄弐式のほうに軍配が上がる。
ならば彼に距離を縮めさせずに翼が合流するまで時間を稼ぐことができればいい。
「私勝ちたい。勝ってお姉ちゃんと話したい。
なにを話せばいいのかまだ固まってないけど……でも、ここで勝てたら私は話せると思うの」
「ああ、そうだな。
大丈夫、勝てるさ。俺たちなら」
2人はそう言葉を交わして互いに機体を展開、ピットの電磁カタパルトに両足を固定させた。
「岸原 翼、ユニコーン・グレードレス、出ます!」
「更識 簪、打鉄弐式、行きます!」
2人がピットから射出されると同時、別のピットでも2機のISがカタパルトに両足を載せていた。
「ラウラ・ボーデヴィッヒ、シュヴァルツェア・レーゲン、出るぞ」
カタパルトから射出されアリーナのグラウンドを飛ぶラウラを見てシャルルは覚悟を決めるように息を吐いた。
(まともな連携ができれば勝てない戦いじゃない。ボーデヴィッヒさんは僕に合わせてはくれないだろうし……。
でも、それはこの戦いを諦める理由にはならない)
3つの赤いランプが緑ランプになったのを確認してシャルルは言う。
「シャルル・デュノア、ラファール・リヴァイヴ・カスタムII、行きます!」
既にグラウンドで定位置についていたラウラの隣に到着したシャルルは彼女を一瞥、目前にいる灰色の装甲を身にまとったユニコーンを見据える。
(君が合わせないなら、僕が合わせればいい)
両チームが定位置についたことでカウントダウンが開始。
観客たちの期待感や高揚感を煽るように2秒となり、グラウンドにいる4人の闘争心を燃え滾らせるように1秒となる。
そして0になると同時に、ユニコーンが
「「ッ!?」」
2人の間に入った翼の標的はラウラだ。試合開始前から展開していた
雑ではあるがビームと杭の雨をいなすためには回避しつつ後退するしかない。
(早々に分断するつもりか。丁度いい!)
「貴様は私が叩き潰す!」
ラウラはレーザーブレードを展開させるとワイヤーブレードを射出、その中にまぎれるように急加速、ユニコーンへと距離を詰める。
翼は両足のチェーンブレードとアームドアーマーDEを器用に振り回しながら射撃を続けていたがそれらはラウラを止めるほどの力はなく、早々にブレードの範囲に捕らえられた。
彼女が振り下ろしたレーザーブレードを翼は雷電の銃身下部の実体ブレードで受ける。
互いに弾くことでつばぜり合いにはならなかったがラウラが即座に空いた距離を詰めて獲物を振った。
ブンッ、という空気を焼き切る音が響き、それに続いて実体ブレードとぶつかりバチバチと文字通りの火花が散る。
「二度も負けておきながらまだ1人で来るか。懲りないなボーデヴィッヒ!」
「ほざくな! 私にはできる。貴様に勝つことが!
貴様と織斑 一夏を潰せば教官はきっと──」
「できない」
翼は言うと同時、棘風の下段トリガーを引いた。
予兆を感じ取っていたラウラは即座に後退。それと同時にビームショットガンが彼女のいた場所に撒き散らされる。
空いた距離を再び詰めようとするラウラへと正確な射撃を行いつつ翼は続けた。
「たしかにお前は強いよ、ボーデヴィッヒ。
でも、今のお前じゃ俺には勝てない。一夏にも負ける」
「ッ! そんな見え透いた挑発を!」
「事実だ。力だけが、機体の性能だけが、能力だけが戦いのすべてじゃない。
それがわかっていないから、わかろうともしないから千冬さんは戻らないんだろ!」
アームドアーマーDEのスラスターを吹かして翼はラウラへと急接近、ブレードの距離でありながらも棘風のビームショットガンを放つ。
ラウラはそれをひらりとかわしつつ距離を取り、6本のワイヤーブレードで反撃。
2本を回避、3本をアームドアーマーDEの拡散ビームで止め、1本は左足のチェーンブレードで弾き飛ばした翼はそのまま勢いをつけて雷電のブレードを振り下ろした。
突進に近いそれをラウラは受け止めることにこそ成功したが勢いがついていたことに加えて元々の機体出力の差もあり大きく後ろに押し込まれる。
「なにを、なにを知った風な口を!
貴様ならわかると言うのか! あの人の気持ちを、私ではなく、貴様のような存在が!」
「わかるわけないだ、ろ!」
つばぜり合いの状態を脱するために翼はラウラの腹を蹴り飛ばして高く飛び上がった。
そんな彼を打ち落とすように大型レールカノンから砲弾が飛び、それに続くようにワイヤーブレードが伸ばされる。
迫りくる砲弾とワイヤーブレードを全てかわし、防ぎ、受け流しながら翼は射撃を続けた。
「あの人は優しくて甘いのに不器用で、だからなにも言わない。
そんな人の気持ちなんて、なにも話さない人の気持ちなんてわかるわけないだろ!」
翼の愚痴にも聞こえるその言葉に弟は「そうそう」と首を縦に振り、腕を組んでいた本人は青筋を立てていた。
だが、そんなことなど知らない彼はさらに続ける。
「でも、考えることはできる。想うことはできる!
理解しようと歩み寄ることはできる!」
「わ、私が自分本位でしかないと言いたいのか!?
教官の気持ちなど一切考えていないと!」
「そうだ!」
即答でかつ力強く答えた翼は左手に持っていた棘風を格納、スカートアーマーからビームブーメランを取り出してブレードモードで刃を形成。
雷電と頭部ビームバルカンでけん制しつつ接近、そのブレードを振り下ろした。
ラウラはそれをレーザーブレードで受け止めつつ動揺を隠せていない声で返す。
「そ、そんなはずはない! あの人の才能はこんな所で腐らせるものではない。ここがあの人の終わりであるわけがない!
だから……だから私が!」
翼を押し返したラウラはそのまま左右の腕から伸ばしたレーザーブレードを振り下し、切り上げて薙ぐ。
「教官は私に光を与えてくれたのだ。私の目標で、目指す姿で──」
「なら、なんでその背中を追わない!」
ラウラの猛攻を中断させたのはアームドアーマーDEから放たれたビームだった。
彼女はギリギリで反応できたが完全に回避することはできずにアンロックユニットを掠った。
よろけつつも反撃としてラウラは超近距離で大型レールカノンを放ったが、それは雷電を壊すだけに終わり、爆風から逃れるように2機のISは互いに後ろに跳んだ。
すぐさま前進、再びそれぞれが持つ獲物をぶつける。
「目標としているのなら、なぜ追いかけない! なぜ理解しようとしない!」
「ッ!?」
「理解しようともしないなら、ただ自分の理想を押し付けるだけならそれは憧れでしかない!」
ラウラは千冬のことを目標だと語った。目指す姿だと言った。
翼からしてみればただそれだけだ。目標としているだけ、目指す姿としているだけでどこへも行っていない。向かっていない。
ただ彼女は暗闇の中に浮かぶ星を見ているだけだ。膝を抱えて見上げているだけだ。
「憧れとして、なにが悪い!」
「憧れているだけでその人を理解することはできない。
だから尊敬していると言うその口で"変わるな"と言い、その願いを人に押し付ける。自分の中の
星が変わってしまったらまた暗闇に取り残されるから、もう二度と光を見ることができないから!」
ラウラが翼のビームブレードを弾き、彼の体に大きな隙が生まれる。
「ッ! 黙れ!」
その隙を逃すまいとラウラは右腕のレーザーブレードを突き出した。
だが、その一撃はユニコーンの装甲を貫くことはなく、翼が左わき腹から右手で取り出したビームサーベルによって弾かれた。
ラウラは目を見開いたがすぐに攻撃を再開。しかしそのすべてが翼には届かない。
「お前に、私のなにがわかる!」
AICで翼の動きを止めようとしたが、ラウラが意識を集中させるころには彼女の視界からユニコーンの姿は消えていた。
意識を全周囲に向けて翼を再び捉えたのと同時、大型レールカノンがビームサーベルに貫かれて爆散。
その衝撃を受け流すように飛び上がったが、それを追っていた翼がビームブレードで薙いだ
「くッ!」
咄嗟にレーザーブレードで受け止めたラウラに翼は言葉を返す。
「わからない。わからないさボーデヴィッヒのことなんて。
お前もなにも話さないじゃないか」
「ならば知った風な口を開くな。初めて会った時からずっとお前は不快なんだ!」
一瞬だけスラスターを全力で吹かしてユニコーンを押し飛ばし、そのまま蹴り飛ばした。
追撃のために瞬間加速で距離を詰めようとしたが、加速が終わったころには翼は彼女の真上にいた。
「でも、それがなにかを目指すってことなんだ。ラウラ・ボーデヴィッヒ」
言うと同時、翼はアームドアーマーDEから収束ビームを放った。
ビームマグナムには劣るがそれでもラウラを地面に叩き落とすには十分な威力はあった。
ラウラが落ちたことで広がる土煙の近くへと翼は降下し始めた。